Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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転生〜統治(仮題)

地下道

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ルビアに詳細な契約等を任せ、ルークはルーシャ王女の案内でドワーフの農場を見学する事となった。鍛冶師の工房よりも深い層に、ドワーフの農場は作られている。

農場の作られた層は、ダンジョンに入ってしまったかと錯覚するような光景が広がっている。ルークが足を踏み入れたその場所は、地上と見まごう景色だったのだ。

「ここは・・・本当に地下なんですよね?地上と変わらない明るさに、空まで・・・」
「驚かれましたか?明かりは光の魔道具によって生み出されています。あの空は・・・職人達の遊び心らしいですよ?」

ルーシャ王女の説明もほとんど頭に入らない程、ルークは驚いていた。地下にこれだけの空間を作ってしまえるドワーフの技術、ある意味では地球のそれを凌駕しているのだから無理も無い。

暫く呆けていたが、やっとルーシャ王女の説明が頭に入って来る。そしてようやくルーシャ王女に返事をする事が出来た。

「すみません。驚き過ぎて理解が追い付きませんでした。遊び心ですか・・・あれだけ素晴らしい物であれば、悪ノリも馬鹿に出来ませんね。」
「ふふふ、そうですね。」

ルークの反応に機嫌を良くしたルーシャ王女によって、農場の説明が続けられる。そして農作物の収穫量の多さに再度驚かされる。

「これだけの収穫量ならば、他国に輸出出来ないのが勿体ないですね。」
「そうですね。ですが、それも仕方のない事です。我々ドワーフ族は、他の種族程戦闘に優れてはおりませんから。」
「戦闘ですか?」

何故輸出の話で戦闘になるのか、オレには理解出来なかった。少し考えればわかる事なのだが、どうやらオレの常識は少しズレているらしい。

「隣国への道程は、幾つもの山を超えなければなりません。山中には当然強い魔物が住んでいますよね?そうなると我々ではリスクの方が大きいのです。」
「強い・・・ですか?」
「え?・・・そう言えば陛下はお強いとの事でしたね。一応説明させて頂きますが、比較的安全と言われている隣国、カイル王国への道でも時折Cランクの魔物が現れます。非力な農民や商人では、手も足も出ないのですよ?」

一瞬呆れられたが、その後は苦笑混じりに説明された。そうだよね、冒険者以外なら魔物相手は命を捨てるようなものだ。日本だってそうだろう。コンビニへ行くまでに熊の群れの中を通らなければならなかったら、諦める者の方が多いはずだ。危険が少ないからこそ、気軽に外出する事が出来る。

「なるほど・・・安全な道があればいいんですね?」
「え?まぁそうなりますね。あっ、陛下!あれがドライアドです!!行きましょう!」

安全な道の事を考えていると、突然ルーシャ王女が指を指す。その方向を見ると、そこには緑色の髪の幼女が座っていた。そして間髪入れずに手を引かれる。少女に見えても彼女はドワーフ。もの凄い腕力である。あっという間にドライアドの前に連れて行かれると、またしても驚く事となる。

「こんにちはルーシャ。今日は神様と一緒なんだね?」
「え?神様?」
「初めまして。フォレスタニア帝国皇帝のルークです。ルークと呼んで下さい。」

このドライアド、幼女の姿で何て事を言ってくれやがる。土の精霊って言ってたっけ?精霊にはオレの正体がわかるって事だな。気をつけよう。とは言っても、オレには精霊を見分ける自信が無い。

「ルーク様だね?わかったよ、よろしくね?神様!」
「ルークだっつってんだろ!」

コイツ・・・わざとじゃないか?危うく学園長に対するノリで、頭を叩きそうになった。やはり見た目幼女は危険だ。

「え?やっぱり神様って・・・」
「聞き間違いじゃないですか?神様って言ったら女性を想像しますよね?」
「確かにそうですけど・・・怪しいです・・・。」

この世界では、神と言ったら女神が連想されるらしかった。カレンの存在によるものだと思っていたのだが、どうやらラミス神国で祀られている主神が『女神ラミス』という事が影響しているみたいである。ちなみに、そんな神はいないとカレンに言われている。

