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いっぱい食べる君が好き。

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 僕の彼女はとにかく良く食べる。
 多分、皆さんが思っている10倍かそれ以上は軽く平らげてしまう。

 え、女性なのに…と引いてしまう男性もいるかも知れないが、僕はいっぱい食べる彼女が大好きだ。
 本当はギュルギュルお腹を鳴らしているのに必死でそれを隠して「もうお腹一杯だよ~。」とか言ってサラダをちまちま嚙ったり、その場は何とか我慢して家に帰ってから家畜みたいに牛丼を貪ったりする女よりよっぽど健康的だし、魅力的ではないだろうか?

 何より、僕が少食なのもあるのかもしれないが、彼女が美味しそうに口一杯にご飯を頬張っている姿を見ているとこっちまで胃袋も心も満たされていく。

 そして、今も僕の前では彼女が美味しそうにご飯をかき込んでいる。
至福のひととき、といった様子だ。

 カルビ、タレ、ご飯、カルビ、サンチュ、ご飯、タレ、海苔、キムチ、ご飯、水、ホルモン……。
 といった具合に彼女は休まる事なく箸を動かし続け、額に汗を浮かべながら本当に幸せそうに口をもぐもぐさせる。

 僕は机の上にガチャガチャといくつも出来上がった斜塔を眺めながら4枚目のカルビを口に放り込む。

 それにしても珍しく彼女から「大事な話があるから。」と誘っておいてこれだ。焼肉というチョイスも、大事な話そっちのけで肉を焼いているのも実に彼女らしい。

 僕は彼女のはちきれんばかりのお腹を見て苦笑する。

 ただ、少し今日はペースが早いような気がするし、何だか彼女に似合わない微妙な緊張感が漂っている。
 僕は少し不安になった。

「それで、大事な話って?」

 すると彼女はビクッと肩を揺らして、大ぶりの真っ赤なトマトやら、とにかく色とりどりの野菜が入ったサラダボウルから顔を上げた。
 そして今度は口にものが入っているのに慌てて喋ろうとするものだから、喉を詰まらせてゲホゲホ咳込む始末だ。

 やっぱり、様子がおかしい。

「落ち着いてよ、ほら。」

 僕は彼女の横に席を移し、背中をさすって水を勧める。
 横から見ると彼女のお腹はパンパンに空気の入った風船みたいで何かでちくっと刺したら弾け飛んでしまいそうだった。

「今日おかしいぞ?いっぱい食べるのはいつものことだけど、それにしたってペースが早すぎる。自分のお腹を見てよ。」

僕は彼女のお腹を指差す。

「まるで妊婦さんじゃないか――」


---弾けるような音がして、僕の顔は赤いドロドロとした果肉で真っ赤に染め上げられた。
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