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あの……来月ピンチなんですけど

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★前回のあらすじ。
 僕達はミアさんを連れ町からの移動を始める。
 森の街道の入り口に到着するが、ファラさんは警戒していた。
 見えない馬車の裏側を狙い、持っていたナイフを投げたりしている。
 しかし敵は居ないようで、そのまま話しながら移動を続けるのだが、ファラさんはボーナスがもらえるのかと疑問を持ったらしい。
 お金が欲しいファラさんはミアさんを逃がそうとするのだけど、そこに冒険者が襲って来たようだ。


 クー・ライズ・ライト (僕)
 ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
 スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
 デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
 アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
 ミア     (絶望のアギア・賞金首・ナンバー9)


 結界の内で放たれた氷の力は、数値となって上方から落ちた。
 その数値とは……マイナス四十五度。
 しかし魔法を放った相手は、何も知らないらしく凄く驚いているようだ。

「ど、どうなっている。俺は確かに魔法を?! も、もう一度だ……アイス・コールド!」

 またも同じ数値が結界内に落ちて来た。
 まあ、測量士なんてマイナーな職業はギルドぐらいにしか居ないけど、もう少し勉強した方がいいんじゃないですか?

 わざわざ相手に本当のことを言う必要もないし、とりあえずこのままでもいいだろう。
 そして僕は、落ちて来た数値で能力の変化を行う。
 マイナス値では能力をプラスすることは出来ないが、相手の能力を減退させることができる。

「あの者に減退の効果を!」

 ファラさんの相手を指さしターゲットにすると、この能力を付与させ、相手の能力値に影響を与えた。
 速度マイナス三十と、効果時間十五秒。
 それだけの数値を下げられるとどうなるか。

 かなりのレベルがなければ一般人並みに速度が落ちてしまう。
 それがなくとも元から押していた相手だ、そんな相手にファラさんが負ける理由がない。

「はああッ!」

「がああ?!」

 ファラさんは動きの落ちた相手を難なく切り倒し、一瞬後には勝負が決まっていた。
 倒した相手を振り返らず、ファラさんは僕に魔法を使った奴に向かって行く。

「ひっ……ア、アイス……」

 思わず魔法を使おうとしてるようだけど、その効果は発動しない。
 もう一つの炎の魔法を使えばいいのに。
 そう思っている間にも男が倒され、隣にいたもう一人は手を挙げて降伏している。
 しかしファラさんはそれを許さず、相手を鞘で叩き伏せると、防御を続けるアーリアさんの場所へ移動して行く。

 残っているのはたった二人。
 一対一となれば決まった様なものだ。
 アーリアさんが相手を防御している間にファラさんが一人を倒し、そしてまた一人が倒れる。
 二人は、たった十数秒で勝利を収めた。
 倒れた六人は一か所に集められ、ファラさんが剣を突きつけている。

「さて、こいつらどうしましょうか?」

「ゆ、許してください! ほんのつい出来心で。お願いします、命だけはお助けを!」

 相手は怯えていて、もう抵抗する意思をなくしたらしい。
 冒険者にこれ以上やるのは不味い。

「いや、どうするって言っても、殺す訳にはいかないじゃないですか。放って置けばいいんじゃないです?」

 僕はファラさんを制止しようとするのだけど。

「また繰り返されると困るでしょ。そうね、二度とやらないように罰を与えましょうか」

 六人に何かさせる気なのだろう。

「あんた達、森の入り口の馬車を起こしなさい。それを押して先の町まで運んで行きなさい。もし出来なければ、ギルド職員としてあんた達の冒険者の資格を取り上げるわよ」

『や、やらせていただきます!』

 六人は反省したように声を出している。
 僕達も手伝い、転がされた馬車が起こされると、六人は馬の居ない馬車を町に運んで行く。
 あの六人が反省するかどうかは分からないが、これであの邪魔な馬車が無くなった訳だ。
 これで報告する必要はなくなったかな。

「あ~、疲れたわ。もう帰りましょう」

 ファラさんはローザリアに歩き出した。
 それに続き僕達も歩き出す。

「逃がせって言わないんですね」

「はぁ、連れて行かなきゃ魔物に戻るし仕方ないじゃない。今更逃がせないでしょうが! 私だって我慢してるのよ!」

「あ、はい、ごめんなさい」

 僕は素直に謝りその場をやり過ごす。

「クーちゃん腕でも組んで行きましょうか?」

「いや、大丈夫です」

 アーリアさんの言葉を軽く否定し、移動しようとしたのだけど。

「ヨメ、ワタシ、ハラヘリ。メシ、クレ」

「ああ、ご飯食べてないですもんね。干し肉がありますから食べます?」

「クウ!」

 僕が干し肉を手渡すと、ミアさんはガシガシと噛り付いている。
 そのまま食べさせながら歩かせ、僕達は町へと戻って行った。

 ローザリアのギルド。
 人は殆ど出払っているけど、スラ―さんは事務仕事に追われている。

「ああ、少し待っていてください。キリの良い所までやっておきますから」

 スラーさんが手を止めたところで、僕達は今までの報告をしたのだけど。

「そうですか。ご苦労様でした。日をまたぐ仕事で疲れたでしょう、今日は帰って休んでもいいですよ」

 当然隣に居るミアさんの事も伝えてあるのだけど、スラ―さんの反応はその程度だった。

「ちょっとスラ―さん、私のボーナスは?!」

 今まで僕の話を待っていてくれたファラさんは、もう良いとばかりにお金の話を切り出した。
 やっぱり諦めてはいないらしい。

「いやファラさん、その話は後で良いんじゃないですか? 他に話さなきゃならない事もこともありますし。後でちゃんと説明しときますから」

「駄目よ。今後の生活に関わる重大な話よ! 有ると無いのでは雲泥の差だわよ!」

「はいはいファラちゃん落ち着いて。お姉さんが相手してあげるからね」

「ちょっと引きずらないでよ馬鹿力! 今重大な話をしてるんだから! こらああああ!」

 ファラさんはアーリアさんに部屋の奥へ連れて行かれてしまった。
 少し空間が静かになった。

「まあボーナスは支給されると思うよ。そのことはライズ・ライト君からください」

「あ、はい。では失礼します……じゃなくて、ミアさんのことはどうするんですか。一応反省していますよ」

「ワタシ、ヒト、オソウ、ナイ!」

 ミアさんは自分の言葉で宣言した。
 ある程度の言葉も分かるし、自分の気持ちも言葉にも出せる。
 姿以外は普通の人と変わらないだろう。

「ふ~む……残念なことに、本人が反省しているから良いって訳じゃないんだよねぇ。罪には罰をって、それは君もわかるでしょ?」

「いや、まあ、そうなんですけど……」

 人を傷つけたら罰を受ける。
 当たり前のことだ。

「このまま何も無しってことでは傷を負った人は納得しないだろう。依頼書も取り下げなきゃいけないし、上への報告もなしってわけにはいかないよ? でもまあ、そう悲観する事もないと思うんだよね。ギルドは罪人の罪を問う組織じゃないんだから」

「ああはい」

 そう、ギルドは別に裁判所じゃない。
 捕まえた罪人は国に引き渡され、後の処理は裁判で決められる。
 ただしそれは人であるならの話だ。

 魔物については裁判は行われない。
 国に引き渡されることもない。
 そもそも依頼書を出した時点で、全部討伐案件なのだ。
 賞金首の制度が始まって、初めての例外だった。

「まあ悪いようにはしませんから、あとは私に任せておいてください。というわけで、決定が下るまでは彼女のことは任せますよライズ・ライト君。曲がり間違っても町中で人を傷つけたりさせないようにしてください」

「えっ、僕が面倒みるんですか?!」

「それはそうでしょう。ギルドは魔物の預かり所じゃないんですから。君が拾って来た命です。住処の提供や食事は保護者である君の責任ですよ。それと彼女の行いで何か有れば、君は責任や賠償などを問われますので、充分肝に銘じておいてください」

「うっ……」

「今更放り出すなんて言わないでくださいね。その時は君のお金で依頼を出してもらいますから」

「わ、わかりました」

 何方にしても相当な金が飛んで行きそうだ。
 今更放り出す気はないけど。

「ヨメ、カゾク、イッショ!」

「そーですねー……」

 ギルドの結論が出るまでは、僕がミアさんの面倒を見る事になってしまった。
 流石に僕の自宅には住まわせることが出来ず、ファラさんとアーリアさんにお願いして見たのだけど。

「嫌よ」

 ファラさんには軽く断られ。

「う~ん、お姉さんもそんなにお金がないし、クーちゃんの頼みでも無理だわ。それよりクーちゃん、私に紹介してくれる人って誰なのかしら? もしかしてクーちゃんが相手してくれるの?!」

 アーリアさんにも断られてしまう。
 ついでに約束のことを忘れてはいなかったらしく、僕も当初の予定通りにデッドロックさんのことを話すことにした。

「いや、違います。それはあそこの机のデッドロックさんって人のことです!」

 僕はギルドから出掛けているデッドロックさんの机を指さした。

「な、なんですってええええええええ?!」

 アーリアさんの目が代わり、得物を狙う狩人の目となった。

「お姉さんあの人ちょっとタイプだったの。次会った時にアタックしてみるわ!」

「はい、頑張ってくださいお姉さん。僕もかげながら応援していますね!」

「ありがとうクーちゃん、私頑張るわ! 振られた時にはクーちゃんが相手してね!」

「それは嫌です」

 僕の否定を気にせずに、アーリアさんは自分の机にある手荷物を持つ。

「じゃあまたねクーちゃん、私は勝負服を買いに行って来るから!」

「はい、いってらっしゃ~い」

 アーリアさんは急いで外に出て行った。

「ワタシ、ジャマ?」

 しかし嫌がられてしまったミアさんは、少し悲しそうな顔をしている。

「少しというか壊滅的に懐が痛いですけど、ミアさんは心配しなくても大丈夫です」

 僕はそれからギルドの寮の寮長に頼み込み、開いている部屋を一部屋借り受けた。
 この家賃だけでも来月の給料は火の車である。
 それに生活費や衣服の代金とか、更にはスラーさんにもお金も絶対に返さなければならない。

 ボーナスをくれるとは言ってたけど、これはどう考えても足が出てるんじゃないだろうか?
 もう僕のコレクションである魔道具類を売るしかないのかもしれない。

 ……ああ、やっぱり売りたくない。
 何か手はないのだろうか?


 ミアさんにある程度生活のことを教え込み、ようやく手がかからなくなって来た頃。
 もうそろそろギルドからの通達が有っても良いはずだが、今の所何の連絡も来てはいない。
 そのことも気になる所だけど、僕はそれ以上に心配していることがある。
 今僕は、とんでもない金欠状態に陥っている。

 自室の床に座り込み手持ちのお金を数えているのだけど、しかし何度数えた所でその金額は変わらない。

「お、お金がない。明日の食費もピンチだ……いや、今日も不味いかもしれない。塩と小麦粉でパンっぽいものを作るってしのぐしか?」

 それもいずれ無くなってしまいそうだが。
 給料日まではあと十日。
 僕だけなら我慢できるのだけど、もう一人居るミアさんの分の食糧も確保しなければならない。

「そうだ、野草を取ってしのげば! それならタダだ!」

 思いついたはいいのだけど、僕には毒と野草の見分け方が分からない。
 ミアさんなら知ってるかもしれないが、今外に連れ出すのは不味いだろう。
 もうたぶん一人でも大丈夫だと思うけど、一応ファラさんにでも頼んでみるとしよう。
 断られるかもしれないが。

 ミアさんのことは任せるとして、一体誰に頼むかが問題だ。
 アーリアさんは、今日も出勤していて仕事しているはずだ。
 ギルド職員がこんなことでギルドに依頼を出す訳にはいかないし、そもそも依頼料がない。

 今日休みで、なおかつ僕に手を貸してくれる野草に詳しそうな人は?

