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転生〜統治(仮題)

ダンジョン 〜35階

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ルークは目覚めると、朝食を作るべくキッチンに立っていた。正確な時刻は正午近くである。明け方頃に家を設置して正午近くに目覚めた。しかし、時計など存在しない世界では、そんな事は知る由もない。起きたら行動するのである。日本でそんな事をしている者がいたら、羨ましい生活だと思う者もいるだろう。

普段は早起きなティナも、今回ばかりは未だに布団の中である。初めてのダンジョンで、肉体だけでなく精神的にも疲れたのだろう。朝食の準備は出来たのだが、起こしに行くつもりは無かった。自然に目覚めるまで休んで貰おうという考えである。

出来上がった料理が冷めないよう、アイテムボックスに収納してソファーへと横になる。暫くゴロゴロしていると、ティナとナディアが起きて来た。スッキリした表情をしているので、ここまでの疲労は完全に抜けたものと思おう。2人と一緒に食卓へ向かい、作っておいた料理を取り出す。

ダンジョンとは無関係な会話をしながらゆっくりと食事を済ませ、後片付けをして31階へと向かう準備をする。ルーク達は、40階まで2日は掛かると予想していた。ちなみに、40階から50階までは3日という予想である。

「今日は何階まで進むつもり?」
「31階の様子にもよるけど、36階か37階かな?」
「真ん中の35階ではないのですか?」
「ボスの前で長い休憩を取りたいから、半分以上は進んでおきたいんだ。」

階段を降りながら、ティナとナディアに自分の考えを伝える。今日半分でやめてしまうと、翌日のもう半分がボス込になってしまう。ティナとナディアもそこまでは考えていなかったらしく、『なるほど!』という表情をしていた。

そうこうしているうちに、31階へと到達する。周囲を見回すと、表現の難しい景色であった。広大な湖の上を、あみだクジのように回廊が走っている。途中で途切れたりしている所も見える事から、中々に難しい迷路と言える。だがまぁ、回廊の幅は10メートル程あるので、余程の事が無ければ落水する危険は無いはずだ。しかし、それ以外の問題を想定して、ナディアとティナが呟く。

「水か・・・厄介ね。」
「魔物は水中に潜んでいるはずですから、気が休まらないでしょうね。」
「これってさぁ・・・飛んじゃダメかな?」
「「・・・・・。」」

オレの大胆発言に、2人は絶句してしまった。否定も肯定もされなかった為、とりあえず風魔法で宙に浮かび、湖の上に向かう。すると、見えない力に引き寄せられて湖に落下する。かなり焦ったが、足がつく深さだった為事なきを得る。全身びしょ濡れとなったオレを見て、ティナとナディアが爆笑している。ショボーンとして2人の元へ向かうと、ナディアに馬鹿にされてしまう。

「ズルしようとするからそうなるのよ。」
「ズルじゃないだろ?飛んじゃダメって表示も無いんだし!」
「屁理屈を言っても仕方ありませんよ?飛んでもいいのか確認している時点で、ルークもダメだと思ったのですよね?」
「うっ・・・。」

ティナによって論破されてしまい、オレは言葉に詰まる。どの道これ以上何を言っても、自分の傷を抉るだけである。ここはぐっと我慢だろう。オレは無言で魔法を使用し、体と服を乾かしてから待っていた2人と共に先へ進む。

様子見の為、少し歩いて進むと回廊を挟んで両側の湖面から何かが飛び出して来る。回廊へと着地したものの正体は、2体の半魚人であった。基本的な事を言えば、コミュニケーションを取る事の出来ない相手は敵である。例え人型であろうと、その前提が覆る事は無い。敵意を剥き出しにして襲い掛かって来た為、オレは美桜を振るって一閃する。倒した半魚人を観察してみるが、個人的にはお近付きになれない姿をしていた。半魚人って、半分魚じゃなくて半端な魚人って意味か?

「大して強くも無いけど、このダンジョンを作った魔神の考えが読めないな。」
「深く考えてなかった可能性もあるわよ?」

ナディアさん、その発想はありませんでした。だが30階までの道のりを考えると、その可能性は限りなく低いだろう。何らかの狙いは確実にある。

「今は先を急ぎましょう。この程度の相手でしたら、不意を突かれても問題は無いと思います。」

ティナの言葉を受け、オレ達はさっさと移動する事にした。時折道を間違えながらも、それをカバーするように全速力で駆け抜ける。32階以降も、出現するのは半魚人ばかりだったが、下へ進むにつれ、回廊の幅が狭くなっていった。ダンジョン製作者の狙いは、足場を狭めて闘い難くする事なのだろう。

35階に到達すると、回廊の幅は60センチ程になっていた。階を一つ進む度、回廊の幅が半分になっているようだ。
油断するとドボンである。50センチを切るようならば、泳いで進む事も考えた方が良いかもしれない。

さらには出現する半魚人の数も増え、オレ達の移動速度は著しく低下している。走る事も出来ず、徒歩での移動である。休憩する場所も無い為、食事を摂る事も出来ない。オレとナディアは1日くらい食事を抜いても問題無いが、うちにはフードファイターのティナさんがいる。流石にメシ抜きは辛いらしく、明らかに元気が無くなっていた。

