《急募》ヴィランから身を守る方法!!

亡羊ちろり

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転生した

物騒な執事

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さて。ここはどこ?私は誰?を一通り終えた俺は一周回って落ち着いていた。異世界転生ものはよくチェックしてたけど、いざ自分が当事者になるとなかなかに混乱するし何より理不尽である。俺を転生させた神様がいるなら文句のひとつでも言ってやりたいところだ。
ていうか俺、死んじゃったのかぁ。状況を整理し始めるとこれまで見ないふりをしていた現実に向き合わざるを得なくなり、正直かなり落ち込む。いや、まだ昏睡状態の俺の意識が異世界に迷い込んでいるという可能性も否めない!希望を捨てるな俺!そういう小説をどこかで読んだ気がするし。
兎にも角にもまずは情報を集めるところからだ。そのためにはアシュリーのふりをしてしばらくこの場を乗り切らなきゃならないんだけどー。
ちょうどその時、コンコン、と控えめなノックの音が響いた。
来たか。少し居住いを正して思考巡らせる。えっと、確かアシュリーは過去の経験や置かれた環境から色んな感情を拗らせた結果、クソガキの代名詞みたいな態度を取っているって設定だったはず。だからちょっと尊大な感じでー。
「入れ」
え、声可愛すぎない?さすがショタボといえばこの人!なベテラン声優さんが当てていただけはある。驚きつつも感動する俺の耳に届いたのは、これまた聞き覚えのあるイケボだった。
「失礼いたします」
音を立てずしずしずと歩いて部屋に小さなワゴンを運びこんできた燕尾服の男を見て、俺は思わず舌打ちしたくなった。油断ならない薄紅色の瞳、尻尾のように束ねて片側に垂らしている鮮やかな紫色の髪。どこに出しても恥ずかしくないこのイケメンはランディー。アシュリーの専属執事であるこいつには双子の兄がいて、少々変わったこの家でも特殊な立場にある人物なのだが、今は割愛しよう。とにかく、勘が鋭いランディーをやり過ごすか、協力を取り付けることが第一関門だ。
「おはようございます、坊っちゃま。本日は良い天気でございますよ」
「あ、あぁ。そうだな」
少し吃ってしまった俺にランディーの片眉がピクリと動いた。え、何なに怖いんですけど。恐る恐る表情を伺う俺にランディーはお手本のような笑顔を向けた。
「先日の件はどういたしましょうか?」
先日の件ってなんだ?いきなり身内だけの話をぶっ込んでくるなよ。多分試されてるんだろうけど。
内心ヒヤヒヤしながら俺はランディーからスッと視線を逸らした。
「お前の方で適当に始末しとけ」
こんな時は必殺「はぐらかして相手に丸投げ」作戦である。どうか誤魔化されてくれますように!
「かしこまりました」
恭しく頭を下げるランディーにホッとしたのも束の間。「ところで坊ちゃま」とランディーが続けた言葉に不穏な空気を感じた。
「あんたはどこの誰だよ?」
キラリと煌めく光が風を切り、次の瞬間には首元に冷たい感触が。
いやいやどこから出したそのナイフ?!速すぎて目で追えなかったぞ!
というかやばい。秒でバレた。だから嫌だったんだよランディーは!
助けを求めようにも窓はカーテンが閉められたままだし、声が届くかどうかもわからない。そもそもアシュリーは離れに住んでるって設定だったしこの家の使用人がどれだけ信用できるのかもわからない。
詰みだと天井を仰いだ時、なんとその天井から人が落ちてきた。
「ランディー」
忍者のような登場をしたそいつは華麗に着地を決め、ぱんぱんと服についたホコリを払う。
「なんだよ、サンディー」
瓜二つな顔が何か言い合っている。サンディーと呼ばれた男は無表情のまま俺を指した。
「身長、顔の比率、魔力の波動、全て一致。本物の、アシュリー様、だ」
ナイスだサンディー!さすが双子の弟とは違うな!そう、今の俺は正真正銘アシュリーの身体に入っている。信じてくれ、ランディー!うるうると見つめる俺に、ランディーはそれまで張り付けたような笑みを形どっていた口を思い切りへの字に曲げた。
「でも、心拍数増えてるし発汗してるし視線も泳いでいて変だし。呪術でアシュリー様の身体を乗っ取ってるって可能性もあるだろ?」
あながち間違ってない指摘に冷や汗ダラダラな俺は、サンディーの次の主張に反応した。
「ミロさん、先、お連れする」
「そうだ!ミロ…セドリックお兄様と会わせてくれ!!」
「はぁ?なんで得体の知れねぇ奴を連れてかなきゃならないんだよ」
というか何故あの方の正体を知っている?
声をワントーン下げて俺を探るように睨みつけるランディーに、サンディーが声をかけた。
「……ランディー」
「あーもうわかったよ」
ランディーはお手上げ、という風に大げさに両手を離すと、一瞬のうちにナイフを袖にしまった。そこから出してたのね、ナイフ。
「で、あんたは誰なんだよ」
ぽかんと見つめる俺にランディーは呆れたように首を鳴らす。こいつは猫被りだって設定だったけど、それにしても最初と態度違いすぎない?
「後で問い詰めるにしても、基本の情報は必要だろ」
確かに。ミロ、もといセドリックと会うまで周りの目を欺くためにはこいつらの協力が必要不可欠だ。
そこで俺は信じてもらえないかもしれないけど、と前置きをしてここに来るまでに起こったことをかいつまんで話した。
はじめは胡散臭そうな奴を見る目だったランディーもアシュリーとのやり取りの部分は真剣に聞き、やがて頭を抱えた。
「待て。あんたの話だと誰かがこの世界の時間を大幅に巻き戻したけど、アシュリー様の魂は既に粉々に砕け散っているから元に戻らなくて、そこに異世界からきたあんたの魂が入り込んだと。なんだそりゃ」
そりゃあそうなるよな。俺がこいつの立場でもそんなことほざく人間がいたら頭がおかしいんじゃないかと疑う。しかし原作の知識がある人間としては俺が転生したこと以外は説明がつくのだ。それを証明するためにはまずセドリックと会う必要がある。こいつらもそれが分かっているから今は深く突っ込まないんだろう。
「アシュリー様はどうなったんだ」
ランディーはいつになく必死な表情で俺に問うた。ここは慎重に言葉を選ばなければならない。
「わからない。消えかかっていた魂の欠片を何とか掴んだところまでは覚えているけど、その後の記憶がないんだ。でもこの世界のどこかに存在する可能性はあるから、俺はそれを探したいと思う」
「じゃあ、まだ魂が消滅したと決まったわけじゃないんだな?」
ランディーは念を押すように確認すると肩の力を抜いた。サンディーも表情は変わらないものの、何となくそれまでの圧が和らいだ気がする。こいつらとアシュリーの関係の始まりは通常とは異なったかもしれないが、単なる主従関係を超えた忠誠心みたいなものはあったんだろう。
「これから、予定、聞く」
ぽつりと言ったサンディーにランディーが同調する。
「あぁ、確かに。ミロさんがこっちに到着するまで引きこもっているわけにはいかないしな」
で、どうするんだ?
視線で問いかけてくる二人に俺はニヤリ、と笑った。
「チェンバレン公爵、俺のお父様に会いにいく」
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