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転生〜統治(仮題)
ユティア達の目的
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全員が驚いている姿を見て、スフィアは簡単な地理の講義を始める事にした。
「ルークは皇帝なのですから当然として、深緑の狩人の面々も冒険者なのですから、簡単な地理を覚えておいて損は無いでしょう。」
「深緑の狩人って?」
スフィアの説明に口を挟むと、呆れたように見つめられた。そして申し訳無さそうに、ユティアが口を開く。
「あのぉ・・・私達のパーティ名です。」
「あ!そう言えば、パーティ名を聞いてなかったな。ごめんスフィア、続けて。」
「はぁ。では続けますが、カイル王国の西にはそれ程大きくない陸地があります。そこはネザーレア、フロストル、グリーディアの3国で成り立っているのですが・・・グリーディア以外は人族至上主義者の集まりなのです。」
その後も説明は続いていくのだが、纏めると次のようになる。
今回の誘拐事件は、人族至上主義のネザーレアとフロストルによるもので、これは亜人を奴隷にしようという目論見があった。残忍で好戦的な2国の国民性がもたらした物であり、この2国がこちら側で暗躍した結果起こったのだ。
ちなみにグリーディアには亜人が大勢暮らしているのだが、これは2国から多くの亜人が亡命した為である。人族至上主義により、亜人を奴隷とする事が当たり前となった者達はやがて、亜人達の権利を蔑ろにし始めた。
その結果、ペット以下の存在として亜人達に非人道的な扱いをするようになる。大人から子供まで、亜人には何をしても良いという考えが染み付き、最早他国の者達が何を言っても聞く耳を持たない。
ちなみに2国から挟まれる形のグリーディアは、ここ数年亜人狙いで頻繁に攻め込まれている為、今回の総会で秘密裏に救援を要請する予定であった。2国から連日攻め込まれ続け、いよいよ限界が差し迫っていたのだ。
ここまで耐えて来られたのは、一重に亜人達の頑張りによるものであった。人族よりも身体能力に優れた彼等の奮戦が無ければ、あっという間に滅ぼされていた事だろう。
グリーディアはこれまで、何度も各国へ救援を要請して来た経緯がある。しかし、どの国も救援に向かった事実は無い。他国にとっては、所詮対岸の火事だったのである。危険な海を渡る必要があるという事も影響していた。
だが今回の誘拐事件により、各国で被害者が多発してしまった。自分達の元へ飛び火したのだから、どの国も重い腰を上げざるを得ない。今まで傍観を決め込んだツケが回って来たとも言える。
ここまでを聞き、アストルは幾つか疑問を抱いた。
「ネザーレアとフロストルに援軍を送るとして、何処からどの程度の規模を送る予定?」
「軍艦を持つシルヴァニア、ラミス、ヴァイス、ライムの4ヶ国から兵を出す事になります。規模は20万人といった所でしょうか。」
かなりの軍勢だが、スフィアの表情は優れない。ユティア達も気付いているようだが、不敬に当たると思っているのか発言出来ないようだった。
「ユティア達も聞きたい事があれば発言していいからね?」
「え?は、はい・・・。それでは王妃殿下。先程から表情が優れないご様子ですが、何か問題でもあるのでしょうか?」
「そうですね・・・問題があるとすれば、まずは海を渡る事でしょうか。海には大型の魔物が多数棲息しています。着いた頃にどれだけの兵が無事でいられるのか、全く見当もつかないのです。」
なるほど。下手したら為す術も無く船ごと沈められる可能性がある。仮に半数が生き残ったとして、10万の軍勢で2国を相手に勝てるのか怪しいだろうな。
「そして、彼の2国の兵は強いと言われているのです。戦争に明け暮れている事もありますが、性奴隷の子供達が多数を占めるのです。洗脳教育によって育てられた獣人やエルフ。降伏という概念の無い兵達が、一体どれ程の脅威となるか・・・おそらく最期の1人となっても闘いをやめる事は無いでしょう。」
「そんな・・・それではこちら側の被害もどれ程となる事か、最期までわからないではありませんか!」
軍の指揮を執っている者を討ち取って終わり、とはならないのか。確かに厄介ではある。例え勝っても皆殺しという後味の悪い結果が待つ以上、国民や兵達の反応も怖いだろう。
「下手したら全滅する可能性もあるのか。そうなると、この国から派兵する者の人選も悩む訳だ。」
「いいえ、我が国からは1人も出兵しません。」