アイテムボックスから軽食を取り出して与えてはいるのだが、腹に溜まらない食事では不満らしい。珍しく弱音を吐いている。

「私はここで死ぬのでしょうか?まさか兵糧攻めで来るとは思いませんでした・・・。」
「あのねぇ?2,3日食べなくても、簡単に死んだりしないわよ?それに、さっきからずーっと食べ続けてるじゃないの!」

そう、軽食しか出せない為、腹に溜まらないからと言ってティナは常に食べ続けている。その間、戦闘には参加出来ていない。まさかこんな所で、ポンコツティナさんにお目にかかるとは思ってもみなかった。

「昔から思ってたけど、食べた物はその体の何処に入ってるんだろうね?」
「・・・胃の中ですよ?」

違うわ!いや、違わないけど、オレが言いたいのはそんな事じゃない。ティナの返答に、ナディアは完全に呆れている。

「・・・きっとティナの胃には、大きな穴が開いてるのよ。」
「そうなのですか!?大変です!すぐに塞がなくては食べ物が勿体ないです!!」
「心配するのそこ!?」

ティナさん、物の例えですからね?しかも、体じゃなくて食べ物の心配なの?味を求めているのか、満腹感を得たいのか・・・多分両方だな。いや、極限状態ならば満腹感が優先されるのかもしれない。しかし間違えてはいけない。現在の状況は、極限状態には程遠いのだ。

そんなやり取りをしながらも、次々と出現する半魚人を倒して進むと、ついに下へ降りる階段へと辿り着いた。36階の回廊がさらに半分の幅になるようならば、オレは全裸で泳ぐ事になるだろう。トレーニングする時間があれば、オレは股間のアレを魔力で強化して、スクリューのように動かせたかもしれない。それさえ出来れば、水中での戦闘が楽になる。強大な推進力を得る為に、もっと時間があれば・・・・・まぁ無理だよな。我ながら、なんてアホな発想だろうか。そんな事を真剣に考えていると、ナディアが話し掛けて来た。

「やっぱり(回廊は)大きい方がいいわね。」
「そりゃ(アソコは)大きい方が(進む)力を発揮出来るからね。」
「そうそう。(回廊が)大きいと、(回廊の)上に乗った時の安定感もあるし。やっぱり大きい方がいいわ。」
「(オレの)上に乗るの!?」
「当たり前でしょ!?(回廊の)上に乗らずに何処へ乗る・・・・・ねぇ、ルークは何の話をしてるの?」
「え?チ○コをスクリューの様に回転させて、推進力にするって話でしょ?」
「何を言ってるのよ!バカ!!」
「ぐふっ!!」

真っ赤な顔でバカって言われました。渾身のボディブローも頂きました。今ならリッチキングの気持ちが理解出来そうです。オレもここまでなのか・・・。まぁ、冗談は置いといて。

バカって言う方がバカなんだぞ!・・・いえ、すみませんでした!バカは私です!!慣れないダンジョンのせいか、思考と会話がごちゃ混ぜになってました。

暫くの間、湖に落ちないよう回廊に両膝を付いていたが、ナディアが怒って先に進んでしまったので、オレとティナも慌てて後を追った。

かなりの時間を要したものの、やっと36階への階段に辿り着いたルークは、気配を殺しながら36階の様子を確認する。その光景を目に焼き付け、ティナとナディアの元へと戻り今後の予定を告げる。

「本当はもう少し進みたかったけど、一旦ここで休憩しよう。」
「え?ここで?・・・本気?」
「すみません、ルーク。私もナディアに同感です。本気で言っているのですか?」

ティナとナディアにとって、ルークの提案は完全に予想外だった。その衝撃を例えるなら、会社に着いたら休日だった時と同等レベルである。ルークの提案、それは階段の中程で休むというものであった。ダンジョンで活動する者達にとって、前代未聞の提案である。

「本気だよ。だって、階段には魔物が来ないでしょ?」
「「っ!?」」
「1階からずっと観察してたけど、1匹も近寄って来なかった。他の階に移動している姿も見てないし、基本的にはセーフティエリアなんだと思うよ?」

長年冒険者を続けてきたティナとナディアにとって、ルークの案は青天の霹靂である。見張りを立てて交代で休むか、セーフティエリアでの休息が当たり前だと思っていた。否、思い込まされていたのだ。他の冒険者の話を聞き、それが至極当然な事であると。その常識が、脆くも崩れ去った瞬間であった。ルークは前世から今に至るまで、大した変化をしていない。彼は根っからのひねくれ者なのだ。

「言われてみれば・・・確かにそうね。」
「私も言われて初めて気が付きました。」
「まぁ、他の冒険者が来るような状況だったら、こんな事は言わないけどね?それに土魔法で壁は作るから、多分安全だよ。」

そう言ってルークは、階段の途中に狭いながらも完全な個室を作り上げた。3人はその中で食事を摂り、仲良く並んで眠りについたのであった。
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