「それで俺のとこに来たのか。確かに俺は冒険者だったが、草がどうかなんて分かったもんじゃねぇぜ」

 洒落たインテリアが飾られているデッドロックさんの部屋。
 寮の外壁と中との差が違い過ぎて微妙に違和感を感じてしまう。
 しかし、どうやらハズレだったらしい。
 冒険者だから案外知っているかとも思ったんだけど、そうでもないようだ。

「それより坊主、何かしら俺に言う事はないのか?」

 部屋の中で優雅にブランデーをたしなむデッドロックさんは、軽く手を向けて僕に言い返している。

「えっ、もしかしてアーリアさんのことですか? 良いじゃないですか別に、綺麗な人でしょ」

「そいつは認めてやってもいい。しかしだ、俺はディーラ一筋だって決めてんだよ。あのお姉ちゃんにはお前から断わってくんなよ」

「もうこっちに引っ越して来たんですから、昔の恋人は忘れて今の恋に燃えたいいでしょうに」

「そんなダセェマネが出来るかよ。俺の愛は永遠にたった一人の物なんだぜ。邪魔して貰っちゃあ困る訳だ。今回は許してやるが二度目はねぇぜ。まあ俺に惚れちまうってのは分からない話じゃねぇんだけどな」

 デッドロックさんは、自分の容姿に自信があるらしい。
 まあ僕から見ても、それなりにはカッコいいとは思う。

「え~っと、好意を向けてくれる人を振るのに、他人を使うのはダサいんじゃないですか? その辺は自分でお願いします」

「ハッ、言うじゃねぇか。確かにそうかもしれねぇ。じゃあ自分のケツは自分で拭くとするぜ。話はそれだけか?」

「いえ、じつは他に頼れる人が居なくて、誰か手伝ってくれる人を知りませんか?! 出来ればタダで手伝ってくれる人だと嬉しいんですけど!」

「こっちに越して来たばかりなんだぜ? 知り合いなんてもんはお前等意外には……ああ待て、一応相棒の奴なら話を通してやってもいいぜ。奴が聞いてくれるのかは知らねぇけどな」

「是非お願いします!」

 ギルドでは相棒を組むか、またはチームを組むことが義務付けられている。
 ちなみに僕とファラさんの関係もそんなものでだ。
 一応僕が先輩なんだけど、最近ではファラさんの方が立場が上になってる気がする。
 いや、考えてみれば、元からあんな感じだった気がしない。

 その話はまあ置いておいて、今はデッドロックさんの相棒のことだ。
 名前はミカグラ・ツキコ。
 名前と家名が逆になってるという不思議な名前を持っている。
 ツキコが名前だけど、本人は好きではないらしい。

 彼女の両親はそれなりの有名人で、一代で巨万の富を築いたという。
 その二人は異世界から来たと吹聴しているけど、ハッキリ言って誰も信じていない。
 それは彼女自身でもだ。
 両親のことでいじめられた過去もあると、噂で聞いたことが有る。

 一応この部署が立ち上がった頃から居る人物で、同期と言っていい人物なのだけど、ハッキリ言って僕は彼女の力をあまり知らない。
 積極的に話しかけて来ることもないし、僕から話しかけても返事ぐらいしかしてくれないのだ。
 ちなみに同期と言っても年上で、女性陣の中では一番年上だと思う。

 その人の部屋に、デッドロックさんと一緒に向かっている。
 まあ二部屋隣なので十秒もしない内に着くのだけど。

「おい居るんだろツキコ、ちょっと用事があるんだ、出て来てくれ」

 ツキコさんの部屋の前でデッドロックさんが声を掛けるが、返事は聞こえてこない。
 しかし、部屋の中には動く気配がある。
 たぶん居留守でも使っているのだろう。

「居るのは分かってるんだよ。相棒の俺に居留守キメこもうなんざいい度胸だ! 部屋に入るぞ!」

「ま、待って!」

 中から声が聞こえたのだけど、デッドロックさんはもう扉を開いてしまったらしい。
 不用心だから鍵を閉めておけばいいのに。
 扉は開かれ、部屋の中にツキコさんの姿が見えた。

