赤い絨毯

nikata

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後編

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 居ない。
 
 意を決して振り返った先には、ついさっきまで自分たちの居た山がその姿を低くして、遠目から僕たちを見下ろしている。目線を下げると、今しがた僕たちが逃げ延びてきた石畳の道が、その山の麓まで細く真っ直ぐ延びているだけだった。道には自分たちと同じような観光客らしき姿もちらほら伺える。

 本当にどうしたの?熊でも居た?
 
 息を切らしながらそう訊ねてくる彼女が、心配そうな目を僕に向けている。

 いや、ごめん。勘違いかも。

 肩で息をしながらそう口に出してみると、本当に勘違いだったような気がする。だってあまりにもリアルで生生なまなまし過ぎて、そのせいで逆に夢の中に居るような気分にさせたから。なんにせよ、これだけ人通りのある場所まで来れば目下のところは大丈夫だろう。

 とりあえず、休憩がてらどっかの店にでも入ろうか?

 僕も彼女も汗が凄い。背中も胸元も下に着たシャツが張り付いて気持ち悪い。どこか涼しいところに行って一旦気持ちを整理した方が良いだろう。そう思いながら前を向いた。


 あ。


 ロール状に丸まった赤い絨毯が石畳の上に転がっていた。さっき山で見た時よりもずっと近い。ソレがゆっくりと開く。



 ひぃぃぃぃいいいいいいいいいい。


 
 最初はその音が自分の喉から出たものだと気付かなかった。





 気がつくと、見慣れた光景が目の前にあった。部屋。長年暮らしている自分の部屋だった。

 咄嗟にソファーから上半身を起こして室内を見回し、ロール状に丸まった赤いモノが目に入らないことを確認する。案の定そんなモノは見当たらない。

「夢かよ!」

 そう叫ばずにはいられなかった。心臓はまだドキドキしている。寝汗も酷かった。着ているワイシャツが汗で背中に張り付いて気持ち悪い。

 手元に転がっているスマホで時刻を確認すると、二時を少し回った頃だった。状況から察するに、シャワーを浴びてベッドに潜ったことがそもそも夢だったらしい。スマホの検索履歴を見ると『あかいひでかず』と文字が入力されている。多分赤い絨毯の話を調べる前に寝てしまったんだろう。

 ああ。そうか。

 自分も酔っ払ってたのか。

 そう気付くと思わず笑みがこぼれた。

「なにが、ひぃぃぃいい、だよ」

 夢の中とはいえ、あんなダサい悲鳴を女性の前で上げたことが恥ずかしい。というか、夢の中の自分はなんで絨毯如きにあんなにビビっていたのか分からない。

 というか、彼女なんて居ないし。

 そう思うと、彼女が欲しいという願望と、寝る前に調べようとした怪談話がミックスされてあんな夢を見たのかも知れない。

 なんにせよ、ダサい。ダサすぎる。

 この話は誰にも言わないようにしよう。そう心に決め立ちがる。少しふらついた。まだアルコールが残っている気がする。喉が乾いた。水でも飲んでサッと風呂に入ろうか。明日も仕事だし早く寝直さないとヤバい。そう思いながらリビングに向かう。買い置きのミネラルウォーターまだ残ってったっけ?

「あ」

 リビングには何故か見慣れているけど実際には初めて見る、赤いロール状に丸められた絨毯があった。その絨毯が物凄い速さで広がったかと思うとソイツが僕に近づ――
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