120 / 258
転生〜統治(仮題)
エリド村の長
しおりを挟む
カイル王国王城、国王執務室。謁見の間ではなく、執務室に通された理由。ルビアはその事を考えていた。説明と国王の許可を得る事であれば、顔見知りであるルークに任せた方が良いのも理由の一つであった。
しかし、他国の者に頼らざるを得ないような難題を抱えている気がしたのだ。
事実、ルビアの予想は当たっていた。当たっていたのだが、それが何なのかまでは、全く情報を持たないルビアにはわからない。色々と思う所はあるのだが、ひとまずルークの話が終わるまで待つ以外に無い。
そうこうする間にルークの説明が終わり、話を聞いていたカイル王国の国王であるフィリップが口を開く。
「ルークはまたとんでもない事をしおったか・・・。」
「ですが父上、今回の件は渡りに船と言えますよね?」
「ランパードの言う通りか・・・。よし!地下通路の件は、ワシが許可しよう。むしろこちらから頼みたいほどじゃ。すぐにでも取り掛かって貰う事は出来るか?」
どう答えたら良いものか、ルークには判断がつかなかった。どの程度までが『やり過ぎ』なのか、知識と経験が不足しているのだ。仕方なくルークはルビアに視線を向ける。ルビアは好都合とばかりに会話を引き継ぐ事にした。
「既にドワーフ国のルドルフ国王陛下が出立しているはずですから、明日中にはカイル王国に入ると思います。それに合わせて地下通路を繋げる予定ですから、カイル王国からも使者を出すべきでしょう。」
「ふむ・・・ルビア王妃じゃったな?ありがたく助言に従うとしようかのぉ。」
フィリップ国王の言葉を受け、皇太子であるランパードが立ち上がる。
「今から出発すれば余裕を持って着けるでしょう。では早速準備に向かいます。」
「これこれ、ランパードは留守番じゃ。」
「は?それでは一体誰が・・・?」
今回の件は、どちらの国にとっても重要な物となる。そして相手側は国王自ら足を運ぶのだから、カイル王国側としてもそれなりの立場にある者が向かうべきである。それなのにフィリップ国王は皇太子を城に残らせようとしたのだから、当の皇太子は疑問に思う。
「たまにはワシが行こう。世界政府の総会も近い事じゃし、その前に気分転換しておきたくてのう。」
「は、はぁ・・・それを言われると、ダメとは言えませんね。ではそのように伝えて参ります。」
そう告げると、皇太子は部屋から退出してしまう。2人の会話の意味がわからず、ルークとルビアが視線を合わせていると、その様子に気付いたフィリップ国王が理由を説明し始める。
「総会には普段出席しない者達もやって来るんじゃが、そういった者に限って場を荒らすんじゃよ。」
その説明に、ルークとルビアは納得した。つまり、気が重いから気分転換に散歩でもしようという事であった。何とも言えない気分になったので、ついでに質問してみる事にしたルビアであった。
「所で国王陛下、何か問題が起こっているのではありませんか?」
「ん?・・・そうじゃな。何とも頼み難い話ではあるが、ルークに協力を要請しようとしておったのじゃよ。」
「協力、ですか?何があったんです?」
「うぅむ・・・。」
ルビアからの問いだけでなく、ルークからの問い掛けにも中々答えようとしない。しかし、さっさと白状しろとも言えない2人は、黙って待つしかなかった。暫くして、ようやくフィリップ国王が口を開く。
「実はエリド村の事なんじゃ。」
「あ・・・伝えるの忘れてました!本当に申し訳ありません!!」
「何じゃ?ひょっとして、ルークも知っておったのか?」
「オレも?では、エリド村の住人達が旅に出た事は陛下もご存知なんですか?」
国王の反応に、ルビアだけでなくルークまでもが警戒する。エリド村は冒険者でさえ訪れる事の無い、辺境の超危険地帯。その真っ只中にある、小さな村に起きた異変。本来ならば、国王が知るはずも無い情報である。それが何故国王の耳に届いているのか。その答えは、ルークの知らない事実を含んでいたのだった。
「何が起きたのかと思っておったが・・・そうか。旅と申すか・・・。ワシに何の断りも無いという事は、もう戻って来るつもりも無いと言う事じゃな。」
「「え?」」
