19 / 25
第1章 元死刑囚とトラブルメーカー
019 あなたの手の温もり
しおりを挟む
ティアが脊髄反射の速度でこちらに振り向く。一瞬、獲物を狙うような鋭い目をしていたが、私を認識すると表情が少し和らいだ。
「大丈夫、落ち着いて。さっき、私たち初めての戦闘だったけどうまくいったじゃん」
順調に任務をこなし、戦闘では私と息ぴったり。私が救護班に連絡しているときも、さっとフォローを入れてくれた。
どこが落ちこぼれなのだろうか。それどころか文句なしではないのか。
そう思っていたが、予想だにしない答えが返ってきた。
「それはあなたがいたから……!」
私? むしろ教えてもらってばかりだったけど。
「私、戦闘経験ほぼないのに?」
「あなたがあたくしを信頼していただいていると感じたからこそ、安心して戦えましたの」
「そりゃあ相棒だからね」
信頼しないという選択肢はない。
「私にできることはない?」
魔法は全くの専門外だが、とりあえず聞いてみる。
「このままあたくしの体に手を置いてくださる?」
なんだ、それだけか。
「了解」
「ありがとう存じますわ」
体の強ばりが解けていくのが手越しに伝わってくる。魔法もリラックスしてかけた方が成功しやすいのだろうか。
ティアは同じ呪文を唱えて、魔法をかけ直した。
一回目よりも強いエネルギーを感じる。光も強く、より一点に集中している。
ティアの目に迷いがなくなり、冴えている。
数秒して、ミーガンのまぶたが動いた。魔法の光でまぶしそうに目を細めながら「うん……?」とつぶやく。
「……! ミーガン先輩が起きた!!」
私の声に気づいたティアが魔法を止める。しっかり目を開けており、顔色も少しよくなっている。
「できたよ! ティアすごい!」
「お役に立てて光栄ですわ……って、もう少し力を弱めてくださる?」
思わず抱きしめて、ティアに少し迷惑そうにされてしまった。
「所属名と名前は」
「ドミューニョ部隊、第三六八組、アルカイのミーガン・フォークナー」
エリヤのときと同じように、先鋭組の先輩が意識確認をしてくれた。
「うん、やるじゃねぇかアンゲロイ」
「えーっと、名前は何だっけ?」
と、コミュニカを取り出して操作をし始め、ティアは即座に「セレスティアでございますわ」と答える。私も同じく聞かれたので、フルネームで答えた。
「お前ら、本当に昨日組んだばかりとは思えないな。まぁいい、上出来だ」
褒めてくれたので、私は「ありがとうございます」と会釈をし、ティアは「恐れ入りますわ」とにこやかに笑った。
それから私とティアの名前が部隊中に知れ渡るのは早かった。
夕方にもなれば、「軍規を犯してまで戦ったアンゲロイがいる」「片方は昨日入隊したばかりで、もう片方は魔法でアルカイの命を救った」などと噂されていた。
私たちは、本部研究棟の会議室一に呼び出されている。もう理由はわかっている。
会議室に入るが、まだ誰もいない。
昨日座学を受けたときと、机とイスの配置が違う。片側に三組、もう片側に二組。それ以外はすべて後ろ側に寄せられていた。
幹部の人たちが来るまで、二組ある側に座っておく。私とティアは一言も話さず、固唾を呑んで待っていた。
廊下を複数人が歩く音が聞こえる。だんだん近づいてきて、この部屋のドアがノックされた。
「はい、お待たせ」
入ってきたのはトロノイ三人。朝に会ったメケイラはいなかった。
三人ともイスに座ると、真ん中に座る中年くらいの男性が口を開いた。
「四〇四のセレスティアと花恋だね。今日は急な出撃、ご苦労だった」
初めから怒鳴りつけられるかと覚悟していたが、まずは労わってくれるようだ。
「二人を呼び出したのは、もちろん今日の任務のことだ。自覚はあるよね?」
男性の顔が怖い。作り笑顔で目が笑っていないのだ。
「……軍規を破って戦闘いたしましたわ。申し訳ございません」
場の空気にうろたえている私をよそに、真っ先に謝ったティア。これじゃいけない。
「戦おうと言い出したのは私です! 身勝手なことをしてしまい、申し訳ございません!」
