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四つ目の日記

僕が冒険者になった訳

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★前章のあらすじ。
 ギルド職員として活躍した僕は、何故か借金を背負わされてしまった。
 そんな僕は、取って来ていた野草や干し肉の生活を続けるが、もうそろそろ飽きが来ている。
 同じ物ばかり食べる生活に苦痛を感じ、ファラさんに食事を恵んでもらおうと走ったのだ。
 生きる為にも何とか了承して欲しいところだった。


 クー・ライズ・ライト (僕)
 ランズ・ライズライト (父)
 ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
 スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
 ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
 デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
 アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
 ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
 ディーラ・ストライウス (ミトラの町のギルド員女)


 あのよく分からない決定が下されて七日。
 僕はまだ死んではいなかった。
 とって来た野草を食べ、干してある猪肉に噛り付き、自分の命をつないでいる。

 しかし、それも限界は近い。
 もう大分飽きが来ているからだ。
 だから僕は、相棒であるファラさんに食事をたかりに行っていた。

「ファラさん、僕に、僕に食料を分けてください」

 僕はちゃんと頭を下げ、ファラさんにお願いした。

「昨日食事をご馳走したでしょう。もうそれで我慢しなさいよ」

 確かに昨日の夜に御馳走になったけど、もう僕の栄養として使い果たされている。

「昨日は昨日で今日は今日なんです! お腹は毎日毎時間減るんだから仕方ないでしょう!」

「もう庭の草でも食べてなさいよ。ほら、草むらに居る虫とかいっぱい跳ねてるでしょ」

 ファラさんの目が、虫でも見ている感じになっているのは気のせいだろう。

「虫は嫌です! ……それに、草はもう食べ飽きました。雑草ってあんまり美味しくないんですよ」

「いや知らないし。というかクーは実家に住んでるんでしょ。食料分けてもらえばいいじゃないの」

「残念ながらお父さんは旅に出ています。家賃は要らないですけど食費は掛かるんですよ食費は! だから僕にファラさんの手料理を食べさせてください! 出来れば美味しいものがいいです!」

 僕は必死に頼み込んだのだけど。

「嫌よ!」

 そう言われ、ファラさんの手により部屋の扉が閉められようとしていた。
 しかし僕も簡単には諦めきれない。
 扉の隙間に両腕を入れて踏ん張るのだけど、ファラさんの力はゴリラのようだ。
 僕のひ弱な力では太刀打ちできないらしい。

「放しな、さい!」

「ぎゃっ!」

 強烈に引っ張られ、僕は指を潰される前に扉を放すしかなかった。
 初めて会った時にはもう少し可愛らしかった気がするのだけど、一体なぜこうなってしまったんだろう。
 ちょっと思い出を整理してみようかな。

 そう、確かあれは五年前の話だ。
 魔王という存在が現れ、魔物が活発化して数年経った頃。
 ローザリアから西にあるラザリアンクの国の王都から、全世界のギルドに御触れが出された。
 魔物の生態を調査し、誰でも分かるように数値化を行えと。

 何故ギルドという組織が選ばれたのかというと、世界中に広く支店を持っていたからだろう。
 元々は仕事を受けて、やりたい人に仕事を流す役割をしていた場所である。
 国が人類の戦力をアップさせようと、冒険者システムの確立と、戦闘職業の導入するのにギルドという場所は丁度良かった。

 そしてその二年後の戦闘職業が導入される日。
 十三歳になっていた僕は、ギルドに呼ばれた父さんについて来ていた。

「ようし着いたぞクー。ここが世界を変える……かもしれないギルドという組織だ。よく覚えておけよ」

 冒険者システムなんてものがなくても、旅をしている冒険者という連中は昔から存在している。
 その一人が僕の父であるランズ・ライズ・ライトなのだ。
 まあほとんど家に帰って来なかった父だけど、最近死んでしまった母の代わりに僕の面倒をみてくれていた。

「うん。で、結局何しに来たの?」

「ヌッハッハー、それはもうちょっと先のお楽しみだ。楽しみにしておけよ?」

「?」

 因みに父は大柄で髭面の男で、ぱっと見悪者に見えなくもない人物だ。
 そんな父に連れられた僕は、ギルドの中へ入って行った。
 そこで会ったのが、現在の上司であるスラーさんである。

