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白い壁と水色の屋根の立派なお屋敷の中の一室。
二人の人物が応接セットを挟んで向かい合っていた。
「聖女様
主よりこちらをお預かりして参りました」
騎士団の隊服をかっちりと着こなした大柄な男が、目の前に座る女性に小包と一通の封筒を差し出しながらそう告げる。
女は差し出されたそれにチラリと視線をやるだけで受けとることはせず、かわりにティーカップへと手を伸ばした。
「………聖女様、」
「クリスティーナ、よ?
私、もう聖女ではないもの」
女の行動を咎める騎士の言葉を遮り、女が訂正をいれる。
勢いを削がれた騎士は口をつぐみ、キリリと整った眉をぎゅっと寄せて口をへの字に曲げた。
その表情はか弱いご令嬢や子どもならば怯えて泣きだしてもおかしくないほど険しいもの。
だが、彼女の感想は違う。
困ってる困ってる…
ふふふ、かわいい顔
熊のように大柄な、厳つい顔の男を捕まえてかわいいとはどういうことだと思うだろう。
だが仕方がない。
これがクリスティーナの本心なのだ。
彼女はその美しい顔に、これまた美しい微笑を浮かべ、厳つい顔に、これまた厳つい表情を浮かべた騎士を熱く見つめながら彼の反応を待った。
____ここはカフール王国
神を信じ、神の守護の元に生きるこの国では、国王が即位する際に神託によって聖女が選ばれる。
王一人につき聖女も一人。
どちらか片方がその役割を終えれば、残された片方もその役を退く。
この決まりに従い、先代国王の退位に伴って僅か3年という短い聖女期間から解放された先代聖女・クリスティーナは現在18歳。
この国の女性の結婚適齢期に差し掛かっていた。
産まれ持った華やかな美貌と高貴な血筋。
それに加え、先代聖女というステータスまでをも手にした彼女の元には数多の求婚が舞い込んできている。
眉目秀麗なもの、血筋のいいもの、身分の高いもの…
他の婚活女子ならば飛び付くであろうお相手達からの求婚の嵐。
しかし、彼女はどの求婚者にもいい返事を返すことはなかった。
その理由はただ一つ……
「…元聖女様、どうかお受け取りください。
お返事はともかく、受け取って頂けないことには私も帰るに帰れません」
ため息と共に眉間の皺を少し和らげた騎士が再び封筒と小包を差し出す。
クリスティアーナは名前ではなく元聖女と呼ばれたことに少し眉を寄せたが、すぐに気を取り直して騎士と視線を合わせ、ふわりと表情を綻ばせた。
「あら…それなら、受け取らない方がいいわ
そうすれば、貴方はずっとここに…私の側にいてくれるのでしょう?」
瞳に甘い色をのせ、とろけるような笑みを浮かべて騎士を見つめる。
騎士は一瞬驚いたように目を見開くと、徐々にその頬を赤く染めた。
「!?
な……な、何を…!」
耳まで赤くしてはくはくと口を開け閉めする騎士。
クリスティーナはその反応に内心笑みを深め、表では変わりに瞳を軽く潤ませ、さらに熱をのせた。
「っ…!
と、とにかく今日はもう失礼致します!
お届け物はこちらに置かせて頂きますので……!」
騎士団で培った落ち着きはどこへやら。
挨拶もそこそこに、騎士はガタガタと音をたてながら退室していってしまった。
パタリと閉まった扉をしばらく見つめ、クリスティーナはそっと手に持っていたカップを机に戻す。
「…はぁ
今日もまた逃げられた…
アリア、これで何回目かしら?」
髪を掻きあげ、横に流していた足を組んで背もたれに体重を預ける。
ティーセットを片付けようとしていたメイドに声をかけると、彼女は手を止め、淡々と返事を返した。
「今日で二十三回目でございます」
「………そう」
返事を聞いてため息をひとつ
「もうそろそろ私の気持ちはわかっていらっしゃるでしょうに…
何時になったら勇気をだしてくださるのかしら?」
片手で髪を弄びつつ不満気に呟く彼女には、先ほどまでの元聖女という肩書きにふさわしい、儚い美しさは皆無。
しかし、変わりに自信に満ち溢れた大輪の花のような迫力があった。
同じ化粧。同じ服。同じ装飾品。
それにもかかわらず、ここまで雰囲気を変える事のできる主に、いつもの事ながらメイドは内心で尊敬の眼差しを向けた。
さて、もうお気づきだろう。
彼女…クリスティーナがどの求婚に頷かない理由。
それは彼女に、恋慕う相手がいるからなのである。
二人の人物が応接セットを挟んで向かい合っていた。
「聖女様
主よりこちらをお預かりして参りました」
騎士団の隊服をかっちりと着こなした大柄な男が、目の前に座る女性に小包と一通の封筒を差し出しながらそう告げる。
女は差し出されたそれにチラリと視線をやるだけで受けとることはせず、かわりにティーカップへと手を伸ばした。
「………聖女様、」
「クリスティーナ、よ?