机にぶつかる勢いで頭を下げる。ぎゅっと目をつむった。その瞬間、私の頭の中に『死』という文字が浮かんだ。
このような場所では、罰として降格という手段があり得るだろう。しかし私はアンゲロイ。一番下の階級。これ以上下がる場所がない。
そうなれば、昨日の今日でドミューニョ部隊を除隊となってしまうかもしれない。戦わない私に残っているのは、あの理不尽で残虐な死のみ。
おととい味わったばかりの恐怖が蘇ってくる。
「顔を上げなさい」
男性の声がして、ゆっくりと頭を起こした。目が合った。
「確かに君たちは軍規違反をした。だが……セレスティア、『ドミューニョ部隊軍隊規則』の第五章最後の一文は何だった?」
私は昨日さっと目を通しただけで覚えているわけがないものの、ティアはさすが、暗唱できるほどであった。
「『なお、人員喪失や被害拡大等の緊急時においては、追及しないものとする』……ですわ」
……あっ。
「今回は人員喪失のおそれがあったとして、この件を処理する」
「てことは……」
「ペナルティはないよ」
すぐさま私の目から大粒の涙がこぼれてしまった。
「医務棟搬送時のデータですが、ミーガン・フォークナーの損耗率が九十六・八パーセント、エリヤ・シェイファーの損耗率が九十四・五パーセント。あと一回でも攻撃を受けていれば、二名とも死亡していたでしょう。妥当な判断だと思います」
右の女性が、コミュニカを片手に淡々と述べていった。その言い方がかえって私たちを正当に評価してくれているようで、私はこの人たちを信じたいと思った。
「大丈夫、落ち着いて。さっき、私たち初めての戦闘だったけどうまくいったじゃん」
順調に任務をこなし、戦闘では私と息ぴったり。私が救護班に連絡しているときも、さっとフォローを入れてくれた。
どこが落ちこぼれなのだろうか。それどころか文句なしではないのか。
そう思っていたが、予想だにしない答えが返ってきた。
「それはあなたがいたから……!」
私? むしろ教えてもらってばかりだったけど。
「私、戦闘経験ほぼないのに?」
「あなたがあたくしを信頼していただいていると感じたからこそ、安心して戦えましたの」
「そりゃあ相棒だからね」
信頼しないという選択肢はない。
「私にできることはない?」
魔法は全くの専門外だが、とりあえず聞いてみる。
「このままあたくしの体に手を置いてくださる?」
なんだ、それだけか。
「了解」
「ありがとう存じますわ」
体の強ばりが解けていくのが手越しに伝わってくる。魔法もリラックスしてかけた方が成功しやすいのだろうか。
ティアは同じ呪文を唱えて、魔法をかけ直した。
一回目よりも強いエネルギーを感じる。光も強く、より一点に集中している。
ティアの目に迷いがなくなり、冴えている。
数秒して、ミーガンのまぶたが動いた。魔法の光でまぶしそうに目を細めながら「うん……?」とつぶやく。
「……! ミーガン先輩が起きた!!」
私の声に気づいたティアが魔法を止める。しっかり目を開けており、顔色も少しよくなっている。
「できたよ! ティアすごい!」
「お役に立てて光栄ですわ……って、もう少し力を弱めてくださる?」
思わず抱きしめて、ティアに少し迷惑そうにされてしまった。
「所属名と名前は」
「ドミューニョ部隊、第三六八組、アルカイのミーガン・フォークナー」
エリヤのときと同じように、先鋭組の先輩が意識確認をしてくれた。
「うん、やるじゃねぇかアンゲロイ」
「えーっと、名前は何だっけ?」
と、コミュニカを取り出して操作をし始め、ティアは即座に「セレスティアでございますわ」と答える。私も同じく聞かれたので、フルネームで答えた。
「お前ら、本当に昨日組んだばかりとは思えないな。まぁいい、上出来だ」
褒めてくれたので、私は「ありがとうございます」と会釈をし、ティアは「恐れ入りますわ」とにこやかに笑った。
それから私とティアの名前が部隊中に知れ渡るのは早かった。
夕方にもなれば、「軍規を犯してまで戦ったアンゲロイがいる」「片方は昨日入隊したばかりで、もう片方は魔法でアルカイの命を救った」などと噂されていた。