「ん?なんじゃ、ルークも知らんのか?ならば教えてやろう。」
国王に断りを入れなかった事で、戻る意志は無いと判断した国王の考えが理解出来ずにいると、国王が教えると言い出した。
「何代か前の王の時代になるが、エリド村の住人達がこの国に現れたらしくてな・・・安住の地を求めたそうじゃ。その際、当時の王と取引を交わしたと伝わっておる。」
「取引ですか?」
「うむ。この国は昔から帝国に攻められておったのじゃが、同時に西への対応にも頭を抱えておった。西の辺境には、手に負えないような魔物が住んでおって、度々街や村が襲われる事があったらしい。」
ここまで来れば後は想像出来る。しかし話の腰を折るのも悪いので、オレ達は最後まで聞く事にする。
「安住の地を求めた者達は相当な猛者だったらしくてな。それならばと危険な西の辺境の地に住む事になったそうじゃ。我々は徹底した不干渉を、但し困った事が起きたら全面的な協力を。代わりにその者達は西の守護を・・・それがお互いの交わした取引じゃったと言われておる。」
「その話はエリド村の住人が戻らない事と、どう関係するのでしょうか?」
フィリップ国王にルビアが問い掛ける。確かに今の話では何の説明にもなっていない。
「その取引には期限が定められておったのじゃ。その者達が何時か、目的を果たす為にその地を後にする日まで・・・。エリドと名乗るまとめ役がそう言った、とワシは先代から聞かされておる。」
「つまり、村の住人達が揃って旅立った状況は、目的を果たす為に安住の地を捨てたという事になるのですね・・・。」
「最近西の街や村に強大な魔物が現れるようになったのでな。エリド村に何かあったのではと思っておったのじゃが、ルークの説明で納得が・・・どうしたのじゃ?」
ルビアと話を進めていたフィリップ国王が、オレの様子に気付いて声を掛けて来た。まぁ、眉間に皺を寄せていただろうから当然か。
「村のまとめ役は母が担ってました。それに・・・そもそもエリド村に、そんな名前の人はいないんです。」
「ルークが産まれる前に、寿命で亡くなったんじゃない?」
「いや、エリドと名乗った者は妖精族の若い女性じゃったと聞く。寿命というのは考え難いじゃろう。」
「妖精族!?・・・あ!すみません、陛下!!」
ルビアが驚きに声を大きくし、自分の失態に気付いて謝罪する。しかしフィリップ国王は笑顔で答える。
「よいよい。ルビア王妃が驚くのも無理は無い。妖精族など、ワシも見た事が無いからのう。エリド村の住人が不干渉を要求した理由の一つは、エリドと名乗る者が妖精族じゃったからかもしれんな。」
「その可能性は大いにあるでしょうね。妖精族が自身の領域を離れるなど、私にはとても信じられません。」
「妖精族って珍しいの?」
2人の会話について行けない為、オレはルビアに説明を求める事にした。オレのイメージでは、羽の生えた手のひらサイズの女性。それが妖精だった。しかし、ルビアの口から告げられたのは、オレのイメージをちゃぶ台ごとひっくり返す。
「私も直接見た訳じゃないけど、全体的に小柄な種族で、背中に4枚の透き通るような羽が生えていて、精霊王の住む地に暮らしているって言われてるわ。エルフ以上に長命で、生涯その地を離れる事は無い、って言うのが一般に知られているんだけど・・・正直、私は眉唾モノだと思ってた。陛下のお言葉でなければ、今でも疑っていたわね。」
「見た事ないんじゃね・・・。だけど、お陰で確信が持てたよ。村に妖精族なんていない。子供の話も聞いた事が無いし。」
「ふむ・・・となると、何かあると考えるのが妥当じゃな。・・・確かめる術は無いが。」
フィリップ国王の言葉に、オレ達は頷きを返す。とりあえず今は、村の事よりも付近の状況である。
「エリド村の事はひとまず置いておくとして、まずは西側の魔物ですね。討伐すれば良いのですか?」
「そうじゃ。すまんが頼めるか?現在は軍を派遣しておるのじゃが、犠牲者も少なくない。正直な話、我々の手には負えんのじゃ。おまけに広範囲に散ったようでな・・・商人達の足にも影響が出ておる。じゃが、安全な道が確保出来るのであれば何とかなるじゃろう。ルークが来てくれて本当に助かった。」