「オレの事よりも、今はドライアドですよ!?」
「むぅ・・・まぁいいでしょう。それでドライアドですが、彼女達は凄いんですよ?」
「何が凄いんです?」
「私達は植物の声が聞こえるんだ。成長を促す事だって出来ちゃうんだよ。後は何だろう?」
「全く貴女達は・・・。実はこの地下空間も、彼女達の力による物なんです。」

自己紹介の仕方に呆れたルーシャ王女によって、ドライアドに関する説明を聞く事が出来た。要約するとこうだ。

・植物の声が聞こえる為、周辺の環境を整える事に役立つ。
・植物に魔力を与える事で、無理無く数倍の速度で成長させる事が出来る。
・魔力によって、土を自在に操る事が出来る。

つまりこの地下空間も農業も、ドライアドの力によって成り立っているのだ。ドワーフいらねんじゃね?とか思った訳ではない。ドワーフが細かい部分を調整しているのは事実らしい。

そこでオレは思いつく。ドライアドの力があれば、安全な道が確保出来るのではないか?と。思い立ったら即行動である。

「ドライアドの力があれば、山や地下をくり抜いて道が作れるんじゃないですか?」
「過去にはそんな事を考えた者もいたそうですが、結局は無理だったようです。」
「どうしてです?」
「私達は人間から魔力を貰って活動してるんだけど、ドワーフは魔力が多くないんだよ。力に秀でた種族だから仕方ないんだろうね。この場所だって、何十年も掛けてここまで大きくしたんだし。」

そう言われると納得だ。ドワーフが魔法をバンバン撃ってる姿はイメージ出来ない。オレの魔力量なら数十キロ位は余裕でトンネルが作れそうだが、オレはドワーフではないのだ。土属性の魔法は不得意なので、途中で生き埋めになる未来が見える。

「オレの魔力が使えるなら良かったのに・・・。」
「使えるはずだよ?」
「へ?・・・ホントに?加護とか無いけど、大丈夫なの?」
「神様は精霊達より上の存在だもん。私達土の精霊は経験無いけど、他の精霊達が言ってたから出来ると思うよ?神様って、細かいコントロールが苦手だって言うもんねぇ・・・。」

過去に何があったのか気になるが、それはカレンに聞くとして・・・細かいコントロールが苦手というのは否定しない。いや、小さい頃は問題無かったのだが、成長するに従って大雑把になった自覚はある。カレンも手加減するのが一番難しそうだった。

だがそれは、この大陸に限った話だろう。新大陸ならば、そこまで細かい加減は不要なのだから。何となく思ったが、神々は自身を魔力タンクに見立て、微調整を精霊に任せたのではないだろうか?何の根拠も無いが、この予想は的を得ている気がする。

自分の世界に浸っていたのだが、現実世界では大変な事になっていた。ルーシャ王女がドライアドに掴み掛かり、必死に問いただしていた。・・・オレの事を。

「貴女、また神様って言いましたよね!?皇帝陛下は人間ではないのですか!?どうなんです
?素直に白状した方が楽になりますよ!」
「えぇ・・・楽になるのはルーシャだよね?」
「そうかもしれませんし、そうではなくないかもしれません!」
「そうではなくない?それじゃあ私も楽に・・・あれ?私は苦しんでない、よね?」

ルーシャ王女の言い回しに、ドライアドは混乱しているようだ。それ、正解だって言ってるんだからね?どうやら精霊というのは、そこまで頭が良い訳でも無いのかもしれない。今は助け舟を出してやろう。

「はいそこまで!オレの事はひとまず置いといて、とりあえず試してみませんか?」
「むぅぅぅ、わかりました。では、カイル王国に向かう街道近くの地下で実験してみましょう。」

ルーシャ王女が先頭に立ち、オレがその後に続く。ドライアドがいないって?幼女が何処にいるのかなんて、過去を振り返ればわかるはずだ。

視界を妨げるスカートを何度も払い除けながら歩いて行くと、ようやく目的の場所に辿り着いた。ちなみにスカートが邪魔だったのは、肩車したドライアドのいたずらである。『興奮しちゃう?』とか言いながら頭に被せて来るのだから、イラッとしたのは言うまでもない。

『パンツは履いていたのか?』とか『太腿の感触は?』とか聞いて来るヤツがいたら、禁呪をプレゼントしてやろう。そんな事は覚えていない。パンツは見えなかったし、太腿の感触は普通だった。

オレが幼女に興奮するはずがないだろ?それからルーシャ王女。オレを冷たい目で見るのはやめて下さい。私は加害者ではなく被害者ですから。

「あれ?もう着いたみたいだね。じゃあさっそくやってみようか!」
「おい、待て!オレの上でやるんじゃない!やるなら下だ!」
「陛下・・・発言には気を付けた方が・・・。」

王女様?頬を赤く染めてどうしました?間違っても変な意味に捉えないで下さいね?一歩間違えたら、今後は下ネタ王女と呼ぶ事になりますよ?