「……あっ!」

 その中の光景に、僕は驚いてしまう。

「おっ……まあ、悪かったな」

 部屋の中にはツキコさんが下着姿で立っていたのだ。

「……キャアアアアアア!」

 年上なのに年下に見えるほどに童顔で、背も低くてそうとう子供っぽく見える。
 胸もそれに比例して小さいようだ。
 そんな小さなお姉さんは、どうも着替えをしようとしていたらしい。

「おっと済まねぇ、今のは俺が悪かった」

 デッドロックさんは直ぐに扉を閉めたのだけど、この出会い方は印象が悪そうだ。
 手を貸してくれなくなったら困ってしまう。
 変に顔を崩さないように注意しよう。

「おいツキコ、悪かった。機嫌を直してくれねぇか?」

「…………」

 しかし中の反応はまた消えている。

「坊主、ツキコが出て来ても妙な笑い顔なんてするんじゃねぇぜ。気分を悪くするからな」

「はい、わかっています。これ以上機嫌が悪くなったら頼み事なんて出来ませんからね」

 僕達は扉の前でジッとして、ツキコさんが出て来るのを待っている。
 時間にして二十分。
 流石にもう着替え終えているはずだ。
 でもさっきのでもう出て来ないのかもしれない。

「デッドロックさん、今日は無理なんじゃないでしょうか?」

「まあ待て、気弱とはいえツキコは戦士だ。こんなことでくじけたりしない……はずだ」

 あんまり自信がない感じがする。
 まだ日が浅い相棒だし、全てを知っているはずもない。

「でもこれ戦士とは全く関係ないことですよ?」

「……ふむ、やっぱりダメか? 仕方ない帰ると……」

 そのタイミングでガチャッと扉が開き、ツキコさんは武装した姿で現れた。
 全体を覆う黒い衣服に、口には布マスク。
 少し開いた胸元には鎖帷子の軽い物を着ているようだ。
 腰にある武器は剣とは少し違う雰囲気をもつ。

「あ、あの、私に何かご用でしょうか……」

 表情は変わっていない。
 立ち直ってくれたのだろう。

「ようツキコ、さっきは悪かったな。この坊主が少し話があるってんだ。聞いてやってはくれないか?」

「た、頼み?」

 ツキコさんが僕の方に振り向いた。
 ここで言わなければ待った甲斐もない。
 言ってしまおう。

「こんにちはツキコさん。ちょっとしたことで僕今月ピンチなんです。いやまあ来月もなんですけどね。それであの、出来れば野草とかキノコとかの見分けをして欲しいのですけど、お願いできませんか?」

「ほ、報酬は……?」

「いや、あの、できれば無料でお願いしたいんですけど……」

 ツキコさんは少し考えている。
 まあ確かに相当無礼なことを言っているのだけど、背に腹は代えられないのだ。
 僕のお腹は今も音を立てようとしている。
 何とか聞いて貰いたいところだ。

「……ん、いいよ」

 お腹の音が良かったのか、ツキコさんはこの頼みを聞いてくれた。

「ありがとうございますツキコさん。これで生活ができるかもしれません!」

 僕は頭を下げてお礼を言った。

「まっ、俺も暇だから付き合ってやるぜ。美味い物が食えれば特にいいんだがな」

 デッドロックさんは取れる食材に期待しているのだろう。
 でも野草は食えるというだけで、美味いとは別の話なのだけどなぁ。

「あ、はい。多く取れた時には……まあそれなりに分けますんで。それでどうぞよろしくお願いします」

「よし決まったな。まあ俺には草の見分け方は分からねぇから、野生動物でも狩っといてやるぜ。お前も肉が食いたいだろ?」

 僕にとって素晴らしい提案です。

「は、はい! 僕肉食いたいです!」

「……じゃあ南の森にでも行ってみようか? あそこは安全になったって聞いたし、果物も生っているかも……」

「はい、果物美味しいです。是非行きましょう!」

 こうして僕達三人は南にある森に向かうのだけど、森には魔物が出るから注意しないとならない。
 だから僕は、大きめのリュックと鉄棒を四本持ち、出来る限り荷物を空にして南の森へ向かって行った。
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