《急募》ヴィランから身を守る方法!!

亡羊ちろり

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初めての任務、そして邂逅

シュテンベルク

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某日、とある場所にて。
夜も更け街灯に照らされた街並みは昼間とはガラリと様子を変え、別の顔を見せていた。
きらきらと輝く満月を肴に人々は酒を呑み、特別な一夜に浮かされた男に化粧の濃い女がしなだれかかる。
そんな中、闇に紛れて走る影があった。フードを目深に被った黒装束の男は何かに追い立てられるように、熟知した路地裏を縦横無尽に逃げ回る。
後ろを確かめるように確認する男に、ふと影が差した。
「…っ!!」
すんでのところで大きく飛び退いた男の元いた場所に大きい斧が突き刺さる。
「ありゃ。外したか」
真上から降ってきた可愛らしい声に男はゾワッと全身に鳥肌が立つのを感じた。
ふわっと空から重力も感じさせずに着地を決めた少年はふふっと無邪気な笑みを浮かべる。
「ちょろちょろ動き回って、ネズミみたいだねぇ」
カゴの中の虫を見るような目がじっと男を観察しており、あくまでも余裕な態度を崩さない。明らかに裏の仕事の請負人、といった出立ちの男はしかし自分と目の前の子どもの姿をした「化け物」の間には到底叶わない実力差があると直感で理解していた。
熊と遭遇した時のようにじりじりと目を合わせながら後退する。
この道では経験が多くプロと呼ばれる男も、今だけはプライドをかなぐり捨てて逃げの一手を選んだ。
脇目もふらずに走り出した男を少年は己の身長ほどもある斧を指先で軽々と操りながら追い詰めていく。
男の身体のあちこちを鋭い刃が掠めていき血が噴き出すと、少年は興奮したように攻撃の手を早めた。
「あっはは!もっと足掻いてよ!もっとボクに見せてよ!鮮度が良い血は綺麗だねぇ!!」
男は致命傷を与えないぎりぎりを狙ってくる少年に歯噛みしながらも、やがて出血の多さにふらついて倒れ込む。
壁に背をつけてぜいぜいと息をする男の前に、無垢な死神が立ちはだかる。
「な、何が…目的、だ…?」
息も絶え絶えに問う男に少年はうーん、と困ったように顎に手を添えた。
「特にないよ。ボクは依頼を受けただけ」
でもそうだなぁ。少年はパッと笑顔になった。
「ボク、ずっと家族を探してるんだ!」
「かぞく…?」
そう、と続けて不意に真剣な顔になる。
「ねぇ、キミはボクの家族になってくれる?」
よく分からないが突然示された提案に男は藁にも縋る気持ちでこくこくと必死に頷いた。
「な、なる!いくらでもなってやるから…!!」
「じゃあ家族に立候補するんだね」
うんうん、と満足げに頷いて少年は斧を取り寄せると、表面に付着した血を数滴抽出し片手に出した魔法陣の上に垂らす。
ごくり、と息を呑む男の前でぐるぐると魔法陣は回り…。次の瞬間黒く光るとぼろぼろと霧散してしまった。
「あーぁ、キミもボクの家族じゃないんだね。」
大して期待もしていなさそうだった少年は大げさに肩を落とす。
「ま、待て…ーー!!」
「それじゃあ残念だけど…さようなら」
ビシャッと細かい血飛沫が落書きだらけの壁に染み込んだ。

