俺達の行方【番外編】

穂津見 乱

文字の大きさ
5 / 79

後悔と絶望

しおりを挟む
何も言わず、何も聞かず、弘人はずっと俺を抱きしめてくれた。

「弘人…、何で…ここに…?」

「剛、大丈夫か?立てるか?」

弘人が俺の手を引いて歩き始める。

「なんか、恋人同士…だな。」

少し照れたように弘人が言う。

手を繋いで公園を歩く…普段は出来ない事だ。嬉しいはずのその言葉が俺の胸を抉る。弘人に告げねばならない俺の決意…。


誰も居ない夜の公園、一番奥のベンチに腰かける。お互いの顔も余り見えない真っ暗な場所。弘人は、敢えて人目につかない場所を選んだらしい。

俺は覚悟を決めねばならない。だが、自然と口が重くなる。

「剛、あいつが…相澤か?」

弘人が先に口を開いた。

「え…?!何で…知ってるんだ…?」

俺の胸がざわつく。

「やっぱりな…。名前は知らないけど、顔は知ってる。あいつは、いつもお前を見てたからな。」

「え…?」

「剛、お前は自分がモテるって自覚が無いからな~。それがお前らしくていいけど。男にまでモテるとはね~。俺、心配だぞ。」

弘人が軽く笑う。

「え…?何、それ…?」

「ほら、やっぱり分かってない。だから前にも言ったろ~。お前、色気ありすぎ。それに…、格好良すぎだろ!」

最後は褒め言葉らしい。弘人の声は少し照れくさそうだ。それを誤魔化すようにヘヘッと笑う。

「え、え…?…そうなのか…?」

俺の胸がキュンとなる。他の奴等はどうでも良いが、弘人に格好良いと言われたのが嬉しくてならない。顔がカアッと熱くなる。真っ暗闇で良かった。顔を見られたら恥ずかしい。

そういえば…以前、弘人に同じ事を言われた。一日たりとも忘れた事はない大切なあの日…。俺が弘人を受け入れた日だ。

離れ離れになる前に、どうしても身体を繋げたかった。攻めでも受けでも良いと思った。弘人の身体に刻みつけたかった…俺の想い…。俺の身体に刻みつけたかった…弘人の全て…。

いつも不安だった。弘人を失う事を恐れていた。俺の独りよがりだ…。

離れ離れになってしまったら、弘人の心が他に向いてしまうのではないかと不安で仕方がなかった。弘人はノーマルな男だ。勿論、俺もノーマルだが、弘人以外は考えられない。それ以外は考える気にもならない。それぐらい惚れている。
だが、弘人が俺と同じとは限らない。俺と離れてしまったら…他の誰かと恋をするかもしれないのだ。今はウブな弘人でも普通の男なら女にも目が行く。俺は男だ。女には勝てない。その不安と焦りが俺を突き動かしてしまった。弘人の心が決まるまで待てなかったのだ。それでも、弘人は俺を受け入れて応えてくれた。凄く幸せだった。2人で一緒に幸せを感じられた。

それが、こんな形で崩れ去ってしまうのか…。今となっては、何もかもが強い後悔でしかない。

《俺は…なんてバカなんだ…》

胸が苦しい。言葉が出ない。ただ、黙って俯向いていた。

「あいつ…相澤が駅に居ただろ?顔覚えてたから気になってな…。それに、帰り道でお前も変な事、言ってたし…。あの時、お前の話ちゃんと聞いてれば良かった。…ごめん、剛。」

「何で?…何で、お前が謝るんだ?悪いのは、俺だ。………弘人、ごめん…。」

俺は、弘人が気付いていた事さえ知らなかった。いつも奴が俺を見ていたという事さえもだ。俺自身に対する怒りと言いようのない悔しさに、握りしめた拳が震える。

「何か妙に気になって、引き返したら…お前があいつと歩いて行くのが見えたんだ。……で、後を着けて来た。」

最後の方は少し申し訳なさそうな小さな声だった。

《何て事だ…クソッ!》

自分の愚かさが嫌になる。弘人が後を追って来た事も知らず、そんな事さえ考えもしなかったのだ。弘人の気持ちを思うと…自分を絞め殺したくなる。
その挙げ句、奴にキスされてこのざまだ。

《弘人を好きだと言いながら、俺は何をやってるんだ!?》

押し潰されそうな胸の痛み、沸き上がる自分への怒り、ギリッと歯を噛み締める。心臓が激しく唸り、全身の血液が逆流する。

《誰でもない…俺が弘人を傷付けた。俺は、弘人の傍に居る資格なんてない!》

強烈な自己嫌悪。そして、喪失感…。怒りは消え去り…弘人に対する罪悪感だけが残る。


「弘人…。お前、どこまで知ってる…?」

「ああ、話の内容までは聞こえなかったけど…。ほぼ、全部かな…?さすがに気が引けたけどな。何やってんだ俺…って思った。…ハハハ。」

笑ってみせる弘人の声、少し歯切れが悪い言葉。弘人がショックを受けたのは確かだ。

俺は言葉を失う。全部見られていたのだ。奴とキスしていた事もだ。一方的とは言え、舌まで入れられるほど油断した俺に弁解の余地は無い。弁解するつもりもない。どちらにせよキスした事に変わりはないのだ。

「すまない…。弘人…。」

それだけ言うのが精一杯だった。強い絶望感と喪失感が俺を襲う。ガクリと肩を落とし頭を抱え込む。

《弘人に伝えなければならない…》

頭の中が鉛のように重く思考が働かない。それでも必死に言葉を探す。

もうこれで終わりなのだと思った…。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...