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2人の軌跡〈9〉
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『三島はどんな感じだった?お前に断られてショックだったんじゃねぇか?』
『ん~、どうだろうな?他の映画でも良いって言われたけど、超エグいスプラッタや、夜眠れなくなるようなホラーは苦手みたいだったぜ。それに、俺が観たい映画は先約があるからって断った。色々と予定が詰まってて時間が無いとも言っておいた』
『それって、ちょっと意地悪じゃねぇか?そんな言い方されたら、飛びつくヒマもねぇだろ』
『ハハ、それを言うなら、取り付くシマだろ?』
『う、うるせぇな~。どう言おうが俺の勝手だろ?!飛びつくのがスプラッタで、取り憑くのがホラーだ。似たようなもんじゃねぇか。それに、ヒマもシマも大して変わらねぇ!』
『ガハハハ、それ、全然意味違うだろ~。やっぱ、弘人は面白れぇな~。お前の頭の中はどうなってんだ~?』
再び、剛が戯れつくように髪の毛をグシャグシャと掻き回してくる。これは普段の会話でもよくある事だ。小さな勘違いから話が脱線し、お互いにふざけ合いの揉みくちゃ状態になる。俺が変な所でムキになり、剛はそれを面白がる。
『うわっ!やめろ~!お前、三島にも同じ感覚でやってたろ?!女子は男とは違うんだからな~!』
『え?何だよ?どういう意味だ?』
『だから、男と女は違うんだって!そういう事を軽々しくやるもんじゃねぇんだよ!』
どうやら、俺の性格は真面目な話題に不向きらしい。しかも、隠し事をするのも下手だ。陰ながら三島を援護しようとする男心は敢え無く崩れ去る。剛の腕を振り払い、思わず発した言葉に本音がポロリと出てしまった。
『やっぱ…お前、隠れて見てやがったな~!』
『うわわわ?!やめろ~!見たくて見たんじゃねぇ~!あれは偶然だ~!不慮の事故だぁ~!』
『弘人~!許さねぇ~!お仕置きだぁ~!』
軽いヘッドロックと握り拳のグリグリ攻撃を喰らう。新年初の勝負は剛の先手必勝となった。
その後、俺は事実を打ち明け、剛も事の成り行きを話してくれた。
結論から言えば、剛は三島に対する特別な感情は無いらしい。同じ陸上部の仲間の一員として見ている。そして、これからもその意識は変わらないという事だった。
『三島の気持ちぐらいは聞いてやっても良いんじゃねぇか?告白する隙も与えないって…残酷な気もするけどな…?』
『でもな、自分の気持ちを伝えた後にハッキリと断わられるのも残酷だろ?三島とは同じ陸上部員だし、これから先も顔を合わせる事になる。俺が気にしなくても、三島が気まずい思いをするかもしれないだろ?要は、先手必勝ってやつだ』
『う~ん。でも、嘘ついて断るぐらいなら…映画ぐらい一緒に行っても良いんじゃねぇか?思い切って声かけたんだと思うぞ?それに、例えダメだったとしても…良い思い出にはなるんじゃねぇか?』
『思い出か…。まぁ、確かに思い出は作れるかもな。でも、一度きりの思い出なんて、逆に辛いかもしれないだろ?変に期待させるよりは、初めから何も起きないままの方が良い場合もある』
『一度きりって…、二度目は無いって事か?』
『だから言ったろ?三島とは何も無い。今まで通りだ。同じ陸上部員同士、笑って話せる関係が一番だと思ってる。下手に傷付け合うよりは楽しい時間を過ごした方が良いだろ?それも良い思い出になる!と、俺は思うぜ』
『へぇ~、なるほどな。そういう考え方もあるって事か…。俺はそこまで考えてなかったな』
『まぁ、それが正解かどうかは分かんねぇけどな。人それぞれに答えの出し方は違うからな。十人十色って言うだろ?でも、俺は今の状態が一番ベストだと思ってるぜ』
『十人十色…、なるほどな。10人が違う色のベストを着てるようなものって事か…』
『ブッ…!ガハハハ~!弘人、マジ最高だな!お前のボケは天才かもな?』
『うるせぇ~!笑うな~!俺だって真剣に考えてんだからな!』
俺なりの解釈に剛が爆笑する。昔から勉強嫌いなだけあって、中2になっても難しい言葉や漢字は苦手だ。
