Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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守るべきもの

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カレンに連れられライムへと転移したエレナ達は、聞こえてくる音と振動に圧倒されていた。何百年と生きて来たが、このような体験は初めてである。

「これは・・・魔物の足音か?」
「信じられないわ・・・」
「昔から言っていたでしょう?此方側を目指していると。」

カレンの言葉が信じられなかった訳ではないのだが、ここまで大規模だとは思っていなかった。精々転移門の近くに居る魔物達がやって来る程度だと考えていた。それが普通である。

「それで・・・カレン様はオレ達に何をさせようと?」
「貴方達には村の者達が来るまでの間、王都の周辺で魔物の数を減らして貰います。道中の危険は少ない方が良いでしょう?」
「カレン様・・・。」

ランドルフ達が少しでも安全になるように、そう考えての行動であった。何とも女前な提案である。カレンの思いやりに心を打たれたエレナは言葉を失う。

「大人数での行動となれば、10日は掛かるでしょう。その間、日中は魔物の討伐。夜は迎えに来ますから、ティナ達とゆっくり休むと良いでしょう。」
「「ありがとうございます!!」」

厳しい事を言いながらも、ルークを大事に育ててくれたエレナ達には頭が上がらないのである。そんなカレンは2人にライム魔導大国を任せ、最も気になっているラミスの遺跡へと転移した。


「さて、この場にあると言う転移門を調べるとしましょうか。まずは結界ですね。」

そう呟くと、遺跡の前に張り巡らされた結界に手を触れる。手から神気を放出し、まずはどんな種族由来の物か調査する。これで壊れるようならば、それは魔神の手による物という事になる。そして何も起こらない、もしくはすり抜けるといった反応であれば、それは神の手による物と結論付ける事が可能なのだ。

そうは言っても、数秒程度でどうにかなる物ではない。数分もの間、身動き1つしなかったカレンの手が離れる。すると、結界は音も立てずに消滅したのだ。つまりは魔神の手によるもの。と普通ならば考えてしまうのだが、カレンの表情を見る限りは違っていそうである。

「魔神の結界に似せて巧妙に作られた結界ですが、強度を保つ為に神気への対策が出来なかったようですね。魔神ならばこうはなりませんから・・・神の仕業。それも単独でしょう。」

周囲を見回しながら、そう結論付けるカレン。そもそも複数であれば、カレンへの対策を怠るような真似はしない。そのまま奥へと進みかけたのだが、何を思ったのか不意に立ち止まる。

(消耗した状態で飛び込むのは愚かというものですね。回復してからにしましょうか。」

罠である可能性も捨て切れない。ならば体調だけでも万全で向かった方が良い。そう考えて引き返し始めた。

「あ・・・結界を忘れる所でした。しかし態々結界まで張って、一体何がしたかったのでしょうね?」

理解出来なかったせいなのか、不満を口にしながらも結界を張り直すカレン。本当に気になるのならば進めばいいのだが、今回は面倒だった為に出た愚痴のようなもの。故に態々付き合う必要も無い。


カレンが1人のんびりしている頃、城へと帰還したルークは慌ただしく飛び回っていた。真っ先に向かったのはシノンとカノンの待つ店舗。2人を残しておくのは危険である。

「シノン、カノン!すぐに出掛ける準備をするんだ!!」
「お買い物なの!?」
「あ~、そういう意味じゃなくて、此処に居ると危険かもしれない。安全な場所に避難しよう、って意味だ。」
「避難なのです!?カノン、急ぐのです!!」

慌ただしく荷物の準備に向かう2人を見守りながら、次に向かうべき所を模索する。しかし考える間も与えては貰えなかった。

「準備完了なの!」
「逃げるの!!」
「はやっ!?」

普通、突然避難準備をするよう告げられても思うようには行かないものである。何が必要なのか、咄嗟には判断出来ない。荷物を減らそうとして大事な物を忘れるか、逆に荷物が多くなり過ぎるだろう。だがルークの場合はアイテムボックスがある。手当り次第に詰め込んでしまえば良いのだ。

そんな事を考えた時点で気が付く。タンス代わりにアイテムボックス、マジックアイテムを与えていた事に。シノンとカノンの場合、それを取りに行くだけなのだ。何も悩む事は無い。完全に自分のせいだな、と思ったルークは何も言えずにいた。

そんなルークに、シノンが当然の疑問をぶつける。

「お家はどうするの?」
「え?どうするって・・・このままにして行くしかないだろ。」
「「っ!?」」
「少し待ってて欲しいの!」
「お姉ちゃん、早くするの!!」

どうしたのかと2人の後を追い掛けると、建物内のありとあらゆる物を仕舞い始めた。流石に気になったルークが理由を尋ねる。

「一体どうしたんだ?」
「立派な家具なの!」
「勿体ないの!!」

幼いながらに物の価値がわかっているのだろう。運べる物は全て運んでやろうという、見上げた根性であった。苦笑いを浮かべつつ、今更自重も無いなと考えを改める。

「だったら家も仕舞えばいいんじゃないか?」
「「っ!?」」

そこまで豪快な考えは浮かばなかったらしい。驚いて固まってしまう。しかしすぐ我に返ると、ルークの手を引き表に出る。そしてシノンが建物に手を触れると、一瞬にして収納されてしまう。