「「「「え?」」」」
スフィアの言葉に、全員が驚きの声を上げる。各国が手を取り合って軍隊を送り込むという話だったのに、この国からは軍を出さないと言われたのだ。当然だろう。
「軍艦には限りがあるのです。全く練度も無い兵を貸した所で、足を引っ張るのがオチです。ですから港のある4ヶ国以外の国は、物資の援助のみという話になるでしょう。そもそも、被害のほとんどが海に面した4ヶ国で起こっています。」
「残念だけど、でしゃばるなって事?」
コクリ、とスフィアが頷いた。頭に来ているが、ここでオレが勝手に行動すればスフィアに迷惑が及ぶだろう。仕返しの方法は後で考えるとするか。そんな事を考えていると、正面に座っているシエラがユティナに耳打ちしているのが見えた。その後レムリナも。
「シエナとレムリナも、どうかしたの?」
「あ、それが・・・2人は言葉遣いが良くないので私に言わせようとして・・・。」
「そんな事か。普段通りで構わないよ?」
「ここには私達しかいませんし、私も構いません。」
オレとスフィアが気にしないと言うと、やっと残る2人も口を開いた。
「この後、私達はどうなるの、ですか?」
「私は何で北にある国から船で移動するのか聞きたい、です。」
シエナは自分達の今後が、レムリナは出港場所が気になったようだ。スフィアに視線を向けると、説明をしてくれた。
「皆さんは今回の謝礼を受け取って開放となります。ルークが許可するなら、ですが。レムリナさんの質問の意図は・・・カイル王国の西に位置すると言った、私の言葉によるものですね?」
「うん、です。」
レムリナの言葉遣いに、スフィアが笑いを堪えながら答える。オレもちょっとおかしくて、吹き出しそうなのを堪えている。
「帝国の南にはミリス領とクリミア商国があり、その南にカイル王国とドワーフ国があります。ここまでは知っていますか?」
「うん・・・はい。」
「この大陸の最南端にあるのがカイル王国領となりますが、その西から南側にかけては広大な山脈が広がっています。この山脈の先がどうなっているのか。それを確認出来た者はいません。あそこはSランクの魔物が蠢く、超危険地帯なのです。」
ーーゴクリ
3人が息を飲む音が聞こえてきた。あれ?エリド村から南下して、辿り着いた場所の話だよな。
「あ~、カイル王国の南には海があるよ?」
「「「「え?」」」」
皆が驚いている。スフィアに至っては余程の衝撃だったのだろう。何言ってんの、コイツ?って顔だ。
「ティナの誕生日に、何か食べたい物はあるか聞いた事があってさぁ。「数十年ぶりに海の幸が食べたい」って言われて、1度だけ家族全員で南の山脈を越えた事があるんだよ。西に行ってればネザーレアが見えたって事だよな。」
「み、南の山脈を・・・越えたのですか?」
「うん。西の海には巨大な渦があって、漁業には不向きだって言われたから・・・って
スフィア?」
答えながらスフィアを見ると、プルプルと震えている事に気付いた。トイレを我慢しているのかと思い、親切心から声を掛けたのだが、どうやら違ったらしい。これは失礼。
「どうしてそんな大切な事を黙っていたのですか!!」
「どうしてって、聞かれなかったから?」
「カイル王国に協力して、ミリス公国時代に何度調査兵団を派遣した事か・・・。」
「あぁ・・・カイル王国から真っ直ぐ行ってもダメだよ。山の中には変な場所があるから、西から大きく迂回しないと。」
「そんな真似が出来るのは貴方達だけです!後で詳しく教えて貰いますからね!!」
叱られた。非常識な事を言っているみたいな言われ方までした。しかし、スフィアがここまで熱くなる理由は何だろう?あ、ひょっとして海の幸が食べたいのか!今度皆を連れて漁業にでも出掛けようかな。
しかし、今はそんな事を切り出せる雰囲気ではない。そこでオレは、深緑の狩人の事に話題を変える事にした。
「とりあえずこれが報酬ね。今回の迷惑料と言う事で、ちょっとだけ上乗せしておいたから。」
「ありがとうございま、って重っ!!」
「金貨50枚だから重かったか。」
「「「50枚!?」」」
あまりの金額に、3人が固まってしまったようだ。確かに破格である。しかしこれにはちゃんとした理由がある。
「今回の一件は国にとって重大な案件ですから、その解決の糸口となった貴女達に支払われる報酬はそれなりの物となります。それと・・・カイル王国に向かっていると聞きましたが、何か目的があるのですか?」
「え?あ、はい。カイル王国の西側に、万能薬の素材となる薬草があると聞きまして・・・。」
