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四つ目の日記

ローザリアギルドの受付嬢(二章終了)

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★前回の尻の方のあらすじ。
 オークを退治した僕達は、フェイさんを探す為にもう一度オークの巣へ入って行く。
 色々と見て回るのだけど、フェイさんの姿は見当たらなかった。
 カギが壊れたあの場所を開けて逃げてしまったようだ。
 あの人はシーフか何かのスキルでも持っているのか?
 他の場所も探すがやはり見つからず、僕達は町へ帰って行く。


 クー・ライズ・ライト (僕)
 ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
 アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
 グリア・ノート・クリステル(お姉さんの相棒)
 ランズ・ライズ・ライト (父)
 ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
 フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
 スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
 ディザリア・エルス・プリースト(破壊教)
 デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
 ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
 リセル・ラヴ・キリュウ (ローザリアのギルド受付)


「……ってことでよろしくお願しま~す」

 町に帰った僕達は、夜のギルドへ報告をしている。
 僕達が働いている戦力調査部は早めに業務を終えるが、ギルド自体は深夜まで営業しているのだ。
 冒険者限定で料理や酒も提供しているから、夜も相当な人数がここにたむろしている。
 冒険者としたら、むしろ今からが本番だろう。

「はいは~い、まっかせて~!」

 返事をしたのは、このギルドの看板娘的な存在のリセル・ラヴ・キリュウだ。
 エメラルドのような長い髪が特徴的で、そのスタイルも男なら目を引くものがある。
 客をおびき寄せるように薄い衣装を身にまとい、笑顔を振りまいている女性だ。
 ミトラの町に居るディーラさんとは、また違った魅力があるのだろう。

 本来なら長い行列が出来るほどの人気者だけど、僕は丁度よく出て来たところを呼び止めた。
 その性格も評判がいいようで、このギルドに来る冒険者は、独り身なら大体彼女の所に行く。
 僕とは部が違うからあまり話したこともないんだけど、戦力調査部にも噂だけは流れて来ている。
 まあどれも取るに足らないようなもので、可愛いだの、ステキだのと、見習ってほしいとかだ。

「ライズ・ライトさん、またね~!」

 そのリセルが手をふるから、僕も手をふり返すのだけど、ギルド内に居た冒険者達から物凄い目で睨まれてしまった。
 あまり長居をすると冒険者にからまれそうだ。
 もう用事も済んだし帰るとしよう。

「じゃあ行きましょうか二人共」

 僕はファラさんとミアさんに声をかけるのだけど。

「ワタシ、ニク、タベタい! ジュル……」

 ミアさんは、このギルド内の匂いにやられてしまったらしい。
 口から垂れるヨダレを手でぬぐっている。

「しょうがないわね、じゃあ何か食べましょうか。リセル、注文もついでにお願い。え~っと、ミアにお肉と、私は……」

 ファラさんは料理を注文しようとしている。

「えっ、ここで食べるんですか!? 僕としてはお勧めできないんですけど。ほら、ミアさんって食事も管理されてるじゃないですか」

 じつは結構やぶったりしているのだけど、別にルールがどうだからと止めた訳ではない。
 更に女連れだと知って、冒険者の皆さんから殺気がダダ洩れているのだ。

「はぁ、今更何言ってるの? そんなのしょっちゅう破ってるじゃない? 良いから持ってきちゃって。あ、クーの分もお願いね」

 ファラさんは、僕の分まで注文してくれた。
 だったら多少の居心地の悪さぐらいは我慢しなければ。
 まあでも後で払えとか言われたらかなわないし、ちゃんと確認しとこう!

「ファラさん、それはもちろんオゴリなんでしょうか!?」

「まあちょっと迷惑かけちゃったし、今回はオゴッてあげるわよ! 今回だけね! じゃあ頼むはねリセル」

 僕はファラさんの答えに、グッと拳を握り込み喜んだ。

「は~い、りょうか~い! じゃあ適当に席に座っててくださいね。すぐ持って行きますから~!」

 リセルさんは、奥に居る料理人に注文を届けている。
 僕達はあいている席に座り、注文した料理を待つのだけど。

「おい兄ちゃん、リセルとどういう関係だ? あんな風に手をふられやがって! まさか二人も女をはべらせていてリセルまで狙う気なのか!?」

 でっかい坊主の人と。

「ちょっと話があるんだ。外にでてもらえないか?」

 モヒカンの男が僕の左右に陣取り、ドンとテーブルを叩いた。
 ここに来ないまでも、他にも僕のことを睨んでいる男は多いようだ。
 しかしこんな人達を相手にしているカロリーはない。
 今僕に必要なのは、これから運ばれてくる料理なのである。

