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四つ目の日記
過保護もほどほどにしてください
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★前回のちょっとしたあらすじ。
レストランから逃げ出し、時間を置いてもう一度中を覗いた。
随分時間が経っているのに、まだ説教は続いていた。
もうすでに嫌な顔をしているファラさんが、顔をそらしてこちらを見た。
僕はそっと扉を閉めて見なかったことにしたけど、ファラさんが追い駆けて来ていた。
お詫びと言ってキスをされ、その代わりといって利用されてしまう。
僕の子供がいると嘯くファラさんに、あまりのことに気を失ってしまうファラさんのお父さん。
僕達は気絶したお父さんをレストランに運び入れ、冒険者に成りたいというファラさんの頼みを聞くだけは聞いてみた。
★
クー・ライズ・ライト (僕)
ランズ・ライズ・ライト (父)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
★
ファラさんは父さんに気に入られ、魔物が出るまでの間に特訓を受けていた。
その間に僕は、レストランの中で父さんが持っていた職業の説明書を読み漁っている。
僕は今まで全く気にしていなかったのだけど、測量士が後衛に位置するものだと気づいてしまった。
しかも、レベルが上がってもあんまり強くなれないらしい。
まあそれでもなんとなく使い方を覚え、ようやく持っていた鉄棒の使い道を知ったのだった。
そして、説明書を読み終えたぐらいにファラさんのお父さんが目を覚ましたのだけど。
「…………」
目の前で手をパタパタさせても反応がない。
口を開けて放心状態になっている。
ちょっと考えれば分かるのに、それほどファラさんのことに執心しているのだろう。
「あの、さっきのは嘘ですからね。僕は今日村に来たのに子供なんて出来るわけがないでしょう。聞いてますか? お~い」
気が付いてからだと話を聞いてくれ無さそうだし、僕は今の内に言い訳しとこうとフェイさんに声を掛けた。
それを切っ掛けにフェイさんの目に力が宿った。
「……今のは、本当だろうな? そうか、そうだよな、ファラちゃんがこんな冴えない……さっきのキスはどういう積もりだ?!」
「あれはただそう見えただけで、ただの演技ですから!」
そうしておいた方が都合がいい。
「だったらあれは何だ、この店で裸になって何をしていたああああああああ?!」
「あの、落ち着いてください。あれはファラさんが脱げと……」
「ファラちゃんがそんな事を言うはずがなああああああああああい!」
やっぱり声を掛けなかった方が良かったかもしれない。
「違うんです。濡れている服を乾かしてくれるって言って。優しいファラさんが言ってくれたんです! それからちょっと足がもつれただけで、特になんにもないですから! ファラさんはそんな子じゃないんでしょ?」
とっさについた僕のウソに、フェイさんは少し考えこんでいる。
たぶんあの時の光景を思い出しているのだろう。
「……確かにファラはそんな子じゃない。私の思い違い……なのか?」
「そうです、キッパリ思い違いですから。ファラさんは冒険者になりたくて嘘をついてるだけですから!」
「ぼ、冒険者だと?! そうか、ファラはファリアの影を追って……止めても無駄かもしれないな……」
たぶん家族かなにかだろう。
突っ込んで聞いても、どうせ僕には話してくれないから聞かないでおこう。
「あの、そんなことより……」
「そんなことだとおおおおお?! お前はファラちゃんの大事さを分かっていない! いいか、ファラちゃんはとてもかわいいんだぞ! 貴様は分かっているのか?!」
「いや、そうじゃなくて魔物のことを……」
「魔物だとお?! 魔物なんてものはファラちゃんの二の次……ん、魔物? そうだ、ギルドに依頼を出したんだった。だがそれが貴様となんの関係がある! 今はファラちゃんの可愛さの事を話すのが先決だ!」
「だからその依頼を受けて来たのが僕と父さんなんですよ。魔物の特徴とか教えてくれませんか!」
全然話が進まないから、僕は思いっきり怒鳴り返してしまった。
フェイさんは少し面食らい、まじまじと僕の全身を見回している。
「……ハズレか。もう一回依頼を出さないと」
「ハズレじゃないですよ。ちゃんと実力もありますからね! 僕は兎も角、父さんの実力は折り紙付きですから! ランズ・ライズ・ライトの名前なら知ってるでしょ?」
父さんは元々冒険者だし、その名前も結構知れ渡っているはずだ。
「ランズ……だと? 聞いたことがある……ような気もする? まあいい、来てくれたのなら本人と話しをさせて貰おう。で、どこにいるのだ? 私のファラちゃんは?!」
父さん、長くやってるわりに、あんまり知名度ないんですね。
「ファラさんは外で僕の父さんと訓練していますよ」
「ファラアアアアアアアアアアアア!」
僕に返事すらくれず、フェイさんは外に行ってしまった。
もうここで待っていても意味がないし、僕も行くとしようかな。
そして移動した外には、大きな一本の木の近くで真剣を持って打ちあっている二人と、到着したフェイさんがオロオロとしている。
「ファラ、そんな危ない物は置いてお父さんと一緒に店に戻ろう。魔物はその人に任せておけばいいんだよ?」
「何言ってるのお父さん。この村の問題なんだから自分の手でやらなくてどうするのよ。今の私一人じゃ無理でもランズさんが居るから平気よ! あとオマケも居るし」
おまけって僕のことでしょうか?
仕方ない僕の力を見せるとしよう。
「ファラさん、僕はオマケじゃないですからね。測量士の真の力を見せてあげますよ!」
「へぇ、やれるもんならやってみなさいよ。どこからでも良いから掛かって来なさい!」
ファラさんは僕の方に剣を向けている。
木刀でも嫌なのに、あんな物を持ってる人と戦いたくはない。
「いや、そういうんじゃなくて、ちょっとそこに立っていてください」
「ん、何するの?」
「まあ見ていてください」
僕はこの場にある木の周りを大きく囲むように、手に持った鉄棒を四本突き立ててた。
そして僕は力を発動させるキーワードを唱える。
「結界の内なる生命よ、数値となって強さを示せ。ナンバーズ・フィールド!」
今僕が使える魔法は、何かを計ったり測ったりする魔法だ。
ちなみに今居る人数は四人だけど、囲んだ結界の内には虫なども存在している。
アリなんかが地上に出てきたら相当な数になるのだけど。
上空から落ちて来る石の数値を目で追うと、二十八と出ているようだ。
「うわ、危ないわね! まさか私を殺す気?!」
その石がファラさんの近くに落ち、少しビックリさせてしまったらしい。
「いや違うんですよファラさん、この数値は僕の力になって……」
「ファラになにすんだああああああああ!」
「いたッ!」
ファラさんを心配したフェイさんに、後ろから殴りつけられた。
凄く痛い。
今後フェイさんの前ではやらないように気を付けるとしよう。
「ヌッハッハー、やられたなぁクー、油断大敵だぞ。魔物と戦う時には背後からの奇襲も気をつけないといけない。今後の為に覚えておけよ?」
こっちの父さんは心配もしてくれない。
まあベタベタされても気持ち悪いのだけど。