「万能薬?誰か病気・・・そう言えば、深緑の狩人は4人パーティとの報告でしたね。つまりは残る1人の事ですね?」
てっきり3人だけだと思っていたが、もう1人いたのか。他人を詮索するのは好きじゃないんだが、全く知らないのも考えものか。やはりもう少し質問する事にしよう。
「はい。レムリナの妹でルルネと言うのですが、魔力欠乏症と診断されました。ただでさえ魔力の少ない獣人のルルネには、あまり時間が無いのです。獣王国との距離を考え、ここまで無理をして連れて来たのですが・・・路銀が底を尽き困っておりました。」
「そうですか・・・。魔力欠乏症は、マジックポーションで無理矢理回復させる以外に延命方法の無い病気。そのマジックポーションも高価ですからね。」
「そうなんです。しかも先程のお話を聞く限りでは、私達では薬草まで辿り着けそうにもありません。もうどうすれば良いのか・・・。」
そんな病気があるのか。異世界ならではだな。どう気をつけるのかは知らないが、オレも気をつけよう。しかし、万能薬の素材になる薬草なんてあるんだな。どんな物か知っておくべきだろう。
「確かにユティア達だと無理かもね。ちなみにその薬草の特徴は?」
「エスナール草と言う名で、1つの茎に様々な色の花を咲かせる不思議な植物です。相場にもよりますが滅多に出回らない為、1本で白金貨1枚になる事もありますね。・・・ルークなら手に入れられるのでは?」
「本当!?」
「お願い!」
「我々に出来る事なら何でもしますから!!」
スフィアの説明を聞き、レムリナが期待の眼差しを向けて来る。シエナも必死の形相となり、ユティアが危険な発言をする。こういう性格が騙されやすい人の特徴なんだろうな。
可哀想なので少し考えてみる。十数秒の静寂が続く中、やっと思い当たったオレが声を上げる。
「あ・・・わかった!ティナが食べ過ぎた後にムシャムシャ食ってる、あの葉っぱだ!!」
「「「「は?」」」」
「ルーク?今何と・・・?」
みんなが呆けてしまったが、すぐに正気を取り戻したスフィアが聞き返してきた。
「いや~、胃薬代わりになるってティナが言ってたもんだから、すぐに気付かなかったよ~。でも間違いないや。ティナがしょっちゅう食べてるけど、あんなのが白金貨1枚になるの?沢山採ってたから、ティナに頼めばすぐに貰えると思うよ?」
「「「「え?・・・えぇぇぇぇ!!」」」」
この日1番の絶叫に、この後城内が騒然となったのは言うまでもない。
「ルークは皇帝なのですから当然として、深緑の狩人の面々も冒険者なのですから、簡単な地理を覚えておいて損は無いでしょう。」
「深緑の狩人って?」
スフィアの説明に口を挟むと、呆れたように見つめられた。そして申し訳無さそうに、ユティアが口を開く。
「あのぉ・・・私達のパーティ名です。」
「あ!そう言えば、パーティ名を聞いてなかったな。ごめんスフィア、続けて。」
「はぁ。では続けますが、カイル王国の西にはそれ程大きくない陸地があります。そこはネザーレア、フロストル、グリーディアの3国で成り立っているのですが・・・グリーディア以外は人族至上主義者の集まりなのです。」
その後も説明は続いていくのだが、纏めると次のようになる。
今回の誘拐事件は、人族至上主義のネザーレアとフロストルによるもので、これは亜人を奴隷にしようという目論見があった。残忍で好戦的な2国の国民性がもたらした物であり、この2国がこちら側で暗躍した結果起こったのだ。
ちなみにグリーディアには亜人が大勢暮らしているのだが、これは2国から多くの亜人が亡命した為である。人族至上主義により、亜人を奴隷とする事が当たり前となった者達はやがて、亜人達の権利を蔑ろにし始めた。
その結果、ペット以下の存在として亜人達に非人道的な扱いをするようになる。大人から子供まで、亜人には何をしても良いという考えが染み付き、最早他国の者達が何を言っても聞く耳を持たない。
ちなみに2国から挟まれる形のグリーディアは、ここ数年亜人狙いで頻繁に攻め込まれている為、今回の総会で秘密裏に救援を要請する予定であった。2国から連日攻め込まれ続け、いよいよ限界が差し迫っていたのだ。
ここまで耐えて来られたのは、一重に亜人達の頑張りによるものであった。人族よりも身体能力に優れた彼等の奮戦が無ければ、あっという間に滅ぼされていた事だろう。
グリーディアはこれまで、何度も各国へ救援を要請して来た経緯がある。しかし、どの国も救援に向かった事実は無い。他国にとっては、所詮対岸の火事だったのである。危険な海を渡る必要があるという事も影響していた。
