さくらと竜。

真田晃

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傷跡〈短編ver.〉

18.

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「はは……」

両手で床を押し上げ、顔を伏せたまま四つん這いになった佐倉の肩が、僅かに震える。

「気持ち良かったなぁ、工藤のナカ。……俺の腕の中で……可愛い声まで、上げてさ……」

ペッと血を吐き出し、少し頭を擡げて余裕げな表情を浮かべながら、挑発的な言葉を漏らす。


「───テメェ、ぶっ殺す!!」


バキバギボギ……
指の関節を鳴らしながら近付き、襟首を鷲掴んで軽々と佐倉を起こす。

既に腫れ上がって血塗れた顔。その不様な面が殺気立つ竜一へと向けられる。


「………ああ、殺せよ」


赤くなった厚い唇が、僅かに動く。
怖く、ないんだろうか。この惨状に陥っていても尚、挑発するのを止めないらしい。

荒々しい呼吸。
一触即発状態の睨み合い。
その緊迫した空気に……身体が震える。

「……」

嫉妬深い竜一が、殴るだけで済む筈がない。
どうして僕に、キスマークが付いていたのか……夢じゃなくて、本当に佐倉に襲われたのか……
思考を幾ら巡らせても、真っ白になっている頭では……上手く答えが導き出せそうにない。

……でも、このままじゃ死んじゃう。
佐倉が……死んじゃう……

そうなる前に、早く止めなきゃ……


震える手足に力を込め、浅くなってしまう呼吸を整えながら、壁伝いに一歩前に踏み出す。
どうしたら、竜一の怒りが収まるんだろう。どうしたら、竜一への挑発を止めてくれるんだろう。

じりじりと頭が痺れ、次第に薄くなっていく意識を何とか保つ。

一歩、また一歩と近付き、揺れる視界の中心に睨み合う二人の姿が映る。
ふと、その奥に見えたのは、真っ青な顔をしている、萌──


「………汚い」


軽蔑した双眸。
両手で口元を押さえたまま、訝しげに歪める顔。


「男が、男とだなんて……汚らわしいッ、!!」


ガラスが叩き割れるような、悲痛な叫び。
その声の破片は、少し離れた僕の所にまで飛び散る。

一瞬で変わる空気。
それに耐えられなかったんだろう。瞳を潤ませる萌が、軽蔑した表情のまま走り去っていく。


「……」


『汚い』『男が男となんて、汚らわしい』
──解ってる。

でも、面と向かって言われたのは初めてで。
初めてを佐倉に奪われた事よりも、ずっとずっと……苦しい。

萌が放った言葉の破片は、鋭利な凶器へと変わり……僕の心の奥底に、深く深く突き刺さっていく。



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