【完結】恋は、友とビールとおいしい料理と

桜井涼

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第1章 香奈子編「私があなたに惹かれた理由」

8.優しさの理由

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海岸沿いを走らせながら、若だんなは名所となる素敵な景色のことを昔話を交えながら話してくれた。小一時間走ったところで、

「さっき話したおいしいコーヒーの店があるんですけど、寄りませんか?」
「喉が渇いていたのでお願いしたいです」
「それはすみませんでした。コンビニとかでもコーヒーは買えるんですけど、この店のコーヒーは一味違っていて、オレ気に入っているんです。」
「若…、えっと涼太郎さんのおすすめならぜひ!」
「好みってあります?」
「私はカフェラテが好きで。ほとんど毎日それです」
「甘いのが好きなんですね。なんかブラックしか飲まないのかと思ってました」
「えっ?なぜです?」
「バリバリのキャリアウーマンなのかなって思ってたんで」
「違いますよ~。仕事は好きですけどバリバリではないです」
「でも、カフェラテ好きな人でよかったです。オレもブラックがダメでいつもカフェラテなんで。店の人にからかわれてます。でもここのコーヒー、本当においしいんで」
「若…涼太郎さんが甘いの好きなんて意外でした。」

思わず、くすっとしてしまった。イメージしていた若だんなとは違っていることがどんどん見えてきたから。

「意外?人なんてイメージだけで決めつけてしまうんですよね。香奈子さんもそういうタイプの人でしたか…」
「私は、毒舌な若だんなという顔しか知らなかったから、なんていうか…、ギャップ萌えしたような感じなんですよね」
「萌えたんですか?面白い答えですね。さあ着きましたよ」
「……」

朝からすごくいい雰囲気だったから照れた顔が見たくて恥ずかしさを我慢して言ったのに、相変わらずの反応で拍子抜けしてしまった。
ただ、こんな軽口が利けるくらい自分が復活してきていることの方がうれしかった。

そんなことを考えていたら、若だんなはさっさと車を降りて行ってしまっていた。私も慌ててあとに続く。店の前で若だんなは私が来るのを見計らっていたかのように、ドアを開けてくれた。それがとてもスマートで押しつけがましさなんかなくて。私もすっと入りやすかった。きっと若だんなが優しい物腰の言い方をする人ならこんなには驚かない。あの口の悪い若だんなだからこその驚きだった。

店の中に先に入った私は、中をぐるっと見渡した。南国風ではあるけど、スッキリとまとまりのある店内。木製のテーブルやカウンターがとてもきれいで、椅子も背もたれが低めなカフェスタイル。店の左側にはテラス席があって、海を見ながらコーヒーを楽しめる、そんな店だ。

「いらっしゃいませって、涼ちゃんじゃない。おはよう。」
「おはよう。今日はさ、お客さんを連れてきたからテラス席で。」
「涼ちゃん、朝から彼女とデート?」

ショートヘアでかわいい店員さんと若だんなが話している。どうやら若だんなの知り合いがやっているカフェのようだ。

「ばっ、か違うよ。」
「え~そうじゃないの?ロングヘアの女性だからてっきり…」
「もうそれ以上言うな。あとカフェラテ2つ。テラス席で頼むよ」
「うちの開店時間知ってるよね、まだ時間前なんだけど」
「うちのお客さんなんだけど、明日には帰ってしまうから、どうしてもここのコーヒーを飲ませたかったんだよ」
「そうなの!うれしいわぁ、そういうことならOKよ。テラス席へどうぞ。」
「あやちゃ~ん、ご案内してちょうだい」
「は~い」
「こちらへどうぞ」

テラス席へと案内されて、そこから見た景色は、何とも言えなかった。波が朝日でキラキラしているのはもちろんなんだけど、海の色合いが旅館で見た色とは違ってきれいな青緑だった。テラス席にはプランターで花が植えられているのだけど、海風に揺れる花が心地よさを余計に感じさせてくれた。