だが今回の誘拐事件により、各国で被害者が多発してしまった。自分達の元へ飛び火したのだから、どの国も重い腰を上げざるを得ない。今まで傍観を決め込んだツケが回って来たとも言える。
ここまでを聞き、アストルは幾つか疑問を抱いた。
「ネザーレアとフロストルに援軍を送るとして、何処からどの程度の規模を送る予定?」
「軍艦を持つシルヴァニア、ラミス、ヴァイス、ライムの4ヶ国から兵を出す事になります。規模は20万人といった所でしょうか。」
かなりの軍勢だが、スフィアの表情は優れない。ユティア達も気付いているようだが、不敬に当たると思っているのか発言出来ないようだった。
「ユティア達も聞きたい事があれば発言していいからね?」
「え?は、はい・・・。それでは王妃殿下。先程から表情が優れないご様子ですが、何か問題でもあるのでしょうか?」
「そうですね・・・問題があるとすれば、まずは海を渡る事でしょうか。海には大型の魔物が多数棲息しています。着いた頃にどれだけの兵が無事でいられるのか、全く見当もつかないのです。」
なるほど。下手したら為す術も無く船ごと沈められる可能性がある。仮に半数が生き残ったとして、10万の軍勢で2国を相手に勝てるのか怪しいだろうな。
「そして、彼の2国の兵は強いと言われているのです。戦争に明け暮れている事もありますが、性奴隷の子供達が多数を占めるのです。洗脳教育によって育てられた獣人やエルフ。降伏という概念の無い兵達が、一体どれ程の脅威となるか・・・おそらく最期の1人となっても闘いをやめる事は無いでしょう。」
「そんな・・・それではこちら側の被害もどれ程となる事か、最期までわからないではありませんか!」
軍の指揮を執っている者を討ち取って終わり、とはならないのか。確かに厄介ではある。例え勝っても皆殺しという後味の悪い結果が待つ以上、国民や兵達の反応も怖いだろう。
「下手したら全滅する可能性もあるのか。そうなると、この国から派兵する者の人選も悩む訳だ。」
「いいえ、我が国からは1人も出兵しません。」
「「「「え?」」」」
スフィアの言葉に、全員が驚きの声を上げる。各国が手を取り合って軍隊を送り込むという話だったのに、この国からは軍を出さないと言われたのだ。当然だろう。
「軍艦には限りがあるのです。全く練度も無い兵を貸した所で、足を引っ張るのがオチです。ですから港のある4ヶ国以外の国は、物資の援助のみという話になるでしょう。そもそも、被害のほとんどが海に面した4ヶ国で起こっています。」
「残念だけど、でしゃばるなって事?」
コクリ、とスフィアが頷いた。頭に来ているが、ここでオレが勝手に行動すればスフィアに迷惑が及ぶだろう。仕返しの方法は後で考えるとするか。そんな事を考えていると、正面に座っているシエラがユティナに耳打ちしているのが見えた。その後レムリナも。
「シエナとレムリナも、どうかしたの?」
「あ、それが・・・2人は言葉遣いが良くないので私に言わせようとして・・・。」
「そんな事か。普段通りで構わないよ?」
「ここには私達しかいませんし、私も構いません。」
オレとスフィアが気にしないと言うと、やっと残る2人も口を開いた。
「この後、私達はどうなるの、ですか?」
「私は何で北にある国から船で移動するのか聞きたい、です。」
シエナは自分達の今後が、レムリナは出港場所が気になったようだ。スフィアに視線を向けると、説明をしてくれた。
「皆さんは今回の謝礼を受け取って開放となります。ルークが許可するなら、ですが。レムリナさんの質問の意図は・・・カイル王国の西に位置すると言った、私の言葉によるものですね?」
「うん、です。」
レムリナの言葉遣いに、スフィアが笑いを堪えながら答える。オレもちょっとおかしくて、吹き出しそうなのを堪えている。
「帝国の南にはミリス領とクリミア商国があり、その南にカイル王国とドワーフ国があります。ここまでは知っていますか?」
「うん・・・はい。」
「この大陸の最南端にあるのがカイル王国領となりますが、その西から南側にかけては広大な山脈が広がっています。この山脈の先がどうなっているのか。それを確認出来た者はいません。あそこはSランクの魔物が蠢く、超危険地帯なのです。」
ーーゴクリ
3人が息を飲む音が聞こえてきた。あれ?エリド村から南下して、辿り着いた場所の話だよな。
「あ~、カイル王国の南には海があるよ?」
「「「「え?」」」」
皆が驚いている。スフィアに至っては余程の衝撃だったのだろう。何言ってんの、コイツ?って顔だ。
