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第1章 元死刑囚とトラブルメーカー
020 私と、血筋と闘ったお嬢様
寮に戻り、部屋に入ったとたん、ティアが自分のベッドに座ってうつむいてしまった。
どうしたものかと、私も自分のベッドに座ってティアと対面になるようにし、ティアの顔を覗き込む。
肩を震わせて泣いていた。
「わっ……ど、どうしたの?」
「あのとき、蘇生魔法が成功して、よかったと安心しましたら、涙が……」
「うん、ありがとう。ティアのおかげだよ」
ティアの隣に座り直して背中をなでてあげる。
うーん、安心して泣いてるんだろうけど、それにしても様子がおかしいような。
さっき寮に戻る途中で「怒られるのは慣れておりますので」と余裕そうな表情を浮かべていたのに。自虐だとは思ったが……あれは強がっていたのかのかもしれない。
「花恋、もしあのとき蘇生魔法が成功せずに、ミーガン様を失うことになっていたら、あなたはどうお思いになりましたの?」
突然、難しい質問をしてきたティア。
「どう? って言われてもなぁ……」
ティアの魔法でも先輩を救えなかったら、かぁ。もちろんそんな結果になったら悲しいけど、ティアはそんなことを聞いてるんじゃないはず。
言葉が見つからずしばらく悩んでいると、ティアが「意地悪な尋ね方をしてしまいましたわね」と詫びを入れた。
「それでは単刀直入にお聞きしますわ。魔法が成功しなかったらあたくしに失望しますの?」
「し、失望⁉︎」
私の中ではあまりに強烈な言葉であった。そんな、余程のことじゃないと言わないし聞かない言葉のはずなのに。
「失望なんてしないよ! 魔法が使えるってだけですごいのに、それでも助からないなら仕方ないっていうか……仕方ないって言うのは失礼だけど――」
「あたくしはずっと失望され続けておりましたの」
思わず「えっ」と声が出てしまう私。
「あたくしは、あの大魔法使いの娘であり、元王女の娘ですわ。周りはお父様のように魔法がうまく、お母様のように人格者である人を望まれますの。あたくしは、残念ながらそのような人ではございません。魔法は平均くらい、お勉強も平均くらい。性格は気難しく、何人もの方を傷つけてしまいましたわ」
口からどんどん溢れ出す言葉によって、私の頭の中で点と点が繋がっていく。
「『なぁ、あんなのが大魔法使いの娘か?』、『あれが没落家系の成れの果てですわ』、『負け犬が吠えておりますこと』……学校で散々に言われましたわ。ドミューニョ部隊に入隊してからも同じでしたの。それまでの相棒は、あたくしを大魔法使いと元王女の娘としてご覧になるのですわ」
ティアは目に残った涙をハンカチで拭き取ってから、私の目を見て言った。
「ですが、あなたはそうではありませんでしたわ。お父様の称号でもある『ウィザーソン』ではなく、お母様のお名前の『フィオナ』でもなく、『セレスティア』として接してくださいましたの! それがあなたの言動の端々に表れていて、嬉しくて……」
ああ、理解した。完全に理解した。そういうことだ。
私はティアを抱き寄せ、その体を私にもたれさせた。頭をなでると、風呂に入る前だというのに良い匂いがした。
「もう大丈夫だよ、ティア」
ティアはその血筋ゆえに、周りから期待の目を向けられてきた。だが、魔法も父ほどではなく、学力もエリートの中ではそこそこ。何人もの人を傷つけたと言ったことから、強い口調で言い返していたのかもしれない。
ここに来てからも、戦闘がうまくいかずに相棒から悪口を言われていたのだろう。父や母と比べられて。気難しい性格ということは、相棒との喧嘩は不可避。
傍から見れば、ティアの実力不足から来る人間関係のトラブルである。
しかし実際はどうだろうか。
「ティアは、賢くて、優しくて、強くて、優秀な私の相棒だよ」
