さくらと竜。

真田晃

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テーブル前に腰を下ろし、圧巻の雛壇を眺める。

「………綺麗」

初めて見た時、一瞬で心を奪われた。
大きくて華やかで、綺麗で。
まるで別世界。
今にも動き出しそうな、五人囃子。一番高い場所に座る、お内裏様とお雛様。すまし顔で二人並ぶ姿は、仲睦まじく見えて。
あの頃は──瞬きするのも忘れ、ただただ魅入っていたのに。

「でしょお? こうして見ると、大変だったけど今年も飾って良かったぁ、ってしみじみ思う」

そう言いながら、夏生の姉──麻理子が、運んできた甘酒をテーブルに置くと、僕の隣に腰を下ろす。

麻理子さんは、三歳年上の大学生。
僕が小学生の頃、地区で行われた子供の行事──今は無き、夏休みのラジオ体操や正月の餅つき大会等で、集まった近所の子供達を率先して纏めたり、揉め事の仲裁に入ったりして……皆のお姉さん的存在だった。
その頃は、何かあれば夏生の家に集まって皆で賑やかに楽しく遊んでいたけど……
時が流れ、麻理子さんが受験シーズンに入る頃には、次第にそれも薄れ……今は殆ど無い。

「ありがとね。来てくれて」
「………いえ、全然……」

申し訳なさもあり、それ以上言葉が続かない。

「あぁ~~もぅ、! さくらちゃん、かっわいい~!!」
「……わっ、」

にこっと笑った麻理子さんが両手を広げ、ギュッと僕に抱きつく。

「うちの可愛くない弟と、交換したいわ~!」
「……悪かったな。可愛くねー弟で」

スパンッ、
半開きの襖を片足で乱暴に開け、ペットボトルのジュースとスナック菓子を持ってきた夏生が、むすっとした顔つきで言い放つ。

「つーか、離れろ。……穢れる」
「うっさい。邪魔!」
「お前がな」
「……あーもう、可愛くないっ!」

しっしと手で払い、キッと睨む麻理子。それを、キッと睨み返す夏生。
二人の掛け合う様子に苦笑いを浮かべながらも、この感じが何だか懐かしくて。
あの頃の──まだ幼く純粋だった頃のような雰囲気に、ホッとする。

「……」

良かった。
ここに来るまでは、不安でいっぱいだったけど。想像していたよりも、ずっと平気。

多分、それはきっと……僕の心の中に、竜一がいてくれたから──
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