元聖女様は好きな人と結婚したい

れぐまき

文字の大きさ
1 / 6

1

しおりを挟む
白い壁と水色の屋根の立派なお屋敷の中の一室。
二人の人物が応接セットを挟んで向かい合っていた。

「聖女様
主よりこちらをお預かりして参りました」

騎士団の隊服をかっちりと着こなした大柄な男が、目の前に座る女性に小包と一通の封筒を差し出しながらそう告げる。
女は差し出されたそれにチラリと視線をやるだけで受けとることはせず、かわりにティーカップへと手を伸ばした。

「………聖女様、」
「クリスティーナ、よ?
私、もう聖女ではないもの」

女の行動を咎める騎士の言葉を遮り、女が訂正をいれる。
勢いを削がれた騎士は口をつぐみ、キリリと整った眉をぎゅっと寄せて口をへの字に曲げた。
その表情はか弱いご令嬢や子どもならば怯えて泣きだしてもおかしくないほど険しいもの。
だが、彼女の感想は違う。

困ってる困ってる…
ふふふ、かわいい顔

熊のように大柄な、厳つい顔の男を捕まえてかわいいとはどういうことだと思うだろう。
だが仕方がない。
これがクリスティーナの本心なのだ。
彼女はその美しい顔に、これまた美しい微笑を浮かべ、厳つい顔に、これまた厳つい表情を浮かべた騎士を熱く見つめながら彼の反応を待った。






____ここはカフール王国

神を信じ、神の守護の元に生きるこの国では、国王が即位する際に神託によって聖女が選ばれる。
王一人につき聖女も一人。
どちらか片方がその役割を終えれば、残された片方もその役を退く。

この決まりに従い、先代国王の退位に伴って僅か3年という短い聖女期間から解放された先代聖女・クリスティーナは現在18歳。
この国の女性の結婚適齢期に差し掛かっていた。

産まれ持った華やかな美貌と高貴な血筋。
それに加え、先代聖女というステータスまでをも手にした彼女の元には数多の求婚が舞い込んできている。
眉目秀麗なもの、血筋のいいもの、身分の高いもの…
他の婚活女子ならば飛び付くであろうお相手達からの求婚の嵐。
しかし、彼女はどの求婚者にもいい返事を返すことはなかった。

その理由はただ一つ……






「…元聖女様、どうかお受け取りください。
お返事はともかく、受け取って頂けないことには私も帰るに帰れません」

ため息と共に眉間の皺を少し和らげた騎士が再び封筒と小包を差し出す。
クリスティアーナは名前ではなく元聖女と呼ばれたことに少し眉を寄せたが、すぐに気を取り直して騎士と視線を合わせ、ふわりと表情を綻ばせた。

「あら…それなら、受け取らない方がいいわ
そうすれば、貴方はずっとここに…私の側にいてくれるのでしょう?」

瞳に甘い色をのせ、とろけるような笑みを浮かべて騎士を見つめる。
騎士は一瞬驚いたように目を見開くと、徐々にその頬を赤く染めた。

「!?
な……な、何を…!」

耳まで赤くしてはくはくと口を開け閉めする騎士。
クリスティーナはその反応に内心笑みを深め、表では変わりに瞳を軽く潤ませ、さらに熱をのせた。

「っ…!
と、とにかく今日はもう失礼致します!
お届け物はこちらに置かせて頂きますので……!」

騎士団で培った落ち着きはどこへやら。
挨拶もそこそこに、騎士はガタガタと音をたてながら退室していってしまった。
パタリと閉まった扉をしばらく見つめ、クリスティーナはそっと手に持っていたカップを机に戻す。

「…はぁ
今日もまた逃げられた…
アリア、これで何回目かしら?」

髪を掻きあげ、横に流していた足を組んで背もたれに体重を預ける。
ティーセットを片付けようとしていたメイドに声をかけると、彼女は手を止め、淡々と返事を返した。

「今日で二十三回目でございます」
「………そう」

返事を聞いてため息をひとつ

「もうそろそろ私の気持ちはわかっていらっしゃるでしょうに…
何時になったら勇気をだしてくださるのかしら?」

片手で髪を弄びつつ不満気に呟く彼女には、先ほどまでの元聖女という肩書きにふさわしい、儚い美しさは皆無。
しかし、変わりに自信に満ち溢れた大輪の花のような迫力があった。
同じ化粧。同じ服。同じ装飾品。
それにもかかわらず、ここまで雰囲気を変える事のできる主に、いつもの事ながらメイドは内心で尊敬の眼差しを向けた。





さて、もうお気づきだろう。
彼女…クリスティーナがどの求婚に頷かない理由。

それは彼女に、恋慕う相手がいるからなのである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか? 侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。 「何故呼ばれたか・・・わかるな?」 「何故・・・理由は存じませんが」 「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」 ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。 『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』 愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...