学力のような賢さだけでなく、私に教えるのもうまく、状況を瞬時に分析し判断できる。育ちの良さがわかる優しさもそうだが、そもそも根から優しい人だ。戦えばその判断力で的確な位置を攻撃している。先輩から褒められていたということは、そういうことだ。
「ありがとう存じますわ」
「あとかわいい」
「……『あと』とは、どのような意味で?」
「特に意味はないよ」
「それなら、あたくしのどこがかわいいと?」
「全部」
「ぜっ、全部⁉︎」
想定外だったのか、頭に乗せられていた手をどかして距離を取られてしまった。白い肌に赤面がよく目立っている。
「あ、あ、あなたも、賢く、優しく、強い、優秀なあたくしの相棒ですわ!」
「んふふ、ありがと。じゃあ――」
私はベッドから降りてティアの前に跪き、両手でティアの右手をすくい上げ、キスをした。
「明日からも、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします、セレスティア様」
「こちらこそですわ」
「あ、あえてティアが王家の末裔だってのを尊重してやってるからね」
「存じ上げておりますことよ」
ティアから柔らかい笑顔が摂取できたところで、主従ごっこは終わりにした。
◇ ◆ ◇
ミーガンは微笑んだ。あの子たちが話題になっていると。
医務棟の個室に備えつけられたテレビで、軍人向けのニュースが流れていた。
「うちの損耗率、ヤバかったもんね……」
戦闘服のおかげで目立った傷はないものの、衝撃までは防げない。心室細動で血流が止まり、脳にダメージを受けたらしい。
今は絶対安静だが、数日で日常生活は送れるようになるという。
「ティアと花恋が助けてくれなかったらなかった命……絶対戦線に復帰してやるんだから!」
そんなミーガンは、昨日の二人を思い出していた。
自身に「先輩を失いたくないから」と言ったその勇姿を。そう言ってはためいた、豊かな金髪と真っ直ぐな黒髪の後ろ姿を。そして二人の武器と戦闘服を。
和風メイド服の妖刀使い・花恋と、赤チェックメイド服の白銃使い・セレスティアのペアは、斯くして相性抜群の二人組となったのであった。
~第一章・完~
どうしたものかと、私も自分のベッドに座ってティアと対面になるようにし、ティアの顔を覗き込む。
肩を震わせて泣いていた。
「わっ……ど、どうしたの?」
「あのとき、蘇生魔法が成功して、よかったと安心しましたら、涙が……」
「うん、ありがとう。ティアのおかげだよ」
ティアの隣に座り直して背中をなでてあげる。
うーん、安心して泣いてるんだろうけど、それにしても様子がおかしいような。
さっき寮に戻る途中で「怒られるのは慣れておりますので」と余裕そうな表情を浮かべていたのに。自虐だとは思ったが……あれは強がっていたのかのかもしれない。
「花恋、もしあのとき蘇生魔法が成功せずに、ミーガン様を失うことになっていたら、あなたはどうお思いになりましたの?」
突然、難しい質問をしてきたティア。
「どう? って言われてもなぁ……」
ティアの魔法でも先輩を救えなかったら、かぁ。もちろんそんな結果になったら悲しいけど、ティアはそんなことを聞いてるんじゃないはず。
言葉が見つからずしばらく悩んでいると、ティアが「意地悪な尋ね方をしてしまいましたわね」と詫びを入れた。
「それでは単刀直入にお聞きしますわ。魔法が成功しなかったらあたくしに失望しますの?」
「し、失望⁉︎」
私の中ではあまりに強烈な言葉であった。そんな、余程のことじゃないと言わないし聞かない言葉のはずなのに。
「失望なんてしないよ! 魔法が使えるってだけですごいのに、それでも助からないなら仕方ないっていうか……仕方ないって言うのは失礼だけど――」
「あたくしはずっと失望され続けておりましたの」
思わず「えっ」と声が出てしまう私。
「あたくしは、あの大魔法使いの娘であり、元王女の娘ですわ。周りはお父様のように魔法がうまく、お母様のように人格者である人を望まれますの。あたくしは、残念ながらそのような人ではございません。魔法は平均くらい、お勉強も平均くらい。性格は気難しく、何人もの方を傷つけてしまいましたわ」