私、もう聖女ではないもの」
女の行動を咎める騎士の言葉を遮り、女が訂正をいれる。
勢いを削がれた騎士は口をつぐみ、キリリと整った眉をぎゅっと寄せて口をへの字に曲げた。
その表情はか弱いご令嬢や子どもならば怯えて泣きだしてもおかしくないほど険しいもの。
だが、彼女の感想は違う。
困ってる困ってる…
ふふふ、かわいい顔
熊のように大柄な、厳つい顔の男を捕まえてかわいいとはどういうことだと思うだろう。
だが仕方がない。
これがクリスティーナの本心なのだ。
彼女はその美しい顔に、これまた美しい微笑を浮かべ、厳つい顔に、これまた厳つい表情を浮かべた騎士を熱く見つめながら彼の反応を待った。
____ここはカフール王国
神を信じ、神の守護の元に生きるこの国では、国王が即位する際に神託によって聖女が選ばれる。
王一人につき聖女も一人。
どちらか片方がその役割を終えれば、残された片方もその役を退く。
この決まりに従い、先代国王の退位に伴って僅か3年という短い聖女期間から解放された先代聖女・クリスティーナは現在18歳。
この国の女性の結婚適齢期に差し掛かっていた。
産まれ持った華やかな美貌と高貴な血筋。
それに加え、先代聖女というステータスまでをも手にした彼女の元には数多の求婚が舞い込んできている。
眉目秀麗なもの、血筋のいいもの、身分の高いもの…
他の婚活女子ならば飛び付くであろうお相手達からの求婚の嵐。
しかし、彼女はどの求婚者にもいい返事を返すことはなかった。
その理由はただ一つ……
「…元聖女様、どうかお受け取りください。
お返事はともかく、受け取って頂けないことには私も帰るに帰れません」
ため息と共に眉間の皺を少し和らげた騎士が再び封筒と小包を差し出す。
クリスティアーナは名前ではなく元聖女と呼ばれたことに少し眉を寄せたが、すぐに気を取り直して騎士と視線を合わせ、ふわりと表情を綻ばせた。
「あら…それなら、受け取らない方がいいわ
そうすれば、貴方はずっとここに…私の側にいてくれるのでしょう?」
瞳に甘い色をのせ、とろけるような笑みを浮かべて騎士を見つめる。
騎士は一瞬驚いたように目を見開くと、徐々にその頬を赤く染めた。
「!?
な……な、何を…!」
耳まで赤くしてはくはくと口を開け閉めする騎士。
クリスティーナはその反応に内心笑みを深め、表では変わりに瞳を軽く潤ませ、さらに熱をのせた。
「っ…!
と、とにかく今日はもう失礼致します!
お届け物はこちらに置かせて頂きますので……!」
騎士団で培った落ち着きはどこへやら。
挨拶もそこそこに、騎士はガタガタと音をたてながら退室していってしまった。
パタリと閉まった扉をしばらく見つめ、クリスティーナはそっと手に持っていたカップを机に戻す。
「…はぁ
今日もまた逃げられた…
アリア、これで何回目かしら?」
髪を掻きあげ、横に流していた足を組んで背もたれに体重を預ける。
ティーセットを片付けようとしていたメイドに声をかけると、彼女は手を止め、淡々と返事を返した。
「今日で二十三回目でございます」
「………そう」
返事を聞いてため息をひとつ
「もうそろそろ私の気持ちはわかっていらっしゃるでしょうに…
何時になったら勇気をだしてくださるのかしら?」
片手で髪を弄びつつ不満気に呟く彼女には、先ほどまでの元聖女という肩書きにふさわしい、儚い美しさは皆無。
しかし、変わりに自信に満ち溢れた大輪の花のような迫力があった。
同じ化粧。同じ服。同じ装飾品。
それにもかかわらず、ここまで雰囲気を変える事のできる主に、いつもの事ながらメイドは内心で尊敬の眼差しを向けた。
さて、もうお気づきだろう。
彼女…クリスティーナがどの求婚に頷かない理由。
それは彼女に、恋慕う相手がいるからなのである。
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