「じゃあ依頼者が来たから訓練はここまでにしておくか。それじゃあ依頼の話をしようかフェイさん。魔物の特徴とかを教えてくれると嬉しいんだけどな?」
父さんが剣を納め、フェイさんに話しかけた。
「確かに、魔物はこの村にとっての死活問題です。しかあああああし、私にとってはファラの将来の方が最優先だ! もし貴方がファラを連れて行くというのなら、その資格があるのかどうかを確かめさせてもらおうか! ちなみにそこの子供は失格だ!」
その子供というのは僕のことらしい。
でもどうしよう、魔物の話がちっともできないな。
もうそろそろ夜が近いのだけど。
「お父さん、私の将来は私が決めるわ。邪魔をしないでほしいのだけど」
ファラさんは実のお父さんにも剣を向けている。
誰にでも容赦がない人だ。
「ファラ、お前が冒険者になりたいのは分かった。でも私は心配して言っているんだ。ちゃんと冒険者としてやっていけるかどうか。幸せにやって行けるのかどうかもな。それに、一日に一回は帰って来てくれないとお父さん寂しいじゃないか!」
一日一回の帰宅は、この村を起点にして活動するなら出来なくもないけど、他の町に行くとなると難しいと思う。
「お父さんは心配しすぎなのよ。まあ私もお父さんのことは心配だし、一ヶ月に一回ぐらいなら考えてあげても良いわよ」
「確かに、一日は無茶だったかもしれないな。分かった、ファラの為に三日ぐらいに妥協しよう!」
「無理!」
「ファラアアアアアアアア?!」
結局ファラさんのお父さんは、泣く泣く二週間で妥協したようだ。
試験のこともサッパリ忘れたようで、へたり込んで泣き続けている。
「父さん、もう直ぐ夜になっちゃうし、これじゃあ魔物のことが聞けないよ?」
「うむ、確かにな。まあ父さんに任せておけ。いい考えがあるんだ」
そう言って泣き崩れるフェイさんの前に座り込んだ。
「俺も親だ、お前さんの気持ちは分からんでもない。まあ酒でも飲んで落ち着けよ。まず魔物のことを聞いてから仕事を終えた後にでも話を聞こうじゃないか」
父さんも結局後回しにしたいらしい。
「ぼんどうですがあ?!」
しかし混乱しまくって鼻水まで垂らしているフェイさんは、父さんにしがみ付いて喜んでいる。
「だからな、一回この酒をグイッといって落ちつきなって」
父さんは手持ちの酒瓶をフェイさんの口の中に突っ込んだ。
瓶の中にはほんの少量しか残されていなかったのだけど、それでもフェイさんには効果があったようだ。
少量で顔が赤くなり、泣きながら話し始めた。
「うぐううう、魔物は……人に化ける……ううう……ですよ。毎夜毎夜……ヒック、うううううううう」
これでなんとか魔物の手に入れられそうだ。
僕はフェイさんの発するオエツの部分を排除して、出て来る単語をつなぎ止める。
丹念に話しを聞き続け、終わった頃にはすっかり夜になってしまった。
ファラさんが泣き続けるフェイさんをレストランの中へ誘導し、僕と父さんは外で魔物の出現を待っている。
★
近くにあるレストランからは行かないでと懇願する男の声が聞こえて来る。
ファラさんのお父さんであるフェイさんのものだろう。
魔物との戦いに参加しようと、ファラさんが来ようとしているのかもしれない。
でもそれを待つ必要はない。
ファラさんが来るのかも分からないし、僕達だけでも充分だ。
「いようし、じゃあ魔物退治をやって行こうか。大丈夫かクー、緊張と化してないだろうな?」
父さんはもう酒も抜けて、やる気を出している。
「大丈夫だよ父さん。今まで結構退治して来たし。それにあのお父さんの方が怖いし」
「ヌッハッハー、確かにな!」
その僕達は、先ほど訓練していた場所で陣を張っていた。
さっき作った結界もそのまま残されているからだ。
別に作り直すのが面倒な訳ではない。
「それで僕達はこのまま待っていればいいのかな?」
「相手は人を襲う魔物らしいからな、待っていれば来るんじゃないか? というか来てもらわなきゃ困るんだがな。探す手もないし」
「ふ~ん、まあそうだよね」
人に化ける魔物だとすると、探そうと思っても見つからないだろう。
僕達は魔物を探すように、キョロキョロと周りを警戒しながら出現するのを待っていた。
そんな時。
「あれ? ……あの、父さん、あれが魔物じゃないよね?」
「ほぉ、あれか? まあ、間違いはないだろうな」
僕は、町の中を歩くフェイさんの姿を見つけてしまった。
あの人は今、レストランの中で娘のファラさんとたわむれているはずである。
「よし、だったら気付かない振りをしてこちらに引き込んでみるか。クーお前が行って来い。お前なら警戒されないだろう。心配するな、危険があれば父さんがフォローしてやる」
「ええ……まあ、いいけど。ちゃんとフォローしてよね」
「おう任せろ! キッチリフォローしてやるぞ。ヌッハッハー!」
父さんは昔からの冒険者だし、きっとこういうことだけは信用できるはずだ。
そういう事にしないとやってられないし。
そう思いながら、僕は少しだけ緊張して魔物の下に歩いて行った。
「こんばんはフェイさん、あっちの木の所でファラさんが呼んでいましたよ。待っていますから早く行ってあげてください」
「ファラが? え~っと、君は……見た事がない子供だな? ……まさか、遠距離恋愛でもしているんじゃないだろうね?!」
ずいっと迫って来る圧力は、まさしく本物にそっくりである。
しかし、僕のことを知らないから、やっぱり偽物だろう。
「それは絶対違います! 僕はただ頼まれただけですから!」
僕は思いの丈をぶちまけた。
キスされたとはいえ、あの人と恋人になりたいとは思わないからだ。
しかしその声を発すると。
「……あいた?!」
同時に、後頭部の付近に軽い痛みが走る。
何事かと振り向くと、その理由が判明した。
後ろにはファラさんが立っていたのだ。
「私もそう思ってたし!」
どうも僕の言葉で怒りをにじませたらしい。
因みに本物であるファラさんのお父さんは、その後ろから追い駆けて来ていた。
しかし、このまま近づかせてしまえば何方が魔物か分からなくなってしまうだろう。
僕はその進行を止めるように手を広げるが。
「フェイさん、少し待ってください! 魔物が出たんです!」
「魔物が出たなら余計ファラが危ないだろう! 私の邪魔をするな!」
僕はドンと背中を押されて倒されてしまった。
「ファラ、そんな偽物に近づいてはいけないよ! 本物のお父さんはこんなにも愛しているんだから!」
「ちょっと、くっつかないでよ!」
フェイさんは、ファラさんの背後からガシッと抱き付いて嫌がられている。
そんな本物を見た偽物は。
「ファラは私のものだあああああああ!」
「ちょっと、来ないでよ!」
正面から抱き付こうとするが、正面から来てしまったからファラさんにぶん殴られている。
「ぬおおおおおお、ファラの為にも負ける物かあああ!」
それでも足を踏ん張り、本物の方を引きはがしてしまった。
両方共地面に倒れ転がってしまう。
分からなくなるところだけど。
「こっちが本物ですよ。僕ちゃんと見てましたから」
僕は迷うことなく片方を指さしている。
別にそんなに早く転がった訳じゃないし、冷静に見とけば分かるのだ。
「わ、私は本物です。偽物ではありません! ギルドの依頼を終えて、さきほどラザリアンクから帰って来たばかりなのです! ファラ、ファラなら分かるだろう?!」
偽物の方は、自分が本物だと言っている。
ギルドのことを知っているとなると、少しだけ可能性が?
