潜水艦艦長 深海調査手記

ただのA

文字の大きさ
6 / 6
海底観覧用潜水艦観覧記

セレネ・ナクタ

しおりを挟む
海底観覧用潜水艦《オセアノス》艦長手記

記録日時:2035年12月18日
探査地点:南太平洋 深度6,000m
記録者:ロバート・L・グレイ艦長

深海というものは、我々に何を見せ、何を隠しているのだろうか。
この問いに魅せられた者が、今日もまた《オセアノス》に乗り込む。

我々の目的は、戦いではない。
未知なる世界を覗き込み、その静寂の中に秘められた奇跡を目撃することだ。

遭遇生物:仮称《セレネ・ナクタ》

全長:約5メートル
特徴:流線型の体を持つ深海魚。体表は微細な発光細胞で覆われ、周囲の光を吸収・反射することで、まるで月光のような柔らかな輝きを放つ。側面には長くしなやかなヒレがあり、まるで水中を舞うように静かに泳ぐ。口元には感覚器官と思われる長い触角があり、これを使って獲物や周囲の環境を探る。

最初にそれを見つけたのは、乗客の一人だった。

「艦長、あそこを見て!」

窓の向こう、暗闇に淡い光が揺らめいていた。

照明を最小限に抑え、観測用ライトをそちらに向ける。すると——

まるで、深海に溶け込むような光を纏った魚が、静かに我々の前を横切っていくのが見えた。

「なんて美しい……」

乗客の誰かが、息をのむように呟く。

私は記録装置を起動し、その生物の動きを観察することに集中した。

この《セレネ・ナクタ》は、ただ泳ぐだけではない。
その動きは優雅で、ヒレをゆっくりと広げたり縮めたりしながら、まるで舞踏を踊るかのようなリズムを持っていた。

それは、“流れる光”そのものだった。

だが、私が最も興味を引かれたのは、その発光パターンだった。

生物の観察

「見てください、発光が規則的に変化しています!」

クルーの一人が、興奮気味にデータを解析し始める。

確かに、《セレネ・ナクタ》の発光は一定ではない。
波のようなリズムで、ゆっくりと光が強まったり、弱まったりしている。

これは単なる生体発光ではなく、何かしらの意思表示なのではないか?

試しに、《オセアノス》の観測ライトを短い間隔で点滅させてみる。

すると——

生物の発光が、こちらの光に合わせるように変化した。

「……これは、コミュニケーションか?」

短い沈黙の後、船内の誰もがその可能性に気づき、興奮が広がる。

私たちは、ただ深海の生き物を眺めているだけではない。
今、彼らと”対話”を試みているのだ。

セレネ・ナクタとの対話

発光パターン解析による推測

セレネ・ナクタの発光リズムは単なる生体反応ではなく、ある種のコミュニケーション手段である可能性が高い。観測ライトの点滅に対して反応を示したことから、光を用いた何らかの意思疎通が行われていたと考えられる。

発光パターンの変化と推測される意味
1. 最初の発光(ゆるやかな明滅)
→ 「私はここにいる。」
生物が最初に観測されたとき、一定のリズムで淡く光を放っていた。この発光は、単なる生理現象ではなく、周囲への存在アピールと考えられる。
2. 観測ライトの点滅に対する応答(発光リズムの変化)
→ 「あなたは誰?」
我々が短い間隔で点滅信号を送ると、セレネ・ナクタの発光リズムが変化した。これは、単なる偶然ではなく、明確な意思を持った反応であると推測される。
3. こちらが長短の異なる光を送ると、それに呼応するように発光パターンが変化
→ 「あなたは、どこから来た?」
こちらが試しに異なるパターンの発光を送ると、セレネ・ナクタも同様にパターンを変化させた。これは、模倣または探りを入れる行動であり、相手を理解しようとする意思の表れかもしれない。
4. 発光がより穏やかになり、波のようにゆっくりと点滅
→ 「私は、あなたを害さない。」
何度か光のやり取りを続けるうちに、セレネ・ナクタの発光はより落ち着いたものになった。これは、敵意のないことを示している可能性がある。
5. 観測ライトの明るさを弱めると、それに合わせて発光が静まる
→ 「もう行くね。」
しばらくの間、一定の距離を保ちながら発光を続けていたセレネ・ナクタだったが、最後に光を弱めながらゆっくりと闇の向こうへ泳いでいった。その際、明滅のパターンが「緩やかにフェードアウトする」ような形だったことから、単なる逃避ではなく、別れの合図のように感じられた。

考察

今回の発光パターンは、単なる生理現象や捕食・威嚇行動ではなく、相手を認識し、反応するための意思表示である可能性が高い。特に、こちらのライトのパターンに応じて発光を変化させたことは、学習能力または適応的な行動が備わっていることを示唆している。

我々が送った光が、彼らにとってどのような意味を持つのかはまだ分からない。しかし、この深海には、まだ我々の知らない言語が確かに存在している。

次に出会ったときは、もう少し長く”話をする”ことができるかもしれない。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

恋愛リベンジャーズ

廣瀬純七
SF
拓也は、かつての恋人・純への後悔を抱えたまま生きてきた。ある日、過去へ戻れる不思議なアプリを手に入れるが戻った先で彼を待っていたのは、若き日の純ではなく――純そのものになってしまった自分自身だった。かつての恋人とやり直すはずが、過去の自分を相手に恋をするという奇妙で切ない関係が始まっていく。時間と心が交差する、不思議な男女入れ替わりストーリー。

ボディチェンジウォッチ

廣瀬純七
SF
体を交換できる腕時計で体を交換する男女の話

【新作】1分で読める! SFショートショート

Grisly
ファンタジー
❤️⭐️感想お願いします。 1分で読める!読切超短編小説 新作短編小説は全てこちらに投稿。 ⭐️忘れずに!コメントお待ちしております。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...