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7:タイムリミットへの焦燥
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直接王城に向かって王子と話したらよいと思うだろう。
しかし、私は王太子との婚約破棄で、王城への立ち入りが禁止されている。シル王子とはあのときに出会って以来、家に来てもらうか、文通でやり取りをしている。
半日かかると思われたが、なんと三時間でシル王子が到着した。急いでいても、格好は整っていて完璧である。
「ビュー様、失礼いたします」
「急にお呼び出しして申し訳ございません」
「構いませんよ」
シル王子はいつもの優しい笑みで返してくれた。
「実は妹が不審な動きをしておりまして――」
私はバルタサルからではなく、自らの口で経緯を説明した。
手紙のこと、メンブラード王国の貴族と食事会をしていたこと、禁断の妖術を使って盗み聞きしたこと。そして、
「どうやら、妹は潤沢な資金と統治領欲しさに、メンブラード王国に移り住もうとしておりまして、さらに王太子殿下との婚約を明日に破棄するつもりだそうです。ですが私は『あまりにもおいしい話ではないか。妹は騙されて、メンブラード家の操り人形になっているのではないか』と思ったのでございます」
私が得た情報は全て伝え切った。
「なるほど」
シル王子は驚きもせず、顎に軽く握った手を添わせて、考えるような仕草をする。
「ここだけの話ですが、メンブラード家は平気でそういうことをするような王家でございます。私としましては、アグスティナ様を騙してメンブラード家がなにか裏工作をしていてもおかしくはないと考えてしまいます」
そう、私が本で学べただけでも、メンブラード家の『悪行』は数多。家の存続のためならどんな手段でも厭わない人たちなのである。
「そして、兄上様とアグスティナ様の婚約日は明日……今日中にどうにかしたいものですが……」
ここでふとシル王子が思いついたようだ。
「私であれば、アグスティナ様とお話できます。アグスティナ様は今どこに」
「誠に残念でございますが、朝食後すぐにメンブラード王国へ向かってしまいました」
「いつお帰りになる」
「夜までお帰りにならないでしょう」
バルタサルに言われ、顔をしかめて悔しそうにするシル王子。私の代わりに話し合おうとしてくれたのだろう。
「それならば私が直接父上様に――」
「どなたからこの情報を得たと国王殿下に仰るのでしょうか」
私と王太子の婚約破棄があったことで、ただでさえ息子の結婚に関しては敏感になっているという国王。
「私からの情報と仰ったところで、おそらく信じていただけないでしょうね……」
そこで思いついた。最終手段だ。
「もう私が直接、国王殿下にお伝えすればよいのではないでしょうか」
バルタサルとシル王子は即座に驚嘆した。
「ですが……どのようにして王城にお入りになるおつもりでしょう」
「シル殿下のお力があれば、なんとかなりませんでしょうか」
「私がですか!?」
シル王子はしばらく熟慮し、「承知しました」と覚悟を決めた顔をした。
「護衛と掛け合って、私の婚約候補を王城に招きたいと伝えておきます。ビュー様には変装をしていただきたいのですが……」
シル王子の婚約候補であることは間違いないので、事実を含めた巧妙な手である。
「変装なら大得意でございます」
私がしようとしているのは、変装なんかよりももっと質の高い『変化』だが。
「よかった。そうしましたら、変装したビュー様とともに、父上様がいらっしゃる応接間に向かいましょう。応接間に入りましたら、父上様に事の顛末をお伝えください。その間は私がビュー様をお護りします」
「承知いたしました」
「ですが、場を整えなければならないので、今日中は厳しそうです」
そりゃそうだろう。
応接間に行き着くだけでも広い王城。その道すべての護衛に私のことを共有しなければならない。
さらに、あの忙しい国王に時間を空けてもらわなければならないのだ。
「アグスティナ様が婚約破棄に来られる前に伝えなければならないのですよ」
珍しく焦りを見せるバルタサル。
「はい、ですので明日の早朝しか時間はありません」
「ですよね、かしこまりました」
婚約はたいてい正午に発表する。それに間に合うように動くとなると、朝から王城で準備が進められる。
そうすると、起床直後くらいしか時間がないのだ。
「詳しい時間は、父上様に確認を取ってから、追ってご連絡いたします」
これで作戦は決まった。