確かに、本物だと思っていた方は、泣きわめいていたり色々酷いものだが。
「私に聞かれても正直どっちか分からないんだけど。もう考えても分からないし、二人共殴っとけばいいんじゃないの? 死にそうになったら正体を現すでしょう」
ファラさんにとっては、どちらも殴り易い存在なのだろう。
「まあ、娘のファラさんがそれでいいって言うなら、僕もそうしてもいいですね」
『それはおかしい。私が本物なのに!』
二人共ピッタリ息が合っていてまるで双子のようだ。
悪さをしないのなら別にこのままでもいいのだけど、片方は依頼された魔物である。
「おいクー、連れて来るんじゃなかったのか?」
こちらの騒ぎを見て、父さんがこちらに来てくれた。
「あっ、父さん、ごめん忘れてた。でもおかしなことになっちゃったんだ。見て分かると思うけど、本物が混じっちゃったみたいだよ」
僕は今までの状況を掻い摘んで父さんに話した。
「つまり、偽物でも本物の可能性があるってことか? だが、見分けがつかんぞ?」
「うん、だから両方殴っちゃえばいいんじゃないかって意見がファラさんから出たんだけど……」
「なるほど、肉親が良いというのなら良いんじゃないか?」
やっぱり父さんも手っ取り早い方法を望んでいる。
「あ、やっぱり? 父さんもそう思うよね」
「私は全然大丈夫よ」
ファラさんもやっぱり良いようだし、やってしまうとしようか。
父さんは拳を構え、僕達も戦闘体勢をとるのだけど。
「おい! 私を傷つけたらギルドに抗議するからな! 依頼料も払い戻してもらうぞ!」
「そうだそうだ! 依頼者を大事にしろよ! 私だって抗議するぞ!」
なぜか本物と偽物で協力して、僕達に抗議してきた。
村の為に犠牲になってくれれば早いのに。
「ふんむ、流石に依頼主に手を出すのは不味いかな? もういっそ娘に選んでもらうのはどうだ?」
「ファラさんがそれでいいなら」
「私は一向にかまわないわ。どうせ会わなくなるんだし!」
「ファラ、お父さんとの絆を思い出してくれ! 二日前にお風呂に入ったり、一緒に楽しく添い寝してあげたじゃないか!」
ちなみにこっちが本物だと思っている方である。
「ファラ、お父さんの方が本物だ! お父さんはファラのこと信じているぞ! 大丈夫、冒険者になりたいというのなら、お父さん止めないよ。それがファラの夢だからね」
こっちが偽物だと思っていた方である。
で、ファラさんが選んだのは。
「ふう、こっちの偽物の方を本物にするわ。あっちが偽物だからギルドにつきだせばいいんじゃないかしら」
「ファラアアアアアアアアアア!」
「やった、ファラは私を選んでくれた!」
ついに偽物認定されてしまった本物のお父さんは、ファラさんに見限られてしまったらしい。
しかし、この本物の偽物は本物かもしれないし、無暗に退治する訳にも行かないのだ。
「いよし、なら二人共縛りあげて一方はギルドに連れて行くとしよう。そっちの方は、椅子にでも縛りつけとけば暴れることもないだろう。偽物だったと分かればその時退治すればいいからな。じゃあ縛るぞクー、手を貸してくれ」
「分かったよ父さん!」
「私も手を貸すわ!」
どっちが偽物でも、縛って置けば問題ないと、僕達はジリっと迫った。
その気迫に怯んで、二人共足を後退させている。
「すまないファラ、私は幸せな生活の為に、捕まる訳には行かないんだ!」
「ファラ、酷いじゃないか! 本物だと認めてくれたんだから縛らなくてもいいだろう?!」
『私はまだ捕まる訳には行かない!』
自分の運命がどうなるのか知ってしまった二人のファラさんのお父さんは、僕達に捕まらないようにと分散して逃げ出して行く。
「クッ、逃げたか。追い駆けて縛りあげるぞ二人共!」
「私はあっちを追い掛けるから、二人はあっちを追い掛けて!」
「いや、あっちは俺一人でいい。クー、お前もついて行ってやれ」
「うん分かったよ」
ファラさんと僕は、本物認定した偽物の方を追って行き、父さんは偽物の本物の方を追い掛ける。
もう自分でも何を言ってるのか分からなくなって来たけど、ファラさんの家に残らない方を僕達が追い駆けている。
丁度よく向かっているのは、さっき訓練をしていた場所のようだ。
家に残る方は木の根元に立ち、クルリとこちらに振り向いた。
「ファラアア、お父さんを追い掛けるなんて悪い子だああああ! クァァァァァ、もういい、クソガキの二人ぐらい返り討ちにしてやろう!」
話しからすると、こっちが偽物だったようだ。
バキバキと皮膚が硬質化していき、人の姿を脱ぎ捨てた。
体積すらも大きく変わり、四肢を地に置き変わり果てたその姿は、大きなカメレオンに似て非なる生物となる。
「グギャギャギャギャギャギャギャギャ!」
姿が変わり、もう人の言葉すら使えなくなったらしい。
そんな光景を見て、ファラさんは驚いているようだ。
「なんで……なんで今元に戻るの?! もう少しだけ生かしておいてやろうと思ってたのに!」
ファラさん、利用した末に自分で退治するつもりだったのだろう。
まあ、正体を見破ってしまえばこの魔物はそれほど強くはないはずだ。
人を傷つけて遊んでいるだけのザコだろう。
父さんだったら軽く退治してしまうはずだ。
父さんだったらね!
「ファラさん、戦いになりますよ。腰の剣を抜いてください!」
「今やるところよ!」
ファラさんは剣を引き抜き相手の前に構えた。
僕もリュックから鉄棒を持ち……。
「って、地面に刺しっ放しだったああああああああ!」
あまりに色々なことがあり過ぎて、スッカリ忘れてしまっていたのだ。
「グギャウ、グギャウ、ギャギャギャギャギャギャギャ!」
言葉は分からないけど、相手にも笑われている気がする。
「あんた何しに来たの? 邪魔になるから帰ったら」
ファラさんの怒号が飛んで来る。
でも刺さっているのは寧ろ都合がいいのだ。
「いや大丈夫です、ファラさんは前に出て少し時間を稼いでください。その間は応援していますから!」
「応援なんて要らないから手伝いなさいよ!」
「だから手伝う為に前に出てくださいって言ってるんですって」
「ああもう、行ってやればいいんでしょ行ってやれば! その代わり邪魔だけはしないでよね!」
ファラさんは剣を構え、カメレオンに突っ込んで行く。
伸びる舌を躱し、剣をぶつけている。
父さんと訓練していたからか、剣を振る姿は様になっているようだ。
剣を突き、薙ぎ、打ち付け、相手に傷を負わせている。
しかし、ファラさんには実戦経験が圧倒的に足りていない。
何時ボロが出るのか分からない。
急がなければと、僕は測量士の説明を思い出す。
とあるページには、導き出された数値の力を操れると書いてあった。
その使い方も頭に入っている。
結界の内にあるのは二十八という数字。
初めて使うこの力を、上手く使いこなさなければ勝利はない。
相手の力を見極めて、その速度を観察する。
僕にとって、あの攻撃を避ける動きをするには速度が足りない。
ファラさんの力でも、大きな傷は与えられていないとなると、僕の力も足りてはいない。
それを加味して、使える秒数は僅かしかない。
「ファラさん、その剣を貸してください!」
「あんたに貸せる訳がないでしょう! 私が使った方が随分マシよ!」
「いいから早く!」
「……あとで返してよ! ほら!」
僕の真剣さを感じたのか、ファラさんは後に控えている僕に剣を投げた。
大きく弧を描いて飛んで来る剣を、僕は格好良く受け取ろうとしたのだけど。
「やっぱり怖い!」
回転して向かって来る剣に怯み身を躱した。
カラランと剣が転がり落ちている。
「グギャギャギャギャギャギャギャギャ!」
そして、またもあんな魔物に笑われてしまった。
直ぐ後悔させてやる。
「何してるのあんた、取れないなら格好つけるんじゃないわよ! もう返して!」
ファラさんが怒っているけど、返す訳には行かない。
「駄目です、今からやるんですから」
僕は落ちた剣を持ち。
「たああああ!」
剣の重量により、よろよろと走り始めた。
この剣を扱うには、筋量が圧倒的に足りていない。
そんな僕を馬鹿にするように、カメレオンの舌が伸びて来ている。
まだ、距離は遠い。
ギリギリ肩に攻撃を食らい、痛みを我慢しながら前に進む。
「無理しないでよ!」
「大丈夫!」
カメレオンの舌が巻き戻り、二撃目が発射された時、僕は力を発動させた。
必要なのは大きな力。
二十八の数値の内、二十を力へと回す。
「危ない!」
足りない速度を補う為に、五の数値を速さに回す。
