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工事の準備
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レアナの計画は二つ。
川から越水しないように、麻袋に砂を詰めた土嚢を当てて堤防の補強をする。
川の中腹で一時的に水を貯め、河川へ流れ込む水量を減らす、遊水池を作る。
「ねえ、ハル。私、丁度良く麻袋を持っているのだけど。誰かこの中に砂を入れてくれないかしら?」
りんごを入れる木の箱を逆さにして座り、毛布にくるまるハルとレアナ。
ここには今、二人しかいないのだ。
「誰かって。俺しかいないのに、それ聞いちゃうの?」
「あらっ、本当ね。お願い出来るかしら?」
「はあぁ~。まあ、やりますけど。でもレアナ様は無理しちゃ駄目ですからね。良いですね!」
呆れ顔のハルに、曖昧に頷くレアナ。きっと言うことなんか聞かないだろう。
ザクッ、ザクと、麻袋に土を詰めて紐で入り口を括る。
それを見たレアナは「さすがはハルね。手際が良いわ」と、褒めてから毛布を木箱に置いて立ち上がった。そして土嚢に手を触れる。
「倍になれ土嚢。バイバイバイに、増えなさい!」
命令のような懇願のような声が響くと、土嚢は3つ増え、合計4つとなったのだ。
そんな感じでかけ声を続けるレアナのまわりには、土嚢が1000個並んでいた。
「はぁ、はぁ。まずはこんなものかしら? 後はスコップと……。何がいるのかしら?」
「ああ、もう良い。休みなよ、レアナ様。これだけ素材があれば十分だ」
疲労を隠せないレアナに、水筒のスープを差し出すハル。
「ほら、少し飲んで。全く無理ばかりするんだから」
その言葉には諦めも入っていた。
「無理はしていないわ。本当よ。この体はあの時から、痛みや苦しみを感じなくなったのだもの。だから少し疲れただけよ」
微笑んでいるレアナに嘘はない。きっとそうなのだろうけれど、あまりにも残酷な事実にハルは一瞬だけ目を強く瞑った。
レアナはそれに気付かなかった。
「ヨイショ」の声で立ち上がり、近くに置いてあったスコップに触れ、また数を増やしていく。
止めても無駄だと知るハルは、唇を強く噛んで見守るしかない。
その後も彼女はふらつきながら、近くまで寄せて置いた馬車の荷台にあがり、野菜や小麦の袋に手を乗せた。
そして先程と同じく「バイバイバイに増えなさい」の声に応じるように、その袋は中身ごと増え続けたのだ。
馬車の荷台いっぱいになった食料は、領民達の飢えを凌ぐことだろう。
それを確認したレアナは、満足そうに頷いて地に膝を突いた。
「ごめんなさい、ハル。後はよろしく…………」
その声が終わる前に駆けつけ、既に意識のない彼女を抱き支えたハルは呟く。
「何でそこまで頑張るんだよ。もう、良いのに…………」
荷台の運転席に彼女を横に寝かせ、彼は深く息を吐いた後に涙を落とした。
「姉ちゃんのことは、レアナ様のせいじゃないんだ。もう無理しないで欲しいのに…………」
星空が煌めく空の下で、レアナの浅い寝息とハルの押し殺す嗚咽だけが聞こえていた。
川から越水しないように、麻袋に砂を詰めた土嚢を当てて堤防の補強をする。
川の中腹で一時的に水を貯め、河川へ流れ込む水量を減らす、遊水池を作る。
「ねえ、ハル。私、丁度良く麻袋を持っているのだけど。誰かこの中に砂を入れてくれないかしら?」
りんごを入れる木の箱を逆さにして座り、毛布にくるまるハルとレアナ。
ここには今、二人しかいないのだ。
「誰かって。俺しかいないのに、それ聞いちゃうの?」
「あらっ、本当ね。お願い出来るかしら?」
「はあぁ~。まあ、やりますけど。でもレアナ様は無理しちゃ駄目ですからね。良いですね!」
呆れ顔のハルに、曖昧に頷くレアナ。きっと言うことなんか聞かないだろう。
ザクッ、ザクと、麻袋に土を詰めて紐で入り口を括る。
それを見たレアナは「さすがはハルね。手際が良いわ」と、褒めてから毛布を木箱に置いて立ち上がった。そして土嚢に手を触れる。
「倍になれ土嚢。バイバイバイに、増えなさい!」
命令のような懇願のような声が響くと、土嚢は3つ増え、合計4つとなったのだ。
そんな感じでかけ声を続けるレアナのまわりには、土嚢が1000個並んでいた。
「はぁ、はぁ。まずはこんなものかしら? 後はスコップと……。何がいるのかしら?」
「ああ、もう良い。休みなよ、レアナ様。これだけ素材があれば十分だ」
疲労を隠せないレアナに、水筒のスープを差し出すハル。
「ほら、少し飲んで。全く無理ばかりするんだから」
その言葉には諦めも入っていた。
「無理はしていないわ。本当よ。この体はあの時から、痛みや苦しみを感じなくなったのだもの。だから少し疲れただけよ」
微笑んでいるレアナに嘘はない。きっとそうなのだろうけれど、あまりにも残酷な事実にハルは一瞬だけ目を強く瞑った。
レアナはそれに気付かなかった。
「ヨイショ」の声で立ち上がり、近くに置いてあったスコップに触れ、また数を増やしていく。
止めても無駄だと知るハルは、唇を強く噛んで見守るしかない。
その後も彼女はふらつきながら、近くまで寄せて置いた馬車の荷台にあがり、野菜や小麦の袋に手を乗せた。
そして先程と同じく「バイバイバイに増えなさい」の声に応じるように、その袋は中身ごと増え続けたのだ。
馬車の荷台いっぱいになった食料は、領民達の飢えを凌ぐことだろう。
それを確認したレアナは、満足そうに頷いて地に膝を突いた。
「ごめんなさい、ハル。後はよろしく…………」
その声が終わる前に駆けつけ、既に意識のない彼女を抱き支えたハルは呟く。
「何でそこまで頑張るんだよ。もう、良いのに…………」
荷台の運転席に彼女を横に寝かせ、彼は深く息を吐いた後に涙を落とした。
「姉ちゃんのことは、レアナ様のせいじゃないんだ。もう無理しないで欲しいのに…………」
星空が煌めく空の下で、レアナの浅い寝息とハルの押し殺す嗚咽だけが聞こえていた。
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