フィリップ国王が安堵の表情を浮かべると同時に、扉をノックする音が聞こえる。フィリップ国王が入室を促すと、ランパード皇太子が部屋に入って来た。
「父上、まもなく出発の用意が整います。そろそろ準備を・・・。よろしければ皇帝陛下と王妃殿下もご一緒しませんか?」
「いえ、私は一足先に地下道の入り口を作って、そのまま西に向かいます。ルビアは・・・どうする?」
「足手まといにならなそうだったら一緒に行くけど・・・どう思う?」
「う~ん・・・正直、出て来た魔物にもよるんだよね。ティナの好物が来てると厳しいかな。あいつら何故か群れるから・・・。」
「「「好物?」」」
皇太子が足を用意してくれるとの事だが、あまり時間が無さそうなので断る事にした。もしティナの好物が来る事態となれば、街なんてすぐに壊滅してしまう。この場にいる全員がティナの好物を知らないようだったので、正体を明かす事にした。
「竜だよ。中でも炎竜が一番多いかな?」
「「「炎竜!?」」」
「そう。あいつら知能が低い分、爆発的に増えるから厄介なんだよね。腐っても竜って言うか?」
意志の疎通が出来ない程、炎竜の知能は低い。その分本能に忠実である為、通常の竜よりも危険度が高いという認識である。当然ルビアの実力では相手にならない。
「わ、私は遠慮しておくわ!陛下に同行して話をまとめるから、ルークは先に行って頂戴!!カ、カレンに迎えを頼むから、私の事は気にしなくていいわよ!?」
「そう?じゃあ、カレンにはオレから頼んでおくよ。すみませんが陛下、現地でカレンと合流するまでルビアをお願いします。私はこれで失礼します。」
「う、うむ。カレン様と合流するまで、責任を持って預かろう。すまんがルークよ、魔物の討伐の件、くれぐれも頼む!」
炎竜と聞いて別行動と言い出したルビアをフィリップ国王に任せ、オレは一足早く出発する事にした。フィリップ国王の反応を見るに、あの炎竜達はまだ姿を現していないようだ。ならば、炎竜が出て来る前に辿り着かないと不味い事態になりそうな気がした為だ。
ルークは王城を後にすると、足早に王都の外を目指した。ルークを見送ったルビアは、部屋に残った国王に改めて疑問をぶつける。
「陛下、冒険者ギルドへは依頼しなかったのですか?」
「無論、依頼はした。じゃが、皆無事では済まなかったらしくてのう・・・今は軍が総出で対処しておる。しかし炎竜の群れがおるなどとは思わんかった。ルークが来てくれなければ、この国は壊滅的な被害を被ったかもしれん。」
ルビアはフィリップ国王の説明に、自身の考えを改める決意を固める。一国の軍が総出で対処に当たるような危険地帯、そこで暮らしていたティナの恐ろしさを思い、人知れず身震いしたのであった。
しかし、他国の者に頼らざるを得ないような難題を抱えている気がしたのだ。
事実、ルビアの予想は当たっていた。当たっていたのだが、それが何なのかまでは、全く情報を持たないルビアにはわからない。色々と思う所はあるのだが、ひとまずルークの話が終わるまで待つ以外に無い。
そうこうする間にルークの説明が終わり、話を聞いていたカイル王国の国王であるフィリップが口を開く。
「ルークはまたとんでもない事をしおったか・・・。」
「ですが父上、今回の件は渡りに船と言えますよね?」
「ランパードの言う通りか・・・。よし!地下通路の件は、ワシが許可しよう。むしろこちらから頼みたいほどじゃ。すぐにでも取り掛かって貰う事は出来るか?」
どう答えたら良いものか、ルークには判断がつかなかった。どの程度までが『やり過ぎ』なのか、知識と経験が不足しているのだ。仕方なくルークはルビアに視線を向ける。ルビアは好都合とばかりに会話を引き継ぐ事にした。
「既にドワーフ国のルドルフ国王陛下が出立しているはずですから、明日中にはカイル王国に入ると思います。それに合わせて地下通路を繋げる予定ですから、カイル王国からも使者を出すべきでしょう。」
「ふむ・・・ルビア王妃じゃったな?ありがたく助言に従うとしようかのぉ。」
フィリップ国王の言葉を受け、皇太子であるランパードが立ち上がる。
「今から出発すれば余裕を持って着けるでしょう。では早速準備に向かいます。」
