【完結】恋は、友とビールとおいしい料理と

桜井涼

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第3章 理子編「あなたのくちびるで甘やかして」

7. 二重人格ですか?

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重なったくちびるに熱を感じた私は我に返った。なんてことをしたのだろう!そう思った瞬間、自分のしたことが彼への冒涜だと思わずにはいられなかった。
自分からくちびるを重ねたくせに、彼を突き放してその足で部屋の中へ戻り、バッグを持つと彼の部屋を出た。

駅まで走り、着いた電車に飛び乗った。酔っていたとはいえ、とんでもないことをしたと後悔した。私は好意を見せて優しくしてくれた彼に付け込んだようなものだ。どうしてあんなことを自分からしてしまったのだろう。きっと、雄介さんは今頃傷ついているに違いない。
そう思っていても電話を掛けたり、LINEしたりすることはできなかった。
幸い、翌日が日曜日で顔を合わせなくて済んでよかったと思っていた。家に帰って1日頭を冷やそう、そう思った。

夜も朝も着信とLINEのメッセージがきていた。自分が悪かったと雄介さんは思っているみたい。でも、現実にあの時、私の方から彼のくちびるに近づいた。柔らかそうで触れたいと思ってしまったから。これが恋を抱くということなのかとも思ったけど、衝動的にしてしまった現実は変えられない。
LINEには、「本当にすみませんでした。私が悪かったです」とだけ返した。明日には出社しなければならない。どうか、どうか雄介さんのチームには配属になりませんように。そう願って重い日曜を過ごしていた。


月曜日、雄介さんとなるべく顔を合わせたくたいなと思う反面、また一緒に過ごしたいと思う二極の気持ちをカバンにしまい込んで出社した。
今回研修に行っていた全員が本社勤務となった。だから、みんな同じ部署とはならないはず。だけど辞令を見て愕然とした。雄介さんと同じ営業部と書かれていたからだ。雅も同じだったのでそこはホッとしたが、問題はここからだった。チームが分かれているだけでなく、2人1組のバディを組むことになっている。最初のうちは先輩社員と組むことになる。それが誰なのかというところなのだ。
部長について営業部に行くと、雄介さんがデスクにいるのが見えた。こちらに気づいていない。

「今日付けで配属になった、上田雅(みやび)さんと、水野理子(りこ)さんだ。今日からうちの部の仲間だ。みんなよろしく頼むよ」
「よろしくお願いいたします。」

そう言って雅と共に頭を下げると、無機質な顔の雄介さんがいた。怒っているような表情にも見える。どうしよう。そう思うと急に汗が出てきた。

「上田さんは村瀬と組んで、水野さんは青木と組んでやってもらおう。おい、村瀬・青木、ちょっと来てくれるか」
「部長、ちょっとよろしいですか」
「吉住課長どうした?」

他の人とバディを組むことになっていて安心した。しかし、雄介さんが部長に話をしていることが気になる。まさか、なんてことはない…よね。
部長と雄介さんが戻ってきて。

「水野さん、悪いけど青木じゃなくて吉住課長と組んでもらうことにするわ。青木悪いな、ごめん」
「えっ!なぜですか?」
「いや、研修の結果を考慮して選んだつもりなんだが、もう少し経験を積んだ上司と組んだ方がいいと思ってな」
「そうですか…」
「じゃ、それぞれ仕事の打ち合わせをして、今日から2人で出てもらう」
「はい」

そうして、雅は村瀬さんと私は雄介さんとそれぞれミーティングルームで打ち合わせをすることになった。

「水野さんの席はここだから、荷物を置いたらAルームに来て」

この休みの間に聞いていた優しい声ではない吉住課長という名の知らない人の声だった。

「はい、すぐに行きます」

そう答えてすぐに荷物を置き、筆記用具を持って吉住課長の後を追った。
怒って当然だよね。ちゃんと謝って誤解を解かなきゃいけないと思ってミーティング前に話そうとした。
ドアをノックして、「失礼します」と言って中に入った。座る前にまずは謝ろうと思ってすぐに「土曜日は本当にごめんなさい。私が悪かったんです。雄介さんは何も悪くありませんから」と言った。
顔を上げると、怒ったような表情の雄介さんがこう言った。

「お前、ここに遊びに来ているのか?今は仕事の時間だ。浮かれてるな!」
「はい!すみません」
「研修で上司を名前で呼べと習ったのか?」
「いえ、違います」
「苗字に役職をつけて呼ぶと習っただろう」
「はい、以後気をつけます」

頭の中は訳がわからない状態で、あの優しい雄介さんはどこに?仕事中だから?とちょっとプチフリ状態で話がほとんど入ってこなかった。
あの優しさ全開の雄介さんは幻?それとも二重人格?そう思えてならなかった。

車に乗って病院まわりをするときも、道に慣れるまで吉住課長が運転をして私のことを紹介してくれるけど、きちんと挨拶ができないと車の中で怒られたりするものだから、本当に疲れてしまった。

5時過ぎに本社に戻り報告書を書いていると雅が話しかけてきた。

「どうだった?彼氏との楽しいドライブは?」
「彼氏じゃないよ。付き合ってないもん。それより彼は二重人格なの?私、訳がわからなくて…」

その時だった。

「水野、報告書できたのか?」
「あともう少しです」
「出来たら持ってこい」
「はい」

そのやり取りを見ていた雅は「仕事モード全開なだけじゃん。大丈夫よ」そう言うと席に戻っていった。
何とかフォーマットに収めて報告書を書き終えたときは、6時になっていた。慌てて吉住課長のところに持っていくと睨まれた。

「なんだこれは!もっと書くことがあるだろう、訪問した病院も何件か抜けてる!」
「すみません」
「書き直して再提出」
「はい」

そう言われてしまった。雅とご飯の約束をしていたが、とても行けそうにないと断った。7時半を過ぎてやっとOKが出たところで残っているのが私たち2人だけだと気がついた。
残っているとまだ何か言われそうでそそくさと帰り支度をし、「お先に失礼します。お疲れさまでした」と言って急いで部署を出た。

付き合わなくて正解だったのかも、私に恋愛は無理だ。恋のことなんてわからない。今は仕事に集中するときなんだろうし、上司と付き合うとか無理なんだよ。と自分を言い聞かせた。
エレベーターに乗ろうとしたとき、いつの間にか吉住課長もいたようで、何事もなかったかのように乗り込んできた。無言で2人きりなんてバツが悪い、というか顔を合わせづらい。
課長はB1を押した。車で来ているらしかった。私は1階で降りるから階が違うだけでも安心というもの。そう思っているうちに1階についた。「お疲れさまでした」と言ってエレベーターを降りようとしたら、後ろから腕を掴まれ、そのまま中に戻されてしまった。よろけたところを吉住課長が支え抱きしめられ…。その間にドアは閉まり、バックハグされた状態のまま、また2人きりになってしまった。
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