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深海調査潜水艦《レムリア》 航海記録
エリクトス・グロミス
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深海調査潜水艦《レムリア》 航海記録
記録日時:2035年11月3日
探査地点:水深10,200m、海底谷域
記録者:エミール・ヴァレンタイン艦長
——闇。底の知れない暗黒。
深海というのは、まさにその言葉のままの世界だ。光は届かず、時間の感覚は失われる。機械の光だけが頼りで、万が一、それすら失えば俺たちはただの漂う棺桶となる。そんな場所に、俺たちは足を踏み入れた。
水深10,000mを超えた地点で、ソナーが何かを捉えた。
「前方に大規模な生体反応を確認」
オペレーターの声に、艦内の緊張が一気に高まる。
スクリーンに映るのは、不明瞭な巨大な影。最初はただの地形の一部かと思った。だが、そうではなかった。影はゆっくりと、確実に動いていた。
数秒後、我々の探照灯がそれを照らした。
——エリクトス・グロミス(仮称)
直径100メートルを超える球状の軟体生物。表面は半透明で、内部には蠢く影が見える。まるで巨大な脈打つ心臓のようだった。
俺はこれまで数々の深海生物を見てきたが、これほど異質なものはなかった。見た目の不気味さもそうだが、何より動きがない。ただ海中に浮かび、ゆっくりと鼓動するように収縮と膨張を繰り返している。
「……生きてるのか?」
思わず口にしてしまった。
だが、その疑問は次の瞬間、確信へと変わる。
突如、奴の体表に無数の発光器官が現れた。それらは脈動するように光を帯び、次第に明滅の速度を上げていく。
「信号か……?」
俺の脳裏に、最悪の可能性がよぎる。
「距離を取れ!何かをしてくるぞ!」
操舵士が急いで《レムリア》の後退を開始する。しかし、遅かった。
エリクトス・グロミスの表面から、水流が生まれた。
ただの潮流ではない。重力を無視したような強烈な吸引力が、俺たちの船を引き寄せる。まるで海そのものが飲み込まれるかのような感覚だった。
「推力最大!スラスター全開!」
「ダメです艦長!引き込まれます!」
操舵士の叫び声とともに、船が軋む音が響く。船体にかかる圧力が尋常ではない。
——これはまずい。奴は、捕食者だ。
俺たちが生きてここにいられる保証は、どこにもない。
「前方バースト射出!ソナー撹乱弾を放て!」
一瞬の静寂。
そして、爆発的な音とともに、光が弾けた。
撹乱弾が生み出す高周波と強烈な閃光が、エリクトス・グロミスの発光を乱す。吸引力がわずかに弱まり、操縦が可能な程度に戻った。
「今だ!全速離脱!」
《レムリア》は急速に後退し、奴の影から脱出することに成功した。
モニターには、なおも脈打ち続ける球体が映っている。その発光は徐々に落ち着き、やがて再び闇に溶け込んだ。
俺は息を吐いた。
「……あれは、何だ?」
誰も答えられない。
唯一分かることは——この深海には、人類の理解を超えた何かが、確かに存在しているということだ。
——次に会うときは、生きて帰れる保証はない。
記録終了。
記録日時:2035年11月3日
探査地点:水深10,200m、海底谷域
記録者:エミール・ヴァレンタイン艦長
——闇。底の知れない暗黒。
深海というのは、まさにその言葉のままの世界だ。光は届かず、時間の感覚は失われる。機械の光だけが頼りで、万が一、それすら失えば俺たちはただの漂う棺桶となる。そんな場所に、俺たちは足を踏み入れた。
水深10,000mを超えた地点で、ソナーが何かを捉えた。
「前方に大規模な生体反応を確認」
オペレーターの声に、艦内の緊張が一気に高まる。
スクリーンに映るのは、不明瞭な巨大な影。最初はただの地形の一部かと思った。だが、そうではなかった。影はゆっくりと、確実に動いていた。
数秒後、我々の探照灯がそれを照らした。
——エリクトス・グロミス(仮称)
直径100メートルを超える球状の軟体生物。表面は半透明で、内部には蠢く影が見える。まるで巨大な脈打つ心臓のようだった。
俺はこれまで数々の深海生物を見てきたが、これほど異質なものはなかった。見た目の不気味さもそうだが、何より動きがない。ただ海中に浮かび、ゆっくりと鼓動するように収縮と膨張を繰り返している。
「……生きてるのか?」
思わず口にしてしまった。
だが、その疑問は次の瞬間、確信へと変わる。
突如、奴の体表に無数の発光器官が現れた。それらは脈動するように光を帯び、次第に明滅の速度を上げていく。
「信号か……?」
俺の脳裏に、最悪の可能性がよぎる。
「距離を取れ!何かをしてくるぞ!」
操舵士が急いで《レムリア》の後退を開始する。しかし、遅かった。
エリクトス・グロミスの表面から、水流が生まれた。
ただの潮流ではない。重力を無視したような強烈な吸引力が、俺たちの船を引き寄せる。まるで海そのものが飲み込まれるかのような感覚だった。
「推力最大!スラスター全開!」
「ダメです艦長!引き込まれます!」
操舵士の叫び声とともに、船が軋む音が響く。船体にかかる圧力が尋常ではない。
——これはまずい。奴は、捕食者だ。
俺たちが生きてここにいられる保証は、どこにもない。
「前方バースト射出!ソナー撹乱弾を放て!」
一瞬の静寂。
そして、爆発的な音とともに、光が弾けた。
撹乱弾が生み出す高周波と強烈な閃光が、エリクトス・グロミスの発光を乱す。吸引力がわずかに弱まり、操縦が可能な程度に戻った。
「今だ!全速離脱!」
《レムリア》は急速に後退し、奴の影から脱出することに成功した。
モニターには、なおも脈打ち続ける球体が映っている。その発光は徐々に落ち着き、やがて再び闇に溶け込んだ。
俺は息を吐いた。
「……あれは、何だ?」
誰も答えられない。
唯一分かることは——この深海には、人類の理解を超えた何かが、確かに存在しているということだ。
——次に会うときは、生きて帰れる保証はない。
記録終了。
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