私たちは、本部研究棟の会議室一に呼び出されている。もう理由はわかっている。
会議室に入るが、まだ誰もいない。
昨日座学を受けたときと、机とイスの配置が違う。片側に三組、もう片側に二組。それ以外はすべて後ろ側に寄せられていた。
幹部の人たちが来るまで、二組ある側に座っておく。私とティアは一言も話さず、固唾を呑んで待っていた。
廊下を複数人が歩く音が聞こえる。だんだん近づいてきて、この部屋のドアがノックされた。
「はい、お待たせ」
入ってきたのはトロノイ三人。朝に会ったメケイラはいなかった。
三人ともイスに座ると、真ん中に座る中年くらいの男性が口を開いた。
「四〇四のセレスティアと花恋だね。今日は急な出撃、ご苦労だった」
初めから怒鳴りつけられるかと覚悟していたが、まずは労わってくれるようだ。
「二人を呼び出したのは、もちろん今日の任務のことだ。自覚はあるよね?」
男性の顔が怖い。作り笑顔で目が笑っていないのだ。
「……軍規を破って戦闘いたしましたわ。申し訳ございません」
場の空気にうろたえている私をよそに、真っ先に謝ったティア。これじゃいけない。
「戦おうと言い出したのは私です! 身勝手なことをしてしまい、申し訳ございません!」
机にぶつかる勢いで頭を下げる。ぎゅっと目をつむった。その瞬間、私の頭の中に『死』という文字が浮かんだ。
このような場所では、罰として降格という手段があり得るだろう。しかし私はアンゲロイ。一番下の階級。これ以上下がる場所がない。
そうなれば、昨日の今日でドミューニョ部隊を除隊となってしまうかもしれない。戦わない私に残っているのは、あの理不尽で残虐な死のみ。
おととい味わったばかりの恐怖が蘇ってくる。
「顔を上げなさい」
男性の声がして、ゆっくりと頭を起こした。目が合った。
「確かに君たちは軍規違反をした。だが……セレスティア、『ドミューニョ部隊軍隊規則』の第五章最後の一文は何だった?」
私は昨日さっと目を通しただけで覚えているわけがないものの、ティアはさすが、暗唱できるほどであった。
「『なお、人員喪失や被害拡大等の緊急時においては、追及しないものとする』……ですわ」
……あっ。
「今回は人員喪失のおそれがあったとして、この件を処理する」
「てことは……」
「ペナルティはないよ」
すぐさま私の目から大粒の涙がこぼれてしまった。
「医務棟搬送時のデータですが、ミーガン・フォークナーの損耗率が九十六・八パーセント、エリヤ・シェイファーの損耗率が九十四・五パーセント。あと一回でも攻撃を受けていれば、二名とも死亡していたでしょう。妥当な判断だと思います」
右の女性が、コミュニカを片手に淡々と述べていった。その言い方がかえって私たちを正当に評価してくれているようで、私はこの人たちを信じたいと思った。
0
あなたにおすすめの小説
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに
にしのくみすた
ファンタジー
【空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!】
台風の夜、魔女はホウキで空を翔け――嵐と戦う!
この街で台風と戦うのは、ホウキで飛ぶ魔女の仕事だ。
空を飛ぶ魔女に憧れながらも、魔法が使えない体質のため夢を諦めたモチコ。
台風の夜、嵐に襲われて絶体絶命のピンチに陥ったモチコを救ったのは、
誰よりも速く夜空を飛ぶ“疾風迅雷の魔女”ミライアだった。
ひょんな事からミライアの相方として飛ぶことになったモチコは、
先輩のミライアとともに何度も台風へ挑み、だんだんと成長していく。
ふたりの距離が少しずつ近づいていくなか、
ミライアがあやしい『実験』をしようと言い出して……?
史上最速で空を飛ぶことにこだわる変な先輩と、全く飛べない地味メガネの後輩。
ふたりは夜空に浮かんだホウキの上で、今夜も秘密の『実験』を続けていく――。
空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる