紫の桜(番外編)

れぐまき

文字の大きさ
13 / 21
if

面影

しおりを挟む
《紫の上が源氏と結婚せず入内していたら》









お兄様の屋敷を出た私はお父様のもとに引き取られた
彼の事を懐かしんでぼーっとしているうちに、あれよあれよと流された私は何故か春宮に嫁ぐことが決まっていた

自分が置かれている状況が理解できない

そのうち理解しようとすることすらも放棄し
すべての人や物事が私の心に触れることなく過ぎていく

ただ一つを除いて…


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「王女御様、お食事をお持ちいたしました」
「・・・そこに置いておいて」


前世や現代の本の中では私の異母妹が呼ばれていたはずの名で呼ばれることにも、もう慣れた

何かに興味を示すこともなく、ただ流れに身を任せて時を過ごす
お付きの女房達は何を進めても生返事を返すだけの私に困惑して自ら話しかけてくることも滅多になくなった

それでいい

彼の隣で過ごすことができないのならば、私はこの世界に生きる意味を見いだせない
それでも今生きているのは、死んでしまっては愛情を注いで数年間を育ててくださったお兄様に申し訳ないから

誰も話しかけてこなければ、お兄様と過ごした楽しい時を思い出せる
そうすれば何とか生きていられる

だから誰も私に干渉しないで・・・


「王女御、一緒に遊ぼう?」


そう望んでいるのに、彼を思い起こさせる容姿をしたこの人は、それを許してくはれないのだ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「何して遊ぶ?女御は何がいい?」
「いえ、私は…」
「そう?じゃぁ、庭に出ようか」

言うなり私の手を取って立ち上がるのは私の大切な彼と、彼の初恋の方の息子
禁じられた仲でありながらも愛し合った二人が残した、大切な大切な子供

「あの鯉、すごく綺麗な模様だ
女御、分かる?ほら、あれだよ」

鯉を指さし無邪気に笑う今上帝
その笑顔は幼さが残っているものの、酷いほどに彼に似ている

滅多なことでは動くことのなくなった私の心
父も、女房たちも、皆離れていった
それなのに一番近寄って欲しくないこの人は、必要以上に私に構う

どうして放っておいてくれないのだろう・・・

小さく息を吐き出す
隣から視線を感じ、ちらりと目をやる


「っ!」


そこには、やけに大人びた表情で優しく微笑み、私を見る今上帝がいた

その表情に息をのむ
勢いよく目をそらすと小さく笑う気配
次いでするりと手を絡めとられた

「・・・」

黙り込むと代わりに帝が口を開く

「王女御、私はね貴女と共にいる時間が好きだよ
笑ってくれなくても、話してくれなくても、貴女の隣にいるだけで楽しい」

いきなり視界に帝が映った

「でもね、できれば笑顔もみたいと思う
私がいつか笑わせてあげるから、覚悟していてね?」


そう言って優しく微笑む帝に、とくりと心臓が音を立てた
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...