半日後、シル王子から速達で手紙が届いた。
作戦の決行は、朝食の前の午前六時となった。
しかし、私は王太子との婚約破棄で、王城への立ち入りが禁止されている。シル王子とはあのときに出会って以来、家に来てもらうか、文通でやり取りをしている。
半日かかると思われたが、なんと三時間でシル王子が到着した。急いでいても、格好は整っていて完璧である。
「ビュー様、失礼いたします」
「急にお呼び出しして申し訳ございません」
「構いませんよ」
シル王子はいつもの優しい笑みで返してくれた。
「実は妹が不審な動きをしておりまして――」
私はバルタサルからではなく、自らの口で経緯を説明した。
手紙のこと、メンブラード王国の貴族と食事会をしていたこと、禁断の妖術を使って盗み聞きしたこと。そして、
「どうやら、妹は潤沢な資金と統治領欲しさに、メンブラード王国に移り住もうとしておりまして、さらに王太子殿下との婚約を明日に破棄するつもりだそうです。ですが私は『あまりにもおいしい話ではないか。妹は騙されて、メンブラード家の操り人形になっているのではないか』と思ったのでございます」
私が得た情報は全て伝え切った。
「なるほど」
シル王子は驚きもせず、顎に軽く握った手を添わせて、考えるような仕草をする。
「ここだけの話ですが、メンブラード家は平気でそういうことをするような王家でございます。私としましては、アグスティナ様を騙してメンブラード家がなにか裏工作をしていてもおかしくはないと考えてしまいます」
そう、私が本で学べただけでも、メンブラード家の『悪行』は数多。家の存続のためならどんな手段でも厭わない人たちなのである。
「そして、兄上様とアグスティナ様の婚約日は明日……今日中にどうにかしたいものですが……」
ここでふとシル王子が思いついたようだ。
「私であれば、アグスティナ様とお話できます。アグスティナ様は今どこに」
「誠に残念でございますが、朝食後すぐにメンブラード王国へ向かってしまいました」
「いつお帰りになる」
「夜までお帰りにならないでしょう」
バルタサルに言われ、顔をしかめて悔しそうにするシル王子。私の代わりに話し合おうとしてくれたのだろう。
「それならば私が直接父上様に――」
「どなたからこの情報を得たと国王殿下に仰るのでしょうか」
私と王太子の婚約破棄があったことで、ただでさえ息子の結婚に関しては敏感になっているという国王。
「私からの情報と仰ったところで、おそらく信じていただけないでしょうね……」
そこで思いついた。最終手段だ。
「もう私が直接、国王殿下にお伝えすればよいのではないでしょうか」
バルタサルとシル王子は即座に驚嘆した。
「ですが……どのようにして王城にお入りになるおつもりでしょう」
「シル殿下のお力があれば、なんとかなりませんでしょうか」
「私がですか!?」
シル王子はしばらく熟慮し、「承知しました」と覚悟を決めた顔をした。
「護衛と掛け合って、私の婚約候補を王城に招きたいと伝えておきます。ビュー様には変装をしていただきたいのですが……」
シル王子の婚約候補であることは間違いないので、事実を含めた巧妙な手である。
「変装なら大得意でございます」
私がしようとしているのは、変装なんかよりももっと質の高い『変化』だが。
「よかった。そうしましたら、変装したビュー様とともに、父上様がいらっしゃる応接間に向かいましょう。応接間に入りましたら、父上様に事の顛末をお伝えください。その間は私がビュー様をお護りします」
「承知いたしました」
「ですが、場を整えなければならないので、今日中は厳しそうです」
そりゃそうだろう。
応接間に行き着くだけでも広い王城。その道すべての護衛に私のことを共有しなければならない。
さらに、あの忙しい国王に時間を空けてもらわなければならないのだ。
「アグスティナ様が婚約破棄に来られる前に伝えなければならないのですよ」
珍しく焦りを見せるバルタサル。
「はい、ですので明日の早朝しか時間はありません」
「ですよね、かしこまりました」
婚約はたいてい正午に発表する。それに間に合うように動くとなると、朝から王城で準備が進められる。
そうすると、起床直後くらいしか時間がないのだ。
「詳しい時間は、父上様に確認を取ってから、追ってご連絡いたします」
これで作戦は決まった。
半日後、シル王子から速達で手紙が届いた。
作戦の決行は、朝食の前の午前六時となった。
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