シンプルな扉を開け入ってきた少年に、屈強そうな体格をした傭兵たちが素早く反応する。
「おい!『血塗れ傭兵王』のお帰りだぞ」
「死にたくなかったら道を開けろ!」
少年はひそひそと囁く人の波を、海を割るように歩いて真っ直ぐにカウンターへと向かう。やや怯えながらも依頼を確認し報酬を渡す受付が次の仕事はどうなさいますか?と聞いた。
「あれにする。この間急募が出てたやつ」
「かしこまりました。詳細は後ほど資料にてお伝えしますね」
簡単な手続きを済ませてギルドを出ると、髭面の男がよお、と少年に話しかけた。物騒な二つ名が付き怖がられている少年に正面から話しかける数少ない人物のひとりであるその男は、太い葉巻を吸いながら尋ねた。
「お前もあの依頼受けるのか?」
少年はさして興味もなさそうにチラリと男を見る。元より他人を信頼していない少年は、己の功績にあやかろうと擦り寄ってくる輩の名前などいちいち覚えていなかった。
「うん。金払いがいいから」
「まったく。なんでそうも荒稼ぎするのか…」
「そりゃあ将来暮らす家族に働いてほしくないからね」
今から蓄えておかないと、と気合いを入れる少年に男はやれやれ、と首を振った。
「これは仕事だ。きちんとやり遂げろよ?」
「家族じゃなかったらね」
少年は即答する。男は葉巻の煙を吐き出すようにため息を吐いた。
「はぁ…。お前はいつもそういうけどなぁ、もしお前の家族が見つかったらどうするつもりなんだ?」
それまでつまらなさそうにしていた少年はその質問にキラキラと目を輝かせ、夢見る少女のように胸の前で両手を組んだ。
「そんなの決まってるじゃん!一緒に暮らしてね、毎日挨拶してね、いっぱい、いーっぱい愛情を分け与え合うんだ!!」
その場でミュージカルでも始めそうな彼をしばらく見つめ、男は少し考えて尋ねた。そう、ちょっとした好奇心で。
「もし…もしお前の家族がお前のことを捨てたんだとしたらどうするんだ?」
少年は祈りを捧げるようなポーズのままチラリと目線だけを男に遣った。感情の削げ落ちたがらんどうの瞳と目が合った男は慌てて立ち上がり、先程の失言を撤回しようとする。
「ル、ルネ…」
「もういいよ」
瞬間、どこからともなく飛んできた何かが視界を遮り、男の首が飛んだ。建物の裏手で一瞬だけ発された殺意に、ギルド内の人間が反応する。
遅れて地面に倒れる身体に蔑むような、はたまた興醒めしたような一瞥をくれて、少年は頬についた血飛沫を親指で拭い取り猫のような舌を出して舐めた。
「まっず」
顔を顰めるとくるくると円を描いて舞い戻ってきた斧を片手でパシッと受け止める。
「ふんふふ~ん」
少年は何事もなかったかのように鼻歌を歌いながら再度賑やかな夜の街へと繰り出した。



転生した日から時は流れ、ついに約束の日にちを迎えた。
時刻は早朝。欠伸を噛み殺し伸びをする俺にランディーは「お疲れだな」と苦笑した。あれから色々と準備のためにランディーとサンディーにはお使いに走ってもらい、その間任務に備えてゆっくりと体を休めた俺に対する皮肉だろう。いや、俺もやるべきことはやったし!本当は体力をつけるために走り込みとかしたかったけど、さすがに時間がないので他のことに時間を使っただけである。でも自分のことを任せられる使用人がいるって便利だな、と思ってしまったことは彼らには秘密だ。殺される。
乗馬服のような服に着替えて庭へ向かうと、エリカとその専属執事のジュディが荷物の確認をしているところだった。
「お待たせしました」
エリカは俺を見て小さく頷く。
「体調はどうだ」
「問題ありません。ところでその、そちらが…」
俺はさっきから気になっていた、目の前にいる大きな生き物たちを差して聞いた。
「うむ。飛竜だ。そういえばアシュリーは初めてだったな」
爬虫類のような瞳孔に長い尾、恐竜のようなそれと目が合う。おぉ、ファンタジーだ。
飛竜とは人間に手懐けられ調教された竜のことで、主に長距離の移動や戦闘なんかに従事する。竜に乗って戦う竜騎士は男児の憧れの的であり非常に人気が高い職でもある。
長距離の移動手段としては他に早馬車や魔導飛行船などがあるのだが、早馬車は整備された道以外を走るのは不得意だし、魔導飛行船は停まる駅が大きな都市にしかないから直接行きたい場所までは行けない。お金もかかるしな。そこで今回は空路で直接行けて小回りが効く飛竜で向かうことにしたのだ。公爵家は竜騎士団があるので調達費用はかからない。身分って大事。
飛竜の操縦をするには専門の資格が必要なのだが、公爵家の執事たちは有能らしい。ジュディとランディーが当たり前のように先に乗って手綱を握った。
鎧のようなところに足をかけ、鞍に腰を掛ける。
サンディーにはこちらでの仕事を頼んでいるのでお留守番だ。一度公爵城の方を振り向いて働いてくれているだろう彼にいってきます、と心の中で告げる。
「出発しよう」
エリカの声と同時に飛竜は高く舞い上がった。

