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第16話

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私、高宮千沙は高校生になった時に魔法少女になった。

 私の他にも莉緒と菫も私と同じ魔法少女だ。

 何でこの三人になったのか、と思ったんだけど、どうやらたまたまらしい。

 この魔法少女は歴代から受け継がれているらしい。
 
 魔法少女は大人にはなれなくて、高校生がちょうど良いらしい。

 歴代が今どうなっているのか分からない。

 だけど幸せに暮らしているらしい。

 ほとんどが聞かされた話だから、らしい、がほとんどなんだよね。

 魔法少女になって最初は合体技を出しとけば全部の戦いには勝っていた。

 だけど急に勝てなくなってしまった。

 魔法と精神状態がリンクしていて、莉緒がお父さんとの関係で魔法が出ないことがあった。

 そして大ピンチが訪れた。

 莉緒のお父さんが怪人化になってしまって、そこでどれだけ頑張っても合体技が出来なくて諦めようとしたらあいつが出てきた。

 宇野章大だ。

 あいつのことを初めて知ったのは、部活の時間に途中で教室に水筒を取りに行った時だ。

 あいつは教卓で寝ていてすごく慌てて誤魔化していた。

 変な奴だな~と思った、そして変わらず変な奴だな~と思っている。

 なんかずっと自分のこと王だと思ってるし、自分のこと余って言ってるし、誰に対してもタメ口だし、でも学校には毎日休まず来てるし。

 不良ではないはず…

 そんな宇野が、私たちが合体技が出なくて困っていたら助けに来てくれた。

 助けに来てくれたのかは分からないけど。

 でも、私たちは助かったんだから助けに来た、で良いと思う。

 とにかく宇野はヤバかった。

 これは多分私の語彙力の問題ではなく、ヤバいとしか表現できないからである。

 莉緒の魔法が出なくて私と菫で時間稼ぎをした時には、手も足も出なかった。

 なのに宇野は時間稼ぎどころか、莉緒のお父さんも救い出してみせた。
 
 怪人化からの攻撃を何度も受けたが、スッと立ち上がってまた向かって行った。

 私たちは魔法少女だから攻撃をなんとか耐えていたけど、あいつは何で?

 普通はあんな攻撃を受けたらただでは済まされないのに。

 元々変な奴だったけど余計に変な奴だと思った。
 
 そんな宇野は最近莉緒と仲が良い。

 宇野が莉緒のお父さんを救い出してからだと思う。

 仲が良いとはちょっと違うな、莉緒が宇野に懐いたって方が合ってるのかな。

 莉緒は私たちとかクラスのみんなには無邪気なんだけど、宇野と接する時はなぜか世話焼きになってしまっている。

 完全に宇野のお母さんになりきっている。

 お母さんではないのに過保護で、やり過ぎじゃない?と思っている。
 
 だって、「一人でトイレに行ける?」とか「今日もちゃんと学校に来て偉いね」とか「今日の夜は冷えるからちゃんと温かくして寝るんだよ」とか、もう完全にお母さんである。

 宇野はそういうのが嫌いだからずっと怒っている。

 今はそんな宇野と、学校の授業で校外にいる。

 地域のボランティア活動でグループに分かれてゴミ拾いしているだが、宇野と同じグループになってしまった。

「ねぇもうそっちは良いからこっち来て」

「余に命令するな」

 不安しかない。

 
 ~数時間前の出来事~

「じゃあ今から校外に出てゴミ拾いするんだけど、グループはこっちで分けておいたから、確認してね」

 担任の先生が作ったグループ分けが書かれている紙を黒板に貼り出した。

 全部で4グループで分けられている。

 莉緒と菫は一緒だったけど、私は違った。

 グループで範囲も違うから会うことはまず無いからちょっと寂しい。

 だけど他のクラスメイトと仲良くなれるチャンスだから頑張ってみる。

「ねぇ宇野くん。私がいなくて大丈夫?」

「余をなんだと思っているのだ」

 本当にこの二人仲良くなったよね。

 で、宇野はどのグループにいるんだろ?

 げ、私と同じグループなんだけど。

 本当に宇野は変な奴だから変な行動を起こすから苦手なんだよなぁ。

 せめて莉緒がいれば宇野を任せることが出来たのに。

「確認できた?じゃあ行くよー」

 ***

 グループで範囲内の中でゴミ拾いをする。

 ある程度きれいになったら少し場所を移動をするんだけど、宇野は徹底的に一ヶ所をきれいにしようとしている。

「ねぇもうそっちは良いからこっち来て」

「余に命令するな」

 で、今に至る。

 めんどくさい、本当に自分のことを王だと思っているのかな?

「みんな行っちゃうよ」

「余はここから動かん」

 はぁ~なんでこいつなんかと同じグループになってしまったんだろう。

「莉緒に言ってやる」

 ピタッ

 宇野は完全に止まった。

 宇野はただ一点を見つめて微動だにしない。

 多分宇野は葛藤をしている、命令を聞くのか、莉緒にチクられるのか。

「っ次の場所はどこなのだ?」

 あ、そんなに莉緒にチクられるのが嫌だったのか。

「次はこっちだよ」

 私は宇野を引き連れ次の場所へと移る。

 ザワザワッ

 次の場所に着くと囲みが出来ていて、そこには警察もいた。

「おい、そこから一歩も動くなよ。動いたらこの子供の命は無いと思えよ」

 40代くらいのガタイの良い男が女児に刃物を向けて人質に取っていた。

 え?こんなドラマみたいなことが現実に起こることあるんだ。

「おかあさーん」

「美紀っ」

 女児のお母さんらしき人が叫ぶ。

「おい、ガキうっせぇぞ」

 男はさらに刃物を近づける。

 やばい、早く魔法少女に変身して助けに行かないと。
 
「おい、そこ足が邪魔だ。ゴミが拾えないだろ」

「なにをやっているんだ君は」

 宇野は囲いの中にまで入って行き、ゴミを拾っている。

 宇野はなにやってんの?

 周りが見えてないの?ゴミ拾いに集中し過ぎだから。

 しかも足どけろって言ったの警察の人なんだけど。
 
「なにやってんだお前、これ以上近づくなよ。近づたらお前の命も無いぞ」

「あ?」
 
 宇野は男の方向へ歩いて近づいて行く。

 それでも距離はかなりある。

「君、それ以上行くな」

 警察が宇野を止めようと声をかけるが宇野は止まらない。

「これ以上近づくなって言ってるだろ」

「余に命令するな」

 ダッ

 え?消えっ

 ドォォォォン

 目で追うことが出来なかった。

 だけど次の瞬間、宇野は男の顔面を鷲掴みをして地面に叩きつけていた。

 男は完全に気絶していて、人質に取られていた女の子は解放された。

「うわーん、おかあさーん」

「美紀」

 女の子は解放されてお母さんのところへ走って行き女の子のお母さんは女の子を抱きしめる。

「君、怪我はないか?」

「余が怪我するはずないだろ」

 宇野は警察に怪我がないか確認されていた。

 宇野は警察だろうと上から目線とタメ口をやめない。

 ていうか、さっきのなに?

 明らかに人間の速さ超えてたよ、動き出した時消えたと思ったもん。

 宇野って本当に人間なの?

 宇野って何者?

「またおにいちゃんが助けてけてくれたんだね」

「またお前か」

「おにいちゃんありがとう」

「あ、ありがとうって言うな」

 すっごく変な奴なのは分かった。
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