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第一章 第一部
暴龍
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誰もが絶望に塗り潰され、《暴龍》の捕食行動をただ眺めているしかなかった。幸いにも、大型の魔獣が数多く倒れていたので《暴龍》はこちらには目も向けず、倒れた魔獣に齧り付いていた。
いち早く、対応したのはジークさんで、護衛の人達を束ね次々に魔導車両へと僕らを乗せていった。
「やあ、一難去ってまた一難とはこのことだね。なんとか皆を乗せることが出来たけど、魔導車両の魔力がゼロときたもんだ。こりゃあ、悪運尽きたかな」
「ジークさんの魔導武具も使えないんですか?」
「アレとは相性が悪くて。、無理だね。万全の状態だったら、また違ったんだけどねえ」
「なら、この魔導車両ですか?これが動けば、逃げ切れるんですか?」
「まあね。ただ、こいつは大食いでね、教会でも誇る魔力量の私とロイドが供給しながら走行するんだけど・・・。まあ、ロイドがあんな状態じゃねえ。さて、どうしたもんかといったところだよ」
部屋に重い空気が流れる。周りを見回しても皆暗い顔を下げ俯いている。そんな中、なぜかジークさんと目があった。何も言わず頷く動作をする彼に僕は悟ってしまった。彼は理解しているのだろう、この先の展開を・・・。
「・・・あ、あのぉ、僕の魔力は使えませんか?」
「ん?ああ、ロイドに魔力の譲渡を成功させたんだだよね?・・・それなら、魔力の波長はあっているのかもしれないね。まっ、ここでうだうだ考えてもしょうがないし、物は試しでやってみますかっ!」
「ち、ちょっとお待ちくださいっ!魔力の譲渡?まさかっ!ロイドとこの平民がっ!」
「悪いけどプリシラ、キミとお喋りをしている時間はないよ。話ならあとでたっぷりと聞くから」
そうして僕は、魔導車両の運転室と呼ばれる部屋へと移動した。そして、部屋の中央にある椅子に座らされた。
「さて、準備はいいかな、アタルくん?ヤバイと感じたらすぐに手を離すこと、いいかい?それじゃあ、行くよ『接続』」
ジークさんが、黒いボタンの様なものを押しながら何か唱えると、僕が握っている筒状のものが青白く光始めた。
「まずは、成功みたいだね。ただ、これの適合者が僕やロイド以外にいるとはね・・・。」
「え、何か言いました?」
「ああ、なんでもないよ。ところで、どこか違和感はないかな?」
「今のところはないですね。ロイドさんの時みたいに力が抜けていく感覚もありませんね」
「なるほどね・・・。それじゃあ発進させようっ!『起動』!」
すると、黒い壁だと思っていたものが突然明滅し、外の風景を映し出した。
「こ、これはっ!」
驚く僕に構わず、ジークさんは取り付けてあった機械を次々と操作していく。
「アタルくんっ!驚くのはまだ早いよっ!」
ジークさんは足で何かを踏み込み、手に握ったレバーをゆっくりと押していった。すると、画面が動き始めた。ゆっくりと動き始めた魔導車両はだんだんとスピードをあげ、周りの景色が目まぐるしいスピードで通り過ぎていく。うぷっ、気持ち悪っ!
「アタルくんっ!周りは見ないで、前だけに集中してっ!」
「う、うぷ。は、はい」
ジークさんの言う通りに前の壁に映された光景を眺めていると、少しだけ気分の悪さが軽減されたような気がしてきた。
「はあ、はあ、な、なんとか大丈夫みたいです」
「よしっ!それじゃあ、全員何かにしがみついてっ!行くぞおおおっ!」
「えっ」
僕はジークさんの言葉で分からなかったが目の前に広がる光景により理解した。そして、物凄い衝撃とバリバリッという音と共に魔導車両が浮き上がった。
「あははははははっ!アイ、キャン、フラァイッ!すごいっ!すごいねえ、アタルくんっ!」
「あ、は、ははは」
なんだよ、アイカン、フライって。何語?