「これこれ、ランパードは留守番じゃ。」
「は?それでは一体誰が・・・?」
今回の件は、どちらの国にとっても重要な物となる。そして相手側は国王自ら足を運ぶのだから、カイル王国側としてもそれなりの立場にある者が向かうべきである。それなのにフィリップ国王は皇太子を城に残らせようとしたのだから、当の皇太子は疑問に思う。
「たまにはワシが行こう。世界政府の総会も近い事じゃし、その前に気分転換しておきたくてのう。」
「は、はぁ・・・それを言われると、ダメとは言えませんね。ではそのように伝えて参ります。」
そう告げると、皇太子は部屋から退出してしまう。2人の会話の意味がわからず、ルークとルビアが視線を合わせていると、その様子に気付いたフィリップ国王が理由を説明し始める。
「総会には普段出席しない者達もやって来るんじゃが、そういった者に限って場を荒らすんじゃよ。」
その説明に、ルークとルビアは納得した。つまり、気が重いから気分転換に散歩でもしようという事であった。何とも言えない気分になったので、ついでに質問してみる事にしたルビアであった。
「所で国王陛下、何か問題が起こっているのではありませんか?」
「ん?・・・そうじゃな。何とも頼み難い話ではあるが、ルークに協力を要請しようとしておったのじゃよ。」
「協力、ですか?何があったんです?」
「うぅむ・・・。」
ルビアからの問いだけでなく、ルークからの問い掛けにも中々答えようとしない。しかし、さっさと白状しろとも言えない2人は、黙って待つしかなかった。暫くして、ようやくフィリップ国王が口を開く。
「実はエリド村の事なんじゃ。」
「あ・・・伝えるの忘れてました!本当に申し訳ありません!!」
「何じゃ?ひょっとして、ルークも知っておったのか?」
「オレも?では、エリド村の住人達が旅に出た事は陛下もご存知なんですか?」
国王の反応に、ルビアだけでなくルークまでもが警戒する。エリド村は冒険者でさえ訪れる事の無い、辺境の超危険地帯。その真っ只中にある、小さな村に起きた異変。本来ならば、国王が知るはずも無い情報である。それが何故国王の耳に届いているのか。その答えは、ルークの知らない事実を含んでいたのだった。
「何が起きたのかと思っておったが・・・そうか。旅と申すか・・・。ワシに何の断りも無いという事は、もう戻って来るつもりも無いと言う事じゃな。」
「「え?」」
「ん?なんじゃ、ルークも知らんのか?ならば教えてやろう。」
国王に断りを入れなかった事で、戻る意志は無いと判断した国王の考えが理解出来ずにいると、国王が教えると言い出した。
「何代か前の王の時代になるが、エリド村の住人達がこの国に現れたらしくてな・・・安住の地を求めたそうじゃ。その際、当時の王と取引を交わしたと伝わっておる。」
「取引ですか?」
「うむ。この国は昔から帝国に攻められておったのじゃが、同時に西への対応にも頭を抱えておった。西の辺境には、手に負えないような魔物が住んでおって、度々街や村が襲われる事があったらしい。」
ここまで来れば後は想像出来る。しかし話の腰を折るのも悪いので、オレ達は最後まで聞く事にする。
「安住の地を求めた者達は相当な猛者だったらしくてな。それならばと危険な西の辺境の地に住む事になったそうじゃ。我々は徹底した不干渉を、但し困った事が起きたら全面的な協力を。代わりにその者達は西の守護を・・・それがお互いの交わした取引じゃったと言われておる。」
「その話はエリド村の住人が戻らない事と、どう関係するのでしょうか?」
フィリップ国王にルビアが問い掛ける。確かに今の話では何の説明にもなっていない。
「その取引には期限が定められておったのじゃ。その者達が何時か、目的を果たす為にその地を後にする日まで・・・。エリドと名乗るまとめ役がそう言った、とワシは先代から聞かされておる。」
「つまり、村の住人達が揃って旅立った状況は、目的を果たす為に安住の地を捨てたという事になるのですね・・・。」
「最近西の街や村に強大な魔物が現れるようになったのでな。エリド村に何かあったのではと思っておったのじゃが、ルークの説明で納得が・・・どうしたのじゃ?」