口からどんどん溢れ出す言葉によって、私の頭の中で点と点が繋がっていく。
「『なぁ、あんなのが大魔法使いの娘か?』、『あれが没落家系の成れの果てですわ』、『負け犬が吠えておりますこと』……学校で散々に言われましたわ。ドミューニョ部隊に入隊してからも同じでしたの。それまでの相棒は、あたくしを大魔法使いと元王女の娘としてご覧になるのですわ」
ティアは目に残った涙をハンカチで拭き取ってから、私の目を見て言った。
「ですが、あなたはそうではありませんでしたわ。お父様の称号でもある『ウィザーソン』ではなく、お母様のお名前の『フィオナ』でもなく、『セレスティア』として接してくださいましたの! それがあなたの言動の端々に表れていて、嬉しくて……」
ああ、理解した。完全に理解した。そういうことだ。
私はティアを抱き寄せ、その体を私にもたれさせた。頭をなでると、風呂に入る前だというのに良い匂いがした。
「もう大丈夫だよ、ティア」
ティアはその血筋ゆえに、周りから期待の目を向けられてきた。だが、魔法も父ほどではなく、学力もエリートの中ではそこそこ。何人もの人を傷つけたと言ったことから、強い口調で言い返していたのかもしれない。
ここに来てからも、戦闘がうまくいかずに相棒から悪口を言われていたのだろう。父や母と比べられて。気難しい性格ということは、相棒との喧嘩は不可避。
傍から見れば、ティアの実力不足から来る人間関係のトラブルである。
しかし実際はどうだろうか。
「ティアは、賢くて、優しくて、強くて、優秀な私の相棒だよ」
学力のような賢さだけでなく、私に教えるのもうまく、状況を瞬時に分析し判断できる。育ちの良さがわかる優しさもそうだが、そもそも根から優しい人だ。戦えばその判断力で的確な位置を攻撃している。先輩から褒められていたということは、そういうことだ。
「ありがとう存じますわ」
「あとかわいい」
「……『あと』とは、どのような意味で?」
「特に意味はないよ」
「それなら、あたくしのどこがかわいいと?」
「全部」
「ぜっ、全部⁉︎」
想定外だったのか、頭に乗せられていた手をどかして距離を取られてしまった。白い肌に赤面がよく目立っている。
「あ、あ、あなたも、賢く、優しく、強い、優秀なあたくしの相棒ですわ!」
「んふふ、ありがと。じゃあ――」
私はベッドから降りてティアの前に跪き、両手でティアの右手をすくい上げ、キスをした。
「明日からも、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします、セレスティア様」
「こちらこそですわ」
「あ、あえてティアが王家の末裔だってのを尊重してやってるからね」
「存じ上げておりますことよ」
ティアから柔らかい笑顔が摂取できたところで、主従ごっこは終わりにした。
◇ ◆ ◇
ミーガンは微笑んだ。あの子たちが話題になっていると。
医務棟の個室に備えつけられたテレビで、軍人向けのニュースが流れていた。
「うちの損耗率、ヤバかったもんね……」
戦闘服のおかげで目立った傷はないものの、衝撃までは防げない。心室細動で血流が止まり、脳にダメージを受けたらしい。
今は絶対安静だが、数日で日常生活は送れるようになるという。
「ティアと花恋が助けてくれなかったらなかった命……絶対戦線に復帰してやるんだから!」
そんなミーガンは、昨日の二人を思い出していた。
自身に「先輩を失いたくないから」と言ったその勇姿を。そう言ってはためいた、豊かな金髪と真っ直ぐな黒髪の後ろ姿を。そして二人の武器と戦闘服を。
和風メイド服の妖刀使い・花恋と、赤チェックメイド服の白銃使い・セレスティアのペアは、斯くして相性抜群の二人組となったのであった。
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