伸びた舌の攻撃を無傷で躱し、僕はカメレオンの眼前に立った。
残りの数値はたったの三。
でも、後は剣を振り下ろすだけである。
その数値を使用秒数へと変え、最高の力をもって一気に剣を振り下ろした。
「グギャギャギャ、ギャア……?!」
カメレオンは、避けるまでもないと思っていたのだろう。
僕の一撃を真面に食らい、簡単に退治されてしまった。
★
「あんた、本当は強かったのね。いいところばかり持って行って、一度私と勝負しなさい!」
「いや違います。魔法を使って能力値を変化させたんですよ。僕が普通に戦ったって勝てる訳がないでしょう。無駄な争いなんてしてないで父さんの方へ行きましょうよ」
「もう魔物は倒したんだから別に心配なんて要らないでしょう。じゃあ、行くわよ!」
「ちょおおおおおおおおおお?!」
ファラさんは剣を構えて襲い掛かって来た。
さっきの力を見たから僕の言葉なんて信用していないのだろう。
もう力を使い切り弱々になっている僕は、ファラさんにより簡単に叩きのめされてしまった。
「……あのさぁ、なんで本気を出さないのよ。まさか私が女だからって手加減してるの?!」
「だから違うって言ってるじゃないですか! 僕の力は測量士って戦闘職業のもので、少し前に見せた石の数値を使った能力値アップを使うんですよ! だから今の僕はすんごく弱いんですよ!」
僕は立ち上がりながらファラさんに抗議する。
「はぁ? 戦闘職業……ってなにそれ?」
ファラさんは首をかしげている。
そう言えば最近作られたものだし、知らなくても無理はないかもしれない。
冒険者を目指すファラさんには覚えて貰った方がいいだろう。
「……まあ冒険者になりたいのなら、知っといてもいいのかもしれませんね。え~っとですね、戦闘職業っていうのは……」
僕はファラさんに、新に作られたギルドの職業について詳しく説明した。
「ってことで、一つの職業を選ぶとそれに応じた能力がドーンと増えるわけなんですよ」
「へ~、そんなのがあるのね? クーを見ると後衛は面倒そうだし、私は前衛職を選ぶとするわ」
「ああそうですか、頑張ってください。じゃあ僕は父さんの所に行って来るんで、ファラさんは自宅に帰って休んでてくださいね」
「何言ってるの、私も行くわよ。もう魔物も倒したし、私が居ない間に帰られたら困るからね」
「ああ、そうですか。じゃあ行きますね」
そう言って父さんが居そうな方向へ歩き出すのだけど。
『…………』
きっとファラさんは気にもしていないのだろうけど、僕としては二人っきりだと凄く気まずい。
別に好きとかではないんだけど、あのキスのことが頭を過ってしまうのだ。
僕だって男の子なので仕方がないのである。
「ねぇクー、もうちょっと冒険者のことをお教えてちょうだい」
そんな沈黙が嫌になったのか、ファラさんから話しかけてくれた。
「あ、はい、いいですよ。どんなことが知りたいんですか?」
「クー、あんたがどんな冒険をして来たのか知りたいわ」
「いや、そう言われても、殆ど今日が初めてのようなものだし、まあファラさんとそんなに変わらないですよ」
「つまり私が頑張れば軽く追い越せるってことよね? そう、分かったわ。がぜんやる気が出て来たわよ!」
ファラさんからは謎のやる気が感じられる。
そんなに僕をボコりたいんだろうか?
僕達はそのまま村の中を歩き続け、父さん達を見つけ出した。
「おい暴れるなよ。お前が魔物じゃないと分かったら直ぐ離してやるからよ」
父さんはフェイさんを縛りあげて、地面に押さえつけている。
「私は無実だああああああああ! 信じてくれファラアアアアアアアアアアア!」
まあそれでも体をバタバタと揺らして抵抗を見せているけど、ベテラン冒険者の父さんには無駄な抵抗だろう。
「あ、見つけた。フェイさんが縛りあげられてますよ」
「はぁ、うるさいお父さんだわ。でもこれは丁度良いわね。お父さんにはこのまま縛られたままで居てもらいましょう。村長さんにでも言っとけば問題ないわね」
どうせ冒険者になりたいから家にでも放置するのだろう。
「ってことみたいだけど、どうする父さん」
僕は父さんに聞いてみた。
「冒険者になりたいんなら止めやしないけどな、あとあと誘拐されただのなんだの言われたくはない。その村長とやらとにキッチリ話をつけて、書面にでも自分の意思を残しとくんだな」
「ん、分かったわ。じゃあそうする」
ファラさんは当初の予定通り、この村を出る準備をするようだ。
「ファラアアアアアアアアア、父さんを捨てないでくれえええええええええ!」
「ごめんなさいお父さん、私どうしても冒険者になりたいの。だからお父さん、ちょっと黙ってて」
ファラさんは、フェイさんに容赦なく猿ぐつわを咬ませ、黙らせてしまった。
まあ、自分の育て方が悪かったと諦めてくださいフェイさん。
こうして、僕とファラさんとの初めての冒険っぽいものが終わった。
僕と父さんは、ファラさんが村長の家に行ってる間に町を出ようとするのだけど。
「待ちなさい! 私も連れて行ってもらうから!」
と、ファラさんに気付かれて同行することなってしまったのだ。
どうせ止めても聞かないんだろうと、村長さんに事情を話し、そしてこの村を後にする。
それからファラさんはローゼリアの町で冒険者登録されて、今現在のウェポンテイマーという職業についたのだ。
でもそれだけでは終わらなかった。
僕の方がレベルが高いからと、ファラさんは父さんと一緒に冒険をしに行ってしまう。 なぜか僕だけがローザリアへ残されてしまったのだ。
そんな僕を助けてくれたのが、スラーさんである。
まあ父さんに頼まれたという話かもしれないが、僕はギルド職員として働くことになった。
そしてそこが戦力調査部の始まりである。
僕はアーリアさんや、他の人達とチームを組みながら活動をし続け、二年もの時間が経つ。
たまに送られてくる父さんの手紙や、更に稀にファラさんの日記帳送られてきたりしている。
中にはびっしりと文字が書き連ねられて、訓練内容や何を倒したかが詳細に書かれていた。
どうやら二人共元気でやっているようである。
その四冊目の日記が届き、何時ものように読んで行くのだが、最後の一文には明日帰るからと書かれていた。
書いてある通りローゼリアに戻って来た父さんとファラさん。
父さんはそのまま冒険者として旅に出てしまい、住む所がないファラさんに、スラ―さんがギルド職員になれば無料で寮に住めるよと説得され、僕とチームを組んだのだ。
これで昔話は終了なのだけど……。
「んんん? 今まで思い返してみたけど、ファラさんの優しさが見当たらない。いや、きっと何かあるはずだ。ファラさんだって優しい心の一つぐらい持っているはずだ!」
僕はファラさんの部屋の前で、力を込めてそう叫んだ。
「あんたまだ居たの?! 部屋の前で私が鬼みたいに叫ばないでちょうだい! ああもう、そんなに食糧が欲しいならくれてやるわよ! だからもう来ないでよね!」
ほんの少し開いたファラさんの部屋の扉から、ちゃんと処理されて焼かれた牛肉が放り投げられた。
肉につけられたソースが空中にキラキラ舞う。
このままキャッチしたら服に飛び散るのだろう。
だが僕は気にしない!
「はあああああああああ! はぐっ……」
その場で口を開け、飛んで来る肉を受け止めた。
手がベタベタになるのも覚悟し、手づかみで肉を引き千切り咀嚼する。
「久しぶりの牛肉だ。猪には飽きてたから美味いです! ファラさん、ありがとうございました!」
「煩い! もういいから帰りなさい!」
やはりファラさんは優しいようだ。
僕は牛肉に満足して家に帰って行った。
そして、僕の貧乏生活は続いて行く。
それから一週間ぐらい経ったある日の朝。
僕は何時も通りにギルドに向かい、朝の挨拶をしていたのだけど。
「ファラは、どこだあああああああああああああ!」
っと、ギルド内に聞いたことがあるような声が聞こえて来ていた。
それはこの間思い出していた、ファラさんのお父さんの声である。
どうやら僕が思い出していた昔話は、現在でも続いているらしい。
「! 見つけたぞ貴様あああああああ! 私のファラちゃんをどこへやったあああああああ?!」
僕が振り向くと、おかしな格好をしたフェイさんがこちらに詰め寄って来ていた。
どうおかしいのかと言えば、おどろおどろしい胸から肩へ伸びた鎧を着て、その下に真っ黒なマントを羽織っているのだ。
そして頭には、チリチリになった髪の毛が、風もないのにうねっている。
一体この人の身に何があったんだろう?