そんなことより我々、空飛んでまっせ!ジークさんなんか壊れてるしっ!てか、若干、この魔導車両前方に回転して、ひいいぃぃぃぃぃっ!
「ゴリワヤっ!」
「ホイサッ!」
ジークさんがゴリワヤさんを呼んだ瞬間、もう一度魔導車両に衝撃が襲った。その衝撃で魔導車両が反対側に傾き始めたところで地面に叩きつけられた。
「おえっ!な、なにが?」
なにが起きているのか、いろんなことが連続して進行していき、思考の処理が追い付かない。一端、整理しよう。まず、魔導車両動きました。で、どんどんどんどん加速して、黒い物にぶつかったような・・・。!ぼ、《暴龍》、《暴龍》にぶつけやがったんだコイツ!で、結界にぶつかった衝撃で《暴龍》が転けて、なんかの拍子に空へ打ち上げられ、ゴリワヤさんが何かをして、地上に戻ってきたと・・・。なんだよ、この一連の高難易度のパフォーマンスは!一個でも破綻したら、魔導車両が壊れていたかもしれないのにっ!
「アタルくん、落ち着いたかい?いろんなキミの表情が見えて、僕としては楽しいんだけどね」
僕は考え事をしていただけだが、どうやらいろんな表情を繰り広げていたようだ。は、はずかしいっ!
「な、なんで、ぶつけたんですか?」
「いやあ、ギリギリを狙って奴を注目させてから、王都まで連れていこうかと。失敗しちゃったけどね」
失敗しちゃったじゃないよ!あんたっ!前の壁、左下半分外の様子が分かんなくなってるし。
「で、どうするんです?この状況」
「あはははは、さすが《暴龍》!まさか、この魔導車両に追い付くとはね。こりゃ、まいったっ!」
現在、魔導車両は《暴龍》の襲撃に逢っている。強烈な体当りに始まり、炎や雷を帯びた攻撃にさらされ続けている。防御結界のおかげで、なんとか走行はできてはいるが、ゴリゴリ魔力が磨り減らされている気がする。ちょいちょいふらっと意識が飛んでいきそうになる。
「アタルくんっ!しっかりっ!もうすぐ王都だっ!頑張れっ!」
ジークさんの声が遠くから聞こえる。魔力を魔導車両に供給し過ぎたせいか、何度も倒れそうになるのをなんとか踏ん張っているところだ。しかし、それを嘲笑うかのように《暴龍》の攻撃は止む気配がなく、ついには防御結界が消失させられていた。ジークさんもわざわざ消えた結界を再構築させるよりも走行のためにエネルギーを使った方がいいと考えたのか、レバーを左右に動かして、なんとか《暴龍》の攻撃を避け続けていた。
それでも《暴龍》の猛威から逃げ切るために急停止、急発進や蛇行したりすれば余計にエネルギーが消費するわけで、供給し続けた僕は地面に突っ伏して倒れていた。僕が倒れると次第に魔導車両は減速していき、やがて停止してしまった。
「も、もう、げ、限界です」
「お疲れさま、なんとか間に合ったようだよ」
減速しているのにも関わらず、《暴龍》が襲ってこないことに疑問を持っていた僕は前方から氷柱を飛ばす女性を見つけ、その疑問が解消された。
「あ、あの人は?」
「俺の天敵、《氷の女王》メイア・バンデスだよ。彼女なら大丈夫って、《土仙人》エドに《風雷坊》フーガまでいんのか・・・えらいお出迎えなことで」
よく見ると、女性の隣には小柄なおじいさんとボロボロの服を着た褐色の男性がたっていた。
「アタルくん、立てるかい?これは、面白いものが見れると思うよ」
「ま、まだ《暴龍》がいます。外に出るのは危険じゃないんですか?」
「そこは、アイツらがなんとかしてくれるさ。逆に、ここにいると危ないんだよね。アイツらの巻添え食らいたくないし。さっ、避難するよ」
「わ、分かりました」
僕は、またお姫さま抱っこをされるのを全力で阻止し、なんとか自分一人でヨロヨロと立ち上って足を引きずりながらも外へと出た。
「あ、アタル。あれ、ヤバくない」