「そんなものは知りません! 僕の食事を邪魔しないでください!」

 僕は獣のようにシャーっと叫び、二人の男を威嚇した。
 でも向うも冒険者で怯んだりはしてくれない。

「嫌だというなら力づくだ」

 坊主が僕の右腕を。

「お話しようじゃないか」

 そしてモヒカンが左腕を掴み、僕を立ち上がらせようとして来る。

「嫌ですううううううううう!」

 そうはさせまいと、僕は固定されたテーブル裏に膝を当てて耐え続けた。
 これも全ては食事の為である。
 ちなみに、向かいに座っている二人は助けてくれない。

「ヨメ、ガンバれ!」

「ふう、私達の邪魔をしないでね」

 ミアさんはなぜかワクワクしているようだし、ファラさんは我関せずと言った感じだ。

「ぬおおおおおおお!」

「このおおおおおおおお!」

 この二人の力に。

「め、めしいいいいいいい!」

 生命力を全開にして頑張って耐え続けているのだけど、僕が動かないと知ると相手側に加勢が入った。

「俺も手を貸すぞ!」

「お前にリセルちゃんは渡さああああああん!」

 三人四人と増え続ける男達に力負けして、僕は椅子から引き離された。
 全員リセルさんのファンなのだろう……。

「は~い、受付はこちらで~す! ちゃんと並んでくださいね~!」

 その本人リセルは、ギルド受付で関わっていない冒険者を相手に仕事をしている。
 出来れば助けてほしいのだけど。
 外に引きづられて行く僕の目に。

「おまたせしました。お料理で~す!」

 とギルドのウェイトレスさんが料理を運んで来ていた。
 あれはファラさんが僕の為に頼んでくれたご飯である。

「ニク、キター!」

 それを見て喜んでいるミアさん。

「じゃあ食べましょうか。クー、早く帰って来ないとミアに食べられるわよ」

 僕のことよりご飯が先だと、食事に手を突けるファラさん。

「にゃあああああああ、僕の食事がああああ!」

 段々遠ざかって行く食料を見つめ、僕の目が涙にぬれた。
 そしてギルドの外に運ばれた僕は、人通りのないギルドの裏手へと連れて行かれたのだ。
 周りには十人ぐらいはいるだろうか?

 後衛の僕には勝ち目はない。
 しかし食事の為には戻らなくてはならない!
 僕はそう決意して、拳を構えながら一目散にギルドへ駆けこんで行くのだが。

「待てコラ!」

 坊主の人に首根っこを押さえられてしまった。

「何故僕の食事の邪魔をするんです!」

 僕は必死に抵抗するも。

「お前がこのギルドの掟を破ったからに決まってるだろうが! 二度と出来ないようにギルドの教えを叩きこんでやるよ!」

 モヒカンの人がおかしなことを言っている。
 ギルド員の僕が、なぜギルドの掟を冒険者に教えられるのだろうか?

「ちょっと、殴ったりしないでくださいね。僕はそんなに強くないですから。もし殴りたいというのなら、僕にその分のご飯をくれると嬉しいです! それならむしろ喜んで殴られてあげますよ!」

 僕は真実の気持ちを打ち明ける。

「はぁ、何で俺達が飯をおごらなきゃならんのだ!」

 坊主人が疑問を言うが。

「それは僕のご飯を邪魔したからです!」

 僕のご飯を邪魔したから、これは正当な要求である。
 もう今頃はなくなっていてもおかしくない。
 いけない、また涙が出て来た。

「お前の飯の問題なんてどうでもいいわ。それより、リセルちゃんのことだよ! このギルドの冒険者に登録している以上は、勝手に喋りかけることは許されていない! いいか、二度目はないぞ。もし次勝手にしゃべったりしたら、五百人からなる男冒険者が黙っちゃいないぞ!」

 坊主の男が怒鳴り散らしている。
 その後ろからも、そうだそうだと仲間の男達が大合唱していた。

「ではこれにサインをしてもらうぞ。嫌がっても無駄だ、無理やり押させてやるからな」

 モヒカンの男が取り出したのは、何か色々書かれた薄っぺらい紙だった。

「えっ、なんですそれ!? 変な契約とかしたくないんですけど!」

 僕は嫌がって手足をバタバタするのだけど、大勢に押さえられて動かない。

「ふっ、これが何かって? よく聞け、これはリセルちゃんのファンクラブに入るための大切な契約書だ!」

「これにサインを書けば、お前も立派な会員として、いずれリセルちゃんと話せる機会を得られるのだ!」

「どうだ、嬉しいだろう! もちろん拒否権はないぞ、これはこのギルドの掟だからな!」

 次々と、男達から決められたようなセリフが発せられる。
 何かしらのレッスンでもしているのだろうか?
 これに入ってこの騒ぎが終わるのなら構わないのだけど、一応は中身を確認しておきたい。

