アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る

真田晃

文字の大きさ
25 / 87

25.

しおりを挟む

ベッドの上で、向かい合って座る。
啄むようなキスをしながら僕を組み敷いたハイジが、僕の上に跨がって膝立ちをする。
腕をクロスし、カットソーの裾を掴んで捲り上げれば……露わになる、ハイジの引き締まった身体。

バサッ……
脱いだものがベッド下に放り投げられる。剥き出されたその肩──向かって左側の鎖骨上部と首元の間に、何やら黒い模様が見えた。

……入れ墨……?
目を凝らしてよく見れば、それはハイジの肉体の中で優雅に舞う──アゲハ蝶。


「───!!」


瞬間、カッと頭に血が上る。
荒々しくなる呼吸。白けていく脳内。痺れる指先。自分でも驚く程、わなわなと全身が震える。怒りとも悲しみとも解らない、ドロドロとしたマグマのような感情が僕の内側から吹き上げ、一気に爆発する。

「どうしたんだよ」


ベッドに両手をついたハイジが、驚いた表情で僕の顔を覗き込む。

「……なんでっ、」

震えて掠れてしまう声。
感覚の殆ど無い爪先を立て、ハイジのにいる黒いアゲハ蝶を、思いっ切り引っ搔く。

「いてっ」
「なんで、アゲハがっ──!」
「……いてぇよ、何だよ」

蝶の描かれた所の皮膚が、爪痕によって赤くなり、ミミズ腫れのように盛り上がる。

「どうしたんだよ、さくらっ!」

錯乱し入れ墨を引っ搔き続ける僕の手首を、ハイジが掴む。

「……ゃだっ、!」

また僕から、全てを奪うつもりだ。
あの時のように──僕から。何もかも……

「──なんで、アゲハがこんな所に……!」
「揚羽が、どうしたんだよ」
「何でみんな、アゲハなんだよっ……!!」

もう、止められなかった。
一度爆発した感情は己自身を支配し、コントロールが不能になるほど暴走し始めていた。
錯乱し、怒りで腸が煮えくりかえるのに──心にぽっかりと穴が空いたように悲しくて。虚しくて。……涙が、止まらない。

「何があったんだよ、さくら!」

もう片方の自由な手で、黒い入れ墨を思いっ切り引っ搔く。
そんな僕の暴挙を止めようと、ハイジが僕に覆い被さって強く抱き締める。

「……いてっ」

──アゲハなんて、いなくなればいい……!
僕の前から、消えろ──!!

ハイジのその行為が、沸き上がる怒りの炎に油を注ぐ。自由を奪われ発狂した僕は、押さえ付けるハイジの背中を引っ搔きながら更に暴れ、容赦なく肩に噛み付く。

「……っ、噛むな。いてーよ」

優雅に舞う揚羽蝶。それが、僕のせいで傷だらけになる。
それでもハイジは、僕をしっかりと抱き締め、疲れ果てるまで宥め続けてくれた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

隠れヤンデレストーカーのクール系執事が傷心金持ち生意気DKを騙して番にしちゃう話

Nes(ネス)
BL
クール系執事×傷心生意気DK意地の張り合いからの甘々番契約♡ 深川緑郎 30代後半(見た目) 190cm 黒川家の執事。滅多なことでは動じないクール系。黒髪で紺碧の瞳という珍しい容姿。だいぶ長く黒川家に仕えているらしいが…。 黒川光生 DK 179cm 黒川家の跡継ぎ。獅子雄の幼なじみ。外では優しく振舞っているが、本当は意地っ張りで寂しがり屋。 今どきの長めの黒髪でイケメン。女性にモテるが、何故か交際までは至らない。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/236578036/314939827 上記とシリーズ物となります!

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

少年達は吊るされた姿で甘く残酷に躾けられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集

あかさたな!
BL
全話独立したお話です。 溺愛前提のラブラブ感と ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。 いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を! 【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】 ------------------ 【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。 同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集] 等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。 ありがとうございました。 引き続き応援いただけると幸いです。】

処理中です...