先に外へ出ていたターニャが指差す方へ目を向けると、炎を撒き散らし雷を帯びた尻尾で攻撃を加える《暴龍》。氷で出来た巨大な盾で攻撃を防ぎながら、いくつもの氷の槍を飛ばす《氷の女王》。小槌の様なものを振り回し、土を操って《暴龍》の足を絡めたり、大量の石をぶつけたりする《土仙人》。空を舞い《暴龍》に肉薄しながら、稲妻が迸る拳を叩き込む《風雷坊》。人の限界を超えた人外達の戦いに僕らは唖然と目を奪われていた。
「皆様、ご無事ですか?あとは五天騎士の方々にお任せください。馬を用意してますのでこちらに」
燕尾服に身を包んだ壮年の男性がいつの間にか現れ、避難を促した。これが所謂執事というものだろうか?そんなことを考えていると、誰かに腕を引っ張られ僕はいつの間にか馬に乗っていた。
「じ、ジークさんっ!こ、これはっ!」
僕はジークさんに抱っこされた状態で馬に乗っている。悪夢の再来である。必死に抵抗を試みるが、弱った体力で鍛えられた騎士の力に抗うことはできなかった。
「立っているのもやっとだろ。ここは僕に任せて、行くよっ!あっ、舌噛むかもしれないから暴れず、静かにね♪」
「ばっきゃろおおおおおっ!」
夕陽に染まる王都に僕の叫びが木霊していた。
「さて、外野もいなくなったことだし、いい加減この蜥蜴を始末しましょうか」
メイアは横目でジーク達が去るのを確認すると、魔力に込める圧を強め先程よりも大きな氷の槍を《暴龍》に叩き込んだ。
「フォフォフォフォ!仮にも龍種を蜥蜴とはのぉ。さすがは姫さま、自信家じゃなあ」
「爺や、姫さまは止めてって言ってるでしょ。それに、爺やだって大昔にはあんなヤツ何度も倒してんでしょ?最近、慎重し過ぎじゃない?」
「若いときは勢いだけでいけるからのぉ。年寄りは臆病なんじゃよ」
エドは懐かしむように目を細め、髭を弄った。
「まあ、いいわ。爺や、そろそろ終わらせたいからあそこの格闘バカを回収しといて」
「やれやれ、人使いが荒いわい。よいしょっと、ほほいのほいっとっ!」
エドが小槌を振ると《暴龍》に飛びかかっていたフーガを湧き出た植物が捕らえこちらへ連れてきた。
「す、すまない、夢中、オレの、力、効かない、はじめて、だから、楽しかった、だから、夢中」
「ふぉふぉふぉ!まあ、よいよい。・・・しかし、お主の攻撃が効かぬとはのぉ」
「ほら、そこ。喋ってないで、こっち掩護しなさいよっ!たくっ、呑気なんだからっ!」
メイアは悪態を付きながら、黒く真四角の物体を飛ばした。その物体はフワフワと空を飛んでいくと《暴龍》の頭上でキュルキュルと回転を始める。
「さあ、行くわよっ!《ヘル》」
《ヘル》と呼ばれた真四角の物体は、巨大な魔方陣を展開した。すると、周囲が一瞬にして凍りつき、《暴龍》さえも凍りいてしまい身動きが取れない状態だった。
「はあ。ほんとしぶといわね。普通ならこれだけで倒せるのにっ!じゃあ、本気でいくわよっ!『開放』っ!」
一瞬で辺りは光に包まれた。光がおさまっていくとメイアはいつの間にか氷で出来た防具と剣を身に付けていた。
「いいかげんっ!その顔、見飽きたのよっ!」
メイアは駆けだし、一気に《暴龍》との距離を詰めていく。《暴龍》はそれを眺めながらニヤリと舌を舐めた。
「い、いかんっ!姫っ!逃げるんじゃっ!」
いち早く異変に気づいたエドが声をかけるが時すでに遅く、メイアは《暴龍》を切りつけたあとだった。
「風雷坊っ!姫を回収せいっ!」
エドの叫びとメイアが吹き飛ばされるのは
同時だった。なんとかエドが展開していた土の壁も無惨にも粉々にされ、上空へと舞い上がるメイア。さらにそこへ《暴龍》が放った火の玉が襲いかかる。そこに、無数の鎌鼬が放たれ、火の玉を相殺していく。鎌鼬を放ったフーガは空中を翔んで、打ち上げられたメイア助けていた。
エドが安堵したのも束の間、事態はさらに悪化していた。
「な、なんじゃ。こやつはっ!」
メイアに切られた《暴龍》は脱け殻のように塵となって消え、地面に残る影からは禍禍しいオーラを纏った《暴龍》の片鱗を感じさせる少女が這い出てきた。
『コッコッコッコッ!先程逃げたものも面白いがお前らも面白いなっ!つい、力を出してしまったぞっ!』
「貴様っ!その出で立ち、もしや魔族かっ!」
『ん?なんじゃ、あの半端者と妾を同一視するとはのぅ。・・・なるほど、この世界を理解しておらんようじゃのぅ・・・まあよいか。妾は楽しめたのでそろそろ失礼する』
「ま、まてっ!貴様は、貴様はなんなのじゃっ!」
『ん?貴様は何じゃ。妾がいい気分だというのに、何様じゃっ!』
「ぐあっ!」
いきなり放たれた黒い波動に飲み込まれたエドはその場に血を吐き、尻餅をついていた。エドは、体からは危険信号が出ているかのように身体がガタガタと震えた。
『ふん、まあよい。そうじゃのう、《龍の祖》。そう名乗っておこうかのぉ。では、おさらばえ』
《龍の祖》と名乗った者は影に潜りこみそのまま消えてしまった。
「り、《龍の祖》じゃとっ!な、なにが起きとるんじゃっ!・・・ともかく、今は姫さんを回収しに行くかのぉ」
エドは一つ身震いをしてから服に着いた土を払うとひょこひょこと歩き始めた。
「あの者はなんじゃろうか・・・。一度報告が必要かのぅ。忙しくなりそうじゃのぅ」
途中でフーガが抱き抱える少女を目にし、エドは一先ず安堵した。空を見上げると二羽のカラスが競うように鳴き、夜の始まりを告げていた。
いち早く、対応したのはジークさんで、護衛の人達を束ね次々に魔導車両へと僕らを乗せていった。
「やあ、一難去ってまた一難とはこのことだね。なんとか皆を乗せることが出来たけど、魔導車両の魔力がゼロときたもんだ。こりゃあ、悪運尽きたかな」
「ジークさんの魔導武具も使えないんですか?」
「アレとは相性が悪くて。、無理だね。万全の状態だったら、また違ったんだけどねえ」
「なら、この魔導車両ですか?これが動けば、逃げ切れるんですか?」
「まあね。ただ、こいつは大食いでね、教会でも誇る魔力量の私とロイドが供給しながら走行するんだけど・・・。まあ、ロイドがあんな状態じゃねえ。さて、どうしたもんかといったところだよ」
部屋に重い空気が流れる。周りを見回しても皆暗い顔を下げ俯いている。そんな中、なぜかジークさんと目があった。何も言わず頷く動作をする彼に僕は悟ってしまった。彼は理解しているのだろう、この先の展開を・・・。
「・・・あ、あのぉ、僕の魔力は使えませんか?」
「ん?ああ、ロイドに魔力の譲渡を成功させたんだだよね?・・・それなら、魔力の波長はあっているのかもしれないね。まっ、ここでうだうだ考えてもしょうがないし、物は試しでやってみますかっ!」
「ち、ちょっとお待ちくださいっ!魔力の譲渡?まさかっ!ロイドとこの平民がっ!」
「悪いけどプリシラ、キミとお喋りをしている時間はないよ。話ならあとでたっぷりと聞くから」
そうして僕は、魔導車両の運転室と呼ばれる部屋へと移動した。そして、部屋の中央にある椅子に座らされた。
「さて、準備はいいかな、アタルくん?ヤバイと感じたらすぐに手を離すこと、いいかい?それじゃあ、行くよ『接続』」
ジークさんが、黒いボタンの様なものを押しながら何か唱えると、僕が握っている筒状のものが青白く光始めた。
「まずは、成功みたいだね。ただ、これの適合者が僕やロイド以外にいるとはね・・・。」
「え、何か言いました?」
「ああ、なんでもないよ。ところで、どこか違和感はないかな?」
「今のところはないですね。ロイドさんの時みたいに力が抜けていく感覚もありませんね」
「なるほどね・・・。それじゃあ発進させようっ!『起動』!」
すると、黒い壁だと思っていたものが突然明滅し、外の風景を映し出した。
「こ、これはっ!」
驚く僕に構わず、ジークさんは取り付けてあった機械を次々と操作していく。
「アタルくんっ!驚くのはまだ早いよっ!」
ジークさんは足で何かを踏み込み、手に握ったレバーをゆっくりと押していった。すると、画面が動き始めた。ゆっくりと動き始めた魔導車両はだんだんとスピードをあげ、周りの景色が目まぐるしいスピードで通り過ぎていく。うぷっ、気持ち悪っ!
「アタルくんっ!周りは見ないで、前だけに集中してっ!」
「う、うぷ。は、はい」
ジークさんの言う通りに前の壁に映された光景を眺めていると、少しだけ気分の悪さが軽減されたような気がしてきた。
「はあ、はあ、な、なんとか大丈夫みたいです」
「よしっ!それじゃあ、全員何かにしがみついてっ!行くぞおおおっ!」
「えっ」
僕はジークさんの言葉で分からなかったが目の前に広がる光景により理解した。そして、物凄い衝撃とバリバリッという音と共に魔導車両が浮き上がった。
「あははははははっ!アイ、キャン、フラァイッ!すごいっ!すごいねえ、アタルくんっ!」
「あ、は、ははは」
なんだよ、アイカン、フライって。何語?
そんなことより我々、空飛んでまっせ!ジークさんなんか壊れてるしっ!てか、若干、この魔導車両前方に回転して、ひいいぃぃぃぃぃっ!
「ゴリワヤっ!」
「ホイサッ!」
ジークさんがゴリワヤさんを呼んだ瞬間、もう一度魔導車両に衝撃が襲った。その衝撃で魔導車両が反対側に傾き始めたところで地面に叩きつけられた。
「おえっ!な、なにが?」
なにが起きているのか、いろんなことが連続して進行していき、思考の処理が追い付かない。一端、整理しよう。まず、魔導車両動きました。で、どんどんどんどん加速して、黒い物にぶつかったような・・・。!ぼ、《暴龍》、《暴龍》にぶつけやがったんだコイツ!で、結界にぶつかった衝撃で《暴龍》が転けて、なんかの拍子に空へ打ち上げられ、ゴリワヤさんが何かをして、地上に戻ってきたと・・・。なんだよ、この一連の高難易度のパフォーマンスは!一個でも破綻したら、魔導車両が壊れていたかもしれないのにっ!
「アタルくん、落ち着いたかい?いろんなキミの表情が見えて、僕としては楽しいんだけどね」
僕は考え事をしていただけだが、どうやらいろんな表情を繰り広げていたようだ。は、はずかしいっ!