「本当に入っちゃったの!」
「お引っ越しなの!!」

それを言うなら疎開なのだが、家持参なので間違いとも言い切れない。何とも馬鹿げた事を考えながら、2人と共に人気の無い場所に辿り着いてから転移したのだった。


「何処なの?」
「ん?城だよ。」
「「お城なの!?」」

城と聞き、2人は限界を突破してしまったようだ。目を輝かせたまま固まっている。

「ちょっと2人とも、一体どう「ルーク?」・・・スフィア。」
「か・・・」
「か?」
「可愛い!!」
「へ?」

見た事のないスフィアのテンションに、ルークが呆然となる。そんな事をしているうちに、スフィアが2人を連れ去ってしまった。

「人攫い・・・」

そんな呟きも虚しく響き渡る。少しだけ寂しさを覚えたルークは、さっさと移動する事にした。



所変わって、ルークが転移先に選んだカイル王国。自重を捨てたルークは、真っ直ぐ王城の執務室へと転移した。

「・・・・・誰もいねぇ!!」

そんなのは当たり前である。国王の仕事とは、執務室だけでするものではない。皇帝としての仕事をしていれば気付けたはずが、人に任せ切りだからこうなるのだ。だが、自分に都合の悪い思考には陥らない。今度は王都の外へと転移し、またしても空から城門の前に降り立つ。

「こんちは~!」
「はい、こんにちわぁぁぁ!!」

門の前に立つ兵士に死角など無いのだが、見えない所から声を掛けられたと思ったのだろう。挨拶を返しながら声のした方を向き、声の主を目にして驚きに変わる。またしても他国のトップが気軽に登場したのだから当たり前である。しかも、本来であれば王都の入り口に居る兵士から連絡があるはず。それが無いのだから、不法侵入以外の何物でもない。

「フォフォフォ、フォレスタニア皇帝陛下!?」
「どうも。悪いんですけど、緊急事態でして・・・陛下って居ます?」
「「しょ、少々お待ち下さい!」」

城門の両脇に佇んでいた2人の兵士が我先にと駆け出す。1人残されてるなど堪ったものではない。そんな意見の一致により、城門前には誰もいなくなったのだ。

「・・・いいのかよ?まぁ、オレがいるからいいか!」

そういう問題でも無いのだが、考えても仕方がないとばかりに思考を放棄する。そのまま待つこと数分。息を切らしながら兵士達が戻って来た。

「ご案内致します!」
「お願いします。」

急いではいるが、焦った所で早く会える訳でもない。そう思ったルークはのんびりと後に続く。そうして連れられて来たのは執務室でも謁見の間でもなく、国王の私室であった。

「今回は脅迫せんかったのじゃな。」
「・・・これからするとは思わないのですか?」
「これは1本取られたわい!っと、緊急事態じゃったな?」

互いに皮肉を言い合い、降参とばかりに話題を変えるカイル国王。ルークもすぐに真剣な表情となって事実を告げる。

「ライムのダンジョンを守り切れず、スタンピードが起こりました。」
「やはりか。あぁ、別にルークを信用しておらんかったのではないぞ?年寄りの勘というやつじゃ。それに、スタンピードの報せはスフィア王妃より届いておる。」
「そこはまぁ、気にしてませんから。」

自分の力が足りなかったのだから、何を言われても受け入れるつもりだったルークの本心である。そんなルークは気まずそうにカイル国王を見続ける。

「スタンピードとは聞いたが、詳しい話は一切聞いておらん。ルークでも対処は難しいか?」
「えぇ。スタンピードという表現が適切なのか・・・。世界規模で魔物が入れ替わるでしょう。」
「なんと!」
「エリド村周辺と同等の魔物が、今尚外に出続けています。どの国の軍隊も腕利きの冒険者も、手出ししない方がいいでしょうね。」

淡々と告げるルークの言葉だが、カイル国王はその全てが真実なのだと理解していた。理解しているからこそ、真っ先に考えるのは国の事。

「やはり避難は正解じゃったか。しかし困ったのぉ。街や村は塀で囲まれておるから、すぐに被害が出る訳でもない。しかし、外に出られんとなると・・・心配なのは食料じゃな。」
「確かにそうですね。」

流石にほとんどの畑は塀の外にある。だが凶悪な魔物がいるような場所で、農業が行えるはずもない。そして狩りをしようにも、魔物が強過ぎて話にならないのだ。備蓄してある食料など、すぐに底をつく。

「そうか、スフィア王妃はそれを危惧して緊急招集を掛けたのじゃな。」
「スフィアが?・・・でしたら陛下にお願いがあります。」
「何じゃ?」
「世界中にある農作物の種を集めて欲しいのです。」
「種じゃと?あぁ、そうか。失われる前に確保しておくべきじゃな。」


ルークの頼みに首を傾げたが、長年国王を務めるだけあってすぐにその意図に気付く。

自生する植物とは異なり、農作物は人の手で増やすしかない。農業が出来なくなれば枯れるだろう。絶滅しなくとも収穫は困難となるし、携わる者がいなくなれば作物に関する知識は失われるかもしれない。


今を生きる者達の命を諦めた訳ではないが、未来へのバトンだけはしっかりと繋がなければならない。それが上に立つ者の務めである以上、拒絶する理由は見当たらなかった。納得した様子のカイル国王に、ルークは一先ず胸を撫で下ろしたのだった。
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