「涼太郎さん、ここのお店の常連さんなんですか?」

若だんなは海がよく見える席の椅子を引いて私に座るように促した。私が座ると、若だんなは向かいの椅子に腰をかける。彼が席についてすぐ聞いてみた。

「小中学校の同級生で、お互いUターンなんですよ。だから、いろいろ協力し合っているというだけです」
「そうなんですね」
「協力って大事ですよね」
「それよりここのテラス席、どうですか?」
「私、好きです。東京じゃあこんな素敵な景色が楽しめるところなんてないですから」
「喜んでもらえてよかったです」
「私、ここ好きです。ずっと見ていたくなるような気がしていて。時間もゆっくり流れている気がして…」
「あ~、泊まりに来るお客さんは皆さんいいますよ、島時間なんて言う人もいるくらいですから」

若だんなから視線を外して、寄せては返す波の風景に焦点を合わせた。波の音を聴いていたら、本当に時間がゆっくりと私の心を撫でるように、呼吸を合わせているかのようにゆっくりと流れているように感じてしまう。

その時ちょうど、カフェラテが運ばれてきた。

「お待たせいたしました~。カフェラテです」
「わぁ、かわいい!」
「そうでしょ。絶対に香奈子さんが喜ぶと思ったんだ」

テーブル席に運ばれてきたカフェラテは、ハートに表情があるものだった。優しさの溢れる笑顔のもの。若だんなのものにはたくさんのリーフが施されている。
もう飲むのがもったいないくらいの出来栄えだ。スマホを出してすぐに写真を撮ったが、インスタにはアップできない。

「こんなに素敵なのに、インスタにアップできないなんて…」
「インスタだけがすべてじゃないですよ、でもまぁ後日載せればいいんじゃないですか」
「そうですね、でも、私だけの宝物にします。一人で来た記念に」
「また来たらいいじゃないですか」
「……」

そういう若だんなの言葉に何にも言えなかった。コーヒーを一口飲む。そして、少しだけ考えてみた。
私は明日東京に戻る。明日東京に戻ったら、私には私の生活が待っている。また、この島に遊びに来ることなんてあるのだろうか。もし…そう思ったら何も言うことができなくなった。
そこからは、お互い話すこともなく、二人で黙って飲んで、海を眺めての繰り返しだった。

「香奈子さん、そろそろ行きませんか。服屋の開店時間が近いですよ」
「そうですね、行きましょうか」
そういって席を立った。私よりも先に立った若だんなはさっとテーブル上の伝票を持っていってしまう。

「ちょっと待って、私の分…」

お財布を取り出して若だんなの後を追いかける。

「ここはオレが誘ったんでいいですよ」
「私、おごってもらうようなこと、してませんし」
「じゃあ、ランチの後の飲み物をおごってください」
「…、わかりました。そういうことなら、ごちそうになります」
「おいしい物を飲むと元気出ますよね、香奈子さんがおいしそうな顔をしてくれたんで良かったです」

若だんなはまた自然とドアを開けて私を出してくれた。いつも思うけど、絶妙なタイミングでドアを開けたり、座りやすいように席を引いてくれたり、車のドアを開けたりしてくれる。すごく手馴れているように感じた。

この時もまた助手席のドアを開けてくれていた。そっと振り返って後ろの席を見る。結構きれいそうに見える。彼はなぜ私を助手席に乗せるのだろう。
車に乗り込んだ若だんなに聞いてみた。

「あの、どうして私を助手席に乗せるんですか?涼太郎さんのところのスタッフさんも助手席に乗せてるって言ってましたし。」
「後ろは釣りをするお客さんを乗せるんで魚臭いというか、海の匂いとかが強く付くんですよ。香奈子さんを見たとき、東京から来た人かなって思ったから、そういうの嫌がるかと思って、ただそれだけです」
「そうですか…そうですよね、私お客ですもんね。涼太郎さんはプロなんですね、さすが!」

そう言われてちょっとチクっとした。


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