『ハハハ、悪かった。でも、そういう事だ。弘人なら俺の気持ちを理解してくれるだろ?』
『そうだな。やっぱり、色々あるんだな。俺が口出しする事じゃねぇけど、三島の気持ちを考えたら…なんか気になってな…』
『それが弘人の優しさだろ。お前は俺より繊細で優しい。女の気持ちも分かってやれる。俺よりも三島に向いてるんじゃねぇか?』
『いや、俺はお呼びじゃねぇから関係ねぇよ。三島が好きな相手はお前だ。その気持ちはすげぇ分かるし、応援してやりたいって思うだけだ』
『よし、分かった。心配するな。三島を泣かせるような事はしない。弘人の気持ちも無駄にはしねぇから安心しろ』
剛が俺の頭をポンポンと軽く撫でる。その手から温もりと優しさが伝わってくる。それが相手に対する思いやりの仕草なのだと分かる。
《三島に対してもこういう感じだったのか…?俺が変に心配する事じゃねぇかもな》
これで「万事解決!」と言えるのかどうかは分からないが、剛に任せておけば大丈夫なのだと思える。最初から素直に打ち明けて話してみれば、何の問題も無い事のように思えてくる。俺の心の引っかかりも解消された気分になる。
『そうだよな。変に気まずくなるよりは、笑って話せる方が楽しいに決まってるもんな!これで良かったって事だよな!』
『やっぱ、弘人もそう思うか?でも、女心は分かんねぇからな。男と同じかどうかまでは知らねぇ。その点は、弘人の方が詳しそうだからな』
『何だよ?俺だって男だぞ!』
『でも、俺よりは三島の事を良く知ってるだろ?何かあった時は頼りにしてるぜ』
『俺に出来る事なんてねぇだろ?』
『いや、そんな事はない。次に誘われた時は3人で行くという手もある!これ、名案だな!』
『はあ?!何、考えてんだ?!俺が行ったらお邪魔虫だろ!』
『同級生の保護観察付きって事でどうだ?弘人が一緒なら俺も気楽で良いけどな~』
『それ、絶対にダメだからな!』
『アハハ、分かってるよ。そんな事にならねぇように全力回避するぜ!』
『それも違うだろ?!』
『ハハハ、冗談だ。そうならねぇように、弘人もちゃんと見てろよ。何かあったらフォロー頼むぜ!』
何処までが本気なのか冗談なのかも分からないが、剛との会話で俺の気分も晴れ晴れとしてゆく。三島の事だけでなく、俺の男心も見捨てる事はしない。必ずと言って良いほど掬い上げてくれる。
『よし、分かった。俺も口出しした以上は他人事じゃねぇからな。でも、陰から様子を見るぐらいしか出来ねぇぞ。後の事は剛に任せる。泣かせるような事はするなよ。約束だからな!』
『了解!』
『あぁ~、なんかスッキリした~!』
男同士の強い絆と約束は何事にも勝る安心感がある。俺は空を見上げて背伸びをする。
《剛は優しいからな。自分より相手の事を考えられるってすげぇよな…!》
いつも感じている事だが、改めて剛の良さを実感する。それは、俺との関係においても同じだ。どんな時でも上手くフォローして場をまとめてくれる。そういう面では随分と大人で尊敬出来る所がある。剛に頭が上がらないのも、俺が素直になれるのも、そういう部分が大きいからだ。
『よし、これで解決だな。弘人がコッソリ隠れて見てたってのは無かった事にしてやる。それと、俺を無視して帰った事もな!』
今度は、剛が意地悪そうに笑って言う。ここからは俺達の問題だ。
『え~?それは謝っただろ~!』
『探したけど居なかった…って言ってたよな?』
『うっ…、確かに…』
『まぁ、弘人の事だから変な気を使ったんだろうけど…、今後は変な誤解が起きねぇように、ちゃんと話そうぜ。それが親友ってもんだろ?』
『そうだな。分かった』
『でも、お前が黙っててくれてた事には感謝する。変な噂が立つと困るからな。その代わり、弘人が三島に気があるって事も知らなかった事にしてやる』
『だから、それは違うって言ってるだろ!?』
『ハハハ~、ムキになる所が怪しい~!』
先程とは打って変わって揶揄い半分に笑う剛は悪ガキ度全開だ。大人っぽいかと思えば、急にガキっぽくなる。だが、どんな時でも嫌味がなくてストレートに自分を表現する。清々しい青空のような男だ。そんな剛を「誰よりも一番好きだ!」と感じる俺の心も青空のように晴れ渡る。