「よく来てくれましたねライズ・ライトさん。今回の話を聞いてくれてありがとうございます」

「いやいや、俺としても良い話だとは思っている。その冒険者システムってのが上手く機能をすれば俺の旅にも役立ちそうだからな」

「そうですか、それはよかった。では早速登録をお願いしますね。どうぞこちらです」

 この時の僕は知りもしなかったけど、父はスラーさんに呼び出されて、今回初めて使われる冒険者システムの最初の一人として選ばれたようだ。

「まあ待ってくれ。それは人体に害はないのだろう? だったら俺の息子にも受けさせてやってくれ。第一号なんてこいつも喜ぶはずだ。そうだろうクー?」

「一号! うん、やる!」

 その時あんまり考えてなかった僕は、カッコいいのかなと思って軽く引き受けてしまった。
 今思えば、適当に測量士を選んでしまったのが、僕にとって運の尽きだったのだろう。
 気付いた時にはドップリ測量士という職業に浸かってしまっていたのだ。
 こうして僕達は、ギルドに管理される冒険者の一人目と二人目になってしまった。

 まあ、今と同じギルド職員だ。

「よし、これで俺も魔戦士としての職業に就いたわけだ。強くなるにはどうしたらいい?」

 父さんが選んだ職業は、魔戦士というものだ。
 剣を得意として、ある程度の魔法を扱えるものだけど、いきなり魔法が使えるようになるわけではない。

「魔物を倒すと経験値が溜まりレベルが上がります。その際に冒険者カードに内包した魔力により能力の成長値が誘導されるのです。職業によっては当然上がらないものもありますが、その分必要な能力がドンドン上がる訳ですよ」

「ほう? まだよくわからないが、兎に角魔物を倒せばいい訳だな? んじゃ、早速行ってみるか」

「うん、行こう父さん!」

「ああ、レベルが上がってない今は今までの能力と変わりませんから気を付けてくださいね」

「おう、分かってる。分かってるよ」

 ということで、僕は父さんと一緒にレベルを上げていた。
 僕が居るからか、危険性の一切ない単体のスライムとか、稀にゴブリンなんかも相手にしている。

「クー、そっちへ行ったぞ! 止めを刺してやれ!」

「うん、わかった! たあああ!」

 と、そんな感じの戦いをしていて一月を過ぎた頃だろうか?
 僕達親子はレベル七になっていた。
 そんな日が続き、今日もレベルを上げようかと起きた朝、家にやって来たスラーさんに頼み事をされた。

「という訳なんですけど、冒険者として初めての依頼を受けてみませんか?」

 聞かされた話では、王都より更に西にある村に、危険な魔物が出現したと聞かされたのだ。
 毎晩現れる魔物に恐怖し、フェイ・ステラ・ラビスによりギルドに依頼が出されたらしい。
 それはつまり、ファラさんのお父さんである。

「ヌッハッハー、今の俺達に勝てるやつなんて居ないよなぁ。任せろ任せろ、やってやろうじゃないか。なぁ」

「そうだね、僕は誰にも負けないんだから大丈夫だよ! だってもういじめっ子も返り討ちにできるし!」

 力が上がっていて調子に乗っている父さんと、自信が付いていた僕は、頼み事を二つ返事で引き受けた。


 僕達はローザリアから馬車で移動し、ラザリアンクの王都に着くと、馬を借りて更に西へ移動して行く。
 移動中に出て来る魔物は馬で跳び超え踏み潰し、目的であった村へ到着した。
 もちろん僕は、父さんの背にしがみ付いてただけである。
 馬乗れないし。

 ここはルーフィスと呼ばれる村だ。
 スラーさんが言っていた狂暴な魔物が出る村。
 魔物は夜にしか出ないと聞かされたけど、昼間の内でも村人達は外には出ていない。

「ふむぅ、来たはいいがどうしようか? 魔物は夜まで出ないらしいし、外で永久に待ちたくはない。俺はちょっと飲み屋でも探したいなぁ。……クー、お前ちょっと金やるからそこの店で待っててくれ」

