俺達の行方【番外編】

穂津見 乱

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相澤と速水〈4〉苛立ちの解明

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《取り敢えず、今の現状から考えよう》

俺は頭の中を少し整理してみる。速水は敵であって敵ではない。だからと言って味方でもない。勿論、今後のターゲットにも成り得ない。俺は速水を利用しているが、速水は俺を利用しない。罪の意識なのかどうかは知らないが、それならもう充分だろう。俺をどうこうするつもりが無いのなら放っておいて欲しいところだ。

《速水は何が楽しいんだ?俺と居たって意味無いだろ?!》

《昼寝するだけなら他に行けよ!用が無いならここに居る必要ないだろ!》

そして又、やや苛つく。状況的に見ても無視しているのは俺の方だが、実際に無視出来ていないのも俺の方だ。そして、何故そうなるのかも分からない。全くもって不可解な現象だ。

《無視してるはずなのに、何で無視出来ないんだ…?!》

これはもう「ナゾナゾ」か「トンチ」の領域だ。

《う~ん…。どういう事だ??》

意識したくはないが、余計に意識が向いてしまう。その横顔を見るだけでムカつくが、睨んででも見てしまう。会話などしたくもないが、山ほどの文句を言いたい。ジロジロと見られるのは嫌だが、俺の方を向かない事に腹が立つ。

《厶…、厶厶厶…、ムカつく~!》

溜め込んでいたストレスがブスブスと燻って煙を上げ始める。腹の中から「熱い怒り」が込み上げる。

《ああぁ~~!も~う!腹立つ~~!!》

思わず「ムキー!」と叫びたくなる。ムグムグと口唇を噛みしめる俺はサルになった気分だ。地団駄を踏んで飛び跳ねて掴みかかりたい。澄ました顔の速水の首を絞め上げてブンブン振り回してやりたい。それぐらいに腹が立つ。

《大体、何で?!俺ばっかりなんだよ!?》

《速水、速水、速水って…!何で速水の事ばっかり考えなきゃならないんだよ!?》

改めて考える必要もないほどに頭の中は「速水だらけ」だ。何の興味も関心も無い速水の事を考えてしまう自分にも納得がいかない。その苛立ちも加わって怒りは倍増するばかりだ。この状態を世間では何と言うのだろうか…?

《俺がこんなに悩んでるのに…!速水の奴!平然と居眠りしやがって!超~、ムカつく~~!!》

我慢に我慢を重ねて来た結果だろう。発散しようのない不満が蓄積している。

《もう、一緒に居る必要ないだろ!お前が居るだけで俺はめちゃくちゃだ!》

今では、学校内だけでなく家に帰ってからも速水の顔がチラついて仕方がない。その影響力は強大で俺のペースは完全に乱されていた。だが、何故にこうなってしまったのかが分からない。それを解明しない事には話が前に進まない。

《クソッ…!大人しくしてるからって良い気になるなよ!お前なんて用無しなんだよ!》

出始めこそは失敗したが、速水との関係性も計算上では成り立っていた。計算無くして俺の行動は有り得ない。多少の乱れはあっても軌道修正しながらやって来たはずだった。途中経過は負け越しに思えても最終的に俺が勝てば良いからだ。
今回の騒動におけるメリットとデメリットも計算済みだった。共に行動する事で生じる数々の不満は「速水を利用する事」で差し引きゼロだ。その間に「速水の動向を探る」という目的も含めると俺にとっては都合が良い。所謂「一石二鳥」という点では俺の方がメリットも高くて優位だ。つまり、多少の無理はあっても大人しく我慢していれば勝ちに終わる勝負だった。
そして、実際に「その目的」は果たし終えている。速水をカモフラージュに使いながら悪害が無い事も確認済みだ。計算上では俺の勝ちが見えていた。

だが、人生には思わぬ「落とし穴」が存在する。俺にとっては「速水の存在自体」が落とし穴だった。

落ち着いて考えれば分かる事かもしれないが、俺は感情的になり過ぎていた。速水を前にすると理性が吹き飛ぶ。どうしても感情が先に立つ。それを悟られないように平静を装ってきた。自分を曝け出さないように抑え込んできたのだ。それが逆効果となっていた。
そして、普段から考えない事を習慣付けていた俺は、無意識に「速水から目を背ける」事に徹していた。つまり、見ているようで見ていなかった。いや、見えていながらも見ないようにしていた。いやいや、見えても見たくなかったと言った方が早い。この複雑さが「盲点」を生んだ。