《やっぱり、剛は最高だな…!》
『ん~、どうだろうな?他の映画でも良いって言われたけど、超エグいスプラッタや、夜眠れなくなるようなホラーは苦手みたいだったぜ。それに、俺が観たい映画は先約があるからって断った。色々と予定が詰まってて時間が無いとも言っておいた』
『それって、ちょっと意地悪じゃねぇか?そんな言い方されたら、飛びつくヒマもねぇだろ』
『ハハ、それを言うなら、取り付くシマだろ?』
『う、うるせぇな~。どう言おうが俺の勝手だろ?!飛びつくのがスプラッタで、取り憑くのがホラーだ。似たようなもんじゃねぇか。それに、ヒマもシマも大して変わらねぇ!』
『ガハハハ、それ、全然意味違うだろ~。やっぱ、弘人は面白れぇな~。お前の頭の中はどうなってんだ~?』
再び、剛が戯れつくように髪の毛をグシャグシャと掻き回してくる。これは普段の会話でもよくある事だ。小さな勘違いから話が脱線し、お互いにふざけ合いの揉みくちゃ状態になる。俺が変な所でムキになり、剛はそれを面白がる。
『うわっ!やめろ~!お前、三島にも同じ感覚でやってたろ?!女子は男とは違うんだからな~!』
『え?何だよ?どういう意味だ?』
『だから、男と女は違うんだって!そういう事を軽々しくやるもんじゃねぇんだよ!』
どうやら、俺の性格は真面目な話題に不向きらしい。しかも、隠し事をするのも下手だ。陰ながら三島を援護しようとする男心は敢え無く崩れ去る。剛の腕を振り払い、思わず発した言葉に本音がポロリと出てしまった。
『やっぱ…お前、隠れて見てやがったな~!』
『うわわわ?!やめろ~!見たくて見たんじゃねぇ~!あれは偶然だ~!不慮の事故だぁ~!』
『弘人~!許さねぇ~!お仕置きだぁ~!』
軽いヘッドロックと握り拳のグリグリ攻撃を喰らう。新年初の勝負は剛の先手必勝となった。
その後、俺は事実を打ち明け、剛も事の成り行きを話してくれた。
結論から言えば、剛は三島に対する特別な感情は無いらしい。同じ陸上部の仲間の一員として見ている。そして、これからもその意識は変わらないという事だった。
『三島の気持ちぐらいは聞いてやっても良いんじゃねぇか?告白する隙も与えないって…残酷な気もするけどな…?』
『でもな、自分の気持ちを伝えた後にハッキリと断わられるのも残酷だろ?三島とは同じ陸上部員だし、これから先も顔を合わせる事になる。俺が気にしなくても、三島が気まずい思いをするかもしれないだろ?要は、先手必勝ってやつだ』
『う~ん。でも、嘘ついて断るぐらいなら…映画ぐらい一緒に行っても良いんじゃねぇか?思い切って声かけたんだと思うぞ?それに、例えダメだったとしても…良い思い出にはなるんじゃねぇか?』
『思い出か…。まぁ、確かに思い出は作れるかもな。でも、一度きりの思い出なんて、逆に辛いかもしれないだろ?変に期待させるよりは、初めから何も起きないままの方が良い場合もある』
『一度きりって…、二度目は無いって事か?』
『だから言ったろ?三島とは何も無い。今まで通りだ。同じ陸上部員同士、笑って話せる関係が一番だと思ってる。下手に傷付け合うよりは楽しい時間を過ごした方が良いだろ?それも良い思い出になる!と、俺は思うぜ』
『へぇ~、なるほどな。そういう考え方もあるって事か…。俺はそこまで考えてなかったな』
『まぁ、それが正解かどうかは分かんねぇけどな。人それぞれに答えの出し方は違うからな。十人十色って言うだろ?でも、俺は今の状態が一番ベストだと思ってるぜ』
『十人十色…、なるほどな。10人が違う色のベストを着てるようなものって事か…』
『ブッ…!ガハハハ~!弘人、マジ最高だな!お前のボケは天才かもな?』
『うるせぇ~!笑うな~!俺だって真剣に考えてんだからな!』
俺なりの解釈に剛が爆笑する。昔から勉強嫌いなだけあって、中2になっても難しい言葉や漢字は苦手だ。
『ハハハ、悪かった。でも、そういう事だ。弘人なら俺の気持ちを理解してくれるだろ?』
『そうだな。やっぱり、色々あるんだな。俺が口出しする事じゃねぇけど、三島の気持ちを考えたら…なんか気になってな…』
