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弁慶立往生異聞 泣き所を射抜かれ討たれし僧兵、転生してなお戦場を無双す
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パーン!
さぁさぁお立ち会い! お立ち会い!
これから申し上げますは、奥州・衣川館での一幕。
忠義の士、武蔵坊弁慶の物語でございます!
――時は文治五年。
世に伝わる「弁慶立往生」。
矢を百発千発浴びてもなお仁王のごとく立ち続けたと申しますが……。
ここにひとつ異説があるんでございます。
弁慶が倒れた原因、それは矢の数じゃない。
否ッ! 否ッ! 否――ッ!! パーン!
鋼のごとき肉体を誇る弁慶。
飛んでくる矢をカンッ、カンッと弾き返す。
火花散らして矢は落ち、肉体には一寸の傷も付かない。
「なんだあれは!」「矢が効かぬぞ!」と敵兵どもは肝を冷やす。
ところが――運命のいたずらか。
幾筋も飛ぶ矢の中の一本が、よりによって脛を射抜いたんです。
そう、俗に言う“弁慶の泣き所”でございますわね。
流石は弁慶、泣き出しはしません。泣きはしませんが……やっぱり急所には違いない!
「ぐぬぅ……!」
巨体が揺れる。
あぁ、泣き所をやられちゃたまらない。
その一矢で身体はほころび、鉄に罅が入るように強靭な肉体も崩れ始めた。
そこからは矢が次々と通り抜け、血に染まりながらも弁慶は仁王立ち。
――こうして伝わる「弁慶立往生」となったのでございます。
けれど真の原因は、あの一本。脛を射抜かれた矢だったんです。
* * *
さあ、しかし物語はここで終わらない。
パーン!
弁慶、因果を越えて転生。
気づけば敵襲の数時間前、衣川館の一室。
「……ここは……? まだ生きておるのか」
独りごちて、ハッと悟る。
「そうか……我を討ったのは、あの矢か。
脛を射抜いたあの一矢。
あれさえ無ければ、立往生など無かった……。
わしは己の弱点に討たれたのだ……」
弁慶は黙って鉄を打ち延ばし、布を重ね、脚を固く覆う。
「今度こそ……二度と同じ過ちはせぬ!」
義経公のもとへ駆けつけて叫ぶ。
「殿! 間もなく敵軍が押し寄せます。どうかお逃げを!」
されど義経は落ち着いた声で応じる。
「いや、弁慶。
そなたが立つならば、私はここに座して勝利の鬨を待つ!」
パーン!
* * *
その言葉を胸に、弁慶は門口に仁王立ち。
押し寄せる敵軍、夜を震わせる鬨の声!
矢の雨がザーッと降り注ぐ。
しかし――カンッ、カンッ!
矢は火花散らして落ちるばかり。
「効かん! 効かんぞ!
その程度でこの弁慶を倒せると思うな!
死角など無い! かかって来い!」
大喝一声、長刀を振るえば――
突き出された槍は根元からへし折れ、
振り下ろされた薙刀は真っ二つに裂ける。
弓を引こうとした兵は、弦ごと叩き切られて宙を舞う。
「ぎゃああっ!」「鬼だ! 鬼神だ!」
兵どもは阿鼻叫喚。
弁慶の一薙ぎで十人二十人が吹き飛び、
地面は折れた槍や薙刀で埋め尽くされる。
遠くから見ていた敵将は顔面蒼白。
「矢も槍も効かぬ……あれは人か、神か、鬼か……!」
部下が必死に縋りつく。
「将軍様! もう兵がもちませぬ!」
敵将ついに絶叫。
「退けぇ! 命惜しければ退けぇぇ!」
パーン!
敵軍は総崩れ。
敗走の足音と悲鳴が夜を裂き、衣川の風はそれを嘲るように吹き抜ける。
館の奥、義経公は膝に拳を置き、ただ静かに耳を澄ます。
そして低く、一言。
「……弁慶」
その一声が、勝利を告げていたのでございます。
月明かりに浮かび上がる弁慶の姿。
血煙をまとい、仁王立ち。
その姿は人か鬼か、もはや判ぜぬのでございます。
* * *
――忠義の鬼、怪力無双・武蔵坊弁慶「不敗伝」。
その後、頼朝公に逆襲するのは……また別のお話でございます。
さぁさぁお立ち会い! お立ち会い!