そんな騒ぎが起こる中、当のファラさんが出社して来た。
レストランから逃げ出し、時間を置いてもう一度中を覗いた。
随分時間が経っているのに、まだ説教は続いていた。
もうすでに嫌な顔をしているファラさんが、顔をそらしてこちらを見た。
僕はそっと扉を閉めて見なかったことにしたけど、ファラさんが追い駆けて来ていた。
お詫びと言ってキスをされ、その代わりといって利用されてしまう。
僕の子供がいると嘯くファラさんに、あまりのことに気を失ってしまうファラさんのお父さん。
僕達は気絶したお父さんをレストランに運び入れ、冒険者に成りたいというファラさんの頼みを聞くだけは聞いてみた。
★
クー・ライズ・ライト (僕)
ランズ・ライズ・ライト (父)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
★
ファラさんは父さんに気に入られ、魔物が出るまでの間に特訓を受けていた。
その間に僕は、レストランの中で父さんが持っていた職業の説明書を読み漁っている。
僕は今まで全く気にしていなかったのだけど、測量士が後衛に位置するものだと気づいてしまった。
しかも、レベルが上がってもあんまり強くなれないらしい。
まあそれでもなんとなく使い方を覚え、ようやく持っていた鉄棒の使い道を知ったのだった。
そして、説明書を読み終えたぐらいにファラさんのお父さんが目を覚ましたのだけど。
「…………」
目の前で手をパタパタさせても反応がない。
口を開けて放心状態になっている。
ちょっと考えれば分かるのに、それほどファラさんのことに執心しているのだろう。
「あの、さっきのは嘘ですからね。僕は今日村に来たのに子供なんて出来るわけがないでしょう。聞いてますか? お~い」
気が付いてからだと話を聞いてくれ無さそうだし、僕は今の内に言い訳しとこうとフェイさんに声を掛けた。
それを切っ掛けにフェイさんの目に力が宿った。
「……今のは、本当だろうな? そうか、そうだよな、ファラちゃんがこんな冴えない……さっきのキスはどういう積もりだ?!」
「あれはただそう見えただけで、ただの演技ですから!」
そうしておいた方が都合がいい。
「だったらあれは何だ、この店で裸になって何をしていたああああああああ?!」
「あの、落ち着いてください。あれはファラさんが脱げと……」
「ファラちゃんがそんな事を言うはずがなああああああああああい!」
やっぱり声を掛けなかった方が良かったかもしれない。
「違うんです。濡れている服を乾かしてくれるって言って。優しいファラさんが言ってくれたんです! それからちょっと足がもつれただけで、特になんにもないですから! ファラさんはそんな子じゃないんでしょ?」
とっさについた僕のウソに、フェイさんは少し考えこんでいる。
たぶんあの時の光景を思い出しているのだろう。
「……確かにファラはそんな子じゃない。私の思い違い……なのか?」
「そうです、キッパリ思い違いですから。ファラさんは冒険者になりたくて嘘をついてるだけですから!」
「ぼ、冒険者だと?! そうか、ファラはファリアの影を追って……止めても無駄かもしれないな……」
たぶん家族かなにかだろう。
突っ込んで聞いても、どうせ僕には話してくれないから聞かないでおこう。
「あの、そんなことより……」
「そんなことだとおおおおお?! お前はファラちゃんの大事さを分かっていない! いいか、ファラちゃんはとてもかわいいんだぞ! 貴様は分かっているのか?!」
「いや、そうじゃなくて魔物のことを……」
「魔物だとお?! 魔物なんてものはファラちゃんの二の次……ん、魔物? そうだ、ギルドに依頼を出したんだった。だがそれが貴様となんの関係がある! 今はファラちゃんの可愛さの事を話すのが先決だ!」
「だからその依頼を受けて来たのが僕と父さんなんですよ。魔物の特徴とか教えてくれませんか!」
全然話が進まないから、僕は思いっきり怒鳴り返してしまった。
フェイさんは少し面食らい、まじまじと僕の全身を見回している。
「……ハズレか。もう一回依頼を出さないと」
「ハズレじゃないですよ。ちゃんと実力もありますからね! 僕は兎も角、父さんの実力は折り紙付きですから! ランズ・ライズ・ライトの名前なら知ってるでしょ?」
父さんは元々冒険者だし、その名前も結構知れ渡っているはずだ。
「ランズ……だと? 聞いたことがある……ような気もする? まあいい、来てくれたのなら本人と話しをさせて貰おう。で、どこにいるのだ? 私のファラちゃんは?!」
父さん、長くやってるわりに、あんまり知名度ないんですね。
「ファラさんは外で僕の父さんと訓練していますよ」
「ファラアアアアアアアアアアアア!」
僕に返事すらくれず、フェイさんは外に行ってしまった。
もうここで待っていても意味がないし、僕も行くとしようかな。
そして移動した外には、大きな一本の木の近くで真剣を持って打ちあっている二人と、到着したフェイさんがオロオロとしている。
「ファラ、そんな危ない物は置いてお父さんと一緒に店に戻ろう。魔物はその人に任せておけばいいんだよ?」
「何言ってるのお父さん。この村の問題なんだから自分の手でやらなくてどうするのよ。今の私一人じゃ無理でもランズさんが居るから平気よ! あとオマケも居るし」
おまけって僕のことでしょうか?
仕方ない僕の力を見せるとしよう。
「ファラさん、僕はオマケじゃないですからね。測量士の真の力を見せてあげますよ!」
「へぇ、やれるもんならやってみなさいよ。どこからでも良いから掛かって来なさい!」
ファラさんは僕の方に剣を向けている。
木刀でも嫌なのに、あんな物を持ってる人と戦いたくはない。
「いや、そういうんじゃなくて、ちょっとそこに立っていてください」
「ん、何するの?」
「まあ見ていてください」
僕はこの場にある木の周りを大きく囲むように、手に持った鉄棒を四本突き立ててた。
そして僕は力を発動させるキーワードを唱える。
「結界の内なる生命よ、数値となって強さを示せ。ナンバーズ・フィールド!」
今僕が使える魔法は、何かを計ったり測ったりする魔法だ。
ちなみに今居る人数は四人だけど、囲んだ結界の内には虫なども存在している。
アリなんかが地上に出てきたら相当な数になるのだけど。
上空から落ちて来る石の数値を目で追うと、二十八と出ているようだ。
「うわ、危ないわね! まさか私を殺す気?!」
その石がファラさんの近くに落ち、少しビックリさせてしまったらしい。
「いや違うんですよファラさん、この数値は僕の力になって……」
「ファラになにすんだああああああああ!」
「いたッ!」
ファラさんを心配したフェイさんに、後ろから殴りつけられた。
凄く痛い。
今後フェイさんの前ではやらないように気を付けるとしよう。
「ヌッハッハー、やられたなぁクー、油断大敵だぞ。魔物と戦う時には背後からの奇襲も気をつけないといけない。今後の為に覚えておけよ?」
こっちの父さんは心配もしてくれない。
まあベタベタされても気持ち悪いのだけど。
「じゃあ依頼者が来たから訓練はここまでにしておくか。それじゃあ依頼の話をしようかフェイさん。魔物の特徴とかを教えてくれると嬉しいんだけどな?」