「あの、もう暴れないからその契約書を読ませてください」

 僕がそう申し出ると。

「ふっ、いいだろう」

 モヒカンの男は僕に契約書を渡した。
 僕はそれを見るのだけど。

「えっ、なんですかこれ?」

 第一条と書かれた場所からおかしかった。
 週に一度ある集会には必ず参加しろと書かれ、リセルちゃんに気付かれないようにのぞくことと続けられている。
 お風呂を見れるのは上位数名だけだとか、靴下を持ち変えるのは禁止とかだ

 ずらっとそんな言葉が並べられ、最後の一文に、『もし抜けたら何をされても良い』なんて物が書かれている。
 これは決してファンクラブじゃない。
 そう名乗っただけの別の何かだろう。

 こんなものに関わったらギルドから敵認定されかねない。
 というか何故放っておかれているのか。

「こんなものにサインなんて出来ません!」

 僕は契約書を地面に叩きつけた。

「なんだとおおおおおおおおおお!」

「ゆるさあああああああああん!」

 しかしそれに怒る十人もの男達。
 この状態からどうやって脱出しようかと悩む僕に、助けの手が現れる。

「アーッハッハッハ! ついに尻尾を掴んだわ。さあリセルのストーカー集団め、全員全部全滅よおおおおおおお!」

 きっと僕は助かるだろう、ボコられた方がマシなダメージと共に。

「ぎゃああああああ、ディザリアさんが出たああああああ!」

 逃げようとするけど、僕は押さえられたままである。
 何が起こっているのか分からない男達だが、相手は説明なんてしてくれない。
 敵と判断されれば魔法を撃って来るのだ。

「僕は敵じゃないですよおおおおおおおおお!?」

スクウェア規模シグマ威力ライトニング属性!」

 ディザリアさんは、僕の声なんて聞いてはくれないのだ。
 バチバチと広がる雷の魔法が。

「のおおおおおおおおあああああああああああ!」

「わぎゃああああああああああああ!」

「しょびあああああああああああああああ!」

 っと僕達全員を巻き込んだ。

「アーッハッハッハ! 全滅ううううううううううう!」

 そんな声を聞きながら、ここに居た全員が昏倒したのだった。


「……大丈夫ですか?」

 っと、少年のような声に反応して目を覚ました僕。
 目を開けると、そこには声に見合った少年の姿が見えた。
 名をナオ・ラヴ・キリュウと言い、あのストーカー集団の被害者であるリセルさんの弟である。
 髪の色や瞳の色も一緒で、護ってあげたくなるような小動物のような感じの少年だ。

「アーッハッハッハ! 依頼終了ね!」

 ちなみに、このディザリアさんのチームの一人でもある。
 回復を得意としているから、僕の体を癒してくれたのだろう。
 じつはもう一人仲間が居るのだけど……ここには見当たらないようだ。
 まあ魔法に巻き込まれるし、仲間でも近づきたくはないだろう。

 僕の他の男達は、ギルド職員に縛りあげられて連行されている。
 たぶん看板娘のリセルさんをなくしたくないから、ギルドへの入店不可となるだろう。
 そうなれば、この町のギルドでは働けなくなるんじゃないだろうか?

「ありがとうございます。僕はもう大丈夫ですよ。……おたがい頑張りましょう」

「あ、はい、そーですね……」

 僕が助けてくれたナオに挨拶すると、思う所があったのか目をそらしている。
 彼にも色々あるのだろう。
 僕は頑張って立ち上がり、ナオにだけ手をふって別れようとするのだが。

「クー・ライズ・ライトオオオオ! 一人で居るとは言い度胸だああああ!」

 聞き覚えのある声が聞こえて来る。

「この声は、フェイさん!?」

 僕はその声に驚いた。
 これは既にギルドに手配されているフェイさんの声である。
 まさか娘に会いたいが為に町の中にまで入り込んだのか!?