「な、なんで、ぶつけたんですか?」
「いやあ、ギリギリを狙って奴を注目させてから、王都まで連れていこうかと。失敗しちゃったけどね」
失敗しちゃったじゃないよ!あんたっ!前の壁、左下半分外の様子が分かんなくなってるし。
「で、どうするんです?この状況」
「あはははは、さすが《暴龍》!まさか、この魔導車両に追い付くとはね。こりゃ、まいったっ!」
現在、魔導車両は《暴龍》の襲撃に逢っている。強烈な体当りに始まり、炎や雷を帯びた攻撃にさらされ続けている。防御結界のおかげで、なんとか走行はできてはいるが、ゴリゴリ魔力が磨り減らされている気がする。ちょいちょいふらっと意識が飛んでいきそうになる。
「アタルくんっ!しっかりっ!もうすぐ王都だっ!頑張れっ!」
ジークさんの声が遠くから聞こえる。魔力を魔導車両に供給し過ぎたせいか、何度も倒れそうになるのをなんとか踏ん張っているところだ。しかし、それを嘲笑うかのように《暴龍》の攻撃は止む気配がなく、ついには防御結界が消失させられていた。ジークさんもわざわざ消えた結界を再構築させるよりも走行のためにエネルギーを使った方がいいと考えたのか、レバーを左右に動かして、なんとか《暴龍》の攻撃を避け続けていた。
それでも《暴龍》の猛威から逃げ切るために急停止、急発進や蛇行したりすれば余計にエネルギーが消費するわけで、供給し続けた僕は地面に突っ伏して倒れていた。僕が倒れると次第に魔導車両は減速していき、やがて停止してしまった。
「も、もう、げ、限界です」
「お疲れさま、なんとか間に合ったようだよ」
減速しているのにも関わらず、《暴龍》が襲ってこないことに疑問を持っていた僕は前方から氷柱を飛ばす女性を見つけ、その疑問が解消された。
「あ、あの人は?」
「俺の天敵、《氷の女王》メイア・バンデスだよ。彼女なら大丈夫って、《土仙人》エドに《風雷坊》フーガまでいんのか・・・えらいお出迎えなことで」
よく見ると、女性の隣には小柄なおじいさんとボロボロの服を着た褐色の男性がたっていた。
「アタルくん、立てるかい?これは、面白いものが見れると思うよ」
「ま、まだ《暴龍》がいます。外に出るのは危険じゃないんですか?」
「そこは、アイツらがなんとかしてくれるさ。逆に、ここにいると危ないんだよね。アイツらの巻添え食らいたくないし。さっ、避難するよ」
「わ、分かりました」
僕は、またお姫さま抱っこをされるのを全力で阻止し、なんとか自分一人でヨロヨロと立ち上って足を引きずりながらも外へと出た。
「あ、アタル。あれ、ヤバくない」
先に外へ出ていたターニャが指差す方へ目を向けると、炎を撒き散らし雷を帯びた尻尾で攻撃を加える《暴龍》。氷で出来た巨大な盾で攻撃を防ぎながら、いくつもの氷の槍を飛ばす《氷の女王》。小槌の様なものを振り回し、土を操って《暴龍》の足を絡めたり、大量の石をぶつけたりする《土仙人》。空を舞い《暴龍》に肉薄しながら、稲妻が迸る拳を叩き込む《風雷坊》。人の限界を超えた人外達の戦いに僕らは唖然と目を奪われていた。
「皆様、ご無事ですか?あとは五天騎士の方々にお任せください。馬を用意してますのでこちらに」
燕尾服に身を包んだ壮年の男性がいつの間にか現れ、避難を促した。これが所謂執事というものだろうか?そんなことを考えていると、誰かに腕を引っ張られ僕はいつの間にか馬に乗っていた。
「じ、ジークさんっ!こ、これはっ!」
僕はジークさんに抱っこされた状態で馬に乗っている。悪夢の再来である。必死に抵抗を試みるが、弱った体力で鍛えられた騎士の力に抗うことはできなかった。
「立っているのもやっとだろ。ここは僕に任せて、行くよっ!あっ、舌噛むかもしれないから暴れず、静かにね♪」
「ばっきゃろおおおおおっ!」
夕陽に染まる王都に僕の叫びが木霊していた。
「さて、外野もいなくなったことだし、いい加減この蜥蜴を始末しましょうか」
メイアは横目でジーク達が去るのを確認すると、魔力に込める圧を強め先程よりも大きな氷の槍を《暴龍》に叩き込んだ。