父さんが剣を納め、フェイさんに話しかけた。
「確かに、魔物はこの村にとっての死活問題です。しかあああああし、私にとってはファラの将来の方が最優先だ! もし貴方がファラを連れて行くというのなら、その資格があるのかどうかを確かめさせてもらおうか! ちなみにそこの子供は失格だ!」
その子供というのは僕のことらしい。
でもどうしよう、魔物の話がちっともできないな。
もうそろそろ夜が近いのだけど。
「お父さん、私の将来は私が決めるわ。邪魔をしないでほしいのだけど」
ファラさんは実のお父さんにも剣を向けている。
誰にでも容赦がない人だ。
「ファラ、お前が冒険者になりたいのは分かった。でも私は心配して言っているんだ。ちゃんと冒険者としてやっていけるかどうか。幸せにやって行けるのかどうかもな。それに、一日に一回は帰って来てくれないとお父さん寂しいじゃないか!」
一日一回の帰宅は、この村を起点にして活動するなら出来なくもないけど、他の町に行くとなると難しいと思う。
「お父さんは心配しすぎなのよ。まあ私もお父さんのことは心配だし、一ヶ月に一回ぐらいなら考えてあげても良いわよ」
「確かに、一日は無茶だったかもしれないな。分かった、ファラの為に三日ぐらいに妥協しよう!」
「無理!」
「ファラアアアアアアアア?!」
結局ファラさんのお父さんは、泣く泣く二週間で妥協したようだ。
試験のこともサッパリ忘れたようで、へたり込んで泣き続けている。
「父さん、もう直ぐ夜になっちゃうし、これじゃあ魔物のことが聞けないよ?」
「うむ、確かにな。まあ父さんに任せておけ。いい考えがあるんだ」
そう言って泣き崩れるフェイさんの前に座り込んだ。
「俺も親だ、お前さんの気持ちは分からんでもない。まあ酒でも飲んで落ち着けよ。まず魔物のことを聞いてから仕事を終えた後にでも話を聞こうじゃないか」
父さんも結局後回しにしたいらしい。
「ぼんどうですがあ?!」
しかし混乱しまくって鼻水まで垂らしているフェイさんは、父さんにしがみ付いて喜んでいる。
「だからな、一回この酒をグイッといって落ちつきなって」
父さんは手持ちの酒瓶をフェイさんの口の中に突っ込んだ。
瓶の中にはほんの少量しか残されていなかったのだけど、それでもフェイさんには効果があったようだ。
少量で顔が赤くなり、泣きながら話し始めた。
「うぐううう、魔物は……人に化ける……ううう……ですよ。毎夜毎夜……ヒック、うううううううう」
これでなんとか魔物の手に入れられそうだ。
僕はフェイさんの発するオエツの部分を排除して、出て来る単語をつなぎ止める。
丹念に話しを聞き続け、終わった頃にはすっかり夜になってしまった。
ファラさんが泣き続けるフェイさんをレストランの中へ誘導し、僕と父さんは外で魔物の出現を待っている。
★
近くにあるレストランからは行かないでと懇願する男の声が聞こえて来る。
ファラさんのお父さんであるフェイさんのものだろう。
魔物との戦いに参加しようと、ファラさんが来ようとしているのかもしれない。
でもそれを待つ必要はない。
ファラさんが来るのかも分からないし、僕達だけでも充分だ。
「いようし、じゃあ魔物退治をやって行こうか。大丈夫かクー、緊張と化してないだろうな?」
父さんはもう酒も抜けて、やる気を出している。
「大丈夫だよ父さん。今まで結構退治して来たし。それにあのお父さんの方が怖いし」
「ヌッハッハー、確かにな!」
その僕達は、先ほど訓練していた場所で陣を張っていた。
さっき作った結界もそのまま残されているからだ。
別に作り直すのが面倒な訳ではない。
「それで僕達はこのまま待っていればいいのかな?」
「相手は人を襲う魔物らしいからな、待っていれば来るんじゃないか? というか来てもらわなきゃ困るんだがな。探す手もないし」
「ふ~ん、まあそうだよね」
人に化ける魔物だとすると、探そうと思っても見つからないだろう。
僕達は魔物を探すように、キョロキョロと周りを警戒しながら出現するのを待っていた。
そんな時。
「あれ? ……あの、父さん、あれが魔物じゃないよね?」
「ほぉ、あれか? まあ、間違いはないだろうな」
僕は、町の中を歩くフェイさんの姿を見つけてしまった。
あの人は今、レストランの中で娘のファラさんとたわむれているはずである。
「よし、だったら気付かない振りをしてこちらに引き込んでみるか。クーお前が行って来い。お前なら警戒されないだろう。心配するな、危険があれば父さんがフォローしてやる」
「ええ……まあ、いいけど。ちゃんとフォローしてよね」
「おう任せろ! キッチリフォローしてやるぞ。ヌッハッハー!」
父さんは昔からの冒険者だし、きっとこういうことだけは信用できるはずだ。
そういう事にしないとやってられないし。
そう思いながら、僕は少しだけ緊張して魔物の下に歩いて行った。
「こんばんはフェイさん、あっちの木の所でファラさんが呼んでいましたよ。待っていますから早く行ってあげてください」
「ファラが? え~っと、君は……見た事がない子供だな? ……まさか、遠距離恋愛でもしているんじゃないだろうね?!」
ずいっと迫って来る圧力は、まさしく本物にそっくりである。
しかし、僕のことを知らないから、やっぱり偽物だろう。
「それは絶対違います! 僕はただ頼まれただけですから!」
僕は思いの丈をぶちまけた。
キスされたとはいえ、あの人と恋人になりたいとは思わないからだ。
しかしその声を発すると。
「……あいた?!」
同時に、後頭部の付近に軽い痛みが走る。
何事かと振り向くと、その理由が判明した。
後ろにはファラさんが立っていたのだ。
「私もそう思ってたし!」
どうも僕の言葉で怒りをにじませたらしい。
因みに本物であるファラさんのお父さんは、その後ろから追い駆けて来ていた。
しかし、このまま近づかせてしまえば何方が魔物か分からなくなってしまうだろう。
僕はその進行を止めるように手を広げるが。
「フェイさん、少し待ってください! 魔物が出たんです!」
「魔物が出たなら余計ファラが危ないだろう! 私の邪魔をするな!」
僕はドンと背中を押されて倒されてしまった。
「ファラ、そんな偽物に近づいてはいけないよ! 本物のお父さんはこんなにも愛しているんだから!」
「ちょっと、くっつかないでよ!」
フェイさんは、ファラさんの背後からガシッと抱き付いて嫌がられている。
そんな本物を見た偽物は。
「ファラは私のものだあああああああ!」
「ちょっと、来ないでよ!」
正面から抱き付こうとするが、正面から来てしまったからファラさんにぶん殴られている。
「ぬおおおおおお、ファラの為にも負ける物かあああ!」
それでも足を踏ん張り、本物の方を引きはがしてしまった。
両方共地面に倒れ転がってしまう。
分からなくなるところだけど。
「こっちが本物ですよ。僕ちゃんと見てましたから」
僕は迷うことなく片方を指さしている。
別にそんなに早く転がった訳じゃないし、冷静に見とけば分かるのだ。
「わ、私は本物です。偽物ではありません! ギルドの依頼を終えて、さきほどラザリアンクから帰って来たばかりなのです! ファラ、ファラなら分かるだろう?!」
偽物の方は、自分が本物だと言っている。
ギルドのことを知っているとなると、少しだけ可能性が?