「ん?」

「あそこが依頼を出したランズさんのお宅だそうだ。レストランみたいだし丁度良いだろう」

 僕は父さんが指さした先に振り向くと、そこには小さなレストランが建っている。
 少し古い建物だけど、長く続いているなら料理も期待していいだろう。
 そのレストランの扉からは、僕と同じぐらいの女の子がこちらを覗いていた。

 長い金髪を後に縛った女の子で、青い目をギンと上げて、僕達に睨みをきかせている。
 知らない僕達に随分警戒しているみたいだ。
 僕一人であそこに行くのは少し勇気がいる。

「父さん、あそこでもお酒がで出るんじゃないの?」

 父さんにそれとなく頼んだのだけど。

「クー、良く聞け、子供連れで飲む酒より一人で飲む酒の方が楽しいんだ。まあお前はあの子と仲良くしてやれ。もしかしたらいい感じになるかもしれないぞ?」

「う~ん、そうかな~? あんまりそういう風にはみえないけど。でも分かったよ。夜までには帰って来てよね」

「俺がお前のことを忘れる訳がないだろう。安心しろ、ちょっと飲んだらすぐに戻って来てやるからな。ヌワッハッハー!」

 因みに、そのセリフを聞いて帰って来たのが一ヶ月後とか、そんなことも稀にあったりする。
 でも今の僕は気にしてはいなかった。

「じゃあ行ってみようかな」

 僕のレベル七となり、大人にも負けないぐらいの強さを手に入れているからだ。
 もし魔物が出て来たとしても、自分一人でも余裕だと思っていた。

「んじゃ、また後でなクー」

「いってらっしゃい」

 僕は父さんと別れてレストランの前に移動すると、先ほどまでこちらを見ていた女の子が居なくなっていた。
 もう僕に興味を失ったのだろうと、構わず前の扉を開く。
 僕が来たことを知らせるように、扉に付けられた鈴がカランと鳴った。

「こんにちは、何か食べさせてください」

 声を出したけど、誰の返事も帰って来ない。
 店の中にはテーブルと椅子がある。
 あとカウンター席も。
 当たり前なのだけど、それ以外は見つからなかった。

 客や店主も見つからず、さっき見た女の子の姿も確認できない。
 出れる様な扉もないし、この中に居るのは間違いないのだけど?

「え~っと、誰も居ないんですか?」

 さっきより大きな声をあげると、ガタっとカウンターの裏から音がしている。
 あそこに隠れているのだろう。
 僕はその場所を覗き込み確認するのだけど。

「てええええい!」

 先ほどの長い金髪の女の子が、僕の頬を思いっきり引っぱたいた。

「痛い!」

 そして僕から距離をとって、握り拳を構えている。
 可愛い子だし、友達になれたらいいと思うのだけど、これじゃあちょっとダメかもしれない。

「何で僕を叩くの?!」

「あんたが魔物でしょ! 私には分かっているのよ!」

 なぜか僕を魔物だと思っているようだ。
 どこをどう見れば魔物に見えるのだろうか?
 この村にでる魔物は確か……。

 あれ、そういえばどんな魔物が出て来るのか聞いていない。
 父さんなら知っているだろうか?

「僕は魔物じゃないよ。ほら、どう見ても人間でしょ?」

 僕は手を広げて無害なのをアピールしたのだけど。

「信用できないわね。まずその武器を置きなさいよ」

 女の子は警戒を解かずに僕に命令して来た。
 もしかしたら、リュックからはみ出ている鉄棒が怖いのかもしれない。
 僕は背負ったリュックを店のテーブルに置いて、もう一度話しかけてみた。

