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7 珍しいお客さま~4~
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「あの」
二人のやり取りにはきりがなさそうだからと口を挟むと、二対の瞳が勢いよくこちらを向いて、圧力に少しおののいた。
ひとまず、話を進めなければ。
「記憶の魔法は、消した記憶に関する私自身の記憶も同時に失われるのです」
「どういう意味だ」
「記憶を消すために一度消したい記憶を見せていただく必要があるのですが、魔法が成立するタイミングで私もお客さまと同時にその記憶を忘れます。例えば、失恋の記憶を消したいというご依頼ですと、お客さまの失恋の記憶を消すと、私に流れ込んだお客さまの記憶も失われるのです」
男性は片眉をあげた。癖なのだろうか。
「失恋の記憶を消しに来たことは私の記憶には残ります。お客さまのご依頼を管理するために、『失恋の記憶を消した』と記録も残させていただきます。また、個人の識別のためにお名前をお伺いしています。お名前は偽名でもかまいません。極端な例ですと、好きなお菓子の名前でもかまいませんよ。ただし、偽名の場合は、またこの店に来たくなった時のために一応どのように名乗ったかを覚えておいてください」
「なるほど!」
瞳を輝かせながらうんうんと頷く女の子に苦笑しつつ、言葉を続ける。
「消した記憶と深く関係していないこと、あるいは全く関係がないことは私の記憶に残ってしまいます。ですが、私はこの仕事に誇りを持っています。お二人がこの店にいらっしゃったこと自体を含めて、お客さまに関することを他のことに漏らすことはないと誓います」
迷うように揺れる青い瞳。少し警戒は緩んだようだが、信じていいのかまだ悩んでいるようだ。
こちらの本音を探るような視線を向けてくるが、端正な容姿の彼に見つめられると正直気まずい。容姿の良さを自覚しているのなら、そのようなことはしないでほしいんだけど。
「仕事に誇りを持っているのですって! あなたたち騎士と同じね。あなたも、私の秘密を他人にもらしはしないでしょう」
「もちろんです」
「そういうことよ」
黙って男性が答えを出すのを待つ。騎士さまなのか。予想は当たっていたようね。
しばらくして、彼は根負けしたように肩をすくめた。
「分かりましたよ」
「本当に? やったわ! よろしくお願いしますね、ティアさん。あ、ティアさんって呼んでいいかしら」
「かまいませんよ」
「ありがとう、ティアさん。私のことはベラって呼んでね」
「はい、ベラさん」
ベラさんはクフフッと笑った。無邪気な笑みに、騎士さまは眉尻を下げた。
騎士さまは眉が感情を表しているのかな。なんか、かわいい。
先ほどまでの緊張した雰囲気が緩んだ反動からか失礼なことを考えながら、冷めてしまった紅茶をいれなおすために席を立った。
二人のやり取りにはきりがなさそうだからと口を挟むと、二対の瞳が勢いよくこちらを向いて、圧力に少しおののいた。
ひとまず、話を進めなければ。
「記憶の魔法は、消した記憶に関する私自身の記憶も同時に失われるのです」
「どういう意味だ」
「記憶を消すために一度消したい記憶を見せていただく必要があるのですが、魔法が成立するタイミングで私もお客さまと同時にその記憶を忘れます。例えば、失恋の記憶を消したいというご依頼ですと、お客さまの失恋の記憶を消すと、私に流れ込んだお客さまの記憶も失われるのです」
男性は片眉をあげた。癖なのだろうか。
「失恋の記憶を消しに来たことは私の記憶には残ります。お客さまのご依頼を管理するために、『失恋の記憶を消した』と記録も残させていただきます。また、個人の識別のためにお名前をお伺いしています。お名前は偽名でもかまいません。極端な例ですと、好きなお菓子の名前でもかまいませんよ。ただし、偽名の場合は、またこの店に来たくなった時のために一応どのように名乗ったかを覚えておいてください」
「なるほど!」
瞳を輝かせながらうんうんと頷く女の子に苦笑しつつ、言葉を続ける。
「消した記憶と深く関係していないこと、あるいは全く関係がないことは私の記憶に残ってしまいます。ですが、私はこの仕事に誇りを持っています。お二人がこの店にいらっしゃったこと自体を含めて、お客さまに関することを他のことに漏らすことはないと誓います」
迷うように揺れる青い瞳。少し警戒は緩んだようだが、信じていいのかまだ悩んでいるようだ。
こちらの本音を探るような視線を向けてくるが、端正な容姿の彼に見つめられると正直気まずい。容姿の良さを自覚しているのなら、そのようなことはしないでほしいんだけど。
「仕事に誇りを持っているのですって! あなたたち騎士と同じね。あなたも、私の秘密を他人にもらしはしないでしょう」
「もちろんです」
「そういうことよ」
黙って男性が答えを出すのを待つ。騎士さまなのか。予想は当たっていたようね。
しばらくして、彼は根負けしたように肩をすくめた。
「分かりましたよ」
「本当に? やったわ! よろしくお願いしますね、ティアさん。あ、ティアさんって呼んでいいかしら」
「かまいませんよ」
「ありがとう、ティアさん。私のことはベラって呼んでね」
「はい、ベラさん」
ベラさんはクフフッと笑った。無邪気な笑みに、騎士さまは眉尻を下げた。
騎士さまは眉が感情を表しているのかな。なんか、かわいい。
先ほどまでの緊張した雰囲気が緩んだ反動からか失礼なことを考えながら、冷めてしまった紅茶をいれなおすために席を立った。
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