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しおりを挟むベッドの上で、向かい合って座る。
啄むようなキスをしながら僕を組み敷いたハイジが、僕の上に跨がって膝立ちをする。
腕をクロスし、カットソーの裾を掴んで捲り上げれば……露わになる、ハイジの引き締まった身体。
バサッ……
脱いだものがベッド下に放り投げられる。剥き出されたその肩──向かって左側の鎖骨上部と首元の間に、何やら黒い模様が見えた。
……入れ墨……?
目を凝らしてよく見れば、それはハイジの肉体の中で優雅に舞う──アゲハ蝶。
「───!!」
瞬間、カッと頭に血が上る。
荒々しくなる呼吸。白けていく脳内。痺れる指先。自分でも驚く程、わなわなと全身が震える。怒りとも悲しみとも解らない、ドロドロとしたマグマのような感情が僕の内側から吹き上げ、一気に爆発する。
「どうしたんだよ」
ベッドに両手をついたハイジが、驚いた表情で僕の顔を覗き込む。
「……なんでっ、」
震えて掠れてしまう声。
感覚の殆ど無い爪先を立て、ハイジのにいる黒いアゲハ蝶を、思いっ切り引っ搔く。
「いてっ」
「なんで、アゲハがっ──!」
「……いてぇよ、何だよ」
蝶の描かれた所の皮膚が、爪痕によって赤くなり、ミミズ腫れのように盛り上がる。
「どうしたんだよ、さくらっ!」
錯乱し入れ墨を引っ搔き続ける僕の手首を、ハイジが掴む。
「……ゃだっ、!」
また僕から、全てを奪うつもりだ。
あの時のように──僕から。何もかも……
「──なんで、アゲハがこんな所に……!」
「揚羽が、どうしたんだよ」
「何でみんな、アゲハなんだよっ……!!」
もう、止められなかった。
一度爆発した感情は己自身を支配し、コントロールが不能になるほど暴走し始めていた。
錯乱し、怒りで腸が煮えくりかえるのに──心にぽっかりと穴が空いたように悲しくて。虚しくて。……涙が、止まらない。
「何があったんだよ、さくら!」
もう片方の自由な手で、黒い入れ墨を思いっ切り引っ搔く。
そんな僕の暴挙を止めようと、ハイジが僕に覆い被さって強く抱き締める。
「……いてっ」
──アゲハなんて、いなくなればいい……!
僕の前から、消えろ──!!
ハイジのその行為が、沸き上がる怒りの炎に油を注ぐ。自由を奪われ発狂した僕は、押さえ付けるハイジの背中を引っ搔きながら更に暴れ、容赦なく肩に噛み付く。
「……っ、噛むな。いてーよ」
優雅に舞う揚羽蝶。それが、僕のせいで傷だらけになる。
それでもハイジは、僕をしっかりと抱き締め、疲れ果てるまで宥め続けてくれた。
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ありがとうございました。
引き続き応援いただけると幸いです。】
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