『それが弘人の優しさだろ。お前は俺より繊細で優しい。女の気持ちも分かってやれる。俺よりも三島に向いてるんじゃねぇか?』
『いや、俺はお呼びじゃねぇから関係ねぇよ。三島が好きな相手はお前だ。その気持ちはすげぇ分かるし、応援してやりたいって思うだけだ』
『よし、分かった。心配するな。三島を泣かせるような事はしない。弘人の気持ちも無駄にはしねぇから安心しろ』
剛が俺の頭をポンポンと軽く撫でる。その手から温もりと優しさが伝わってくる。それが相手に対する思いやりの仕草なのだと分かる。
《三島に対してもこういう感じだったのか…?俺が変に心配する事じゃねぇかもな》
これで「万事解決!」と言えるのかどうかは分からないが、剛に任せておけば大丈夫なのだと思える。最初から素直に打ち明けて話してみれば、何の問題も無い事のように思えてくる。俺の心の引っかかりも解消された気分になる。
『そうだよな。変に気まずくなるよりは、笑って話せる方が楽しいに決まってるもんな!これで良かったって事だよな!』
『やっぱ、弘人もそう思うか?でも、女心は分かんねぇからな。男と同じかどうかまでは知らねぇ。その点は、弘人の方が詳しそうだからな』
『何だよ?俺だって男だぞ!』
『でも、俺よりは三島の事を良く知ってるだろ?何かあった時は頼りにしてるぜ』
『俺に出来る事なんてねぇだろ?』
『いや、そんな事はない。次に誘われた時は3人で行くという手もある!これ、名案だな!』
『はあ?!何、考えてんだ?!俺が行ったらお邪魔虫だろ!』
『同級生の保護観察付きって事でどうだ?弘人が一緒なら俺も気楽で良いけどな~』
『それ、絶対にダメだからな!』
『アハハ、分かってるよ。そんな事にならねぇように全力回避するぜ!』
『それも違うだろ?!』
『ハハハ、冗談だ。そうならねぇように、弘人もちゃんと見てろよ。何かあったらフォロー頼むぜ!』
何処までが本気なのか冗談なのかも分からないが、剛との会話で俺の気分も晴れ晴れとしてゆく。三島の事だけでなく、俺の男心も見捨てる事はしない。必ずと言って良いほど掬い上げてくれる。
『よし、分かった。俺も口出しした以上は他人事じゃねぇからな。でも、陰から様子を見るぐらいしか出来ねぇぞ。後の事は剛に任せる。泣かせるような事はするなよ。約束だからな!』
『了解!』
『あぁ~、なんかスッキリした~!』
男同士の強い絆と約束は何事にも勝る安心感がある。俺は空を見上げて背伸びをする。
《剛は優しいからな。自分より相手の事を考えられるってすげぇよな…!》
いつも感じている事だが、改めて剛の良さを実感する。それは、俺との関係においても同じだ。どんな時でも上手くフォローして場をまとめてくれる。そういう面では随分と大人で尊敬出来る所がある。剛に頭が上がらないのも、俺が素直になれるのも、そういう部分が大きいからだ。
『よし、これで解決だな。弘人がコッソリ隠れて見てたってのは無かった事にしてやる。それと、俺を無視して帰った事もな!』
今度は、剛が意地悪そうに笑って言う。ここからは俺達の問題だ。
『え~?それは謝っただろ~!』
『探したけど居なかった…って言ってたよな?』
『うっ…、確かに…』
『まぁ、弘人の事だから変な気を使ったんだろうけど…、今後は変な誤解が起きねぇように、ちゃんと話そうぜ。それが親友ってもんだろ?』
『そうだな。分かった』
『でも、お前が黙っててくれてた事には感謝する。変な噂が立つと困るからな。その代わり、弘人が三島に気があるって事も知らなかった事にしてやる』
『だから、それは違うって言ってるだろ!?』
『ハハハ~、ムキになる所が怪しい~!』
先程とは打って変わって揶揄い半分に笑う剛は悪ガキ度全開だ。大人っぽいかと思えば、急にガキっぽくなる。だが、どんな時でも嫌味がなくてストレートに自分を表現する。清々しい青空のような男だ。そんな剛を「誰よりも一番好きだ!」と感じる俺の心も青空のように晴れ渡る。
《やっぱり、剛は最高だな…!》
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