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しおりを挟むその頃。
彼女の想い人である騎士、ロナウド=レノックスは、王宮へ戻るべく馬を走らせていた。
眉間に深い皺を刻み、周囲の者が道を開けるほどの険しい表情で。
落ち着け……落ち着くんだ。
聖女様はお戯れがお好きなだけだ。
決して俺に気があるわけではない……勘違いするな!
だが、思考とは裏腹に、脳裏に浮かぶのは先ほどの光景。
あの甘い声音。
あの、とろけるような微笑。
……。
あんな表情であんなことを言われて、平然としていられる男がこの世にいるのか……?
先代聖女、クリスティーナ嬢。
あの方は、俺のような者が軽々しく名を呼んでいい存在ではない。
優しい色のハニーブロンドの髪と、新緑を思わせる澄んだ瞳。
加えて、容姿だけでなくご気性まで素晴らしいのだ。
そんな相手が、自分に気のあるような事を告げながら微笑みかけてきたとして。期待せずにいられる人間は何人いるだろう。
そもそも、あの方は少し人との距離感や言葉選びが独特だ。
あんなに美しい人に、あんな言葉や態度をとられて、勘違いしない男がいるか?
……俺は耐えている方だ。
普通の男であれば、あんなことを言われたらすぐに…
ごくりと喉が鳴る。
手を伸ばして、自分の腕の中に閉じ込めて。
……触れれば、どんなお顔をされるのだろうか。
きっと驚いたように瞳を開いて、それから。
もし…
もしも、自分の思い違いでなく、聖女様が俺の事を気に入ってくださっているとしたら、微笑んでいただけたり、するのだろうか…?
柔らかそうなあの頬を薔薇色に染めて、先程のように甘く微笑んで…そっと目を……
そこまで考えてはっとした。
違うっ!!
聖女様は俺の事なんてなんとも思っていない!
あの方はお優しくお強いから、他の令嬢のように距離をおかず接してくださるだけなんだ……!
勘違いするなよ、ロナウド・レノックス!!
内心で叫び、ますます眉間に皺を寄せる。
そう。
あの花のように美しい人が、自分の事を思っているはずなんてない。
家柄に恥じず、国一番となるために鍛え上げたこの肉体は熊のように大柄で、令嬢や子どもは目があっただけで怯えられ、ひどいと泣かれる。
幼い頃から武を高めることに必死で、社交術はつい手を抜きがちになってしまったため、気のきいた会話どころか、女性と関わる際に必要なマナーも得意ではない。
口下手で武骨な、そんな自分なんかを。
それに、彼女にはもっとお似合いの相手がいらっしゃるではないか。
そう自分に言い聞かせていると、少し頭が冷える。
…落ち込みもするが。
とにかく、今は王宮に戻るのが最優先だ。
ロナウドは切り替えるようにいっそう表情を引き締め、馬の速度をあげた。
ちなみにだが、ロナウドは自分が今、どんな表情をしているか自覚がない。
なので、眉間に深い皺を刻み、鋭い目付きで前を見据える彼の姿を見た町の警備団の間で、なにか有事が起きたのではと一時緊張が走ったことなんて知るよしもない。
とにかく彼は、頭の中からクリスティーナの姿を追い出すのに必死だった。
さて、ここまででお分かりだろう。
クリスティーナの想いはロナウドには全く届いていないのである。
いや、正確に言うならば届いてはいるのだ。
だが、彼の自己肯定感の低さが、彼女の全力のアピールを打ち消してしまっている。
つまり二人は、巷の恋愛小説で人気な『両片思い』状態なのである。
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