ルビアと話を進めていたフィリップ国王が、オレの様子に気付いて声を掛けて来た。まぁ、眉間に皺を寄せていただろうから当然か。
「村のまとめ役は母が担ってました。それに・・・そもそもエリド村に、そんな名前の人はいないんです。」
「ルークが産まれる前に、寿命で亡くなったんじゃない?」
「いや、エリドと名乗った者は妖精族の若い女性じゃったと聞く。寿命というのは考え難いじゃろう。」
「妖精族!?・・・あ!すみません、陛下!!」
ルビアが驚きに声を大きくし、自分の失態に気付いて謝罪する。しかしフィリップ国王は笑顔で答える。
「よいよい。ルビア王妃が驚くのも無理は無い。妖精族など、ワシも見た事が無いからのう。エリド村の住人が不干渉を要求した理由の一つは、エリドと名乗る者が妖精族じゃったからかもしれんな。」
「その可能性は大いにあるでしょうね。妖精族が自身の領域を離れるなど、私にはとても信じられません。」
「妖精族って珍しいの?」
2人の会話について行けない為、オレはルビアに説明を求める事にした。オレのイメージでは、羽の生えた手のひらサイズの女性。それが妖精だった。しかし、ルビアの口から告げられたのは、オレのイメージをちゃぶ台ごとひっくり返す。
「私も直接見た訳じゃないけど、全体的に小柄な種族で、背中に4枚の透き通るような羽が生えていて、精霊王の住む地に暮らしているって言われてるわ。エルフ以上に長命で、生涯その地を離れる事は無い、って言うのが一般に知られているんだけど・・・正直、私は眉唾モノだと思ってた。陛下のお言葉でなければ、今でも疑っていたわね。」
「見た事ないんじゃね・・・。だけど、お陰で確信が持てたよ。村に妖精族なんていない。子供の話も聞いた事が無いし。」
「ふむ・・・となると、何かあると考えるのが妥当じゃな。・・・確かめる術は無いが。」
フィリップ国王の言葉に、オレ達は頷きを返す。とりあえず今は、村の事よりも付近の状況である。
「エリド村の事はひとまず置いておくとして、まずは西側の魔物ですね。討伐すれば良いのですか?」
「そうじゃ。すまんが頼めるか?現在は軍を派遣しておるのじゃが、犠牲者も少なくない。正直な話、我々の手には負えんのじゃ。おまけに広範囲に散ったようでな・・・商人達の足にも影響が出ておる。じゃが、安全な道が確保出来るのであれば何とかなるじゃろう。ルークが来てくれて本当に助かった。」
フィリップ国王が安堵の表情を浮かべると同時に、扉をノックする音が聞こえる。フィリップ国王が入室を促すと、ランパード皇太子が部屋に入って来た。
「父上、まもなく出発の用意が整います。そろそろ準備を・・・。よろしければ皇帝陛下と王妃殿下もご一緒しませんか?」
「いえ、私は一足先に地下道の入り口を作って、そのまま西に向かいます。ルビアは・・・どうする?」
「足手まといにならなそうだったら一緒に行くけど・・・どう思う?」
「う~ん・・・正直、出て来た魔物にもよるんだよね。ティナの好物が来てると厳しいかな。あいつら何故か群れるから・・・。」
「「「好物?」」」
皇太子が足を用意してくれるとの事だが、あまり時間が無さそうなので断る事にした。もしティナの好物が来る事態となれば、街なんてすぐに壊滅してしまう。この場にいる全員がティナの好物を知らないようだったので、正体を明かす事にした。
「竜だよ。中でも炎竜が一番多いかな?」
「「「炎竜!?」」」
「そう。あいつら知能が低い分、爆発的に増えるから厄介なんだよね。腐っても竜って言うか?」
意志の疎通が出来ない程、炎竜の知能は低い。その分本能に忠実である為、通常の竜よりも危険度が高いという認識である。当然ルビアの実力では相手にならない。
「わ、私は遠慮しておくわ!陛下に同行して話をまとめるから、ルークは先に行って頂戴!!カ、カレンに迎えを頼むから、私の事は気にしなくていいわよ!?」
「そう?じゃあ、カレンにはオレから頼んでおくよ。すみませんが陛下、現地でカレンと合流するまでルビアをお願いします。私はこれで失礼します。」
「う、うむ。カレン様と合流するまで、責任を持って預かろう。すまんがルークよ、魔物の討伐の件、くれぐれも頼む!」