これから申し上げますは、奥州・衣川館での一幕。
忠義の士、武蔵坊弁慶の物語でございます!
――時は文治五年。
世に伝わる「弁慶立往生」。
矢を百発千発浴びてもなお仁王のごとく立ち続けたと申しますが……。
ここにひとつ異説があるんでございます。
弁慶が倒れた原因、それは矢の数じゃない。
否ッ! 否ッ! 否――ッ!! パーン!
鋼のごとき肉体を誇る弁慶。
飛んでくる矢をカンッ、カンッと弾き返す。
火花散らして矢は落ち、肉体には一寸の傷も付かない。
「なんだあれは!」「矢が効かぬぞ!」と敵兵どもは肝を冷やす。
ところが――運命のいたずらか。
幾筋も飛ぶ矢の中の一本が、よりによって脛を射抜いたんです。
そう、俗に言う“弁慶の泣き所”でございますわね。
流石は弁慶、泣き出しはしません。泣きはしませんが……やっぱり急所には違いない!
「ぐぬぅ……!」
巨体が揺れる。
あぁ、泣き所をやられちゃたまらない。
その一矢で身体はほころび、鉄に罅が入るように強靭な肉体も崩れ始めた。
そこからは矢が次々と通り抜け、血に染まりながらも弁慶は仁王立ち。
――こうして伝わる「弁慶立往生」となったのでございます。
けれど真の原因は、あの一本。脛を射抜かれた矢だったんです。
* * *
さあ、しかし物語はここで終わらない。
パーン!
弁慶、因果を越えて転生。
気づけば敵襲の数時間前、衣川館の一室。
「……ここは……? まだ生きておるのか」
独りごちて、ハッと悟る。
「そうか……我を討ったのは、あの矢か。
脛を射抜いたあの一矢。
あれさえ無ければ、立往生など無かった……。
わしは己の弱点に討たれたのだ……」
弁慶は黙って鉄を打ち延ばし、布を重ね、脚を固く覆う。
「今度こそ……二度と同じ過ちはせぬ!」
義経公のもとへ駆けつけて叫ぶ。
「殿! 間もなく敵軍が押し寄せます。どうかお逃げを!」
されど義経は落ち着いた声で応じる。
「いや、弁慶。
そなたが立つならば、私はここに座して勝利の鬨を待つ!」
パーン!
* * *
その言葉を胸に、弁慶は門口に仁王立ち。
押し寄せる敵軍、夜を震わせる鬨の声!
矢の雨がザーッと降り注ぐ。
しかし――カンッ、カンッ!
矢は火花散らして落ちるばかり。
「効かん! 効かんぞ!
その程度でこの弁慶を倒せると思うな!
死角など無い! かかって来い!」
大喝一声、長刀を振るえば――
突き出された槍は根元からへし折れ、
振り下ろされた薙刀は真っ二つに裂ける。
弓を引こうとした兵は、弦ごと叩き切られて宙を舞う。
「ぎゃああっ!」「鬼だ! 鬼神だ!」
兵どもは阿鼻叫喚。
弁慶の一薙ぎで十人二十人が吹き飛び、
地面は折れた槍や薙刀で埋め尽くされる。
遠くから見ていた敵将は顔面蒼白。
「矢も槍も効かぬ……あれは人か、神か、鬼か……!」
部下が必死に縋りつく。
「将軍様! もう兵がもちませぬ!」
敵将ついに絶叫。
「退けぇ! 命惜しければ退けぇぇ!」
パーン!
敵軍は総崩れ。
敗走の足音と悲鳴が夜を裂き、衣川の風はそれを嘲るように吹き抜ける。
館の奥、義経公は膝に拳を置き、ただ静かに耳を澄ます。
そして低く、一言。
「……弁慶」
その一声が、勝利を告げていたのでございます。
月明かりに浮かび上がる弁慶の姿。
血煙をまとい、仁王立ち。
その姿は人か鬼か、もはや判ぜぬのでございます。
* * *
――忠義の鬼、怪力無双・武蔵坊弁慶「不敗伝」。
その後、頼朝公に逆襲するのは……また別のお話でございます。
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