確かに、本物だと思っていた方は、泣きわめいていたり色々酷いものだが。
「私に聞かれても正直どっちか分からないんだけど。もう考えても分からないし、二人共殴っとけばいいんじゃないの? 死にそうになったら正体を現すでしょう」
ファラさんにとっては、どちらも殴り易い存在なのだろう。
「まあ、娘のファラさんがそれでいいって言うなら、僕もそうしてもいいですね」
『それはおかしい。私が本物なのに!』
二人共ピッタリ息が合っていてまるで双子のようだ。
悪さをしないのなら別にこのままでもいいのだけど、片方は依頼された魔物である。
「おいクー、連れて来るんじゃなかったのか?」
こちらの騒ぎを見て、父さんがこちらに来てくれた。
「あっ、父さん、ごめん忘れてた。でもおかしなことになっちゃったんだ。見て分かると思うけど、本物が混じっちゃったみたいだよ」
僕は今までの状況を掻い摘んで父さんに話した。
「つまり、偽物でも本物の可能性があるってことか? だが、見分けがつかんぞ?」
「うん、だから両方殴っちゃえばいいんじゃないかって意見がファラさんから出たんだけど……」
「なるほど、肉親が良いというのなら良いんじゃないか?」
やっぱり父さんも手っ取り早い方法を望んでいる。
「あ、やっぱり? 父さんもそう思うよね」
「私は全然大丈夫よ」
ファラさんもやっぱり良いようだし、やってしまうとしようか。
父さんは拳を構え、僕達も戦闘体勢をとるのだけど。
「おい! 私を傷つけたらギルドに抗議するからな! 依頼料も払い戻してもらうぞ!」
「そうだそうだ! 依頼者を大事にしろよ! 私だって抗議するぞ!」
なぜか本物と偽物で協力して、僕達に抗議してきた。
村の為に犠牲になってくれれば早いのに。
「ふんむ、流石に依頼主に手を出すのは不味いかな? もういっそ娘に選んでもらうのはどうだ?」
「ファラさんがそれでいいなら」
「私は一向にかまわないわ。どうせ会わなくなるんだし!」
「ファラ、お父さんとの絆を思い出してくれ! 二日前にお風呂に入ったり、一緒に楽しく添い寝してあげたじゃないか!」
ちなみにこっちが本物だと思っている方である。
「ファラ、お父さんの方が本物だ! お父さんはファラのこと信じているぞ! 大丈夫、冒険者になりたいというのなら、お父さん止めないよ。それがファラの夢だからね」
こっちが偽物だと思っていた方である。
で、ファラさんが選んだのは。
「ふう、こっちの偽物の方を本物にするわ。あっちが偽物だからギルドにつきだせばいいんじゃないかしら」
「ファラアアアアアアアアアア!」
「やった、ファラは私を選んでくれた!」
ついに偽物認定されてしまった本物のお父さんは、ファラさんに見限られてしまったらしい。
しかし、この本物の偽物は本物かもしれないし、無暗に退治する訳にも行かないのだ。
「いよし、なら二人共縛りあげて一方はギルドに連れて行くとしよう。そっちの方は、椅子にでも縛りつけとけば暴れることもないだろう。偽物だったと分かればその時退治すればいいからな。じゃあ縛るぞクー、手を貸してくれ」
「分かったよ父さん!」
「私も手を貸すわ!」
どっちが偽物でも、縛って置けば問題ないと、僕達はジリっと迫った。
その気迫に怯んで、二人共足を後退させている。
「すまないファラ、私は幸せな生活の為に、捕まる訳には行かないんだ!」
「ファラ、酷いじゃないか! 本物だと認めてくれたんだから縛らなくてもいいだろう?!」
『私はまだ捕まる訳には行かない!』
自分の運命がどうなるのか知ってしまった二人のファラさんのお父さんは、僕達に捕まらないようにと分散して逃げ出して行く。
「クッ、逃げたか。追い駆けて縛りあげるぞ二人共!」
「私はあっちを追い掛けるから、二人はあっちを追い掛けて!」
「いや、あっちは俺一人でいい。クー、お前もついて行ってやれ」
「うん分かったよ」
ファラさんと僕は、本物認定した偽物の方を追って行き、父さんは偽物の本物の方を追い掛ける。
もう自分でも何を言ってるのか分からなくなって来たけど、ファラさんの家に残らない方を僕達が追い駆けている。
丁度よく向かっているのは、さっき訓練をしていた場所のようだ。
家に残る方は木の根元に立ち、クルリとこちらに振り向いた。
「ファラアア、お父さんを追い掛けるなんて悪い子だああああ! クァァァァァ、もういい、クソガキの二人ぐらい返り討ちにしてやろう!」
話しからすると、こっちが偽物だったようだ。
バキバキと皮膚が硬質化していき、人の姿を脱ぎ捨てた。
体積すらも大きく変わり、四肢を地に置き変わり果てたその姿は、大きなカメレオンに似て非なる生物となる。
「グギャギャギャギャギャギャギャギャ!」
姿が変わり、もう人の言葉すら使えなくなったらしい。
そんな光景を見て、ファラさんは驚いているようだ。
「なんで……なんで今元に戻るの?! もう少しだけ生かしておいてやろうと思ってたのに!」
ファラさん、利用した末に自分で退治するつもりだったのだろう。
まあ、正体を見破ってしまえばこの魔物はそれほど強くはないはずだ。
人を傷つけて遊んでいるだけのザコだろう。
父さんだったら軽く退治してしまうはずだ。
父さんだったらね!
「ファラさん、戦いになりますよ。腰の剣を抜いてください!」
「今やるところよ!」
ファラさんは剣を引き抜き相手の前に構えた。
僕もリュックから鉄棒を持ち……。
「って、地面に刺しっ放しだったああああああああ!」
あまりに色々なことがあり過ぎて、スッカリ忘れてしまっていたのだ。
「グギャウ、グギャウ、ギャギャギャギャギャギャギャ!」
言葉は分からないけど、相手にも笑われている気がする。
「あんた何しに来たの? 邪魔になるから帰ったら」
ファラさんの怒号が飛んで来る。
でも刺さっているのは寧ろ都合がいいのだ。
「いや大丈夫です、ファラさんは前に出て少し時間を稼いでください。その間は応援していますから!」
「応援なんて要らないから手伝いなさいよ!」
「だから手伝う為に前に出てくださいって言ってるんですって」
「ああもう、行ってやればいいんでしょ行ってやれば! その代わり邪魔だけはしないでよね!」
ファラさんは剣を構え、カメレオンに突っ込んで行く。
伸びる舌を躱し、剣をぶつけている。
父さんと訓練していたからか、剣を振る姿は様になっているようだ。
剣を突き、薙ぎ、打ち付け、相手に傷を負わせている。
しかし、ファラさんには実戦経験が圧倒的に足りていない。
何時ボロが出るのか分からない。
急がなければと、僕は測量士の説明を思い出す。
とあるページには、導き出された数値の力を操れると書いてあった。
その使い方も頭に入っている。
結界の内にあるのは二十八という数字。
初めて使うこの力を、上手く使いこなさなければ勝利はない。
相手の力を見極めて、その速度を観察する。
僕にとって、あの攻撃を避ける動きをするには速度が足りない。
ファラさんの力でも、大きな傷は与えられていないとなると、僕の力も足りてはいない。
それを加味して、使える秒数は僅かしかない。
「ファラさん、その剣を貸してください!」
「あんたに貸せる訳がないでしょう! 私が使った方が随分マシよ!」
「いいから早く!」
「……あとで返してよ! ほら!」
僕の真剣さを感じたのか、ファラさんは後に控えている僕に剣を投げた。
大きく弧を描いて飛んで来る剣を、僕は格好良く受け取ろうとしたのだけど。
「やっぱり怖い!」
回転して向かって来る剣に怯み身を躱した。
カラランと剣が転がり落ちている。
「グギャギャギャギャギャギャギャギャ!」
そして、またもあんな魔物に笑われてしまった。
直ぐ後悔させてやる。
「何してるのあんた、取れないなら格好つけるんじゃないわよ! もう返して!」
ファラさんが怒っているけど、返す訳には行かない。
「駄目です、今からやるんですから」
僕は落ちた剣を持ち。
「たああああ!」
剣の重量により、よろよろと走り始めた。
この剣を扱うには、筋量が圧倒的に足りていない。
そんな僕を馬鹿にするように、カメレオンの舌が伸びて来ている。
まだ、距離は遠い。
ギリギリ肩に攻撃を食らい、痛みを我慢しながら前に進む。
「無理しないでよ!」
「大丈夫!」
カメレオンの舌が巻き戻り、二撃目が発射された時、僕は力を発動させた。
必要なのは大きな力。
二十八の数値の内、二十を力へと回す。
「危ない!」
足りない速度を補う為に、五の数値を速さに回す。
伸びた舌の攻撃を無傷で躱し、僕はカメレオンの眼前に立った。
残りの数値はたったの三。