炎竜と聞いて別行動と言い出したルビアをフィリップ国王に任せ、オレは一足早く出発する事にした。フィリップ国王の反応を見るに、あの炎竜達はまだ姿を現していないようだ。ならば、炎竜が出て来る前に辿り着かないと不味い事態になりそうな気がした為だ。
ルークは王城を後にすると、足早に王都の外を目指した。ルークを見送ったルビアは、部屋に残った国王に改めて疑問をぶつける。
「陛下、冒険者ギルドへは依頼しなかったのですか?」
「無論、依頼はした。じゃが、皆無事では済まなかったらしくてのう・・・今は軍が総出で対処しておる。しかし炎竜の群れがおるなどとは思わんかった。ルークが来てくれなければ、この国は壊滅的な被害を被ったかもしれん。」
ルビアはフィリップ国王の説明に、自身の考えを改める決意を固める。一国の軍が総出で対処に当たるような危険地帯、そこで暮らしていたティナの恐ろしさを思い、人知れず身震いしたのであった。
10
あなたにおすすめの小説
ハーレムキング
チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。
効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。
日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。
青年は今日も女の子を口説き回る。
「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」
「変な人!」
※2025/6/6 完結。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
異世界転生 剣と魔術の世界
小沢アキラ
ファンタジー
普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。
目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。
人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。
全三部構成の長編異世界転生物語。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
妹と歩く、異世界探訪記
東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。
そんな兄妹を、数々の難題が襲う。
旅の中で増えていく仲間達。
戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。
天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。
「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」
妹が大好きで、超過保護な兄冬也。
「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」
どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく!
兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。
課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」
強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!
やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!
本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!
何卒御覧下さいませ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる