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その相談はちょっと困る
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★前回のあらすじ。
お金が無い僕は、まず食糧を確保しようと野草を取ることを思いつく。
デッドロックさんに頼みに行ったが、草の事は知らないと言われてガックリする。
しかし相棒を紹介してくれると言われ、ミカグラ・ツキコさんを紹介してもらった。
彼女も手伝ってくれるようで、三人で南の森へ向かって行く。
★
クー・ライズ・ライト (僕)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
ミア (絶望のアギア・賞金首・ナンバー9)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
★
歩けばそれなりに遠い南の森だけど、デッドロックさんはそこまでの移動に荷馬車を借りてくれたのだ。
僕にとってはありがたく、帰りの移動も凄く楽になるだろう。
とうぜん取った物をドーンと積み込むことが出来る。
運転もしてくれるという大盤振る舞いだ。
「よかったんですか、馬車なんか使わせて貰って」
一応僕は聞いてみるのだが。
「いいってことよ。お前には世話になったからな。向うの町じゃあ家の借りても付いて万々歳ってやつよ。もう家賃も送られてきているからな。ハッハァ」
借家が上手くいって随分儲かっているらしい。
僕はギルド職員でないミアさんの家賃を払って、デッドロックさんは金を払わず無料で住めている。
すごく不公平だと思う。
「僕にも分け前をください。数か月分でいいんで」
「悪いがそれは聞いてやれねぇな。まあデカイ得物を取ってやるからそいつを冷凍でもしてもらうんだな。それで随分もつだろ」
「デッドロックさん、僕の為に大きい得物を取ってくださいね」
「坊主は遠慮ってもんを知った方がいいんじゃないか? まあ別に構わねぇけどな」
しかしこんな会話も馬車の前方だけで行われている。
もう一人のツキコさんはというと、荷台の隅っこで座り込んで、ボーっと空を見つめている。
なんだか寂しそうだし、話しかけた方がいいのだろうか?
「あのツキコさん、僕に付き合ってくれてありがとうございます。今日はよろしくお願いしますね」
「……あ、うん。大丈夫だよ。……でもあとで聞きたい事が有るから、二人っきりの時にちょっと時間くれる、かな?」
聞きたい事って何だろう?
まあ大したことではないと思う。
僕とツキコさんは、今日初めて話したようなものだし。
「はい、大丈夫ですけど、今じゃ駄目なんでしょうか?」
「ダメ」
「そ、そうですか」
その聞きたいことに対しては相当力強く答えている。
そんなに大事なことなのだろうか?
気にしても分からないし、聞いた時に考えればいいだろう。
「おっ、見えて来たぜ」
前方に分割された森が見えて来る。
「おお、僕のご飯ですね!」
あの中の食材が僕を待っている。
「俺が居ない所で馬が襲われたらたまらねぇ。傷付けたら弁償させられちまうからな。俺は何か狩って来るから、お前達が見張っておいてくれ」
森の外に繋げておいても、何時魔物に襲われるのかも分からない。
一緒に行動する方がいいだろう。
「はい、わかりました」
僕は返事をして。
「ツキコも頼むぜ?」
「……あ、うん」
ツキコさんも了解してくれた。
森に入る前に僕が荷台から馬を分離すると、デッドロックさんは一人で森の中へ入って行く。
僕とツキコさんは、馬と一緒に森の中に入り、野草の採取が始まった。
野草、山菜、薬草に、果物や動物も豊富である。
昆虫食は苦手だけど、食べられる物は意外とあるだろう。
毒さえなければ腹に入れられるのだ。
「教えてもそう簡単に覚えられないでしょ。同じ種類は同じ場所に固めて置いておいて。あとで私が選別するわ」
確かに葉っぱの形を覚えろと言われても、全部同じに見えてくる。
「はい、お任せしますね」
僕はそれに頷き、手あたり次第に草を千切って行く。
言われた通りに同じ種類の物を同じ場所に集めて行くのだけど。
「……じゃあ、クー・ライズ・ライト話をしをしましょう」
五分もしない内にツキコさんとの話し合いが始まった。
さっき時間をくれと言っていたものだろう。
「あのツキコさん、お話しってなんでしょうか」
「……そう、ね。ロックにアーリアを紹介したのはあなた? なんでそんなことをしたの? あなた彼女の噂を知っていたんでしょ?」
「えっ、まあ確かに僕が紹介しましたけど、デッドロックさんは断るみたいですよ。何だかミトラの町のギルドのお姉さんが好きだって言ってましたし」
「……その話、私に詳しく聞かせなさい」
ツキコさんは僕の顔を、爪を立てるように両手で掴んでいる。
なんだか、目が怖い。
「あの、ツキコさん、もしかしてデッドロックさんのことを?」
僕はツキコさんに尋ねてみた。
しかし。
「言わないで!」
ツキコさんは僕の言葉に反応して、腰の武器を抜いてしまったのだ。
「うひぃ!」
その武器は僕の頭の上を通り過ぎ、斬られた髪の毛がパラパラと落ちて行く。
照れでこんなことをされたら、僕の命は幾つあっても足りないだろう。
武器の切れ味も相当ヤバイ。
まるでカミソリのようだ。
「クー・ライズ・ライト、そのことはどうでもいい事なので忘れて。いい?」
「はい、誓って言いません! 二度と言いません!」
まあ、相棒を組んでそのまま好きになる人も居ると聞く。
ツキコさんもその一人なのだろう。
「……それで、その女の特徴と名前は? 私に教えてくれるよね」
ツキコさんの手に持つ刃は、相変わらず僕へ向けられたままである。
まさかやる気なのだろうか?
「あの、ツキコさん。暗殺は不味いと思いますよ? 一度落ち着いた方がいいんじゃないでしょうか」
「私は、すごく落ち着いているよ。今日の青空のように!」
ツキコさんの武器が、ビュンビュンと鼻先を掠めて行く。
「おおおお落ち着いて、武器を振り回さないでください!」
「ふぅ、ふぅ……ごめんなさい、ちょっと取り乱したみたい。私ったらダメね。彼のことになると感情が抑えきれないの」
間違いなく駄目です。
駄目駄目です。
「ツキコさん、相手はデッドロックさんに気が有りません。デッドロックさんが一方的に好きになっているだけです。相手を潰したってデッドロックさんの怒りを買うだけですし、それより気を引く行動をとった方が百倍有益だと思いますよ!」
「そ、そう、かな?」
「そうですよ! 僕も手伝いますから、変な事はやめましょう!」
「そっか……じゃあこれから手を貸してクー・ライズ・ライト」
「はい!」
と元気に返事したのはいいものの、これは凄く大変な話を引き受けてしまった。
まさかこんな話に巻き込まれるとは……。
しかし手伝わないという手はない。
ここで断ってしまえば、選別する野草の見分け方が甘くなる可能性がある。
致死毒はなくとも、腹痛や頭痛を起こす物を紛れ込まされたらたまらない。
なんとかこの場だけでも穏便に終わらせたい。
食料の為に!
「ツキコさん、まずは食料を集めましょう。僕お腹が減ってしかたないんです」
「……そう、分かった。でももし逃げたら……」
ツキコさんの手が僕の頬に当てられる。
そのまま下に移動して、首元でシュッと横へ払われた。
「そ、そんな事する訳ないじゃないですか。はははー!」
僕は愛想笑いをしながら食材探しに奔走しだした。
適当に手でちぎって山積みにして、相当の量が集まっている。
まあどれだけ食えるものが有るかわからないが、一部だけでも四日分ぐらいはあるだろう。
あとはデッドロックさんの持って来る肉があれば。
「いよう待たせたな。得物は持って来てやったぜ!」
期待して待ち続けた僕達の下に、デッドロックさんは猪を担いで戻って来ていた。
遠くから走りこっちに向かっているのだけど、どうやら得物だけを連れて来たようじゃないらしい。
走っている後ろからは、棍棒を持ったオークの一匹が追い駆けて来ている。
これが新種だったら嬉しかったのに、どこにでもいる普通のオークだった。
まあ……あれも得物だと思えば……。
いや、流石にないな。
それはもっと腹が減ってから考えることだ。
兎に角僕は鉄棒を取り出し……ってオークが何かしらの力を持っているとは思えないんだけど。
結界を使っても意味がないじゃないか。
物理ならこの鉄棒で……やっぱりやめておこう。
二人の邪魔になりそうだ。
「敵!」
僕が対応する前にツキコさんが走り出していた。
あの反り返った武器を横に構え、オークの横をすり抜けて行く。
その場に置き去りにされたオークには、どこにも傷一つ残されていない。
まさか攻撃を失敗したのか?
でもオークが棍棒を振り上げた時、体に変化が起きた。
ツキコさんが通り抜けたその辺りに、薄っすらと赤い筋が見え始める。
「ブモオオオオオオオオ!」
そのままバックり腹の傷が開き、オークは声をあげて痛がっている。
やっぱりあの武器の切れ味が凄いようだ。
更に後方に抜けたツキコさんは、オークの背中をバツに斬りつけている。
この傷でも勝敗は決しているが。
「流石は俺の相棒だ。やるじゃねぇの。じゃあ止めだぜ!」
得物を置いたデッドロックさんが、愛用の鎌をオークの頭上から振り下ろす。
ザシュゥと刃は直線に落ち、股の下から再び現れた。
「プギュウウウウウウウウウウ……」
オークはその一撃で倒れ、動きを止めた。
流石に何時も戦っているだけあって二人共強い。
「ハッハッハッ、ちょっとばかり迷惑かけちまったな。まっ、得物は取って来てやったんだ許してくれよ」
「許すも何も、魔物なんかよりよっぽど肉の方が大事です! 僕のお腹は限界です。早速肉にして食べましょう!」
「じゃあ手早く捌くとするか」
デッドロックさんがナイフを取り出し解体作業に入ろうとしている。
しかしツキコさんは手伝おうともせず、全く動かない。
デッドロックさんの前で緊張しているのだろうか?
ちょっと声を掛けてみよう。
「あのツキコさん。一緒の作業して好感度をあげるのもありなんじゃないですか?」
「……う、うん。そうしたい」
ツキコさんは足を踏み出そうとして、やっぱり止めたりを繰り返している。
近くに寄りたくても寄れないような感情になっているらしい。
さっきまであんなに狂暴だったというのに、もうちょっと頑張ってほしい。
しかし僕も手を貸すと言ったのだから、多少の手助けはしてあげようか。
「デッドロックさん、ツキコさんが手を貸すって言ってますよ」
「おっ、そうかい。じゃあ手を貸してくれよツキコ。この辺を持っててくれ」
「う、うん」
ツキコさんは勇気を出して足を踏み出し、デッドロックさんに手を貸している。
このまま上手くいってくれればいいのだけど、そう簡単に上手くいくなら恋愛で悩んだりしないだろう。
それと、出来ればこれだけで許してくださいツキコさん。
僕はこれ以上関わりたくないです。
「時間が経って血が悪くならない内に、サッサと食っちまおうぜ。まあ焼けば食えるだろう」
二人の作業は続いて行き、猪は肉の塊へと変わっている。
もう直ぐ食事の時間だ。
「ひ、火種はどこに?!」
僕はリュックの中を探すのだけど、鉄棒しか持って来なかったのを思い出した。
「……私が持ってる」
火種を持つと言うツキコさんを見て、僕は期待に胸を高鳴らせた。
「……焚き火でもつくりましょうか」
ツキコさんは落ち葉を払い、使えそうな枯れ木を使って火を起こしている。
無事に火がつき焚き火が完成すると、僕達はその火で肉を焼き始めた。
したたる油を見つめて、僕は涎を垂らして待ち続けるのだった。
★
「坊主、もうこれで充分だろう?」
「はいデッドロックさん、僕はお腹いっぱいで満足しました!」
久しぶりのタンパク質を食べ満足した僕は、お腹をポンポン叩いている。
あとはここにある草の選別をして持ち帰るだけだろう。
「そいつはよかった。じゃあ集めた草の選別を済ませるとしようぜ。ツキコ、頼む」
「……う、うん、任せて」
野草はツキコさんにより選別され、食べられる物と食べられない物に分けられた。
中には山菜に薬草に山ぶどうなんて物まであったりする。
僕は取っていないのだけど、ツキコさんが集めてくれたのだろう。
思ったよりも量も多くなり、ミアさんと二人で食っても一週間はもつはずだ。
僕達は馬で食料を運び、森の外に置いてある荷台に積み替える。
それから馬を荷台に繋ぎ、のんびりと町へ帰って行った。
これで当面の食糧は問題無いだろう。
出て来る魔物を倒しながら町に戻ると、僕の自宅の前にやって来た。
寮とは少し離れている場所である。
「デッドロックさん、ツキコさん、今日はありがとうございました!」
「おう、こっちも美味いもの食えたんだ、まあいいってことよ」
デッドロックさんとツキコさんも、自分の分は確保していた。
荷車にはまだ多くの食糧が積んである。
「……助け合いは大事。助け合いは、ね?」
「はい、そーですねー」
ツキコさんが意味深な言葉を発している。
今後も助けろという意味なのだろうか?
でもこれ以上関わるのは不味い。
僕は愛想笑いして二人に別れの挨拶をして、自宅へ入って行く。
「肉は今日使う分を切って、残りは塩漬けしないとな」
食料が手に入ってとても嬉しいのだが、ツキコさんの問題やらアーリアさんの問題やら、更には金が無い事も問題だ。
「ミアさんにあげる物が、これとこれとこれと」
しかしその一つ、金の問題は明日解決するかもしれない。
ミアさん、つまり賞金首アギアの能力を調べた事により、ボーナスが支給される日なのだ。
「よし出来た! 早速ミアさんの部屋に運んであげて、安心させてあげないと」
急いでミアさんの部屋に荷物を運んだのだけど、ドアを開けるとファラさんとミアさんの声が聞こえる。
「ミア、あんたもう少し綺麗に食いなさいよ。片付けるの大変でしょ!」
「コレ、ウマイ。ファラ、スキ! コドモ、クレ!」
「あんた舐めてるの、私が出来る訳ないでしょう!」
部屋のテーブルには、上手そうな肉や野菜類、パンなどが並んでいる。
どうやらファラさんと楽しく食事をしていたらしい。
二人共、案外気が合うのかも知れない。
「こんにちはファラさん、僕にも食事を食べさせてください!」
「はぁ、何で私があんたに料理を食わせないといけないのよ。というかあんた何してたのよ。その荷物は何?」
「森に食料を取りに行ってたんです! 今金欠なので!」
「食料ぉ? ならそこ置いといて、じゃあ帰って良いから」
「待ってください。一切れ、一切れだけでいいので! 僕に栄養をください! ファラさんの手料理が食いたいんです!」
「クー、ハラヘリ、メシヤル!」
ミアさんは優しく僕を助けてくれている。
「……はぁ、仕方ないわね。じゃあ一切れだけよ。それでもう帰れ」
ミアさんの説得で、ファラさんの気持ちが動いたのだろう。
「はい、わかりました!」
僕は元気よく返事をすると。
「じゃあ待ってなさい、持ってきてあげるから」
ファラさんは部屋の中から皿を持って来てくれた。
しかしその皿の上には、本当に肉の一切れしか乗ってい。
僕はそれを手で掴み口に運び入れると、皿のタレまでペロペロとなめ尽くした。
やはりちゃんと調理して味付けされている物は、ただ焼いただけのものとは違う。
「美味いですファラさん! もう一切れください!」
「嫌よ」
ファラさんに軽く断られて、部屋のドアをバタンと閉められてしまった。
待っていても開く気配はないし、残念だが帰るとしよう。
「ああ、もうちょっと食べたかった」
自宅の道を歩いていた僕の後ろから、何者かの足音が聞こえて来る。
「クー、マテ! コレ、クエ!」
僕が振り向くと、ミアさんから声が掛けられた。
ミアさんの手には、二つの握り飯が見える。
二つとも同じ物だけど、形が随分と違うようだ。
二人が作ってくれたのだろう。
「ありがとうミアさん!」
僕はミアさんから、二つの握り飯を受け取った。
しかしわざわざ作ってくれるなら、部屋の中に入れてくれてもよかっただろうに。
「クー、マタナ!」
ミアさんは僕に握り飯を手渡すと、直ぐに去って行く。
また二人で食事でもするのだろう。
僕は握り飯を食べながら自宅に帰り、明日の為に早めに眠りについた。
そして朝。
「ふぅ~、今日がボーナスの日だ!」
スッキリと目覚めた僕は、どうやら相当早く起きてしまったらしい。
しかし興奮しているようで、二度寝が出来る状態ではないようだ。
僕は顔を洗ったり仕事の準備をしながら、出社の待っていた。
「ゆっくりやったのに、もう終わってしまった。
それがすべて終わっても、まだ出社時間には少し早いようだ。
でもどうにも待ちきれないし、ギルドに行って待つことにしよう。
「ふっふっふ、今日でこの生活から脱出できるかもしれない! さあ元気に出社しよう!」
僕は上機嫌でギルドへ向かい、部署の扉を開いた。
「お早うございます!」
やっぱりまだ早いらしく、スラーさんしか出社して来ていなかった。
何時も一番に来ているけど、一体何時から居るんだろうか?
「お早うございますライズ・ライト君。君が出社一人目なので、君に決めようと思います」
「えっ、何がですか?」
そのスラーさんは、僕に頼み事をしたいらしい。
魔物を相手にしているギルドにおいてはよくあることである。
「じつはですね、北の町の近くに野盗の集団が出たらしいのです。それを調べて来てくれませんか?」
「野盗って、僕達が扱う案件なんですか? 魔物落ちしたとか?」
「いいえ、その野盗自体は普通の人間らしいです。しかし連れている魔物がどうやら見たこともないタイプらしく、戦力調査を頼むということです。まあ手紙に書かれている物なので、まずは北の町で確認ですかね」
スラーさんは、手に持った手紙をヒラヒラさせている。
「……え~っとスラーさん、そうなると僕のボーナスはどうなるのでしょう?」
「ふむ、欲しいと言うなら今渡してあげてもいいのですが、相手は野盗です。大金を持ち歩くのはお勧めできませんよ? 戻って来てからの方がいいのでは?」
「いえ、あの……食費がないので、少しでも……欲しいんですけど……い、一万、一万だけ先にください!」
「ライズ・ライト君お金のやり取りは後々面倒事に発展してしまうので、今受け取るか受け取らないかを決めてください。少しだけというのは駄目です」
「だ、ダメなんですか? ……じゃあ、今もらいます。もしかしたら必要になるかもしれないので」
「そうですか、では少し待っていてくださいね。君のボーナスを持ってきますから」
「ふぁい!」
「ライズ・ライト君、返事ははいにしときなさい」
「はい!」
スラーさんはギルドの奥にある金庫室に向かい、ボーナスを取って来てくれた。
因みに一般職員である僕はその部屋には入ることが出来ない。
入った時点で首確定だ。
「ではライズ・ライト君、この場で確認してみてください。五万デリー入っているはずです」
僕は言われた通りに確認すると、ちゃんとお金は入っている。
この仕事の分もボーナスが貰えると思うし、これでお金の問題も解決したも同然だ。
「はい、確認しました。五万デリーですね。じゃあ僕とファラさんで北の町にむかえばいいのですね?」
「いえ、もう一組同行させようと思っています。ブラッドバイド君があの町の出身なのでね。地形も把握しているでしょう」
「えっ……?」
デッドロックさんが来るなら、地の利や安全性についても増すだろう。
しかし、もう一人大変な存在が付いて来てしまう。
ギルド受付のディーラさんと会わせては不味いんじゃないだろうか?
「スラーさん、じつは……」
僕はツキコさんのことを相談しようとスラーさんに話しかけるのだが。
「いよう二人共、今日も元気に仕事に励もうじゃねぇか。で、今日の依頼はなんだいスラーさん」
「……おはよう」
そんな話題の二人が同時に出社して来てしまったのだ。
「おはようございますブラッドバイド君、ミカグラ君。丁度良い所に来てくれました。今日の仕事はライズ・ライト君と一緒に、北の町に向かってください。詳細はライズライト君が知っていますので、道中に聞いてください」
「ほう、ミトラの町の依頼か。そいつは丁度良い。ディーラの顔も見たくなって来た頃だったんだ。じゃあ坊主、仲良く行くとするか。ハッハッハ!」
「デッドロックさん、不味いですって!」
僕は止めようとしたのだけど、ツキコさんが僕の服を掴んでいる。
「クー・ライズ・ライト、まさか邪魔する気?」
逆の手は武器の鞘を掴んで、チャキっと刃を引き上げた。
刃は少しだけ見えるぐらいの位置で止まっているけど、僕の行動と共に引き上げられるのだろう。
「いえ、服に埃がついていただけです」
僕はツキコさんの説得を諦めて、ファラさんが出社してくるのを待つのだった。
★
僕は、出社して来たファラさんに事情を説明した。
「あっそ、じゃあ準備して向かいましょうか」
ファラさんは特にボーナスのことを気にする事もなく、移動する準備を続けている。
きっと帰って来てから貰う積もりなのだろう。
僕も旅の準備を始めよう。
倉庫に行って必要な物を借り出すと、僕は道具を丁重にリュックに詰めた。
木のキューブや資料、結界を作る棒、それと念の為に回復薬も。
あとは使えそうな物を幾つか。
「よし出来た」
順当に準備を終えた僕は、ギルドの入り口で待っている三人と合流した。
どうやら僕が最後のようだ。
「クー、忘れ物はないわよね」
先に準備を終えたファラさんが、僕に確認してきている。
「はい、持つべきものは持ちました」
「俺達も何時でも行けるぜ。なあツキコ」
「……うん、大丈夫」
「皆大丈夫みたいね。じゃあ出発しましょうか」
ファラさんがギルドの扉を開けた。
「では四人共、気を付けて行ってらっしゃい」
『いってきま~す!』
スラーさんの見送りで、僕達はギルドを出発した。
町の入り口にまで向かっているのだけど。
「ここから歩くのはそこそこ大変ですからね、魔物とかも出てきますし」
北の町には歩けば八時間はかかるのだ。
「それだぜ。俺としちゃあディーラの顔を拝む為に急ぎたい訳だが、歩きだと時間がかかり過ぎる。馬を借りて行くってのはどうだい?」
「デッドロックさん、肝心な事を忘れています。馬を借りても経費で落ちないんですよ」
「そんなことは知っているさ。だがよ、ボーナスってのはこういう時に使うもんだろう? 時間を掛けて歩くより、サッと行って遊ぶのだってありだろうが。そうは思わねぇか坊主」
「いや、違うと思いますよ。移動時にだって魔物の調査も出来ますし。もしかしたら新種とか発見しちゃうかもしれなじゃないですか」
「坊主、よく考えてみろ。馬に乗れば速く走れるし、馬の移動速度で見つけられる魔物は増える訳だぜ。馬なら足の速い奴にも追いつけるし、結局出会えるかは運しだいなんだぜ」
まあ魔物のタイミングというのもあるし、結局会えるのは運しだいか。
ただし、今月も来月も金欠の僕にとって、お金が要る要らないは重大なことだ。
「それはそうかもしれませんけど、お金が要るんですよ。僕がお金が無いのを知っているでしょう?」
「そいつは心配しなくても大丈夫だ。馬は二頭借りれば事足りるんだぜ。俺は目的の為に馬を借りるんだ。一頭分は俺が持とう。あと一頭は分割するなりなんなりすれば相当安くつくだろう?」
「それでも僕の出費にはかわりないじゃないですか」
僕が否定しようとした時、ガッと肩が掴まれた。
「……私、いい考えだと思います。その一頭分は私が出しますから、二組に分かれて馬を使いましょう!」
肩を掴んでいるのはツキコさんだ。
どうやらデッドロックさんと一緒に馬に乗りたいらしい。
まあ、お金を出してくれるというなら僕に文句はないのだけど。
「あんた達、何してんの早く行くわよ!」
僕達の事は気にせず、もうかなり先に進んでいたファラさんが声を掛けて来た。
「ファラさん、何か馬の代金出してくれるみたいですよ。結構遠いですから乗って行きましょうよ」
「そうなの? お金を払ってくれるなら文句はないわよ。じゃあ早速使わせて貰いましょうか」
僕達は馬を借りて、北にあるミトラの町に向かって行くことになったのだけど。
「んじゃ、俺は坊主と一緒に乗って行くから、そっちはそっちでやってくれや」
「分かったわ」
その流れに、ギンとしたツキコさんの目が僕に向けられる。
物凄く怒っていらっしゃる。
「ちょっと待ってくださいデッドロックさん、さっき二組で使いましょうって言いましたよね」
「だから男と女のだろ? ああそうか、悪かったな坊主。ファラの嬢ちゃんとくっ付きたかったんだろ。じゃあツキコ、悪いが俺の後ろにでも乗って行くかい?」
「う、うん!」
ツキコさんからの殺気がなくなり、今は恥ずかしそうにしている。
そちらは解決したけど、こちらの問題が発生しらたしい。
「へ~、私とくっ付きたかったんだ? へ~」
ファラさんは蔑んだ目で僕を見て来る。
「いや、違いますよ! 僕はそんな恐ろしいことを望んでは……ハッ?!」
否定した瞬間、ツキコさんが居る方向から、チャキっと刃が引き抜かれた音が聞こえた。
僕に逃げ場はないらしい。
「……はい、ファラさんと乗りたいです」
「……あっそ、別にいいわよ。折角馬があるんだし、使わないのは勿体無いからね。クー、馬の操作は任せるからね」
「えっ、僕できないですよ?」
『…………』
「ああそうよね、期待した私が馬鹿だったわ。じゃあ私がやるから、あんたは後で掴まってなさい。……変な所触ったら突き落とすから」
「しません。絶対にしません! 何が有ってもしませんとも!」
「フンッ!」
僕はファラさんに平手で叩かれた。
「あいた! 何故?!」
「気にしないで、ただちょっとムカついただけだから」
ファラさんは借りた馬に飛び乗る。
「ほら、手を出しなさい。どうせ一人じゃ乗れないでしょ」
「あ、はい」
僕は手を貸されてその後に座った。
落ちないようにお腹に抱き付き、馬が移動を始める。
一般に馬の常歩、つまり通常歩行の速度は、人の歩く速度の半倍ほどは速いと言われる。
だからきっと六時間ぐらいはこの状態が続くのだろう。
僕はファラさんの体温を感じながら、なんだかほっこりした気分になっている。
ガッツリと人の体温を感じるのは久しぶりだ。
小さい頃にお母さんに抱かれていたのを思い出す。
「お母さん……」
「誰がお母さんよ。馬から蹴り落とすわよ!」
自分の事だと思ったのか、ファラさんは怒ってしまった。
「ご、ごめんなさい! ちょっと昔を思い出してただけですから!」
「おいお前達、のろけ合ってる暇はないぞ。先にはディーラが待っているからな。それにどうやら敵がおいでなすったようだ」
「「のろけ合っていません!」」
僕とファラさんは否定して前方を見ると、前にゴブリンの集団が見えている。
数は十五体。
どんな環境にも適応し、戦闘になるのは毎度のことだ。
一対一であるなら僕でも勝てるけど、今回は数が多い。
因みにゴブリンの資料は。
名前 :ゴブリン
レベル:5
HP :20
MP :0
力 :35
速 :45
大 :110
危険度:2
技 :ナイフによる攻撃。投げナイフ。
考察 :緑色の体が特徴的。
武器は体が小さい為、小さなナイフぐらいしか持てない。
弓は扱えないが、ナイフを投げることが稀にある。
一対一であれば普通に勝てる存在だ。
能力的には一般人の大人に劣るが、ナイフという凶器は人を傷つけるのには充分だ。
初心者は注意を払ってほしい。
捕捉 :通常のゴブリンの他にも、変異種が多く存在している。
ホブゴブリン、レッドゴブリン、ゴブリンオーク、ゴブリンオーガ、ゴブリンバット。
ハイゴブリン、ダークゴブリン、他にも様々な種類が確認されている。
中にはキングと呼ばれるものも存在するらしい。
今見えているタイプは通常のものだ。
ゴブリンは初心者の成長を助けてくれる、意外と必要な魔物ではあるけど。
繁殖力が強くて倒した所でまたわき出して来る。
こちらの資料もそろっているし、倒すのも悪くはないだろう。
「おいおい、俺の進路を塞ぐとはいい度胸じゃねぇか。後悔させてやるから掛かって来なよ」
敵は多く、回避することもできなくはないけど、デッドロックさんは馬を降りてしまった。
「……殺!」
そしてツキコさんは、至福の時間を邪魔されてご立腹のようだ。
「仕方ないわね、私も行くから、クーは馬でも護ってなさい!」
「わかりました。弱いとはいえ数が多いので、充分注意してくださいね」
僕とファラさんも馬を降り。
「この程度に心配し過ぎね!」
ファラさん達三人はゴブリンに向かって行ってる。
僕も二頭の馬を護るために、リュックから鉄棒を取り出した。
接近戦は得意じゃないし、出来れば来ないでください。
しかし僕が戦う必要が無いぐらいに三人は活躍している。
武器を振るうごとに一体が倒れ、二撃目でまた一体と倒していく。
倒しきるのも時間の問題だろう。
「でもこの行進は厄介だよなぁ。一応資料に書き込んでおこうか」
僕は鉄棒を地面に置き、ゴブリンの資料に追記を加える。
「えっと……」
他のゴブリンは分からないが、通常のゴブリンタイプは集団で行動することがある。
一体が弱いからといって油断して突っ込んでしまうと、中級者でもやられる可能性が高い。
「クー、そっちに行ったわよ! 何座り込んでるの?!」
「えっ、わわわ?!」
ファラさんの注意でやっと気づいた僕は、慌てて置いた鉄棒を握ると、ゴブリンが来る前に立ち上がった。
書いている僕が油断してたら話にもならない。
接近して来たゴブリンは三体で、もうかなり近い。
僕は鉄棒を構えて一体に打ち付ける。
「ギャアアアア?!」
流石に一撃で倒れてくれるけど、残った二体は僕に襲い掛かって来ている。
後衛とはいえ僕だって冒険者の資格をも持つ者だ。
怪我ぐらいは覚悟している!
「ぐう……」
一方の攻撃をワザと腕で受け止め、もう一方の攻撃を鉄棒でしのぐ。
かなり痛いけど、研いでもいないナイフは鈍い。
僕のダメージは致命傷にはならない。
「たああああ!」
鉄棒の相手を弾き飛ばし、腕に突き刺した相手に鉄棒をぶつける。
「ギャン」
残った一体は。
「あんた……クーに何してるのよ!」
ファラさんに背中を斬りつけられ、一撃で倒されていた。
僕が三体を相手にしている間に、全部倒してしまったらしい。
「痛い」
回復薬を持って来てよかった。
僕はリュックから回復薬を取り出そうとするのだけど。
「クー手当は私がやってあげるわ。傷口を見せて!」
ファラさんは心配して回復薬をたっぷり使ってくれた。
お金が無い僕は、まず食糧を確保しようと野草を取ることを思いつく。
デッドロックさんに頼みに行ったが、草の事は知らないと言われてガックリする。
しかし相棒を紹介してくれると言われ、ミカグラ・ツキコさんを紹介してもらった。
彼女も手伝ってくれるようで、三人で南の森へ向かって行く。
★
クー・ライズ・ライト (僕)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
ミア (絶望のアギア・賞金首・ナンバー9)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
★
歩けばそれなりに遠い南の森だけど、デッドロックさんはそこまでの移動に荷馬車を借りてくれたのだ。
僕にとってはありがたく、帰りの移動も凄く楽になるだろう。
とうぜん取った物をドーンと積み込むことが出来る。
運転もしてくれるという大盤振る舞いだ。
「よかったんですか、馬車なんか使わせて貰って」
一応僕は聞いてみるのだが。
「いいってことよ。お前には世話になったからな。向うの町じゃあ家の借りても付いて万々歳ってやつよ。もう家賃も送られてきているからな。ハッハァ」
借家が上手くいって随分儲かっているらしい。
僕はギルド職員でないミアさんの家賃を払って、デッドロックさんは金を払わず無料で住めている。
すごく不公平だと思う。
「僕にも分け前をください。数か月分でいいんで」
「悪いがそれは聞いてやれねぇな。まあデカイ得物を取ってやるからそいつを冷凍でもしてもらうんだな。それで随分もつだろ」
「デッドロックさん、僕の為に大きい得物を取ってくださいね」
「坊主は遠慮ってもんを知った方がいいんじゃないか? まあ別に構わねぇけどな」
しかしこんな会話も馬車の前方だけで行われている。
もう一人のツキコさんはというと、荷台の隅っこで座り込んで、ボーっと空を見つめている。
なんだか寂しそうだし、話しかけた方がいいのだろうか?
「あのツキコさん、僕に付き合ってくれてありがとうございます。今日はよろしくお願いしますね」
「……あ、うん。大丈夫だよ。……でもあとで聞きたい事が有るから、二人っきりの時にちょっと時間くれる、かな?」
聞きたい事って何だろう?
まあ大したことではないと思う。
僕とツキコさんは、今日初めて話したようなものだし。
「はい、大丈夫ですけど、今じゃ駄目なんでしょうか?」
「ダメ」
「そ、そうですか」
その聞きたいことに対しては相当力強く答えている。
そんなに大事なことなのだろうか?
気にしても分からないし、聞いた時に考えればいいだろう。
「おっ、見えて来たぜ」
前方に分割された森が見えて来る。
「おお、僕のご飯ですね!」
あの中の食材が僕を待っている。
「俺が居ない所で馬が襲われたらたまらねぇ。傷付けたら弁償させられちまうからな。俺は何か狩って来るから、お前達が見張っておいてくれ」
森の外に繋げておいても、何時魔物に襲われるのかも分からない。
一緒に行動する方がいいだろう。
「はい、わかりました」
僕は返事をして。
「ツキコも頼むぜ?」
「……あ、うん」
ツキコさんも了解してくれた。
森に入る前に僕が荷台から馬を分離すると、デッドロックさんは一人で森の中へ入って行く。
僕とツキコさんは、馬と一緒に森の中に入り、野草の採取が始まった。
野草、山菜、薬草に、果物や動物も豊富である。
昆虫食は苦手だけど、食べられる物は意外とあるだろう。
毒さえなければ腹に入れられるのだ。
「教えてもそう簡単に覚えられないでしょ。同じ種類は同じ場所に固めて置いておいて。あとで私が選別するわ」
確かに葉っぱの形を覚えろと言われても、全部同じに見えてくる。
「はい、お任せしますね」
僕はそれに頷き、手あたり次第に草を千切って行く。
言われた通りに同じ種類の物を同じ場所に集めて行くのだけど。
「……じゃあ、クー・ライズ・ライト話をしをしましょう」
五分もしない内にツキコさんとの話し合いが始まった。
さっき時間をくれと言っていたものだろう。
「あのツキコさん、お話しってなんでしょうか」
「……そう、ね。ロックにアーリアを紹介したのはあなた? なんでそんなことをしたの? あなた彼女の噂を知っていたんでしょ?」
「えっ、まあ確かに僕が紹介しましたけど、デッドロックさんは断るみたいですよ。何だかミトラの町のギルドのお姉さんが好きだって言ってましたし」
「……その話、私に詳しく聞かせなさい」
ツキコさんは僕の顔を、爪を立てるように両手で掴んでいる。
なんだか、目が怖い。
「あの、ツキコさん、もしかしてデッドロックさんのことを?」
僕はツキコさんに尋ねてみた。
しかし。
「言わないで!」
ツキコさんは僕の言葉に反応して、腰の武器を抜いてしまったのだ。
「うひぃ!」
その武器は僕の頭の上を通り過ぎ、斬られた髪の毛がパラパラと落ちて行く。
照れでこんなことをされたら、僕の命は幾つあっても足りないだろう。
武器の切れ味も相当ヤバイ。
まるでカミソリのようだ。
「クー・ライズ・ライト、そのことはどうでもいい事なので忘れて。いい?」
「はい、誓って言いません! 二度と言いません!」
まあ、相棒を組んでそのまま好きになる人も居ると聞く。
ツキコさんもその一人なのだろう。
「……それで、その女の特徴と名前は? 私に教えてくれるよね」
ツキコさんの手に持つ刃は、相変わらず僕へ向けられたままである。
まさかやる気なのだろうか?
「あの、ツキコさん。暗殺は不味いと思いますよ? 一度落ち着いた方がいいんじゃないでしょうか」
「私は、すごく落ち着いているよ。今日の青空のように!」
ツキコさんの武器が、ビュンビュンと鼻先を掠めて行く。
「おおおお落ち着いて、武器を振り回さないでください!」
「ふぅ、ふぅ……ごめんなさい、ちょっと取り乱したみたい。私ったらダメね。彼のことになると感情が抑えきれないの」
間違いなく駄目です。
駄目駄目です。
「ツキコさん、相手はデッドロックさんに気が有りません。デッドロックさんが一方的に好きになっているだけです。相手を潰したってデッドロックさんの怒りを買うだけですし、それより気を引く行動をとった方が百倍有益だと思いますよ!」
「そ、そう、かな?」
「そうですよ! 僕も手伝いますから、変な事はやめましょう!」
「そっか……じゃあこれから手を貸してクー・ライズ・ライト」
「はい!」
と元気に返事したのはいいものの、これは凄く大変な話を引き受けてしまった。
まさかこんな話に巻き込まれるとは……。
しかし手伝わないという手はない。
ここで断ってしまえば、選別する野草の見分け方が甘くなる可能性がある。
致死毒はなくとも、腹痛や頭痛を起こす物を紛れ込まされたらたまらない。
なんとかこの場だけでも穏便に終わらせたい。
食料の為に!
「ツキコさん、まずは食料を集めましょう。僕お腹が減ってしかたないんです」
「……そう、分かった。でももし逃げたら……」
ツキコさんの手が僕の頬に当てられる。
そのまま下に移動して、首元でシュッと横へ払われた。
「そ、そんな事する訳ないじゃないですか。はははー!」
僕は愛想笑いをしながら食材探しに奔走しだした。
適当に手でちぎって山積みにして、相当の量が集まっている。
まあどれだけ食えるものが有るかわからないが、一部だけでも四日分ぐらいはあるだろう。
あとはデッドロックさんの持って来る肉があれば。
「いよう待たせたな。得物は持って来てやったぜ!」
期待して待ち続けた僕達の下に、デッドロックさんは猪を担いで戻って来ていた。
遠くから走りこっちに向かっているのだけど、どうやら得物だけを連れて来たようじゃないらしい。
走っている後ろからは、棍棒を持ったオークの一匹が追い駆けて来ている。
これが新種だったら嬉しかったのに、どこにでもいる普通のオークだった。
まあ……あれも得物だと思えば……。
いや、流石にないな。
それはもっと腹が減ってから考えることだ。
兎に角僕は鉄棒を取り出し……ってオークが何かしらの力を持っているとは思えないんだけど。
結界を使っても意味がないじゃないか。
物理ならこの鉄棒で……やっぱりやめておこう。
二人の邪魔になりそうだ。
「敵!」
僕が対応する前にツキコさんが走り出していた。
あの反り返った武器を横に構え、オークの横をすり抜けて行く。
その場に置き去りにされたオークには、どこにも傷一つ残されていない。
まさか攻撃を失敗したのか?
でもオークが棍棒を振り上げた時、体に変化が起きた。
ツキコさんが通り抜けたその辺りに、薄っすらと赤い筋が見え始める。
「ブモオオオオオオオオ!」
そのままバックり腹の傷が開き、オークは声をあげて痛がっている。
やっぱりあの武器の切れ味が凄いようだ。
更に後方に抜けたツキコさんは、オークの背中をバツに斬りつけている。
この傷でも勝敗は決しているが。
「流石は俺の相棒だ。やるじゃねぇの。じゃあ止めだぜ!」
得物を置いたデッドロックさんが、愛用の鎌をオークの頭上から振り下ろす。
ザシュゥと刃は直線に落ち、股の下から再び現れた。
「プギュウウウウウウウウウウ……」
オークはその一撃で倒れ、動きを止めた。
流石に何時も戦っているだけあって二人共強い。
「ハッハッハッ、ちょっとばかり迷惑かけちまったな。まっ、得物は取って来てやったんだ許してくれよ」
「許すも何も、魔物なんかよりよっぽど肉の方が大事です! 僕のお腹は限界です。早速肉にして食べましょう!」
「じゃあ手早く捌くとするか」
デッドロックさんがナイフを取り出し解体作業に入ろうとしている。
しかしツキコさんは手伝おうともせず、全く動かない。
デッドロックさんの前で緊張しているのだろうか?
ちょっと声を掛けてみよう。
「あのツキコさん。一緒の作業して好感度をあげるのもありなんじゃないですか?」
「……う、うん。そうしたい」
ツキコさんは足を踏み出そうとして、やっぱり止めたりを繰り返している。
近くに寄りたくても寄れないような感情になっているらしい。
さっきまであんなに狂暴だったというのに、もうちょっと頑張ってほしい。
しかし僕も手を貸すと言ったのだから、多少の手助けはしてあげようか。
「デッドロックさん、ツキコさんが手を貸すって言ってますよ」
「おっ、そうかい。じゃあ手を貸してくれよツキコ。この辺を持っててくれ」
「う、うん」
ツキコさんは勇気を出して足を踏み出し、デッドロックさんに手を貸している。
このまま上手くいってくれればいいのだけど、そう簡単に上手くいくなら恋愛で悩んだりしないだろう。
それと、出来ればこれだけで許してくださいツキコさん。
僕はこれ以上関わりたくないです。
「時間が経って血が悪くならない内に、サッサと食っちまおうぜ。まあ焼けば食えるだろう」
二人の作業は続いて行き、猪は肉の塊へと変わっている。
もう直ぐ食事の時間だ。
「ひ、火種はどこに?!」
僕はリュックの中を探すのだけど、鉄棒しか持って来なかったのを思い出した。
「……私が持ってる」
火種を持つと言うツキコさんを見て、僕は期待に胸を高鳴らせた。
「……焚き火でもつくりましょうか」
ツキコさんは落ち葉を払い、使えそうな枯れ木を使って火を起こしている。
無事に火がつき焚き火が完成すると、僕達はその火で肉を焼き始めた。
したたる油を見つめて、僕は涎を垂らして待ち続けるのだった。
★
「坊主、もうこれで充分だろう?」
「はいデッドロックさん、僕はお腹いっぱいで満足しました!」
久しぶりのタンパク質を食べ満足した僕は、お腹をポンポン叩いている。
あとはここにある草の選別をして持ち帰るだけだろう。
「そいつはよかった。じゃあ集めた草の選別を済ませるとしようぜ。ツキコ、頼む」
「……う、うん、任せて」
野草はツキコさんにより選別され、食べられる物と食べられない物に分けられた。
中には山菜に薬草に山ぶどうなんて物まであったりする。
僕は取っていないのだけど、ツキコさんが集めてくれたのだろう。
思ったよりも量も多くなり、ミアさんと二人で食っても一週間はもつはずだ。
僕達は馬で食料を運び、森の外に置いてある荷台に積み替える。
それから馬を荷台に繋ぎ、のんびりと町へ帰って行った。
これで当面の食糧は問題無いだろう。
出て来る魔物を倒しながら町に戻ると、僕の自宅の前にやって来た。
寮とは少し離れている場所である。
「デッドロックさん、ツキコさん、今日はありがとうございました!」
「おう、こっちも美味いもの食えたんだ、まあいいってことよ」
デッドロックさんとツキコさんも、自分の分は確保していた。
荷車にはまだ多くの食糧が積んである。
「……助け合いは大事。助け合いは、ね?」
「はい、そーですねー」
ツキコさんが意味深な言葉を発している。
今後も助けろという意味なのだろうか?
でもこれ以上関わるのは不味い。
僕は愛想笑いして二人に別れの挨拶をして、自宅へ入って行く。
「肉は今日使う分を切って、残りは塩漬けしないとな」
食料が手に入ってとても嬉しいのだが、ツキコさんの問題やらアーリアさんの問題やら、更には金が無い事も問題だ。
「ミアさんにあげる物が、これとこれとこれと」
しかしその一つ、金の問題は明日解決するかもしれない。
ミアさん、つまり賞金首アギアの能力を調べた事により、ボーナスが支給される日なのだ。
「よし出来た! 早速ミアさんの部屋に運んであげて、安心させてあげないと」
急いでミアさんの部屋に荷物を運んだのだけど、ドアを開けるとファラさんとミアさんの声が聞こえる。
「ミア、あんたもう少し綺麗に食いなさいよ。片付けるの大変でしょ!」
「コレ、ウマイ。ファラ、スキ! コドモ、クレ!」
「あんた舐めてるの、私が出来る訳ないでしょう!」
部屋のテーブルには、上手そうな肉や野菜類、パンなどが並んでいる。
どうやらファラさんと楽しく食事をしていたらしい。
二人共、案外気が合うのかも知れない。
「こんにちはファラさん、僕にも食事を食べさせてください!」
「はぁ、何で私があんたに料理を食わせないといけないのよ。というかあんた何してたのよ。その荷物は何?」
「森に食料を取りに行ってたんです! 今金欠なので!」
「食料ぉ? ならそこ置いといて、じゃあ帰って良いから」
「待ってください。一切れ、一切れだけでいいので! 僕に栄養をください! ファラさんの手料理が食いたいんです!」
「クー、ハラヘリ、メシヤル!」
ミアさんは優しく僕を助けてくれている。
「……はぁ、仕方ないわね。じゃあ一切れだけよ。それでもう帰れ」
ミアさんの説得で、ファラさんの気持ちが動いたのだろう。
「はい、わかりました!」
僕は元気よく返事をすると。
「じゃあ待ってなさい、持ってきてあげるから」
ファラさんは部屋の中から皿を持って来てくれた。
しかしその皿の上には、本当に肉の一切れしか乗ってい。
僕はそれを手で掴み口に運び入れると、皿のタレまでペロペロとなめ尽くした。
やはりちゃんと調理して味付けされている物は、ただ焼いただけのものとは違う。
「美味いですファラさん! もう一切れください!」
「嫌よ」
ファラさんに軽く断られて、部屋のドアをバタンと閉められてしまった。
待っていても開く気配はないし、残念だが帰るとしよう。
「ああ、もうちょっと食べたかった」
自宅の道を歩いていた僕の後ろから、何者かの足音が聞こえて来る。
「クー、マテ! コレ、クエ!」
僕が振り向くと、ミアさんから声が掛けられた。
ミアさんの手には、二つの握り飯が見える。
二つとも同じ物だけど、形が随分と違うようだ。
二人が作ってくれたのだろう。
「ありがとうミアさん!」
僕はミアさんから、二つの握り飯を受け取った。
しかしわざわざ作ってくれるなら、部屋の中に入れてくれてもよかっただろうに。
「クー、マタナ!」
ミアさんは僕に握り飯を手渡すと、直ぐに去って行く。
また二人で食事でもするのだろう。
僕は握り飯を食べながら自宅に帰り、明日の為に早めに眠りについた。
そして朝。
「ふぅ~、今日がボーナスの日だ!」
スッキリと目覚めた僕は、どうやら相当早く起きてしまったらしい。
しかし興奮しているようで、二度寝が出来る状態ではないようだ。
僕は顔を洗ったり仕事の準備をしながら、出社の待っていた。
「ゆっくりやったのに、もう終わってしまった。
それがすべて終わっても、まだ出社時間には少し早いようだ。
でもどうにも待ちきれないし、ギルドに行って待つことにしよう。
「ふっふっふ、今日でこの生活から脱出できるかもしれない! さあ元気に出社しよう!」
僕は上機嫌でギルドへ向かい、部署の扉を開いた。
「お早うございます!」
やっぱりまだ早いらしく、スラーさんしか出社して来ていなかった。
何時も一番に来ているけど、一体何時から居るんだろうか?
「お早うございますライズ・ライト君。君が出社一人目なので、君に決めようと思います」
「えっ、何がですか?」
そのスラーさんは、僕に頼み事をしたいらしい。
魔物を相手にしているギルドにおいてはよくあることである。
「じつはですね、北の町の近くに野盗の集団が出たらしいのです。それを調べて来てくれませんか?」
「野盗って、僕達が扱う案件なんですか? 魔物落ちしたとか?」
「いいえ、その野盗自体は普通の人間らしいです。しかし連れている魔物がどうやら見たこともないタイプらしく、戦力調査を頼むということです。まあ手紙に書かれている物なので、まずは北の町で確認ですかね」
スラーさんは、手に持った手紙をヒラヒラさせている。
「……え~っとスラーさん、そうなると僕のボーナスはどうなるのでしょう?」
「ふむ、欲しいと言うなら今渡してあげてもいいのですが、相手は野盗です。大金を持ち歩くのはお勧めできませんよ? 戻って来てからの方がいいのでは?」
「いえ、あの……食費がないので、少しでも……欲しいんですけど……い、一万、一万だけ先にください!」
「ライズ・ライト君お金のやり取りは後々面倒事に発展してしまうので、今受け取るか受け取らないかを決めてください。少しだけというのは駄目です」
「だ、ダメなんですか? ……じゃあ、今もらいます。もしかしたら必要になるかもしれないので」
「そうですか、では少し待っていてくださいね。君のボーナスを持ってきますから」
「ふぁい!」
「ライズ・ライト君、返事ははいにしときなさい」
「はい!」
スラーさんはギルドの奥にある金庫室に向かい、ボーナスを取って来てくれた。
因みに一般職員である僕はその部屋には入ることが出来ない。
入った時点で首確定だ。
「ではライズ・ライト君、この場で確認してみてください。五万デリー入っているはずです」
僕は言われた通りに確認すると、ちゃんとお金は入っている。
この仕事の分もボーナスが貰えると思うし、これでお金の問題も解決したも同然だ。
「はい、確認しました。五万デリーですね。じゃあ僕とファラさんで北の町にむかえばいいのですね?」
「いえ、もう一組同行させようと思っています。ブラッドバイド君があの町の出身なのでね。地形も把握しているでしょう」
「えっ……?」
デッドロックさんが来るなら、地の利や安全性についても増すだろう。
しかし、もう一人大変な存在が付いて来てしまう。
ギルド受付のディーラさんと会わせては不味いんじゃないだろうか?
「スラーさん、じつは……」
僕はツキコさんのことを相談しようとスラーさんに話しかけるのだが。
「いよう二人共、今日も元気に仕事に励もうじゃねぇか。で、今日の依頼はなんだいスラーさん」
「……おはよう」
そんな話題の二人が同時に出社して来てしまったのだ。
「おはようございますブラッドバイド君、ミカグラ君。丁度良い所に来てくれました。今日の仕事はライズ・ライト君と一緒に、北の町に向かってください。詳細はライズライト君が知っていますので、道中に聞いてください」
「ほう、ミトラの町の依頼か。そいつは丁度良い。ディーラの顔も見たくなって来た頃だったんだ。じゃあ坊主、仲良く行くとするか。ハッハッハ!」
「デッドロックさん、不味いですって!」
僕は止めようとしたのだけど、ツキコさんが僕の服を掴んでいる。
「クー・ライズ・ライト、まさか邪魔する気?」
逆の手は武器の鞘を掴んで、チャキっと刃を引き上げた。
刃は少しだけ見えるぐらいの位置で止まっているけど、僕の行動と共に引き上げられるのだろう。
「いえ、服に埃がついていただけです」
僕はツキコさんの説得を諦めて、ファラさんが出社してくるのを待つのだった。
★
僕は、出社して来たファラさんに事情を説明した。
「あっそ、じゃあ準備して向かいましょうか」
ファラさんは特にボーナスのことを気にする事もなく、移動する準備を続けている。
きっと帰って来てから貰う積もりなのだろう。
僕も旅の準備を始めよう。
倉庫に行って必要な物を借り出すと、僕は道具を丁重にリュックに詰めた。
木のキューブや資料、結界を作る棒、それと念の為に回復薬も。
あとは使えそうな物を幾つか。
「よし出来た」
順当に準備を終えた僕は、ギルドの入り口で待っている三人と合流した。
どうやら僕が最後のようだ。
「クー、忘れ物はないわよね」
先に準備を終えたファラさんが、僕に確認してきている。
「はい、持つべきものは持ちました」
「俺達も何時でも行けるぜ。なあツキコ」
「……うん、大丈夫」
「皆大丈夫みたいね。じゃあ出発しましょうか」
ファラさんがギルドの扉を開けた。
「では四人共、気を付けて行ってらっしゃい」
『いってきま~す!』
スラーさんの見送りで、僕達はギルドを出発した。
町の入り口にまで向かっているのだけど。
「ここから歩くのはそこそこ大変ですからね、魔物とかも出てきますし」
北の町には歩けば八時間はかかるのだ。
「それだぜ。俺としちゃあディーラの顔を拝む為に急ぎたい訳だが、歩きだと時間がかかり過ぎる。馬を借りて行くってのはどうだい?」
「デッドロックさん、肝心な事を忘れています。馬を借りても経費で落ちないんですよ」
「そんなことは知っているさ。だがよ、ボーナスってのはこういう時に使うもんだろう? 時間を掛けて歩くより、サッと行って遊ぶのだってありだろうが。そうは思わねぇか坊主」
「いや、違うと思いますよ。移動時にだって魔物の調査も出来ますし。もしかしたら新種とか発見しちゃうかもしれなじゃないですか」
「坊主、よく考えてみろ。馬に乗れば速く走れるし、馬の移動速度で見つけられる魔物は増える訳だぜ。馬なら足の速い奴にも追いつけるし、結局出会えるかは運しだいなんだぜ」
まあ魔物のタイミングというのもあるし、結局会えるのは運しだいか。
ただし、今月も来月も金欠の僕にとって、お金が要る要らないは重大なことだ。
「それはそうかもしれませんけど、お金が要るんですよ。僕がお金が無いのを知っているでしょう?」
「そいつは心配しなくても大丈夫だ。馬は二頭借りれば事足りるんだぜ。俺は目的の為に馬を借りるんだ。一頭分は俺が持とう。あと一頭は分割するなりなんなりすれば相当安くつくだろう?」
「それでも僕の出費にはかわりないじゃないですか」
僕が否定しようとした時、ガッと肩が掴まれた。
「……私、いい考えだと思います。その一頭分は私が出しますから、二組に分かれて馬を使いましょう!」
肩を掴んでいるのはツキコさんだ。
どうやらデッドロックさんと一緒に馬に乗りたいらしい。
まあ、お金を出してくれるというなら僕に文句はないのだけど。
「あんた達、何してんの早く行くわよ!」
僕達の事は気にせず、もうかなり先に進んでいたファラさんが声を掛けて来た。
「ファラさん、何か馬の代金出してくれるみたいですよ。結構遠いですから乗って行きましょうよ」
「そうなの? お金を払ってくれるなら文句はないわよ。じゃあ早速使わせて貰いましょうか」
僕達は馬を借りて、北にあるミトラの町に向かって行くことになったのだけど。
「んじゃ、俺は坊主と一緒に乗って行くから、そっちはそっちでやってくれや」
「分かったわ」
その流れに、ギンとしたツキコさんの目が僕に向けられる。
物凄く怒っていらっしゃる。
「ちょっと待ってくださいデッドロックさん、さっき二組で使いましょうって言いましたよね」
「だから男と女のだろ? ああそうか、悪かったな坊主。ファラの嬢ちゃんとくっ付きたかったんだろ。じゃあツキコ、悪いが俺の後ろにでも乗って行くかい?」
「う、うん!」
ツキコさんからの殺気がなくなり、今は恥ずかしそうにしている。
そちらは解決したけど、こちらの問題が発生しらたしい。
「へ~、私とくっ付きたかったんだ? へ~」
ファラさんは蔑んだ目で僕を見て来る。
「いや、違いますよ! 僕はそんな恐ろしいことを望んでは……ハッ?!」
否定した瞬間、ツキコさんが居る方向から、チャキっと刃が引き抜かれた音が聞こえた。
僕に逃げ場はないらしい。
「……はい、ファラさんと乗りたいです」
「……あっそ、別にいいわよ。折角馬があるんだし、使わないのは勿体無いからね。クー、馬の操作は任せるからね」
「えっ、僕できないですよ?」
『…………』
「ああそうよね、期待した私が馬鹿だったわ。じゃあ私がやるから、あんたは後で掴まってなさい。……変な所触ったら突き落とすから」
「しません。絶対にしません! 何が有ってもしませんとも!」
「フンッ!」
僕はファラさんに平手で叩かれた。
「あいた! 何故?!」
「気にしないで、ただちょっとムカついただけだから」
ファラさんは借りた馬に飛び乗る。
「ほら、手を出しなさい。どうせ一人じゃ乗れないでしょ」
「あ、はい」
僕は手を貸されてその後に座った。
落ちないようにお腹に抱き付き、馬が移動を始める。
一般に馬の常歩、つまり通常歩行の速度は、人の歩く速度の半倍ほどは速いと言われる。
だからきっと六時間ぐらいはこの状態が続くのだろう。
僕はファラさんの体温を感じながら、なんだかほっこりした気分になっている。
ガッツリと人の体温を感じるのは久しぶりだ。
小さい頃にお母さんに抱かれていたのを思い出す。
「お母さん……」
「誰がお母さんよ。馬から蹴り落とすわよ!」
自分の事だと思ったのか、ファラさんは怒ってしまった。
「ご、ごめんなさい! ちょっと昔を思い出してただけですから!」
「おいお前達、のろけ合ってる暇はないぞ。先にはディーラが待っているからな。それにどうやら敵がおいでなすったようだ」
「「のろけ合っていません!」」
僕とファラさんは否定して前方を見ると、前にゴブリンの集団が見えている。
数は十五体。
どんな環境にも適応し、戦闘になるのは毎度のことだ。
一対一であるなら僕でも勝てるけど、今回は数が多い。
因みにゴブリンの資料は。
名前 :ゴブリン
レベル:5
HP :20
MP :0
力 :35
速 :45
大 :110
危険度:2
技 :ナイフによる攻撃。投げナイフ。
考察 :緑色の体が特徴的。
武器は体が小さい為、小さなナイフぐらいしか持てない。
弓は扱えないが、ナイフを投げることが稀にある。
一対一であれば普通に勝てる存在だ。
能力的には一般人の大人に劣るが、ナイフという凶器は人を傷つけるのには充分だ。
初心者は注意を払ってほしい。
捕捉 :通常のゴブリンの他にも、変異種が多く存在している。
ホブゴブリン、レッドゴブリン、ゴブリンオーク、ゴブリンオーガ、ゴブリンバット。
ハイゴブリン、ダークゴブリン、他にも様々な種類が確認されている。
中にはキングと呼ばれるものも存在するらしい。
今見えているタイプは通常のものだ。
ゴブリンは初心者の成長を助けてくれる、意外と必要な魔物ではあるけど。
繁殖力が強くて倒した所でまたわき出して来る。
こちらの資料もそろっているし、倒すのも悪くはないだろう。
「おいおい、俺の進路を塞ぐとはいい度胸じゃねぇか。後悔させてやるから掛かって来なよ」
敵は多く、回避することもできなくはないけど、デッドロックさんは馬を降りてしまった。
「……殺!」
そしてツキコさんは、至福の時間を邪魔されてご立腹のようだ。
「仕方ないわね、私も行くから、クーは馬でも護ってなさい!」
「わかりました。弱いとはいえ数が多いので、充分注意してくださいね」
僕とファラさんも馬を降り。
「この程度に心配し過ぎね!」
ファラさん達三人はゴブリンに向かって行ってる。
僕も二頭の馬を護るために、リュックから鉄棒を取り出した。
接近戦は得意じゃないし、出来れば来ないでください。
しかし僕が戦う必要が無いぐらいに三人は活躍している。
武器を振るうごとに一体が倒れ、二撃目でまた一体と倒していく。
倒しきるのも時間の問題だろう。
「でもこの行進は厄介だよなぁ。一応資料に書き込んでおこうか」
僕は鉄棒を地面に置き、ゴブリンの資料に追記を加える。
「えっと……」
他のゴブリンは分からないが、通常のゴブリンタイプは集団で行動することがある。
一体が弱いからといって油断して突っ込んでしまうと、中級者でもやられる可能性が高い。
「クー、そっちに行ったわよ! 何座り込んでるの?!」
「えっ、わわわ?!」
ファラさんの注意でやっと気づいた僕は、慌てて置いた鉄棒を握ると、ゴブリンが来る前に立ち上がった。
書いている僕が油断してたら話にもならない。
接近して来たゴブリンは三体で、もうかなり近い。
僕は鉄棒を構えて一体に打ち付ける。
「ギャアアアア?!」
流石に一撃で倒れてくれるけど、残った二体は僕に襲い掛かって来ている。
後衛とはいえ僕だって冒険者の資格をも持つ者だ。
怪我ぐらいは覚悟している!
「ぐう……」
一方の攻撃をワザと腕で受け止め、もう一方の攻撃を鉄棒でしのぐ。
かなり痛いけど、研いでもいないナイフは鈍い。
僕のダメージは致命傷にはならない。
「たああああ!」
鉄棒の相手を弾き飛ばし、腕に突き刺した相手に鉄棒をぶつける。
「ギャン」
残った一体は。
「あんた……クーに何してるのよ!」
ファラさんに背中を斬りつけられ、一撃で倒されていた。
僕が三体を相手にしている間に、全部倒してしまったらしい。
「痛い」
回復薬を持って来てよかった。
僕はリュックから回復薬を取り出そうとするのだけど。
「クー手当は私がやってあげるわ。傷口を見せて!」
ファラさんは心配して回復薬をたっぷり使ってくれた。
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そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
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