遠くに行くとは言ったけど、異世界は遠すぎませんか…?

れぐまき

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本編

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風呂を出て髪をタオルで拭いながら一階に向かう

階段を下り、廊下を進むと食堂から優しい香りが漂ってきた

入口から中を覗き込むと、エプロンをした二足歩行の馬が鼻歌を歌いながらテーブルに食器を並べていた
なかなかにインパクトの強い光景である

「あ、みさとさん」

馬…改めクロノさんがこちらを振り返り、口を歪めておそらく笑みであろう表情を浮かべた

「お風呂、お借りしました
ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げお礼を告げるとクロノさんが軽くうなずく

「ゆっくりできましたか?」
「はい」
「ならよかったです
では、少し早いですが食事にしましょうか。今準備しますね」
「あ、はい
えっと、手伝いします」
「いえ、もうできるので大丈夫ですよ
座っていてください」

そういわれると食い下がるのもなんだか悪い気がして、軽く頭を下げて大人しく先ほどと同じ椅子に腰かける
手持無沙汰を紛らわすように髪を拭いていたタオルをゆっくり丁寧に折畳む
それでもあまり間は持たず、あきらめて膝の上に妙にきれいに畳まれたタオルを置いたところで、目の前にオレンジ色の液体が入った細長いグラスが差し出された

「え?」

疑問の声を上げ、クロノさんを見ると例の表情を浮かべている

「もしよければ飲みながら待っててください
お風呂上がりで喉が渇いてるでしょう?」

もう少しですのでゆっくりしててくださいね、と言い置きキッチンに引っ込んでいった後姿をぽかんと見つめた

まじか

こっち来てから何回目の『まじか』だろう
慣れないことが多すぎて語彙力が残念なことになっているが許してほしい

仕方ないじゃないか!
私は他人にこんなに親切にしてもらったことがないんだから

誰にという訳でもなく心の中で言い訳しつつグラスを手に取る

本気で至れり尽くせりすぎる…
え、なに?なんでこんな親切にしてもらえるの?
どこまで甘やかすの?
・・・あ、分った
あれですね?油断させて最後に食うやつですね?
ほら、ヘンゼルとグレーテルの魔女的な
このジュースみたいなやつに実は薬が仕込んであって、飲んだらバタン!的な
で、そこをバクッ!的な
なるほど、油断させるためならこの扱いも納得できる

うんうんと一人で頷きジッとグラスを見つめた

そっかそっか
それなら早く飲んでこの茶番も終わりにしてあげなきゃな
私の人生、碌なことなかったけど、最後に他人に親切にしてもらえて嬉しかった
・・・人じゃなくて馬だけど
たとえ裏があったとしても嬉しかったものは嬉しかった
自分が居なくなったところで悲しむ人なんていないし、自分に唯一親切にしてくれた相手に食われるのなら悪くないかもしれない
そんなことを考えぐっとグラスを握る手に力を入れる

「ありがとう」

呟いて目を閉じ、一気にグラスの中身を飲み干した
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