【完結】恋は、友とビールとおいしい料理と

桜井涼

文字の大きさ
22 / 28
第3章 理子編「あなたのくちびるで甘やかして」

9. 同棲できないのは…

しおりを挟む
長い間、自分をこんなふうに大切に扱ってくれる人を、私は探していた…。
心からそう思えるようになって、自分の想いに向き合うことにした。そうしたらどうだろう、素直に自分と雄介さんの想いを受け入れるようになっていった。
私たちの恋が始まってから3年。私は雄介さんと仕事でもプライベートでもパートナーとして日々を送っていた。

仕事での雄介さんは、良いところは褒め、悪いところは叱るというスタンスは変わることがなかった。一緒にいることが多い私たちを見て「付き合っているのでは?」という噂がたったこともあったけど、社内・勤務時間中は上司と部下としての領域を超えることが全くなかったので、そういったうわさもすぐに消え、疑われることはほとんどなくいなっていた。雅だけは私たちのことを知っているが黙ってくれている。

雄介さんは、会社では上司らしく振舞っているが、プライベートタイムに入った途端に私を甘やかすところは変わっていない。お互いの呼び方も「ゆう・理子」となるのに時間はかからなかった。
その上、料理も家事も私よりずっと上手ときている。上げ膳据え膳状態に私はすっかり甘え、慣れてしまうというあまり良くない沼にハマってしまって抜け出せないようになってしまった。

夕食が終わり、ソファーに座って仕事で使えそうな論文を読んでいた。彼はキッチンで手際よく食器を洗っている。

「なあ、理子。そろそろうちに引っ越してこないか?」
「え~、まだいいよ」
「もう一緒に住んでいるようなものだし、そろそろいいかな…と思うんだけど」
「ゆうってばしつこい。私は自分だけの空間が必要なの。」
「じゃあもう少し広いところに引っ越そうよ。お互いの部屋を持てるようにさ」
「う~ん」
「内見とかしてみようよ」
「わかったよ~。そんなに言うなら見に行くだけね」
「やった!良さそうなの探しとく」

雄介はとてもうれしそうだ。私は一緒に住んでもいいとは思っている。だけど、この恋がいつまで続くかわからない。ある日突然終わってしまうなんてことがあるかもしれない…。この3年間、こんな思いが私の後ろをついて回っていたのだ。

別れが来てしまったら、私はきっと立ち直れない。それくらい心が雄介で一杯になっていて、他の人が入る余地なんてないほど。それが急に空っぽになってしまったら…。昔の私にはもう戻れない。
その時のための最後の砦が自分のアパートだった。


雄介に連れられて土日はマンションから一戸建てまで内見のオンパレード。確かに良い物件はいくつかあったし、気に入ったところもあった。でも私について回る不安はかき消せない。結婚の話が出たこともないし、彼に聞いてみたこともない。

雅には、「絶対に結婚の話を理子から仕掛けちゃだめよ」と念を押されていた。男の人は結婚の話をすると逃げたくなるらしい。私は1日でも長く、2人でいたいと思っていたから。雅に言われたことは守っていた。

「ねえ、理子はどれが良かった?」
「うん、リビングが広かったマンションかな。セキュリティもしっかりしていたし。ベランダもあったし」
「やっぱり!ベランダはマストだと思ってたんだ。良かったよなぁ」

雄介は気に入った様子で、内見で撮影してきた写真を何度も見ていた。
その時、雄介の電話が鳴った。

「あれ?部長から電話きた。ちょっと出るね」
「うん」

そう言うと廊下に出て何やら話をしている。

5分くらいたったころ、電話が終わった雄介が戻ってきた。ソファーに座って黙っている。
「どうしたの?」と聞いても何やら難しい顔をして、「何でもない」というだけ。何か悩んでいるのは見てわかる。こんな時、しつこく聞いても逆効果なことはわかっていたので、ソファーの端に座って、本を読みながら待つことにした。

そのうち、私の膝に頭を乗せてごろんと横になって、下から私を見上げるようにしてきた。

「悩み終わった?」
「ううん、まだ」
「そっか、私帰った方がゆっくり悩めるかも」
「だめ、今日は帰らないで。一緒にいて」
「いいの?大丈夫?」
「理子がいない方が嫌だから」
「わかった、泊まっていく」

そう言うと、雄介は私をぎゅうっと抱きしめた。


翌日、起きるとベッドには私しかいなくて、彼を探すとテーブルにメモがあった。
「理子、おはよう。早朝ミーティングで先に出るね。朝ごはん作ってあるから食べて!」
テーブルにはベーコンエッグとサラダが出ていた。キッチンにはワカメとジャガイモのおみそ汁が用意してあった。
昨日、部長からの電話が関係していることはわかっていた。ただ、何に悩んでいるかがわからない。心がモヤモヤして仕方がないので、雄介が用意してくれた朝食をサッと食べ、身支度を整えると、急いで家を出た。
居ても立っても居られないとはこのことだと思ってしまう自分がいた。しかし茶化しているわけではなく、何らかの警鐘が鳴っているような気がしてならなかった。

会社には普段よりも30分も早く着いてしまった。ミーティングルームAで話をしている様子が見える。声は聞こえないが、いつにも増して雄介の顔が複雑さを帯びているのがわかる。私は自分のデスクに着くと、仕事の資料を読んでいるふりをしながら、雄介が出てくるのを待った。

出社してきた社員たちが増えてきた。それを見たせいか、ミーティングルームから2人が出てきた。

「じゃ吉住課長、福岡支社の件を前向きに考えてほしい」
「はい、わかりました」

私は下を向いて資料に目を通しているふりをしたが、はっきりと聞こえた。福岡支社の件を前向きにと。それで、転勤の話がきたことを悟った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

離れて後悔するのは、あなたの方

翠月るるな
恋愛
順風満帆だったはずの凛子の人生。それがいつしか狂い始める──緩やかに、転がるように。 岡本財閥が経営する会社グループのひとつに、 医療に長けた会社があった。その中の遺伝子調査部門でコウノトリプロジェクトが始まる。 財閥の跡取り息子である岡本省吾は、いち早くそのプロジェクトを利用し、もっとも遺伝的に相性の良いとされた日和凛子を妻とした。 だが、その結婚は彼女にとって良い選択ではなかった。 結婚してから粗雑な扱いを受ける凛子。夫の省吾に見え隠れする女の気配……相手が分かっていながら、我慢する日々。 しかしそれは、一つの計画の為だった。 そう。彼女が残した最後の贈り物(プレゼント)、それを知った省吾の後悔とは──とあるプロジェクトに翻弄された人々のストーリー。

【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。 人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい! そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。 そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。 ☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。 ☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。 ☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。 ☆書き上げています。 その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。

もう何も信じられない

ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。 ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。 その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。 「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」 あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

処理中です...