俺達の行方【続編】

穂津見 乱

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2人の軌跡〈2〉

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「弘人、まだ…苦しいか?」

「う…、動くな…。」

軽く身を起こそうとする剛を反射的に引き留める。

「分かった。心配するな、何もしねぇよ。お前が良いなら…このままで…。」

時間にして数分の事だろう。暫くの間は剛も観念したようにくたばっていた。くたばると言っても俺の上でカエルのように蹲る格好だ。枕元に顔を埋めて軽く覆い被さっている。程良い重みと合わさる肌が安心感となり、俺は剛にしがみついたまま白昼夢をみていたような気分だ。苦痛から逃れようとする意識がタイムスリップでもしていたのだろうか…?

「重くねぇか?苦しかったら言えよ。」

「ん…、このまま…。」

「分かった。このままな…。」

「……剛…、お前は…?」

「俺は大丈夫だ。少し落ち着いた。」

「……そうか…。」

剛も幾分か肩の荷を下ろしたようにリラックスしている。その雰囲気が俺を安心させてくれているのだろう。逆に言えば、俺が開き直った事で剛の力が抜けたような所もある。お互いの僅かな変化でさえもが影響し合うほど、俺達は一心同体になっている。

《……もう少し…このまま……》

大きな荒波が去った後も、未だに身体は苦痛の中だ。それに堪えるには剛の存在が必要だ。苦しみの中で唯一縋れる温もりと癒やしと救いのようなものだ。
正直なところ、身動ぎ一つでも苦しさが増すような感覚がある。動かない身体と押し寄せる苦痛の中で、意識だけを保つのはかなり過酷だ。息を潜めて何もせず、ジッと抱き合っているのが一番で、それが何よりも安心出来る。

《……後少し…待ってくれ……》

心の中で剛に詫びる。剛の立場からすると次に進みたいはずだ。完全に挿入するまでは落ち着かない所がある。のんびりしていられる状況でもない。改めて考えるでもなく充分に分かっている。ただ、もう少しだけ時間が欲しい。

初めてのセックスは想像を上回る苦難の道のりだ。興奮状態が冷めるほどに辛さが増す。苦痛に意識を持って行かれそうになる。既に我が身は萎えている。それよりも、もう勃起どころの話でなくなっている。ここからは気力勝負だ。

本来、セックスと勃起は切り離せないものがある。男は勃起するから興奮してセックスをしたいと思うような所もある。年頃の勃起は生理現象でもあるが、恋愛をすると相手への想いが更に強く影響を及ぼす。勿論、俺もそうだった。剛を想うほどに身体が熱くなり、身近に感じるほどに興奮度は増し、会えないと思うだけで無性に寂しくて仕方がなかった。

俺は、昔からウブと言われるだけあって異性や恋愛に関しても奥手だった。幸い、達兄の援護があり思春期の男の知識は得ていたが、それでも積極的とは言えなかった。気恥ずかしさが先に立ち表立った行動には出にくい。ある程度の興味はあっても、周りの友達に比べると大人しい方だ。
だが、剛に対してだけは違っていた。それは自分でも驚いている。昔の自分も、今の自分も、剛に向ける想いには爆発的なものがある。溜め込んでいたものが胸の中で膨張し、一気に弾け飛ぶような感覚だ。そして、今は全ての想いが開放されてゆくようでもある。
剛と歩んだ道のりが俺の中で一本の線となって繋がって見えてくる。

《……剛、待ってろよ…、もう直ぐだ…、もう直ぐだから……》

気持ち的には熱い想いが鰻上り状態だ。完全勃起でガンガン行きたいところだが、身体は苦痛に音を上げそうになっている。

《……ここさえ乗り切れば…、今だけ我慢すれば…、必ず、何とかなる…!》

どれほど身体の熱が冷めようと心の熱が冷める事はない。勃起しない状態でもセックスをやめようという気は一切無い。どうにか持ち堪えて成し遂げたい気持ちが強い。気力だけで立ち向かえるのは剛を間近に感じているからこそだ。

《余計な事は考えるな…!剛だけでいい…剛の事だけ考えろ…!》

心の中で強く念じる。

《他には何も要らない…!剛だけでいい…!》

心が強く望む時、意識はそれに応える。剛への想いは全て俺の中にある。

始まりは中学の時。懐かしい記憶と楽しい思い出。2人で過ごした時間は決して色褪せる事がない。

中学の頃から、出会った時から、剛は最高にイイ奴だった。

共に過ごした時間はいつも笑いが絶えなかった。

『弘人、隙あり~!』

『うわっ?!やめろ!バカ!いきなり何すんだよ!』

『ハハハ、弘人は隙が多すぎる。もっと相手を良く見ろ。油断してるとやられるぜ~!』

『うるせぇ~!勝負だ!剛!』

『おう!受けて立つ!』

悪ふざけでチョッカイをかけて来る剛とは直ぐに勝負に突入する。常に、挑みかかるのは俺の方だ。何故、こうもムキになるのかは分からないが、当時から俺の中で剛の存在は大きかった。人生最大のライバル出現といった感じだ。中学で人生最大というのも変な話だが、初めて剛に出会った時からそれを強く感じていた。

いや、本当は剛を目にした瞬間からだ。あれは強烈な衝撃だった。電流に撃たれたと言うべきか、頭の中に雷が落ちたと言うべきか、心臓を一突きにされたと言うべきか、とにかく俺は固まった。そして全身が震えた。妙にゾワゾワしてゾクゾクして身体中の毛が逆立つような興奮を覚えた。俺の何かを強く刺激する驚異的な存在感に心臓がドキドキした。感情の全てを持っていかれそうなほどのワクワク感に胸が踊った。瞬間的に心が宙に舞い上がったとでも言えば良いだろうか。

思えば、あの時から俺の中には剛に対する特別な意識が芽生えていた。中学になって再会した時は、既に「一目置く存在」になっていたのは間違いない。実際には、一目どころか二目も三目も置くほどの男だった事を後々に知る事となる。

ライバルとしても親友としても、常に俺を刺激する剛は何かにつけて上を行く。それが悔しさとなり俺の勝負魂に火を点ける。些細な事でさえムキになるのは剛に向ける俺の意識が強かったせいだろう。
そして、剛の方はいつも楽しそうだった。俺を揶揄うようにしながらも、心底笑う表情は無邪気な子供のように見えた。どんなに足裏の臭いを嗅がされようとも憎めない愛着を感じていた。俺が変態なのではない。それ以上に、剛が与えてくれるものが多かったからだ。
  
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