その舌先で俺を愛して

ナツキ

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8、どうしても勝てないっ

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涼くん、俺が5月に一時外泊した時、「退学してショックだった」と言ってた。

あの時点ですでに学校には退学の意思を伝えて、親父が手続きをしたはずなのに。

したはず……じゃなかったのか。


誰が動いたんだろう?


うつ伏せで横たわる俺に、伊織くんはすっと寄ってきて覆い被さった。

「~~~伊織くん、ちょっと考え事してるからやめて」

「いつもそうやって一人で考えてるんですか?  話せばいいのに」
そう言って伊織くんはキスを落としてきた。

唇が優しく髪に触れる。

後頭部に何度もキスをされてる間、俺はこの子には勝てないな、と思った。
勝ち負けじゃないけど……逆らえない?ていう感じかな?

いつもの俺よりさらに流されてしまう。


やがて伊織くんの唇は首の後ろにたどり着き、はむっと唇ではさんできた。

「っん━━」

子猫がじゃれつくように、無邪気ないやらしさでもって俺を愛撫してくる。
いつの間にか左手をTシャツの中に入れられ、撫でるようにお腹から胸へと指を這わせてきた。

「い、伊織くんてば」

「優しくがいいですか?  それとも痛くされたいですか?」

「しないよっ今は考え事してるのっ」

「なに考えてるんですか?  誰が退学を止めたかですか?」

「━━━そうだよっ」
伊織くん、自他共に認めるおバカさんなのに、こういう勘がものすごく鋭い。

「最初は、一ノ瀬先パイですよ~。学校にあまね先パイの保護者が来たとき、だいぶもめてましたからね、みんな知ってます」

涼くん?

あ、そうか。
親父に辞めると言ったあと、親父はすぐに手続きしなかったんだ。

「オンラインで授業だから、病室からでも受けられるって熱弁してましたよ。あ、保護者さん渋ってたけど、ケント先生のこと言ったらすぐに態度を変えたみたいでした。あまね先パイにいわなかったのは、たぶんまだ戻る気がなさそうだったからですかねえ。時期を見てたんじゃないですか~」

おそらく、特待生を外れたせいで発生した学費で揉めていたんだ。私立高校の学費は高いからな。きっとケントさんが全部払うって、涼くん言ったんだろう。

にしても2ヶ月も黙っておく話かな、これ?

俺のことなのに。



キスを繰り返す伊織くんの下で、俺はくるりと向きを変える。そして、冷ややかな視線を送りつけた。

「……それで、みんなが内緒にしてたことを、伊織くんがしれーっとバラしたんだ?」
俺は嫌味ったらしく伊織くんに言ってやった。

伊織くんはかわいらしい瞳でじっと見つめてきた。

「うわ~、はじめてあまね先パイの冷たいいい方された。ゾクゾクしちゃう~!  Sっ気あったんですね♡♡」

なんで喜んでるの。

もー。

ほんとこの子には響かない。

「今日は早く迎えにきてもらって。俺、涼くんと話したいから」
冷たい語調のまま、伊織くんを押しのけながら言い放つ。

「だめ。今日はおれとえっちするんです~」

いつもの間延びした言い方だったが、伊織くんの力強い腕は俺の首もとをつかんだ。

「もう一度聞きますけど、優しくされたいですか?  それとも痛い方が好き?」

彼の右手の指が、徐々に首を圧迫していく。

「お正月に見た時、あざだらけでしたね。噛まれた跡もうっすら残ってた」

「や、め……」
苦しくなって、俺は両手で伊織くんの右腕をつかみ外そうとする。でもたくましく成長した彼の腕は、びくともしない。

「首絞めも好きそう。奥突かれながらされるの好きでしょ?」

「ぁあ゛……」

「縛られるのも好きですか?」

「や゛め……て」

「ローションどこに置いてますか?  いうなら離してあげます」

俺は必死にうなずき、テレビを指差した。

「ゲホッ」

伊織くんの手が離れ、俺は深く息を吸う。酸素を存分に取り込んでから、ガサゴソとテレビ台の下を漁る伊織くんに文句を告げた。

「全然優しくする気ないじゃんっ」

振り向いた彼は、いつか使ったアナルプラグを右手に持ち、軽く振って俺に見せつけた。

「首を絞められてちんこ勃たせたの誰ですか?  これぶっ刺して、やさしーくこすってあげますね♡♡」

にこにこしながら、伊織くんは箱から丁寧に道具を取り出していく。

「えっろ。手首拘束するの黒いんだ。白い肌に映えますねぇ」

「ちょちょっと、やめとこうよ。  俺、涼くんと話したいから帰ってよっ」

「だめ~。手首、前がいい?  それとも後ろ?  おれ先パイの顔好きだから、前で拘束して、ばんざいしてもらいますね♡♡」

「伊織くん、俺に意見聞いてるようだけど全く聞く気ないよね?!」

「えへへ~♡」

「か、かわいこぶってもダメ!!」

「えー。そんないじわるいうなら、おれ激しくしちゃうからね~」

なんて悪い子なんだ、天野伊織めっ!

伊織くんは鼻歌を歌いながらするりと俺に歩みより、目で合図をしてきた。俺は仕方なく両手を差し出す。

「古賀くんに言いつけてやる~」
手首を拘束されながら、俺は捨てゼリフを吐いた。

「ふふふ。イヤイヤいってるのに、大人しく手を出してくるのかわいい♡♡」

あきらめたんだよっ。

入院していた俺は著しく体力が落ちている。
この子相手に、勝ち目のない勝負をわざわざする気も起こらない。なんていう人間性なんだろう。

「だいじょーぶ、怖がらなくていいですよ。気持ちよ~く痛めつけてあげますね♡♡」

伊織くんは穏やかに微笑みながら、ひどいことを言ってのけた。





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