「別に何処だっていいじゃないか。全く・・・よいしょっと。」

文句を言いながらも、ドライアドはオレの肩から地面へと飛び降りる。全く音を立てずに着地したのは、ほとんど重さが無いからだろう。肩車をしている感覚は無かったのだ。流石は異世界。流石はファンタジーである。

ルーシャ王女の事は無視して、ドライアドの様子を眺める。腕を組み、左右に首を傾げてブツブツと呟いているのだ。

「どうやって作ろうか。単純に掘るだけじゃ崩れちゃうよね?周囲に土や岩を圧縮させる形で穴を広げる?でも形はどうしよう。丸が簡単だけど、四角の方がカッコイイよね?いや、どうせなら星型の方がカッコイイかな・・・。」

ちょっと待て。最後のは聞き捨てならん。やはり幼女は危険なのだと再確認出来たので、オレは半円状のトンネルを作って貰う事にした。円形が最も強度に優れていたはずだ。

「地味だけど我慢するかぁ・・・。じゃあ魔力を貰うけど、ルーク様は結婚してる?」
「は?してるけど、何で?」
「なら大丈夫だね。それじゃあいただきま~す!」
「んぐっ!!」
「なっ!?」

良くわからない質問に答えるとドライアドはオレに飛びつき、首に手を回してキスをして来た。驚いたオレとルーシャ王女の声が周囲に響き渡る。

「んぐ、あむ・・・はぁ、あん!んん!!」

まさか口から魔力を吸われると思っていなかった為、全くの無抵抗、成すがままという状況である。しかもコイツ、厭らしい声を上げたと思ったら舌まで入れて来やがった。抵抗しようとするが、急激に脱力感が襲い掛かり力が入らない。

「はぁ、はぁ・・・これがキス・・・大人の味という物なのですね・・・はぁ、はぁ。」
「はむ、んむ・・・あ、んん・・・・・あぁん!!」

突然ドライアドの全身が輝きだし、長いキスから開放される。一気に魔力を吸い取られた事で、オレは地面に片膝を付いてしまうが、何とかドライアドへと視線を向ける。するとそこには、何ともセクシーな女性が悶ながら立っていた。その光景に、ルーシャ王女が驚きと共に呟く。

「緑の髪・・・まさか、ドライアドなのですか?」
「はぁ、はぁ、はぁ。これが神気・・・ここまで気持ちいいものだとは思わなかったわ。これなら全力を出せば一気に隣国まで穴を開けられそうね。」

何だか嫌な予感がする。オレやカレンでさぇ手加減しているのだ。そんなオレの魔力を半分以上奪ったヤツが、全力なんて出したらそれはもう・・・。

「お、おい!ちょ、待てよ!!」
「せ~の!・・・どぉぉぉん!!」

ーードゴォォォン!!

某男性アイドルのように静止しようとしたが間に合わず、ドライアドは彼氏に体当たりをする女子高生のような言い回しで魔力を放出する。その際響いた音は、文字にすればセリフと大差無い。しかし実際は、洋画の爆破シーンを最大音量にしたヘッドフォンで聞いたかのような轟音であった。

オレとルーシャ王女は必死に耳を塞いだまま、暫く放心状態であった。だが目の前を動く物体に気付き視線を動かす。

「・・・やり過ぎちゃった。てへっ?」

幼女の姿をした物体は悪びれる事も無く舌を出す。俗に言う『テヘペロ』だろうか。実物を見るのは初めてだ。この状況下でオレが反応出来ないのは、現実逃避というヤツである。

この現実逃避は、轟音を聞きつけたルドルフ陛下達がやって来るまで続いたのだった。
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