 声の場所を見ると、ギルドの屋根の上に乗っていたフェイさんが、僕達を見下ろしている。
 しかも、前に壊した鎧まで復活しているらしい。
 でも、そんな狙い易そうな場所に居たら。

「オクタゴン・オメガ・ストリーム!」

 っと、ディザリアさんの風の魔法に吹き飛ばされている。
 辺りに連射される風の弾は、フェイさんを高く高く打ち上げるのだけど。

「ヌハハハハ! 私が飛べることを忘れているのか馬鹿者めえええええ!」

 空を自在に飛んでいるから、落ちて来るダメージは期待できない。

「アーッハッハッハ、馬鹿はお前よ! オクタゴン・オメガ・フレイム!」

 空に打ち上げられたフェイさんに、ディザリアさんの凶悪な炎の魔法が空を埋め尽くした。
 ゴーゴーと吹く風の魔法とは違い、町全体が夕焼けのように染まっている。
 ……ファラさん、お父さんは死んだかもしれないですよ。

 しかしいくら待っていても、フェイさんが落ちて来ることはなかった。
 まさか骨まで燃えてしまったのかと心配したが、炎の魔法がおさまるとフェイさんの姿が見え始めた。
 ダメージがあるかと思えば、まったく無傷で佇むフェイさんの姿。
 どこも焦げたりしていない。

「ヌアッハッハッハッ! そんなものは効かんわ! 私はパワーアップしたのでなぁ!」

 雷だけではなくて炎も効かなくなっている?
 たぶんフェイさんの来ている鎧が、炎を防ぐ効果があるのだろう。

「だったらとっておきのを……」

 っと、またディザリアさんが続けようとするが、爆風や豪炎が町中に連発されれば町やギルドの人も気づいたらしい。
 とうぜんギルドの中に居た、ファラさんもだった。
 ギルドから跳び出して、フェイさんが居る空を見上げている。

「またお父さんが!」

 ファラさんはギっと歯を噛みしめている。

「おお、会いたかったよファラ。でもごめんよ、今は別の用事があるんだ。だが……」

 そんな娘の表情を見ても、普通に喜んでいるから始末に負えない。
 しかし別の用事とは?

「……おっといかん、何時までもファラの顔を見ておきたい衝動にかられる。……ヌッ!」

エニアコンタエニアゴン九十九角形・オメガ・ストリーム! ぶっはぁ……」

 フェイさんが喋っている内に、またもディザリアさんが魔法を放つ。
 先ほどは効かなかった風の魔法だが、今回は規模が違う。

「効かぬと言っているのが分からぬ……何ぃ!?」

 無限に吹き上げるような風の弾と、永劫に数えきれないほどの撃ちおろす風の弾。
 その二つに挟まれてしまったフェイさんには、最早どこにも逃げ場はない。

「ぬおおおおおおおおおおおおおお!」

 もう大規模を越えて超規模の域に入っている。
 空中に居るフェイさんを狙ったから僕達に影響はないけど、ディザリアさんがそれを狙ったのかは不明だ。
 僕が見る限り、何にも考えていない気がする。

 その放った本人ディザリアはというと、魔力を使い果たしたようで、地面に座り込んでいる。
 魔力が回復するまでは大人しくしているだろう。

「ヌハッ……やはり敵陣では不利ということか。人目にもつき過ぎた、潮時だな。魔王から頼まれた仕事をさせて貰おう。さあ来い魔物共!」

 フェイさんは小さな種のような物をばらまいた。
 それが地に転がると、ウネウネと成長し続け、緑色が人の形状を成していく。
 これはグリーンデビルと呼ばれる植物の魔物である。

 レベルは生きたオークぐらいだけど、傷の再生能力が高い。
 しかし中心にある核の部分を叩けば、その体は枯れて朽ち果てるのだ。
 数も相当多く、また四十は居そうだけど、ここには冒険者も多いから充分倒せるだろう。

「まさかギルドを襲撃するとはな! 舐めたものだぜ。冒険者の力を見せてやるぜ。やっちまえテメェ等!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおらあああああああ!」

