【完結】コドクニアラズ ~淫らな『なんでも屋』~

ナツキ

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9・最終章 依頼人◯天野伊織

ニットベスト

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16時15分。
スマホのアラームが鳴った。


さっそく涼くんと呪いのメェー様について話そうとしたが、俺は用事を思い出した。


「涼くん~ごめん。俺、先にお風呂入ってきていい?  あとで話そう」

「え、風呂?  17時までだいぶあるじゃん」

「えーと、あー……」

ううーん。あんまり人に言いたくないなあ。

「なに?」

うっ。

俺、やっぱ押しに弱い。

「浴場ね、ほんとは16時半から開いてるんだよね」

「え、そうなの」

「寮の規則、入寮するとき配られたでしょ。あれには16時半からになってるけど、諸先輩方が17時って言ってて、それが通例になってるんだよ。俺、寮母さんに確認したんだ」

「へえー、知らなかった」

「俺、たまにその時間に入っててさ。ケガ見られたくないし」

「オレも行く」

「えー……」
露骨にイヤそうな顔をしてみる。

「風呂で話せばいいだろ」

全く効かなかった。




いや、なんていうかさ。

涼くんって、騒がしいから、他の寮生にバレそうなんだよね。

それがいやなんだけど。

だって、寮母さんがたまに準備間に合わないから、17時ってことにしてほしいって頼まれてるんだもの。
札も、17時までは『準備中』になってるし。







あと、森内くんいるかなーと思ったりして。

寮生になったはずだけど、部屋の階が違うからかほとんど見てない。
ていうか、全く見てないな。

カメラアイで確認しなくてもわかるほどに。

森内くんに寮の案内をした時、彼は1人で入りたそうだったので、この時間のことを教えた。

もしかしたらいるかもしれない。

「森内くんいるかなーと思って」

「玲央?」

「寮に入ったよね?  でも俺、ずっと外泊してたから会ってなくてさ。涼くん同じ階だよね。見かける?」

「あー、そういや、見かけないかも?」

「森内くんと話したいんだよね」
涼くんは、森内くんのこと許せてないらしく、いまだに怒っている。勉強は俺の代わりとして嫌々教えたんだ、と後になって言われた。

「それなら余計、いっしょに行くから」

えー……。

「涼くん、少しは俺のこと放っておいてもらえますかっ」
少し強めに言ってみる。

すると、ケントさんの時と同じように涼くんがしゅんとなった。

「わかった……。オレ、サポーター買ってきてやるよ。胸に巻くやつ」

ああ、そういえばそういうアイテムあるな。

「ほんとー?  うれしい」

「じゃあ、また戻ったらここに来るよ」

「うん」


涼くんと別れ、俺は急いで浴場へと向かった。











脱衣所はがらんとしていた。
かごもすべてひっくり返っている。

「森内くん、いなかったかあ」
俺はがっかりした声でつぶやいた。

いないなら、皆と同じ時間に入っていると解釈して普通は安心するけど。

俺は少し心配していた。

あとで、部屋を訪ねてみようかな。

そう思いながら、俺はあばらにひびかないようゆっくりと服を脱いで、浴室へと入った。













16時50分。

ギリギリ浴場を出て、自室へ戻ろうとすると、寮母さんに声をかけられた。

「あまねくん、」

「こんにちは~」

「さっき、同室だった喜多嶋くん来たの。部屋を聞いてきたから、たぶん部屋の前で待ってると思う」

え?
先輩が……。

「そうなんですか?  ありがとうございます」

俺は急いで階段を上った。







「喜多嶋先輩、」
はあ、はあ、と息を吐きながら、部屋の前で座る喜多嶋先輩に声をかけた。

「あまねくん、急いで来てくれたんだ?  ごめんね」

「いえ、はぁはぁ……、大丈夫です。中にどうぞ」

俺は先輩を部屋に招き入れた。

「また髪濡れてる」
フフ、と喜多嶋先輩に笑われた。

タオルを奪われ、頭を優しくわしゃわしゃしてくれた。

「なんか、寮でこうやると懐かしいな」

部屋違いますけどね、と俺は心の中でつぶやいた。また俺とのこと懐かしくなって訪ねて来たのかな。

俺は正直、もう会いたくなかったけど。
ケントさんちでの倒錯的なセックスは、今も羞恥で悶えそうだ。

「喜多嶋先輩、今日は俺に用事がありましたか?」

俺は少しつんとした態度で話しかけた。
喜多嶋先輩は困った表情で、俺の顔をしばらく見つめ、それからゆっくりと話し始めた。

「あまねくんの制服、……ニットベストどこにある?」

ああ、その件か……。

「なんでですか?」

「この前着てなかっただろ。……いつ見かけても、着てないなあと思って」

いつ見かけても。
俺は年末に久々先輩に会ったけど。先輩はどこからか見ていたのだろうか。

「ニットベストは着るの自由ですよね。俺カーディガン好きだから、ベストは着ないです」

「うん、あまねくんのカーディガン似合ってるよ」

「……話は終わりですか?」

「あ、いや……あまねくん気づいたのかなって」



コンコン、とドアをノックされたので、話を中断してドアを開ける。
涼くんだった。

「あまねー買ってきた。あ、喜多嶋先輩?  お久しぶりです」

「久しぶり。サッカーがんばってるみたいだね」

「はいー、なんか人数分足りなくて駆り出されてます」

「特進科やりながらは、ほんとすごいよ」

「ありがとうございます~♡」
にこにこと笑顔で話す涼くん。空気が悪いのを感じて、瞬時にハートマークつけるしゃべり方したな。

「今日はあまねに用事でしたか?」

「あー、涼くん、ごめん。あとで連絡するよ」

「ごめんごめん、渡すものがあって来ただけだから。もう帰るよ」

「いらないですよ?」
俺は何を渡されるかわかって、断った。

ニットベストだ。


でも、いらない。

「新品を買ってきたから、受け取って」

新品……。

「オレが着たのじゃ、嫌だったんだろ?  試験前に、このこと謝りたくて。願掛け、じゃないけど」

「え、なんすか?  服?」
なにも答えない俺の代わりに、涼くんが紙袋を受け取った。

「ニットベスト。オレがあまねくんの盗っちゃったんだ」

「えー?  そうだったんですか?」

涼くんは驚いていた。
ニットベストを着ない俺になぜか尋ねてきた時、俺は「人にやった」と答えた。

盗られた、とは言わなかった。

なぜなら、手元にニットベストはあるから。

先輩の、ニットベスト。

先輩は今「盗った」と言ったが、「交換した」が正しい。
先輩は、寮を出る時、俺に内緒でニットベストを「交換した」。

でも俺はそれに気づいた。

同じサイズでも、それが自分のでないことはわかる。

そして、喜多嶋先輩のだ、というのもわかった。
いつも、見ていたから。


だから俺は着れなかった。

俺を捨てた先輩を思い出すような、そんな制服着れるわけない。

だから俺はロッカーにしまいこんだ。




ベッド奥にあるロッカーから、袋に入れた制服を取り出し、俺は先輩に手渡した。

「先輩の、お返しします」

「……やっぱり、気づいてたんだね」

「俺のより、自分の着て試験に挑んでください。先輩なら、大丈夫ですよ」

俺は来週に迫ったセンター試験に挑む先輩に、ニットベストと共にエールを贈った。

















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