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9:隣国の刺客と二人への制裁

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 壁が崩れたことによる風塵ふうじんが、部屋を覆いつくす。

「ゲホッ、ゴホッ」

 みんなが風塵を吸ってむせてしまうが、涙目になりながら私の目は捉えていた。国王に向かっていく、黒い服の人の姿を。
 だが、この体のスピードでは間に合わない――はずだった。

 反射で動いた私の体は、風のように瞬時に動いてくれたのだ。
 相手は右手に持った何かを振るってきたので、袖に隠しておいた短剣で防御する。

 向こうは長剣だった。
 短剣に妖術をかけて、剣と剣が触れた瞬間に妖力で相手を押し返す。

 キーンッ!

 黒い服の男は後ろにのけぞって倒れた。それを見た王太子が剣を抜き、倒れた男に向けて警戒する。

「誰だ、貴様!」
「名乗るわけないだろ!」

 シル王子も剣を抜き、私を守るように黒服の男との間に入った。

 黒い服だが、背中側の襟口に刺繍ししゅうがあるのを見つけた。刺繍があるということは、貴族か、貴族とつながりのある平民だろう。

 そしてどこかで見たことがある。この特徴的な模様の刺繍。高度に抽象化されているが、この元となった花はあの国にしか咲いていない。

「メンブラード王国の方ですね」
「くっ、どうしてわかった!」
「その服の刺繍です。前に本で見たことがあったので」
「なんだこのアマ!」

 起き上がろうとした男は、王太子の剣によって止められる。

「話の続きを」
「はい、私はこうなることを予測していました。きっかけは廊下に落ちていた王太子殿下から妹への手紙です。
『君からのお手紙、受け取ったよ。素晴らしい夢だと思う。私としても、メンブラード王国と良い関係でいられたら、大いに助かるからね。君がその手助けとなってくれるのなら、できる限りのサポートをするよ。何でも聞いてね』という内容です」

 一言一句、手紙の内容を公開処刑され、気まずい表情になる王太子。 

「メンブラード王国と友好関係になることで果たされる夢というのが引っかかり、妹を注意深く見ていましたら、メンブラード王国の貴族と食事会をすると聞いたのです」

 アグスティナが「筒抜けですわね……」と苦虫をみ潰したような顔をする。

「そこで、やり方が卑怯ひきょうですが、妖術を使って妹の部屋の盗み聞きをしました」
「なんですって!?」
「食事会の内容は、メンブラード王家に関連することで、さらに王家負担で移り住み、潤沢な資金も用意され、統治領は今の倍になること、そして王太子殿下にとって一番損となる時に婚約破棄をすることだったそうです」

 みるみるうちに王太子の目がり上がる。

「アグスティナ!!」

 怒号を上げた瞬間、男がニヤリと笑った。

「増援が来たな」

 男の視線の先には、今まさに壁の穴から入りこんできた、よろいの兵士の大群がいるではないか。

「あの鎧はメンブラード王国!」

 フェンダルタ王国のデザインとは異なる、典型的なメンブラード王国製の鎧である。

「兄上様は人質の監視を、わたくしとビュー様で父上様とアグスティナ様をお守りいたします」
「私に指図だと?」
「カルロスよ、今は緊急事態だ」

 こんなときにまで、王太子は上下関係に囚われているようだ。

「はぁ……最っ低だ」

 私はこの体たらくにため息をつくと、妖術を発動した。王城になるべく被害が出ないように工夫しなければ。

妖炎ようえんの舞・赤」

 金属だけ燃える妖しい炎をいくつも発生させると、次々に兵士の大群に投げつけていく。
 人間、服が燃えたら大やけど間違いなしなので、混乱させるにはもってこいの妖術である。

 案の定、鎮火させようと鎧をはたく兵士たち。
 それを潜り抜けた数人は、シル王子の流れるような剣さばきで斬られている。ただ、シル王子が斬っているのは急所以外で、殺しはしないようだ。

 妖炎を被った兵士たちは続々と鎧を脱ぎ捨てる。

 よし、今だ。殺さないなら、眠らすのが一番。

「脱力の惑い」

 妖力を多めに乗せて、広範囲に速く届くようにする。こちらに向かってくる兵士もまとめて。

 バタッ、バタバタバタッ……

 手前から次々に倒れていき、敵兵で立っている者は一人もいなかった。

「でかした。一人残らず捕らえろ」

 戦いが終わった瞬間だった。





 一週間後、すっかり修復された応接間で、国王からアグスティナと王太子に判決内容を告げられていた。

「アグスティナ・デ・ルスファを死刑に処し、カルロス・デ・フェンダルタを流刑に処す」

 アグスティナは、今回の戦犯である国家反逆罪と、メンブラード王国第三王子との二股が暴かれたのだから、当然の結果といえる。

 王太子は、メンブラード王国に協力的なアグスティナに手助けしようとした、共謀罪となっている。あの手紙が重要な証拠となったらしい。

 国王は自らの息子にさえ、法に従って然るべき判決を下すので、少し感心した。
 そんな父親から、どうしてカルロスという性格最低の人間が生まれてきてしまったのか。

 どうしてああなった。

 いや、父親の人の良さは、全部この人が持っていってしまったのかもしれない。

「本日をもって、シルビオを王太子とし、ビュートリナを王太子妃とする」

 婚約破棄されたのも、妹から差別されたのも、全てシルビオと結ばれるための過程にすぎなかったんだ。

「ビュー様、おめでとうございます」

 転生したあの日から、私の味方はバルタサルとシルビオだけだった。

「どうして私をお選びになったのでしょうか」

 どこからともなく現れて、私の味方になってくれた理由を聞いていなかったのである。

「最初はただ謝罪だけのつもりでございました。追い出される覚悟で参りましたが、ビュー様は私を無下にしませんでした。どうしてそんな方が悲しまなければならないのかと思い、放っておけずに妃を勧めました」

 なるほど、本当に謝罪だけのつもりだったんだ。でも。

「あのときも申し上げました。シル殿下は悪くないと。無下にするつもりははなからございません」
「そうか」

 シルビオは憂いのある笑みをし、私の頬に初めてのキスをした。

「愛しています、ビュー様」

 私の胸には国を救った証として、聖女の勲章が輝いている。
 ふと目に入ったのか、勲章をまじまじと見るシルビオ。その横顔は無邪気な子どものようで、私は二重の愛おしさを感じるのだった。

【完】
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