「フォフォフォフォ!仮にも龍種を蜥蜴とはのぉ。さすがは姫さま、自信家じゃなあ」
「爺や、姫さまは止めてって言ってるでしょ。それに、爺やだって大昔にはあんなヤツ何度も倒してんでしょ?最近、慎重し過ぎじゃない?」
「若いときは勢いだけでいけるからのぉ。年寄りは臆病なんじゃよ」
エドは懐かしむように目を細め、髭を弄った。
「まあ、いいわ。爺や、そろそろ終わらせたいからあそこの格闘バカを回収しといて」
「やれやれ、人使いが荒いわい。よいしょっと、ほほいのほいっとっ!」
エドが小槌を振ると《暴龍》に飛びかかっていたフーガを湧き出た植物が捕らえこちらへ連れてきた。
「す、すまない、夢中、オレの、力、効かない、はじめて、だから、楽しかった、だから、夢中」
「ふぉふぉふぉ!まあ、よいよい。・・・しかし、お主の攻撃が効かぬとはのぉ」
「ほら、そこ。喋ってないで、こっち掩護しなさいよっ!たくっ、呑気なんだからっ!」
メイアは悪態を付きながら、黒く真四角の物体を飛ばした。その物体はフワフワと空を飛んでいくと《暴龍》の頭上でキュルキュルと回転を始める。
「さあ、行くわよっ!《ヘル》」
《ヘル》と呼ばれた真四角の物体は、巨大な魔方陣を展開した。すると、周囲が一瞬にして凍りつき、《暴龍》さえも凍りいてしまい身動きが取れない状態だった。
「はあ。ほんとしぶといわね。普通ならこれだけで倒せるのにっ!じゃあ、本気でいくわよっ!『開放』っ!」
一瞬で辺りは光に包まれた。光がおさまっていくとメイアはいつの間にか氷で出来た防具と剣を身に付けていた。
「いいかげんっ!その顔、見飽きたのよっ!」
メイアは駆けだし、一気に《暴龍》との距離を詰めていく。《暴龍》はそれを眺めながらニヤリと舌を舐めた。
「い、いかんっ!姫っ!逃げるんじゃっ!」
いち早く異変に気づいたエドが声をかけるが時すでに遅く、メイアは《暴龍》を切りつけたあとだった。
「風雷坊っ!姫を回収せいっ!」
エドの叫びとメイアが吹き飛ばされるのは
同時だった。なんとかエドが展開していた土の壁も無惨にも粉々にされ、上空へと舞い上がるメイア。さらにそこへ《暴龍》が放った火の玉が襲いかかる。そこに、無数の鎌鼬が放たれ、火の玉を相殺していく。鎌鼬を放ったフーガは空中を翔んで、打ち上げられたメイア助けていた。
エドが安堵したのも束の間、事態はさらに悪化していた。
「な、なんじゃ。こやつはっ!」
メイアに切られた《暴龍》は脱け殻のように塵となって消え、地面に残る影からは禍禍しいオーラを纏った《暴龍》の片鱗を感じさせる少女が這い出てきた。
『コッコッコッコッ!先程逃げたものも面白いがお前らも面白いなっ!つい、力を出してしまったぞっ!』
「貴様っ!その出で立ち、もしや魔族かっ!」
『ん?なんじゃ、あの半端者と妾を同一視するとはのぅ。・・・なるほど、この世界を理解しておらんようじゃのぅ・・・まあよいか。妾は楽しめたのでそろそろ失礼する』
「ま、まてっ!貴様は、貴様はなんなのじゃっ!」
『ん?貴様は何じゃ。妾がいい気分だというのに、何様じゃっ!』
「ぐあっ!」
いきなり放たれた黒い波動に飲み込まれたエドはその場に血を吐き、尻餅をついていた。エドは、体からは危険信号が出ているかのように身体がガタガタと震えた。
『ふん、まあよい。そうじゃのう、《龍の祖》。そう名乗っておこうかのぉ。では、おさらばえ』
《龍の祖》と名乗った者は影に潜りこみそのまま消えてしまった。
「り、《龍の祖》じゃとっ!な、なにが起きとるんじゃっ!・・・ともかく、今は姫さんを回収しに行くかのぉ」
エドは一つ身震いをしてから服に着いた土を払うとひょこひょこと歩き始めた。
「あの者はなんじゃろうか・・・。一度報告が必要かのぅ。忙しくなりそうじゃのぅ」
途中でフーガが抱き抱える少女を目にし、エドは一先ず安堵した。空を見上げると二羽のカラスが競うように鳴き、夜の始まりを告げていた。
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