元聖女様は好きな人と結婚したい

れぐまき

文字の大きさ
2 / 5

2

しおりを挟む

その頃。

彼女の想い人である騎士、ロナウド=レノックスは、王宮へ戻るべく馬を走らせていた。
眉間に深い皺を刻み、周囲の者が道を開けるほどの険しい表情で。


落ち着け……落ち着くんだ。
聖女様はお戯れがお好きなだけだ。
決して俺に気があるわけではない……勘違いするな!

だが、思考とは裏腹に、脳裏に浮かぶのは先ほどの光景。
あの甘い声音。
あの、とろけるような微笑。

……。
あんな表情であんなことを言われて、平然としていられる男がこの世にいるのか……?


先代聖女、クリスティーナ嬢。
あの方は、俺のような者が軽々しく名を呼んでいい存在ではない。
優しい色のハニーブロンドの髪と、新緑を思わせる澄んだ瞳。
加えて、容姿だけでなくご気性まで素晴らしいのだ。

そんな相手が、自分に気のあるような事を告げながら微笑みかけてきたとして。期待せずにいられる人間は何人いるだろう。

そもそも、あの方は少し人との距離感や言葉選びが独特だ。
あんなに美しい人に、あんな言葉や態度をとられて、勘違いしない男がいるか?


……俺は耐えている方だ。
普通の男であれば、あんなことを言われたらすぐに…

ごくりと喉が鳴る。

手を伸ばして、自分の腕の中に閉じ込めて。
……触れれば、どんなお顔をされるのだろうか。

きっと驚いたように瞳を開いて、それから。

もし…
もしも、自分の思い違いでなく、聖女様が俺の事を気に入ってくださっているとしたら、微笑んでいただけたり、するのだろうか…?

柔らかそうなあの頬を薔薇色に染めて、先程のように甘く微笑んで…そっと目を……


そこまで考えてはっとした。

違うっ!!
聖女様は俺の事なんてなんとも思っていない!
あの方はお優しくお強いから、他の令嬢のように距離をおかず接してくださるだけなんだ……!
勘違いするなよ、ロナウド・レノックス!!


内心で叫び、ますます眉間に皺を寄せる。


そう。
あの花のように美しい人が、自分の事を思っているはずなんてない。

家柄に恥じず、国一番となるために鍛え上げたこの肉体は熊のように大柄で、令嬢や子どもは目があっただけで怯えられ、ひどいと泣かれる。
幼い頃から武を高めることに必死で、社交術はつい手を抜きがちになってしまったため、気のきいた会話どころか、女性と関わる際に必要なマナーも得意ではない。

口下手で武骨な、そんな自分なんかを。



それに、彼女にはもっとお似合いの相手がいらっしゃるではないか。


そう自分に言い聞かせていると、少し頭が冷える。
…落ち込みもするが。
とにかく、今は王宮に戻るのが最優先だ。

ロナウドは切り替えるようにいっそう表情を引き締め、馬の速度をあげた。

ちなみにだが、ロナウドは自分が今、どんな表情をしているか自覚がない。

なので、眉間に深い皺を刻み、鋭い目付きで前を見据える彼の姿を見た町の警備団の間で、なにか有事が起きたのではと一時緊張が走ったことなんて知るよしもない。

とにかく彼は、頭の中からクリスティーナの姿を追い出すのに必死だった。





さて、ここまででお分かりだろう。

クリスティーナの想いはロナウドには全く届いていないのである。
いや、正確に言うならば届いてはいるのだ。
だが、彼の自己肯定感の低さが、彼女の全力のアピールを打ち消してしまっている。

つまり二人は、巷の恋愛小説で人気な『両片思い』状態なのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ベッドの上で婚約破棄されました

フーツラ
恋愛
 伯令嬢ニーナはベッドの上で婚約破棄を宣告された。相手は侯爵家嫡男、ハロルド。しかし、彼の瞳には涙が溜まっている。何か事情がありそうだ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。 この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...