俺は特に高所恐怖症やひどい乗り物酔いなどはなかったが、飛行機に比べたら高度は低いもののほぼ見た目は剥き出しの状態で乗るので流石に足元が竦んでくる。飛竜は空気抵抗を受けにくいように飛ぶ時は独特なバリアを張るらしく、実際乗っていても耳が詰まる感じとか強い風圧を受けることはない。しかし下を見れば豆粒くらいの街があり、床が透明な観覧車やケーブルカーに乗ったような怖さがある。ランディーにしがみつく手に力が入ったのを感じ取ったのか、彼は「命綱があるので落ちても死にはしませんよー」と微妙に安心できないことを言った。
途中で休憩を取りつつひたすら移動を続けること数時間、景色は段々と変わっていく。元々公爵領は帝国の北側に位置するが、山脈の方に近づくにつれごつごつとした岩場が増え天気も不安定になっていった。
そしてちょうど4時間ほど経ったくらいだろうか、目的地であるシュテンベルクの街に到着した。
街中に降りることはできないので要塞のようになっている街の外で降りて、人が並んでいる方…ではなく裏手の門の前まで行く。
エリカを見ると門番の兵士が慌てて通してくれた。エリカは任務をここ数年継続して受けているのでシュテンベルクの者たちには顔パスで通じるのだろう。俺のことも話に聞いていたのか少し視線は感じるが身分証の確認もせずに通してくれる。改札を通るお母さんについていく子供のような気持ちでエリカの後を追うとRPGゲームの舞台のような景色が広がっていた。物珍しげに街並みを眺める俺からお忍びのお坊ちゃん感満載だろう。
エリカは迷いない足取りで進んでいきいちばん大きな屋敷の前で止まった。市長の家だろう。ここに滞在する間は宿ではなく市長の家に泊まることになっている。ここは観光地ではないので宿がいっぱいになるようなことはないが、面倒ごとも避けたいということで身分を隠した潜入などの任務じゃない限り任務先の責任者のところにお世話になるのが一般的だ。
笑顔で迎えてくれる市長と軽くやり取りをした後エリカは俺の方へ向き直った。
「思ったよりアシュリーが平気そうだったから予定よりも早く着いたが、これからどうする?」
「俺はやりたいことがあるので、今日は別行動としましょう」
「そうか、わかった。あくまで私たちは別の任務を遂行中に行動範囲が被ったというだけだからな。多少は別々に動いた方が自然だろう」
エリカは今夜夕食後に明日以降の打ち合わせをしたい、と告げると嵩張る荷物だけ預けてさっさと外へ出かけてしまった。
凛とした背中を見送り俺はランディーと共に案内された客室に向かうことにする。入ってみると降雪地帯であるシュテンベルクらしく暖炉が備わっており、質素な内装だがけっこう広くて快適そうな部屋だった。
ドサッとソファに勢いよく腰掛ける俺をランディーが嗜める。
「お行儀が悪いぞ」
「周りに誰もいないからお前だってその口調なんだろ」
へへん、と胸を張る俺をランディーは呆れたように見つめた。
「さて、思いがけず自由時間ができてしまったことだし」
俺はランディーの視線を無視して切り出す。
「計画を前倒しして、目標その1を達成するぞ!」
ふんすと意気込む俺にランディーは「あぁ、あれか」と言った。
「星遺物の回収、だったよな?」
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