「これでいいかな? ほら、もう何も持ってないよ」

「そう、でもまだ信用できないわね。信用して欲しいのなら着ている服を全部脱ぎなさい! 一応パンツだけはゆるしてあげるわ!」

「えええ!?」

「早くしなさいよ!」

「わ、わかったよ……」

 父さんにはここで待てと言われているし、僕は渋々ながら服を脱いだ。
 女の子の前で少し恥ずかしいけど、他に誰も居ないから良しとしよう。

「ほら、もうなんにも持ってないし怖くないよ。ねっ、大丈夫でしょ?」

 僕はパンツ一丁となって、女の子に話しかけたのだけど。

「……変態!」

「君が脱がせたんだよねえ?!」

「まあ良いわ。あなたは私の家に何しに来たの?!」

 女の子は拳を構えたままだけど、少しは気を許してくれたのだろう。

「えっと、君のお父さんから依頼されたんだ。僕の父さんと一緒に助けに来たんだよ」

「やっぱり嘘つき! あんたみたいな子供が出来る訳ないでしょ!」

 子供の僕を信用してくれないようだ。
 シュッシュとパンチを撃ちだし威嚇している。
 でも本当の事なのだから仕方ない。

「え、本当だよ。僕本当にギルドから依頼を受けたんだから」

「本当なら私のお父さんも一緒にいるはずよ。お父さんはどこ!」

「ごめん、わかんないや。僕のお父さんなら知ってるかもしれないけど……」

「そっか……やっぱり敵なのね! たあああああああ!」

「うわあああああああ!」

 僕は女の子にこぶしで襲い掛かられた。
 パンツ一丁になってしまった僕なら勝てると思ったのだろう。
 しかし僕もレベルが上がって強くなっているのだ。
 今なら大人にだって負けないのである。

 だから僕は軽く押さえつけて話しを聞かせようとするのだけど。

「うぎゃ」

 軽く足を引っかけられ、僕の方が引き倒されてしまった。
 サッと女の子が僕の上に馬乗りになり、握った拳を振り上げている。

「魔物め、止めを刺してあげるわ!」

「ちょっと落ち着いて、そんな攻撃僕には効かな……ふぐあ!」

 女の子に一発殴られたその時、僕は気付いてしまった。
 測量士としてレベルを上げたのに、なぜか全然強くなってないことを。
 大人に勝てるとか思い上がっていた僕は、現実を知ってしまったのだ。

「あれ……僕強くなってないんじゃないの!? 調子に乗ってごめんなさああああい!」

「問答無用よ!」

 しかし二発目の攻撃が来る前に、レストランの扉がカランと鳴った。
 僕が振り向くと、そこには口髭をたくわえた、四十代ぐらいの細身男が見えた。

「ファラ、ただいま帰ったよ」

「あ、お父さん?」

 もしかしたら僕の父さんが、と思ったけど違ったらしい。
 でもどうやらこの子の父親らしいし、この人がフェイ・ステラ・ラビスなのだろう。
 これで僕も助かるかもしれない。
 しかし。

「……おい貴様、うちのファラちゃんに一体何をしてくれている……」

 扉の前にたたずむファラさんの父親から、まるで暗殺者のような殺気が見える。
 一体なぜだと考えをめぐらせると、自分がパンツ一丁で女の子に乗られているのだと思い出した。
 確かに父親が見たなら勘違いしてもおかしくないけど、僕にとっては全然嬉しくはない。

「ちょっと待ってくださいお父さん、僕は別になにも……」

「誰がお父さんじゃあああああああああ! そこを退いてファラちゃあああああん! そいつ殺すからああああああああ!」

 フェイさんは血涙を流しながら、女の子を引きはがしにかかった。

「落ち着いてお父さん、私は魔物を倒そうとしてただけで……」

「ファラちゃん、こいつをぶっ殺してからちゃんとお話をしようね?」

「あの、ちょっと、僕の話を聞いてください」

「問答無用! 死ねええええええええええええ!」

 このままファラという女の子が退かされれば、必然的に僕へと襲い掛かって来るのだろう。

「い、今しかない!」

 しかし僕は、女の子が退かされている間に何とか脱出し、畳んでいた服だけを持って店から逃げだした。

「ファラちゃんは渡さんぞおおおおおおおおおおお!」

 店の中からは、そんなフェイの声が聞こえて来る。
 なんとか逃げ出せたのはいいけど、リュックを置いて来てしまった。
 あの中には財布とか色々入っているのだけど……。
 あの二人が話し合って、もう少し落ち着きを取り戻してから行くしかないだろう。


 レストランから追い出されて三時間ぐらい経った頃。
 僕の父さんが全然戻って来ないのはどうでもいいけど、あのお父さんはもうそろそろ落ち着いて、僕のことを聞いたんじゃないだろうか。
 そう思った僕は、レストランの扉を鈴が鳴らないようにゆっくり開けてみた。