俺の「計画」は「予定」から大きくズレていた。予定にはない「余計なもの」が邪魔をする。それが混乱を生み出し、この現状を招いたのだ。だが、それさえも気付かないほど混乱状態は悪化している。

そもそも、速水との事を「特殊なケース」だけに仕方がないと思っていたのが大きな間違いだった。結論から言うと「俺の考えが甘かった」という事だ。そして、それも仕方のない事だった。なにしろ、俺は孤独に生きて来たからだ。

《チッ…!こんな事は計算外だ!もう、仕方ないなんて言ってる場合じゃない…!》

やむを得ない状況に置かれた人間は「仕方がない」と口にする。それは「諦め」に似た言葉でもあり「受容的態度」とも言える。
だが、俺はそんな事は認めたくない。仕方がないの一言で片付くような人生ではないからだ。俺の言う「仕方がない」とは、諦めや受容ではなく「切り棄て」だ。

《クソッ…!何もかも予定外だ!こんなはずじゃなかったのに…!何処でどう間違ったらこんな事になるんだよ?!》

その言葉通り、小さな事なら簡単に切り棄てられる。日々の煩わしさを切り棄てるなど朝飯前だ。嫌な事も怒りの炎で燃やしてポイだ。その炎が大きくなれば復讐心に点火する。怒りの矛先をターゲットに向けて「怒りの転嫁」だ。だが、これは俺が悪い訳ではない。怒りが増すのは周りの奴等のせいだからだ。

当然の事ながら速水に対しても同じだった。日々の小さな苛立ちは怒りの炎で燃やして揉み消す。通常と違っていたのは、揉み消しても踏みつけてもブスブスと燻り続けていたという事だ。その種火は消える事なく赤々と熱を帯び、腹の中でジリジリと燃え続ける。ジワジワと胸までもが焼け焦げてゆくようで、これほどに「胸くそ悪い」のはそのせいだろう。

物事を深く考えない俺の思考は感覚的な部分が多い。要は、感覚でものを言うところがあるだけに、自分でも何を言っているのか分からない時がある。何をどう言いたいのかも良く分からない事もある。

《……ヤバイな…。段々と頭の中が乱れてくる……》

頭の隅でそんな事を考える。言っておくが、俺は「短気なバカ」でもなければ「性格破綻者」でもない。ただ、現在は統率が乱れているというだけだ。

孤独の中で生きていると感覚が鋭く研ぎ澄まされる気もするが、逆に、長く独りで居る事で自分の感覚だけが大きくなってゆく。果たして、それが良い事なのか悪い事なのかは不明だ。
俺は「自分の感覚」だけを頼りに生きているが、時には脳が正常に機能しているのかを確認するようにもなった。と言うよりも、無理矢理に考えさせられる状況に追いやられている。これは速水と出会ってからだ。

普段は気に留める事さえなかった事が気になり始め、見えなかった部分が見えるようになり、考えなかった事を考えるようになった。毎日、新たな何かが起きる。それは些細な事のようでありながらも小さな変化の積み重ねとなった。
独りで居る時には考える必要もなかった事が次々と頭の中に浮かび上がる。勝手に浮んで来るのだからどうしようもない。実際には、考えるというよりも「思い巡らせる」という感じだ。当たり前の日常に埋もれていた事柄が「意識化」されるとでも言えば良いだろうか…?

忘れていた事や意識しなくなっていた事が次々と蘇り頭の中を埋め尽くす。ここ数日はその勢いが増している。どんなに打ち消そうが無視しようが、頭の中でグルグルと回転し続けている。俺の思考とは別の意識が勝手にそれをやっている。その「トリガー」になっているのが速水だ。全てにおいて速水の存在が絡んで来るのだから俺の苛立ちは増すばかりだ。

現に、こうしている今も頭の中がフル回転だ。最近、これほど頭を使うことは滅多になかった。もしかしたら、受験勉強以来だろうか…?いや、試験勉強の方がまだマシだ。脳の使い方が違うからだ。

《うあぁ~~!もう!考えるだけでホント疲れる!マジで嫌になる~!どれもこれも全部、速水のせいだからな~~!!》

考え始めて数分で嫌になる。頭の中をガリガリと掻きむしりたくなる。

《大体、速水も速水だ!ゲイならゲイらしくしろってんだよ!》

そして、訳の分からない文句までもが出始める。これは、俺の「計画」にはなかった「誤算」だ。

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