「ティナの誕生日に、何か食べたい物はあるか聞いた事があってさぁ。「数十年ぶりに海の幸が食べたい」って言われて、1度だけ家族全員で南の山脈を越えた事があるんだよ。西に行ってればネザーレアが見えたって事だよな。」
「み、南の山脈を・・・越えたのですか?」
「うん。西の海には巨大な渦があって、漁業には不向きだって言われたから・・・って
スフィア?」
答えながらスフィアを見ると、プルプルと震えている事に気付いた。トイレを我慢しているのかと思い、親切心から声を掛けたのだが、どうやら違ったらしい。これは失礼。
「どうしてそんな大切な事を黙っていたのですか!!」
「どうしてって、聞かれなかったから?」
「カイル王国に協力して、ミリス公国時代に何度調査兵団を派遣した事か・・・。」
「あぁ・・・カイル王国から真っ直ぐ行ってもダメだよ。山の中には変な場所があるから、西から大きく迂回しないと。」
「そんな真似が出来るのは貴方達だけです!後で詳しく教えて貰いますからね!!」
叱られた。非常識な事を言っているみたいな言われ方までした。しかし、スフィアがここまで熱くなる理由は何だろう?あ、ひょっとして海の幸が食べたいのか!今度皆を連れて漁業にでも出掛けようかな。
しかし、今はそんな事を切り出せる雰囲気ではない。そこでオレは、深緑の狩人の事に話題を変える事にした。
「とりあえずこれが報酬ね。今回の迷惑料と言う事で、ちょっとだけ上乗せしておいたから。」
「ありがとうございま、って重っ!!」
「金貨50枚だから重かったか。」
「「「50枚!?」」」
あまりの金額に、3人が固まってしまったようだ。確かに破格である。しかしこれにはちゃんとした理由がある。
「今回の一件は国にとって重大な案件ですから、その解決の糸口となった貴女達に支払われる報酬はそれなりの物となります。それと・・・カイル王国に向かっていると聞きましたが、何か目的があるのですか?」
「え?あ、はい。カイル王国の西側に、万能薬の素材となる薬草があると聞きまして・・・。」
「万能薬?誰か病気・・・そう言えば、深緑の狩人は4人パーティとの報告でしたね。つまりは残る1人の事ですね?」
てっきり3人だけだと思っていたが、もう1人いたのか。他人を詮索するのは好きじゃないんだが、全く知らないのも考えものか。やはりもう少し質問する事にしよう。
「はい。レムリナの妹でルルネと言うのですが、魔力欠乏症と診断されました。ただでさえ魔力の少ない獣人のルルネには、あまり時間が無いのです。獣王国との距離を考え、ここまで無理をして連れて来たのですが・・・路銀が底を尽き困っておりました。」
「そうですか・・・。魔力欠乏症は、マジックポーションで無理矢理回復させる以外に延命方法の無い病気。そのマジックポーションも高価ですからね。」
「そうなんです。しかも先程のお話を聞く限りでは、私達では薬草まで辿り着けそうにもありません。もうどうすれば良いのか・・・。」
そんな病気があるのか。異世界ならではだな。どう気をつけるのかは知らないが、オレも気をつけよう。しかし、万能薬の素材になる薬草なんてあるんだな。どんな物か知っておくべきだろう。
「確かにユティア達だと無理かもね。ちなみにその薬草の特徴は?」
「エスナール草と言う名で、1つの茎に様々な色の花を咲かせる不思議な植物です。相場にもよりますが滅多に出回らない為、1本で白金貨1枚になる事もありますね。・・・ルークなら手に入れられるのでは?」
「本当!?」
「お願い!」
「我々に出来る事なら何でもしますから!!」
スフィアの説明を聞き、レムリナが期待の眼差しを向けて来る。シエナも必死の形相となり、ユティアが危険な発言をする。こういう性格が騙されやすい人の特徴なんだろうな。
可哀想なので少し考えてみる。十数秒の静寂が続く中、やっと思い当たったオレが声を上げる。
「あ・・・わかった!ティナが食べ過ぎた後にムシャムシャ食ってる、あの葉っぱだ!!」
「「「「は?」」」」
「ルーク?今何と・・・?」
みんなが呆けてしまったが、すぐに正気を取り戻したスフィアが聞き返してきた。
「いや~、胃薬代わりになるってティナが言ってたもんだから、すぐに気付かなかったよ~。でも間違いないや。ティナがしょっちゅう食べてるけど、あんなのが白金貨1枚になるの?沢山採ってたから、ティナに頼めばすぐに貰えると思うよ?」
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