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第2章
023 人間だからね、完璧じゃないよね
「これで大丈夫だね」
宿主の胸を刺した刀が、ゆっくりと押し戻されるようにして体から排出された。
「このあとは……救護活動か」
私は、耳についているアナライザーインカムを三回タップして無線を繋げる。
「こちら四〇四、月城花恋。宿主浄化完了。宿主の救護を要請する」
『了解しました。引き継ぎを行いますので、その場でお待ちください』
応答した声の主は人間ではなく、AIのようだ。
了解と返事をして無線を終了する。
私が無線で連絡している間に、ティアが元宿主の体をスキャンし、救護班にデータを送ってくれていた。
「救護班への連絡とデータ送信も、分担した方が早いですもの。あたくしが救護班に連絡したときは、花恋にデータ送信をお願いするわ」
昨日はミーガンが両方ともしていたが、それは私にやり方を教えていたからだと気づいた。
辺りの景色がだんだんと薄くなっていくと、私たちは真っ白な部屋の中にいた。訓練が終了したようだ。
「はい、ご苦労だった」
メケイラの声に私とティアは後ろを振り向いた。
私たちの訓練の様子を見てどのような顔をしているのかと思っていたが、メケイラの表情は変わらず厳しいものだった。
「先ほども言ったとおり、現在の二人の戦闘力と、二人の相性を見た」
ただ、失望しているような表情ではない。
「戦闘力はまずまずと言ったところだな。経験のあるセレスティアが花恋を先導していたのは良い判断だ。だが、セレスティアに隙が多い。経験の浅い花恋にカバーされるようでは、遠距離型の武器を活かせないぞ」
ティアは返事をするが、明らかに声が小さく張りがない。
「もちろん花恋は、武器の扱いも身のこなしもあまい。これから、多種多様な環境を想定した訓練を重ねていく必要がある。短距離型の武器は攻撃以外にも様々な仕事があるから、それも訓練で習得するのみだな」
入隊してまだ三日目の私には課題しかない。メケイラの言うとおりなので、私ははっきりと返事をした。
「そして相性の問題だが……」
相性と聞いて、ティアと目が合った。お互い緊張した面持ちである。
「戦闘での相性は問題ないだろう」
メケイラはそう言ってティアの方を向いた。
「だが、また人間関係でトラブルを起こすようならば、今度こそは除隊も免れないぞ。分かったな」
ティアは相変わらずの小さい声で返事をする。その声は震えていた。
メケイラが部屋から去ると、ティアはため息をつく。
「あ、あたくしはもう大丈夫ですの……! 花恋がいらっしゃるから……あたくしの理解者がいらっしゃるから……」
ぎゅっと握りしめられたティアの手を、私はそっと両手で包み込んだ。
「そうだね、もう大丈夫だよね」
静かにうなずくティア。
「花恋の良き相棒となれるよう、これからあたくしは一人で特訓いたしますわ。それではまた後ほど」
急に思い立ったのか、私の手を振りほどいて部屋を出ていってしまった。
私と会ったときは訓練をサボっていたティアだが、何か心境の変化があったのだろうか。去り際に見た彼女の顔はどこか生き生きとしていた。
一人、部屋に残された私。
「私も特訓しなくちゃ」
コミュニカを読み取り機に当て、一人での訓練を始める。
『月城花恋さん、初めまして。私はあなた専属のAIです』
人工音声が流れ、体ごとビクッと驚いてしまった。
『個人訓練では、一人一人の能力に適した訓練プログラムを作成します』
真っ白なこの部屋が再び仮想空間に変わった。しかし、さっきの訓練とは違い、芝生の平地が続く何も無い場所である。
『まずは武器を召喚しましょう』
言われるがまま、「サモンヴォカテ=クシナダヒメ」と唱える。
『刀の基本の振り方を学びましょう』
「はい」
『まずは両手でこのように握ります』
「はい」
『足をこのように開き』
「はい」
『腕を曲げないよう、まっすぐ上に構えます』
「はい」
『そして、このガイドに沿ってまっすぐに勢いよく振り下ろします』
目の前に縦に伸びた光の筋が現れる。これに沿って……か。
サッ…………
『その調子です』
アニメで見るような『ヒュン』という音はしなかったが、これでいいらしい。
『次は、刀の向きを変えないように振り下ろしてみましょう』
「はい」
このあとも、AIの言いなりになりながら、刀の扱い方を訓練した。
どれほど時間が経っただろうか。訓練終了の十八時を知らせる放送が流れている。集中しすぎて何回も練習を繰り返してしまった。
気を抜いたとたん、全身の痛みに襲われる。紛れもなく、筋肉痛だ。
「こ、これは明日に響くやつだ……」
一人で苦笑いをしていると、ドアがノックされた。
「花恋、お迎えに参りましたわ」
少し疲れた顔をしたティアだった。
「ティア、お疲れ……」
「花恋⁉︎」
私の顔を見るなり、駆け寄ってきたティア。
「かなりお疲れのご様子でございますわ」
「訓練やりすぎた……」
「無理は禁物ですわよ。歩けますの?」
「歩ける」
女子寮に連れていかれる私の足取りはヨタヨタであった。
「最初の訓練では、皆がこのようになりましたわね。誰もが通る道ですわ」
「そうなの?」
「むしろ、あたくしは安心しておりますの。昨日いきなり実戦をして完璧に宿主を浄化なさった花恋に、しっかり限界があると知れましたわ」
そう言って、ふふふとティアは笑った。
「当たり前じゃん。人間だからね」
