俺達の行方【続編】

穂津見 乱

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2人の軌跡〈8〉

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《なんか…思ってたのと違うな》

単なる興味から始まった話題が思いがけない展開を見せる。

《何で断ったりしたんだ?三島が相手なら誰でもOKしそうなもんだけどな…?》

俺の考えが甘いのか?剛の考えが深いのか?恋愛というものは思った以上に複雑らしい。それとは別に、全く動じた様子の無い剛の態度にも驚く。俺なら浮き足立ちしそうな気がするからだ。多分、三島以外の女子に誘われるだけでもドキドキしてしまうだろう。その相手が三島ともなれば、どうして良いかも分からなくなりそうだ。

もしもの話だが、俺が三島に誘われたとしても恐れ多くて無理だろう。緊張するだけで男らしい事など何一つ出来そうにない。

《まぁ…、俺には有り得ねぇ話だけどな。でも、剛は違うよな…?》

直に関わりの無い話でも他人事には思えない。軽く浮かれていただけに、逆に考え込んでしまう。

《やっぱり…これは問題だぞ》

俺の知る限りでは、三島は女子の中でも控えめで物静かなタイプだ。男子と一緒になってワイワイ騒ぐような事は無い。陰では人気があっても誰かと噂になった事も無い。そういう面では恋愛と縁遠い感じに見えた。いや、それ以上にハードルが高い相手だろう。それだけに、今回の件は驚きでもあった。

何しろ、三島に関しては俺の方が良く知っている。個人的な意見も含めれば見過ごせない部分が大きい。

「三島 華菜」は小3の時に都会から転校して来た。田舎者とは少し違う垢抜けた印象だった。転校生というだけでも珍しがられるのだが、頭が良くて運動も出来る都会人という事もあり、クラスの中では浮いた存在だった。三島本人も大人しい性格で、最初こそ騒がれたものの、やがて独りで居る姿を目にするようになった。窓際の席にポツンと座り本を読んでいた姿はよく覚えている。何処か寂し気な雰囲気が気になり、声をかけて何とかしてやりたいと思ったものだ。
その当時から、俺には母親譲りの性格が備わっていたのだろう。子供ながらに弱い立場の人間を放っておけない同情心のような正義感のようなものがあった。ただ、気軽に話しかける勇気がなかった。男同士なら遊びに誘うのは簡単な事だが、女子の場合は勝手が違う。そういう面は不器用だった。結局、何も出来ないままに陰から見守るだけで終わっている。それから暫くして、少しずつ周りと打ち解けて行く姿を見て安心したのも覚えている。

それが恋愛感情だとは思っていないが、気にかけていたのは間違いない。初めて見た時に「綺麗な女の子だな」と思ったのは確かだ。男心を刺激されたのか?庇護対象に見えたのか?その両方なのか?それを深く考えた事は無い。多分、俺の中で初めて「女の子」として認識した相手なのだろう。勿論、男女の区別ぐらいは分かっているが、保育園や小1から一緒の見慣れた面々は…女の子ではなく「女子」だ。

今の三島に対する意識も、その頃からの延長線という感じだ。異性の中で特別視しているのは同じだが、それが恋愛や性欲の対象には繋がらない。そういう面での俺の成熟度は遅れている。剛に言われて初めて意識させられた部分がある。

《やっぱり、あれはそういう事だったんだ…。あの時、2人でどんな話をしたんだ…?》

今度は三島の事が気になり始める。

《多分、三島はずっと剛の事が好きだったんだ。そうじゃなきゃ、自分から誘うなんて事はしないよな…?》

あくまでも、俺の想像に過ぎないのだが…多分、三島は剛に片想いしていたのだろう。その想いは頑なで一途で純粋な乙女心に違いない。そして、思い切って声をかけたはずだ。何しろ、三島が剛と会える機会は限られている。中3になれば部活動を引退して顔を合わせる事さえ無くなるのだ。

《もしかしたら、最後のチャンスだったのかもしれないよな…?》

三島の姿を思い浮かべて妙に切ない気持ちになる。

《なんか…すげぇ可哀想な気がするよな。俺なら断ったりしねぇのに…》

誘われても困るが、誘われなくても困るという複雑な感情が芽生える。これが男心というものだろうか…?
だが、決して変なヤキモチでない事だけは分かる。三島の純粋な気持ちへの肩入れだろう。同情心のようでもあり、感情移入に近いものもある。

《でも、剛が断ったのにも余程の理由があるって事だよな…?平気で他人を傷付けるような奴じゃねぇし…、簡単には付き合えないって事か…。なんか複雑だな…》

剛と俺は親友で個人的な付き合いもあるが、三島の場合は状況が違う。同じ陸上部というだけで学校も違えば異性でもある。自分から声をかけなければ親しくなれるチャンスは無いという事だ。

《三島は俺とは違うんだよな…。男同士なら簡単に付き合う事も出来るのに…三島は違うって事だもんな…》

男女の違いは外見だけのものではない。思春期になると意識的な部分も変化して行く。それにより様々な事情が追加されて行くという事だ。改めて「性別の違い」を実感する。

《俺が剛だったら断ったりしねぇのにな》

今度は剛の立場で考える。だが、その胸中までは分からない。

《三島なら良いと思うけどな。何がダメなんだ?他に好きな奴が居るわけでもねぇだろうし…、似合ってると思うけどな》

俺から見れば2人共に文句無しの存在だ。

《でも、断ったって事は三島がフラれたって事だよな…》

2人の間で揺れ動く心は自然と三島の方に傾く。同じ男同士でも、剛と俺の性格は正反対に近いものがある。剛の意図は分からなくても、三島の気持ちには寄り添える部分がある。又しても、何とかしてやりたい気持ちが強くなる。これは、単純にお人好しな性格によるものだ。それ以上の深い意味は無い。

《一緒に映画に行くだけでも嬉しいはずだよな。あ…でも、結局はフラれるって事か…?なんか、それも辛いよな。剛にその気が無いって事だもんな》

《う~ん、男と女ってのは…やっぱり難しいもんだな。恋愛って良く分かんねぇな…》

恋愛未経験者の俺には漠然としたイメージしかない。それでも、恋愛に対する淡い期待感は抱いている。ただ、具体的に考えた事はない。こうして目の当たりにすると現実味を帯びて来るものがある。

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