でも、後は剣を振り下ろすだけである。
その数値を使用秒数へと変え、最高の力をもって一気に剣を振り下ろした。
「グギャギャギャ、ギャア……?!」
カメレオンは、避けるまでもないと思っていたのだろう。
僕の一撃を真面に食らい、簡単に退治されてしまった。
★
「あんた、本当は強かったのね。いいところばかり持って行って、一度私と勝負しなさい!」
「いや違います。魔法を使って能力値を変化させたんですよ。僕が普通に戦ったって勝てる訳がないでしょう。無駄な争いなんてしてないで父さんの方へ行きましょうよ」
「もう魔物は倒したんだから別に心配なんて要らないでしょう。じゃあ、行くわよ!」
「ちょおおおおおおおおおお?!」
ファラさんは剣を構えて襲い掛かって来た。
さっきの力を見たから僕の言葉なんて信用していないのだろう。
もう力を使い切り弱々になっている僕は、ファラさんにより簡単に叩きのめされてしまった。
「……あのさぁ、なんで本気を出さないのよ。まさか私が女だからって手加減してるの?!」
「だから違うって言ってるじゃないですか! 僕の力は測量士って戦闘職業のもので、少し前に見せた石の数値を使った能力値アップを使うんですよ! だから今の僕はすんごく弱いんですよ!」
僕は立ち上がりながらファラさんに抗議する。
「はぁ? 戦闘職業……ってなにそれ?」
ファラさんは首をかしげている。
そう言えば最近作られたものだし、知らなくても無理はないかもしれない。
冒険者を目指すファラさんには覚えて貰った方がいいだろう。
「……まあ冒険者になりたいのなら、知っといてもいいのかもしれませんね。え~っとですね、戦闘職業っていうのは……」
僕はファラさんに、新に作られたギルドの職業について詳しく説明した。
「ってことで、一つの職業を選ぶとそれに応じた能力がドーンと増えるわけなんですよ」
「へ~、そんなのがあるのね? クーを見ると後衛は面倒そうだし、私は前衛職を選ぶとするわ」
「ああそうですか、頑張ってください。じゃあ僕は父さんの所に行って来るんで、ファラさんは自宅に帰って休んでてくださいね」
「何言ってるの、私も行くわよ。もう魔物も倒したし、私が居ない間に帰られたら困るからね」
「ああ、そうですか。じゃあ行きますね」
そう言って父さんが居そうな方向へ歩き出すのだけど。
『…………』
きっとファラさんは気にもしていないのだろうけど、僕としては二人っきりだと凄く気まずい。
別に好きとかではないんだけど、あのキスのことが頭を過ってしまうのだ。
僕だって男の子なので仕方がないのである。
「ねぇクー、もうちょっと冒険者のことをお教えてちょうだい」
そんな沈黙が嫌になったのか、ファラさんから話しかけてくれた。
「あ、はい、いいですよ。どんなことが知りたいんですか?」
「クー、あんたがどんな冒険をして来たのか知りたいわ」
「いや、そう言われても、殆ど今日が初めてのようなものだし、まあファラさんとそんなに変わらないですよ」
「つまり私が頑張れば軽く追い越せるってことよね? そう、分かったわ。がぜんやる気が出て来たわよ!」
ファラさんからは謎のやる気が感じられる。
そんなに僕をボコりたいんだろうか?
僕達はそのまま村の中を歩き続け、父さん達を見つけ出した。
「おい暴れるなよ。お前が魔物じゃないと分かったら直ぐ離してやるからよ」
父さんはフェイさんを縛りあげて、地面に押さえつけている。
「私は無実だああああああああ! 信じてくれファラアアアアアアアアアアア!」
まあそれでも体をバタバタと揺らして抵抗を見せているけど、ベテラン冒険者の父さんには無駄な抵抗だろう。
「あ、見つけた。フェイさんが縛りあげられてますよ」
「はぁ、うるさいお父さんだわ。でもこれは丁度良いわね。お父さんにはこのまま縛られたままで居てもらいましょう。村長さんにでも言っとけば問題ないわね」
どうせ冒険者になりたいから家にでも放置するのだろう。
「ってことみたいだけど、どうする父さん」
僕は父さんに聞いてみた。
「冒険者になりたいんなら止めやしないけどな、あとあと誘拐されただのなんだの言われたくはない。その村長とやらとにキッチリ話をつけて、書面にでも自分の意思を残しとくんだな」
「ん、分かったわ。じゃあそうする」
ファラさんは当初の予定通り、この村を出る準備をするようだ。
「ファラアアアアアアアアア、父さんを捨てないでくれえええええええええ!」
「ごめんなさいお父さん、私どうしても冒険者になりたいの。だからお父さん、ちょっと黙ってて」
ファラさんは、フェイさんに容赦なく猿ぐつわを咬ませ、黙らせてしまった。
まあ、自分の育て方が悪かったと諦めてくださいフェイさん。
こうして、僕とファラさんとの初めての冒険っぽいものが終わった。
僕と父さんは、ファラさんが村長の家に行ってる間に町を出ようとするのだけど。
「待ちなさい! 私も連れて行ってもらうから!」
と、ファラさんに気付かれて同行することなってしまったのだ。
どうせ止めても聞かないんだろうと、村長さんに事情を話し、そしてこの村を後にする。
それからファラさんはローゼリアの町で冒険者登録されて、今現在のウェポンテイマーという職業についたのだ。
でもそれだけでは終わらなかった。
僕の方がレベルが高いからと、ファラさんは父さんと一緒に冒険をしに行ってしまう。 なぜか僕だけがローザリアへ残されてしまったのだ。
そんな僕を助けてくれたのが、スラーさんである。
まあ父さんに頼まれたという話かもしれないが、僕はギルド職員として働くことになった。
そしてそこが戦力調査部の始まりである。
僕はアーリアさんや、他の人達とチームを組みながら活動をし続け、二年もの時間が経つ。
たまに送られてくる父さんの手紙や、更に稀にファラさんの日記帳送られてきたりしている。
中にはびっしりと文字が書き連ねられて、訓練内容や何を倒したかが詳細に書かれていた。
どうやら二人共元気でやっているようである。
その四冊目の日記が届き、何時ものように読んで行くのだが、最後の一文には明日帰るからと書かれていた。
書いてある通りローゼリアに戻って来た父さんとファラさん。
父さんはそのまま冒険者として旅に出てしまい、住む所がないファラさんに、スラ―さんがギルド職員になれば無料で寮に住めるよと説得され、僕とチームを組んだのだ。
これで昔話は終了なのだけど……。
「んんん? 今まで思い返してみたけど、ファラさんの優しさが見当たらない。いや、きっと何かあるはずだ。ファラさんだって優しい心の一つぐらい持っているはずだ!」
僕はファラさんの部屋の前で、力を込めてそう叫んだ。
「あんたまだ居たの?! 部屋の前で私が鬼みたいに叫ばないでちょうだい! ああもう、そんなに食糧が欲しいならくれてやるわよ! だからもう来ないでよね!」
ほんの少し開いたファラさんの部屋の扉から、ちゃんと処理されて焼かれた牛肉が放り投げられた。
肉につけられたソースが空中にキラキラ舞う。
このままキャッチしたら服に飛び散るのだろう。
だが僕は気にしない!
「はあああああああああ! はぐっ……」
その場で口を開け、飛んで来る肉を受け止めた。
手がベタベタになるのも覚悟し、手づかみで肉を引き千切り咀嚼する。
「久しぶりの牛肉だ。猪には飽きてたから美味いです! ファラさん、ありがとうございました!」
「煩い! もういいから帰りなさい!」
やはりファラさんは優しいようだ。
僕は牛肉に満足して家に帰って行った。
そして、僕の貧乏生活は続いて行く。
それから一週間ぐらい経ったある日の朝。
僕は何時も通りにギルドに向かい、朝の挨拶をしていたのだけど。
「ファラは、どこだあああああああああああああ!」
っと、ギルド内に聞いたことがあるような声が聞こえて来ていた。
それはこの間思い出していた、ファラさんのお父さんの声である。
どうやら僕が思い出していた昔話は、現在でも続いているらしい。
「! 見つけたぞ貴様あああああああ! 私のファラちゃんをどこへやったあああああああ?!」
僕が振り向くと、おかしな格好をしたフェイさんがこちらに詰め寄って来ていた。
どうおかしいのかと言えば、おどろおどろしい胸から肩へ伸びた鎧を着て、その下に真っ黒なマントを羽織っているのだ。
そして頭には、チリチリになった髪の毛が、風もないのにうねっている。
一体この人の身に何があったんだろう?
そんな騒ぎが起こる中、当のファラさんが出社して来た。
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