俺達の行方【続編】

穂津見 乱

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俺の誘い

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浴室を出ると味噌汁の香りが漂ってくる。どうやら、剛の手作りらしい。思わずクンクンと鼻を鳴らす。調理師学校に通い始めてからの癖になっている。教科書とにらめっこするのは苦手だが、こういう感覚的な事は自然と身に付くものだ。

料理など殆ど作った事がなかった剛も頑張って自炊をしているらしい。キッチンの状況から見て、作る料理は簡単なものばかりだろう。調味料や調理器具は最低限の物しか置かれていなかった。冷蔵庫の中も寂しげだった。
昨日、帰る前に一緒に買い物をした時に良さそうな品を俺がチョイスしてやったのだ。保存可能な食品や食材、簡単便利な調理アイテムなど、解説付きで色々と買い込んで帰った。感心しながら頷く剛を見て、俺の世話女房的精神がメラメラと燃え上がったのは言うまでもない。早く一緒に暮らして世話をしてやりたい気持ちが強くなるばかりだった。
そして、俺は…ますます恋する乙女のように胸をときめかせてしまうのだ。


「弘人、俺の手料理だ。上手く出来たかどうかは分かんねぇけどな?」

テーブルの前にあぐらをかいて座る剛が俺を見上げて照れくさそうに笑う。剛の手料理は初めてだ。俺のお腹が空腹を訴えている。だが、それ以上に…俺の股間が騒いでいる。

「剛、その前に…ちょっといいか?」

「ん…?何だ?どうした?」

「いいから、こっちに来てくれ。」

俺はバスタオルを腰に巻いたままベッドに腰かける。立ち上がった剛がゆっくりと歩み寄ってくる。

「何だよ…?弘人…?」

優しく甘い声。その手が俺の濡れた髪の毛を梳くように動いて頬に滑り下りてくる。そのまま軽く上を向かされて剛の口唇が重なってくる。柔らかく覆われて軽く吸い付かれる。小さな音と共に少し離れた口唇が再び重なる。俺を求めるような甘いキスだ。

俺もそれに応える。口唇で応えると、やんわりと舌が迫ってくる。舌で応えると、優しく絡め取られて緩く吸い上げられる。そのまま抱きしめられて、まったりとしたキスが繰り返される。

「……ん…、はぁぁ……、ぁぁ……、剛……」

小さな溜め息と共に剛の名を呼ぶ俺の声が甘くなる。剛の背中に腕をまわして身体を擦り寄せる。一向に激しくならないキスに焦れた俺は、離れて行く口唇を追いかけて強く吸い付いた。それに応えてくれた剛の口唇が離れた後、額にチュッとキスをしてきた。「ここまで」の合図だ。

「剛?何で…?やだ、もっと…。」

思いがけず甘えた声が出た。俺から仕掛けるつもりのはずが、剛の方から求められた優しく甘いキスに脳が半分とろけている。

「……弘人、ごめん。お前が可愛いからつい…。でも、これ以上はヤバイ。続きは夜にしような?」

少し困ったように躊躇う剛が低くボソリと言う。昼間から盛るつもりはないらしい。それでも、僅かに興奮の色を隠せずに軽く目を伏せて頬を染めている。

「……いいよ、剛。我慢しなくていいから…。」

「弘人、昨日の事…気にしてるんだろ?それは気にしなくていい。いや、気にする事じゃない。俺は、弘人が東京に来てくれただけで嬉しい。それに、昨日は慣れない場所を歩き回って疲れただろ?」

あくまでも冷静に自分を保つ剛の声は落ち着いている。俺の身体を気遣い、欲情に流されず、宥めるように優しく言い聞かせる口調に変わる。再会した時から何となく感じていた剛の変化だ。以前なら喜んで飛びついて抱きついて来ていただろう。情熱的でまっしぐらに俺に向かって来ていた剛が、更に落ち着きを増して大人びて見える。

「でも、せっかくの時間を台無しにしたのは俺の失態だ。お前に逢えるのが楽しみで…待ち遠しくて…寝不足だった。身体の具合いが悪かった訳じゃねぇ…。」

「それなら良かった。無理させたんじゃないかと思って心配だった。」

「………ごめん。悪かった。」

「謝るなよ。俺も、弘人に逢えるのすっげぇ楽しみにしてた。ずっと逢いたかったからな。待ち遠しかったぜ。」

「………やっぱり、ごめん。俺が悪い。」

「何だよ?だから、謝るなって。気にするな。俺がいいって言ってんだぜ?」

「俺の気が済まねぇ…。だから、一発抜いてやる。昨日の分だ!」

俺は勢い込んで言う。ついついデカイ声になる。既に、興奮している身体を抑える事が出来ない。そして、剛が興奮を抑えようとしているのは見て取れる。

興奮しているのが俺だけならば、素直に諦めてトイレに行って抜けば済む事だ。だが、それはとても寂しい気持ちになる。自業自得とは言えど、激しく落ち込んでしまいそうだ。剛が同じように興奮してくれている事が嬉しくて、俺はますますヤル気になる。

《昨夜のリベンジだ!》
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