「お父さん、何度も何度も煩いんだけど。そろそろ黙らないと私も怒るわよ」

「そんな訳にはいかない! ファラはまだ子供なんだ。男にまたがるなんてそんな事は許されない! そういうことはあと三十年ぐらい経ってからやるべきだ!」

「なに言ってんの、そんなに時間が経ったら貰ってくれる相手が居なくなるじゃないの。お父さんと居たら一生結婚できなくなるし、もう家を出ようかしら」

「お父さんそんなことは許しませんよ! 死んだお母さんの為にもちゃんと成人して二十年ぐらい経つまでは絶対許しません!」

「ああ、ウザいわ……」

 ファラさんは本当に嫌そうな顔をしている。
 戻って来ないお父さんを心配していたのに、今ではもうその様子もない。
 ファラさんは説教を気に長し、顔をそらすように僕の方を向いてしまう。

 僕はファラさんと目が合ってしまい、レストランの扉をそっと閉めた。
 慌てずにその場から距離をとって行くのだけど。

「ちょっと待ちなさい」

 追って走って来たファラさんに肩を掴まれてしまった。
 あの父親から逃げて来たのかもしれない。

「……えと、なんですか。さっきも言いましたけど僕は魔物じゃないんで、変なことはしないでください」

「分かってるわ。魔物にしたらあなた弱すぎるし、途中でうすうす気づいてたから」

「だったら殴らないでください。止めを刺そうとしないでください!」

「ふう、何時までも終わったことを言わないでちょうだい。誰だって間違いはあるでしょう」

「いやいや、ついさっきですよね? 分かっててやったんですよね?」

「そんなことより、ちょっと頼みを聞いてくれないかしら? ちょっと耳を貸してよ」

 ファラさんは僕の耳を強引に掴んだ。

「あの、痛いんですけど」

「早くしてよ、お父さんが追って来るじゃない」

 ファラさんは僕に顔を近づけている。
 何かお父さんに聞かれたくない話でもあるのかもしれない。

「ファラ、待ちなさい! ハッ、やっぱりその男と何か関係が?! そこの奴、ファラに近づくな!」

 ファラさんのお父さんが、怒ってこちらに向かって来る。
 でも僕は耳を引っ張られ、この場で動けずに居た。
 ファラさんが僕の頭を強引に下げると、おもむろに……。
 『ドキューン!』という感じのキスが唇に捧げられた。

「ファラアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 突然のキスに硬直してしまった僕と、そして強烈に叫び始めるファラさんのお父さん。
 何故いきなり僕にキスなんて……。
 まさかさっきのやり取りで僕に気が?!
 ……どう考えてもあり得ない。

「ふぅ……さっきのお詫び。それとちょっと手伝ってもらうから」

 よく分からないけど、僕は何かを手伝わされるらしい。
 それではお詫びになっていないのでは?
 そう考えていると、あり得ない言葉がファラさんの口から飛び出した。

「私、この人の子供を身ごもっているの! だから結婚する為に町を出るわ!」

 ファラさんはお腹をポンポン叩いている。

「ハァッ?!」

 訳の分からない言葉に驚く僕。

「な、なんだとおおおおおおおおおおおおおおおお……」

 ファラさんのお父さんからは、頭に血が上ったのか白目をむいて倒れてしまった。
 もうなにか魔物のことなんてスッカリ頭から抜け出ているのかもしれない。

「ねぇあなた、ちょっとお父さんを店の中に運ぶから手伝って」

「えっ、あ、え?」

「早くしてよ」

「は、はい!」

 あまりのことに訳が分からなくなっていた僕は、何故か素直にファラさんの言うことを聞いてしまう。
 恋なんて無縁だった僕は、キスの一つだけで今までのことなんて全部忘れていたのだ。
 そして僕とファラさんは、倒れたお父さんをレストランの中に運び入れた。

