その舌先で俺を愛して

ナツキ

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7、動画撮影……?

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「やっぱ無理だ……」

入浴後、ケントさんから着信があったので折り返すと、早退は難しいという内容だった。

「うん、大丈夫だよ、気にしないで。俺たち映画見て過ごすから」
と俺が返事をすると、横からまた伊織くんが口を出してきた。

「えー?  おれ、えっちしたい~」

「もうっ、伊織くんは黙ってて!」

「結局いっしょにお風呂も入ってくれなかったじゃないですかあ~」
制止しても、伊織くんはブーブーとほっぺをふくらませながら文句を言ってきた。

ほんとにもうっ。
俺じゃ伊織くんを制圧できない。古賀くんはすごいんだな……。

「はあ。ビデオ撮っとくならしてもいい」
ケントさんはあきらめたような、くやしそうな声で許可を出した。
その途端に、伊織くんの不満げな顔が、ぱあっと明るくなった。

「えっ♡スマホで動画撮影しとけばえっちしていいんですか♡♡」
伊織くんはうれしそうに問いかける。

「編集するなよ」

「わーい♡♡」

え、えー?

動画で撮るってことー?


すっっっごいイヤなんだけど。

険しそうな顔で伊織くんを見ると、視線に気づいた彼はこちらを向いて「えへへ♡♡」と笑った。

か、かわいすぎる。

「ケント先生~、アップがいいですか?  それとも全体?  カメラ固定してていい?」

伊織くんは早くもアングルを考え始めている。

うそでしょ。
だいたい、俺もう萎えちゃってるよ。もう一回その気になるかな。

「あまねの顔が見えるところで固定」

「りょーかいでーす♡♡」

スマホを持ち、ルンルンしながら部屋中を動き回る。ソファでセックスするとなると、なかなか難しい。俺の顔が見える位置は斜め上から撮影が望ましいけど。
いやいや、なに考えてるの、俺。

「カーテンレールに固定だと、遠すぎますかね~少しズームにすれば大丈夫かなあ」

伊織くんは聞いてるようで聞いてない問いを呟きながら、ダイニングから椅子を持ってきて手際よくスマホを固定した。

伊織くん、そんなの持ってるんだ。

「最近は個人でえっちな動画投稿して販売してるみたいですね。あまね先パイも売りますかぁ?」

「やだよ…」
この子の言うことは冗談なのか本気なのか、ほんとにつかめない。俺は困ってため息をついた。

「だいたい俺なんか撮っても売れないよ。どこに需要があるの。傷もあるし脱げないよ」

肋骨が肺に刺さって倒れた俺は、搬送先の病院で手術を受けた。たまたま縫合の上手な先生のおかげで、傷跡は比較的綺麗な状態だ。……比較したことないけど。ケントさんはそう言っていた。

「顔のアップじゃダメかな?  先パイの顔めちゃくちゃエロいし。あ、でも学校にバレたら退学ですね。じゃあちんこ刺されてるとこズームしちゃいます?」

「もう~。伊織くん、ほんとに売らないでね。ていうか、まだ俺とヤる気なの」

「しますよ~。先パイとのえっち、ゆうと先パイにもOKもらってるし、ケント先生からもOK出たし。あ、販売っていうのは提案ですよ?  先パイ、ケント先生に負い目感じてるのかなと思って」

「負い目感じてたらなんで動画投稿しようと思うのさ~っ」
だんだん伊織くんの言うことがちんぷんかんぷんになってきた。

「え、ちょっと待って。『退学になる』?」

「2学期からは登校しないと、さすがに留年かもですねぇ」



なになになに。




意味がわからない。





俺は4月に意識を取り戻したものの、通える状態ではなかったため退学を決めた。寮も退寮し、荷物はすべてゲストルームに置いてある。
退寮、退学の手続きは親父がしたはずだ。

え。

待って。


親父、手続きしてないの?


試験を受けてない俺は、特待生の学費免除を外される。
途端に顔面蒼白となった。

1年間甘えるとは言ったけど、ケントさんはすでに異常なほど尽くしてくれている。
それなのに、さらに無駄な学費まで請け負わせていたのかな。

「……あの~、あまね先パイ。一応謝っておきますけどぉ。動画販売したらお金になるでしょ。先パイ、ちょっと先生に負い目?引け目?を感じてるかな~と思って、冗談のつもりでからかいました~」

俺は返事をせずにクッションに顔を押しつけ、ソファにうつ伏せになった。

「あと学校やめるのはみんな反対したんです。それで、1学期はリモート授業も多かったので、寮のみんなで小細工しました~。先パイ授業受けたことになってますよ」

誰がそんなことを……。

俺が知らない間に。

ケントさんは知っていたってことだよな。

小細工?

━━━百瀬くんか。













『呪いのメェー様』。
俺が倒れる直前に、伊織くんから依頼された事件だ。暴露サイトに突如現れた、制裁者『呪いのメェー様』は、誰かが咲月学園のスレッドに書き込みをすると、その書き込まれた人物に天罰を下していた。犯人を突き止めた俺と涼くんは、主犯格である堂本コーチをはめて『呪いのメェー様』を終わらせようともくろむ。しかし友人が堂本コーチに傷つけられたことを知った俺は怒りのあまり、暴走してしまう。結果的には堂本コーチは俺をレイプした罪で有罪判決を受け、事件は解決したが。
この時共謀者が2人いたが、堂本コーチに弱みを握られ仕方なく共謀したのと、未成年ということもあり、2人の罪は問われなかったようだ。
さらに、調べていくうちに百瀬くんも関わっていたことが判明する。
彼は当時普通科スポーツコースの1年生で寮生だった。俺はほとんど話したことはないけれど、かなりの情報通らしく、伊織くんや涼くんからも彼の話は聞いたことがあった。もちろん、『呪いのメェー様』の話も。
咲月学園の恨みをはらしてくれる、メェー様。

暴露サイトに数多く投稿していたのは、実は彼だった。

匿名ということを利用し、さも盛り上りを見せているように複数名のアカウントでログインし、メェー様に呪ってもらうように煽っていたのだ。
俺と涼くんは話し合い、百瀬くんにはやめるように忠告するだけにとどめた。そして俺たちが堂本コーチの淫行をネットに上げた際には、拡散して煽るように依頼した。(しかし実際は俺が倒れ、ネットにばらまく前に堂本コーチは逮捕された)。百瀬くんは一度メェー様に救われたことがあり、もっとみんなに知って欲しいという思いが募って、認知度を上げるために何度も投稿してしまったそうだ。



寮で一番、パソコンに詳しい百瀬くん。


彼が、俺が授業を受けているかのように細工したんだな。


クッションに顔をうずめたまま、俺はしばらく熟考していた。
伊織くんは椅子からひょいと軽やかに降り、俺のそばで腰かけた。

「先パイ~、みんな、ほんとに先パイのこと大事で大好きなんですよ。そろそろ自己肯定感あげていきましょー」






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