つられて私も、疲れているとは思えないほどの笑顔を浮かべた。
宿主の胸を刺した刀が、ゆっくりと押し戻されるようにして体から排出された。
「このあとは……救護活動か」
私は、耳についているアナライザーインカムを三回タップして無線を繋げる。
「こちら四〇四、月城花恋。宿主浄化完了。宿主の救護を要請する」
『了解しました。引き継ぎを行いますので、その場でお待ちください』
応答した声の主は人間ではなく、AIのようだ。
了解と返事をして無線を終了する。
私が無線で連絡している間に、ティアが元宿主の体をスキャンし、救護班にデータを送ってくれていた。
「救護班への連絡とデータ送信も、分担した方が早いですもの。あたくしが救護班に連絡したときは、花恋にデータ送信をお願いするわ」
昨日はミーガンが両方ともしていたが、それは私にやり方を教えていたからだと気づいた。
辺りの景色がだんだんと薄くなっていくと、私たちは真っ白な部屋の中にいた。訓練が終了したようだ。
「はい、ご苦労だった」
メケイラの声に私とティアは後ろを振り向いた。
私たちの訓練の様子を見てどのような顔をしているのかと思っていたが、メケイラの表情は変わらず厳しいものだった。
「先ほども言ったとおり、現在の二人の戦闘力と、二人の相性を見た」
ただ、失望しているような表情ではない。
「戦闘力はまずまずと言ったところだな。経験のあるセレスティアが花恋を先導していたのは良い判断だ。だが、セレスティアに隙が多い。経験の浅い花恋にカバーされるようでは、遠距離型の武器を活かせないぞ」
ティアは返事をするが、明らかに声が小さく張りがない。
「もちろん花恋は、武器の扱いも身のこなしもあまい。これから、多種多様な環境を想定した訓練を重ねていく必要がある。短距離型の武器は攻撃以外にも様々な仕事があるから、それも訓練で習得するのみだな」
入隊してまだ三日目の私には課題しかない。メケイラの言うとおりなので、私ははっきりと返事をした。
「そして相性の問題だが……」
相性と聞いて、ティアと目が合った。お互い緊張した面持ちである。
「戦闘での相性は問題ないだろう」
メケイラはそう言ってティアの方を向いた。
「だが、また人間関係でトラブルを起こすようならば、今度こそは除隊も免れないぞ。分かったな」
ティアは相変わらずの小さい声で返事をする。その声は震えていた。
メケイラが部屋から去ると、ティアはため息をつく。
「あ、あたくしはもう大丈夫ですの……! 花恋がいらっしゃるから……あたくしの理解者がいらっしゃるから……」
ぎゅっと握りしめられたティアの手を、私はそっと両手で包み込んだ。
「そうだね、もう大丈夫だよね」
静かにうなずくティア。
「花恋の良き相棒となれるよう、これからあたくしは一人で特訓いたしますわ。それではまた後ほど」
急に思い立ったのか、私の手を振りほどいて部屋を出ていってしまった。
私と会ったときは訓練をサボっていたティアだが、何か心境の変化があったのだろうか。去り際に見た彼女の顔はどこか生き生きとしていた。
一人、部屋に残された私。
「私も特訓しなくちゃ」
コミュニカを読み取り機に当て、一人での訓練を始める。
『月城花恋さん、初めまして。私はあなた専属のAIです』
人工音声が流れ、体ごとビクッと驚いてしまった。
『個人訓練では、一人一人の能力に適した訓練プログラムを作成します』
真っ白なこの部屋が再び仮想空間に変わった。しかし、さっきの訓練とは違い、芝生の平地が続く何も無い場所である。
『まずは武器を召喚しましょう』
言われるがまま、「サモンヴォカテ=クシナダヒメ」と唱える。
『刀の基本の振り方を学びましょう』
「はい」
『まずは両手でこのように握ります』
「はい」
『足をこのように開き』
「はい」
『腕を曲げないよう、まっすぐ上に構えます』
「はい」
『そして、このガイドに沿ってまっすぐに勢いよく振り下ろします』
目の前に縦に伸びた光の筋が現れる。これに沿って……か。
サッ…………
『その調子です』
アニメで見るような『ヒュン』という音はしなかったが、これでいいらしい。
『次は、刀の向きを変えないように振り下ろしてみましょう』
「はい」
このあとも、AIの言いなりになりながら、刀の扱い方を訓練した。
どれほど時間が経っただろうか。訓練終了の十八時を知らせる放送が流れている。集中しすぎて何回も練習を繰り返してしまった。
気を抜いたとたん、全身の痛みに襲われる。紛れもなく、筋肉痛だ。
「こ、これは明日に響くやつだ……」
一人で苦笑いをしていると、ドアがノックされた。
「花恋、お迎えに参りましたわ」
少し疲れた顔をしたティアだった。
「ティア、お疲れ……」
「花恋⁉︎」
私の顔を見るなり、駆け寄ってきたティア。
「かなりお疲れのご様子でございますわ」
「訓練やりすぎた……」
「無理は禁物ですわよ。歩けますの?」
「歩ける」
女子寮に連れていかれる私の足取りはヨタヨタであった。
「最初の訓練では、皆がこのようになりましたわね。誰もが通る道ですわ」
「そうなの?」
「むしろ、あたくしは安心しておりますの。昨日いきなり実戦をして完璧に宿主を浄化なさった花恋に、しっかり限界があると知れましたわ」
そう言って、ふふふとティアは笑った。
「当たり前じゃん。人間だからね」
つられて私も、疲れているとは思えないほどの笑顔を浮かべた。
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