「あの、ファラさん、ですよね? 自己紹介してなかったけど、僕クー・ライズ・ライトって言います。えっと、えっと、えっと、えっと……できれば恋人から出お願いします」

「はぁ? 何であんな嘘信じるのよ。さっきのなんて冗談に決まってるでしょ。私のお腹に子供なんていないし、あれは家を出る為の口実よ!」

「いやまあそうなんですけど。……そうですよね、考えればそうですよね」

 今日出会っていきなり子供が生まれるなんてことは無いと、子供の僕でも知っていることだ。

「それでクーだっけ? あんたが本当に魔物を倒す為に来たなら冒険者ってことよね? 私それになりたいの、どうやってなったらいいの?」

「えっ、冒険者ですか? ギルドに登録すればなれないことはないですけど、もう少し大人になってからでもいいんじゃないですか?」

「何言ってるの、クーに出来るのなら今の私でも軽く一番になれちゃうわよ。それでこの村の魔物を軽く退治してやるんだからね。で、そのギルドってのは一体どこにあるの?」

「え~っと、たぶん王都か町になら大体あるんじゃないですかね?」

「あっそ、じゃあ行くわよ。私を連れて行きなさい!」

 ファラさんは僕の手を引っ張っている。
 ギルドまで連れて行かせる気なのだろう。

「いやいや僕が魔物を倒しに来たんですから、ファラさんがやらなくても大丈夫です。僕の父さんも手伝ってくれるし」

 僕は足を踏ん張ってファラさんを説得している。

「あんたのお父さんがどのぐらい強いか知らないけど、クー、あんたには無理よ」

「そんなことはないですよ! 僕は魔物とかいっぱい倒しましたし、相当強くなったんですよ!」

「でもどうせお父さんに手伝って貰ったんでしょ?」

「うっ……確かにそうですけど、本当に強いんですよ? じゃあ見ていてください。この僕の雄姿を!」

 僕は置いてあったリュックから鉄棒を取り、軽い演舞を披露する。

「たあ! はっ! とりゃあ! ってああ?!」

 目の前でクルクルと鉄棒回し、薙ぎ払ってみせたり突きのポーズをしてみた。
 僕は良いところを見せようとしたのだけど、その途中、回している鉄棒をファラさんにパシッと奪われた。

「そのぐらい私でも出来るし」

 そう言ったファラさんは、僕よりも手慣れた動きで演舞を始めた。
 冒険者になりたいと言っていただけあって、努力を積み重ねて来たのだろう

「ほら、私の方が上手いわ。じゃあ連れて行きなさいよ」

 でも冒険者にもなっていない女の子に負けるなんて、測量士って一体どんな職強なんだろうか?
 父さんなら知ってるかもしれないから後で聞いてみよう。

「だから駄目ですって。ここで父さんを待ってるんですから」

「あっそう、だったら私も待たせてもらうわ。その方が手っ取り早そうだし」

「父さんが良いって言うかは知りませんからね」

「大丈夫よ。その時はクーにされた責任を取ってもらうって言うし」

「やめてくださいお願いします。本当に絶対やめてください」

 僕はファラさんに懇願し、説得を終えると、父さんが来るのを待つことになった。
 因みに、こっちのお父さんはまだ目が覚めていない。
 そんなにショックだったんだろうか?

「じゃあこれでも飲んでなさい」

 僕はファラさんからオレンジジュースを受け取った。

「あ、はい、ありがとうございます」

「じゃあ五百デリーね」

「えっ、払わなきゃ駄目なんですか?!」

「ここはレストランだし当然じゃないの」

「そーですねー……」

 僕は置いてあったリュックからお金を取り出し、ファラさんに渡した。
 そして適当に話しながら待っていると、案外早く父さんがやって来たようだ。
 店の外からは父さんの声が聞こえてきている。

「いよう、待たせたなクー! おっ父さん、すんごくご機嫌だぞお! 魔物なんて片腕で倒して見せるぞぉ。ヌワッハッハッー!」

 やはり酔っぱらっているらしく、顔が赤くなっていて相当酒臭い。
 浴びるほど飲んで来たのだろう。
 そんな父さんの前に、ファラさんがお願いをしようと前に出て行く。

「あなたがクーのお父さんね? お願い、私をギルドに連れてって!」

「ほう、こんな立派な彼女をひっかけるとは、やるじゃないかクー! つまりお嬢ちゃんはクーの相棒になりたいんだな? よし良いだろう! 立派な冒険者に仕立ててやるぞ。この俺に任せておけ。ヌワッハッハッー!」

 酔っぱらった父さんは、ファラさんの頼みを簡単に引き受けてしまった。
 きっと反対しても付いて来る気だろう。
 近くで寝ているファラさんのお父さんにどう言い訳をしようか……。
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