 っと冒険者と魔物との戦闘が始まるが。

「ファラ、お父さんは行かなければならないんだ。どうか悲しまないでくれ。また来るから。また来るからああああああああ!」

 そう言ってフェイさんは戦場から去って行った。

「逃がさな……ッ! 邪魔よ!」

 ファラさんも追い駆けようとしているのだけど、グリーンデビルや冒険者が道を塞いでしまっている。
 もう追いつけないだろう。

「よし、今の内にご飯を食べよう!」

 で、僕はというと、ギルドの中のご飯を食べに戻ろうとしている。
 だって、もう僕にできることはないんだもの。
 ご飯を食べに戻ったっていいじゃない。

「クー、何処へ行くつもり? まだ戦いは続いているわよ」

 しかしコッソリと戻ろうとする僕の肩に、ファラさんの手が置かれた。
 フェイさんを追い掛けられなかったから、諦めてグリーンデビルを倒そうというのだろう。

 しかし僕にはそんな暇はない。
 この場に居ないミアさんは、今もご飯を食べ続けているはずだ。
 間に合わなければ全部食われてしまうだろう。

「……いや、僕が居ても邪魔でしょう。ここはむしろギルド内に避難して邪魔にならないように、邪魔にならないように避難したほうがいいんです! ほら僕って今全然役に立たないし邪魔ですから!」

 僕は必死に良い訳を始めたのだけど。

「あんたまさか、ご飯が食べたいからって逃げるんじゃないでしょうね?」

 やはりファラさんは僕の相棒。
 僕のことを結構理解しているらしい。

「……ファラさん、確かにご飯は食べたいです。でも、魔物なんかよりもご飯の方がよっぽど大事ってだけなんですから!」

 僕はもう隠すのはやめて、正直に打ち明けた。

「それ言ってること一緒でしょ」

 ファラさんは呆れているが。

「違います! 僕のお腹がいっぱいになってパックにつめてもらってから、ちゃんと戦いに参戦しますから! もちろん魔物が残っていたらですけど! ほら、もう殆ど倒されてるし、僕一人居なくてもへ~きです」

 こうして言い争っている間にも、多くの冒険者の手により、魔物は殆ど倒されている。

「あっそう、これ倒したらもう一度料理を注文してあげようと思ったけど、じゃあ仕方ないわね」

「何しているんですかファラさん、さあ行きましょう! まず敵を殲滅させてからご飯です! あそこに敵が居ます。たああああああああ!」

 僕達は、冒険者の人達と一緒に魔物の群れを殲滅したのだけど、捕まえた男達の姿が見えなくなっていた。
 状況からして逃げたというよりは、フェイさんに連れられて行った。
 いや、自分から行ってしまった可能性は高いだろう。
 魔王の配下にでもするつもりなのかもしれない。

 それにしても、今日捕まえたのは偶然からだ。
 どこか近くに連絡役でもいるのだろうか?
 まあそれは、僕にとって重要なことではない。

「さあファラさん、ご飯を食べましょう! お腹いっぱい食べましょう! 持ち変えれる様に一週間分ぐらい注文しましょう!」

 僕はファラさんに出来る限りのお願いをしたのだが。

「何で私がそこまでしなきゃならないのよ。今日の分だけだから」

 どうやら断られてしまったらしい。
 しかし今日はしのげるからそれでも大丈夫だ。

「ありがとうございます!」

 僕はキッチリ九十度にお辞儀をして、ギルドの中へと入って行った。


 今僕は、ファラさんに餌付けされるように、運ばれてくる料理を必死で食べ続けている。
 来たのはビーフサイコロサラダと野菜たっぷりのスープ、こんがり焼けた骨付き肉に、こだわりの手ごねパンだ。
 ちなみにこれが二週目である。

 しかし僕も人間だし、いずれ限界が来ることは分かっているのだ。
 だからこそ吐き出す一歩手前でキッチリ留めなければと、肉の欠片ろチョビチョビ口にふくんだり、合間合間にスープを飲み込み、ほんの少しの隙間も埋めていく。

 そして一時間が経過した。
 冒険者や、僕達戦力調査部に努める人間にとって、食事というものはゆっくりと取ることはない。
 なので。

「あのさ、何度も言うけどもう帰りたいんだけど」

 おごると言った手前、待ち続けていたファラさんも、もう限界が近いようだ。
 そして隣に座るミアさんは、椅子に座りながら眠っている。
 だからと言って、手を緩めるわけにはいかない。

「あと一皿、あと一皿だけお願いします!」

 僕は今後の生活のために、ファラさんに必死に頼み込んだのだが。

「じゃあそれで終わりだから。もしそれ以上ごねる様なら、全部あんた持ちにさせるわよ」

 最後だと告げられてしまった。
 だが僕の腹も充分だろう。
 終わりにするには丁度良い。

「はい、それで終わりにします!」

 ということでお腹いっぱいに満たされた僕は、最後の一皿を注文し、来るのを待ている。

「じゃあ私はミアを連れてくから、代金はここに置いておくわよ」

 ファラさんはもう帰るらしく、テーブルに代金を置いて、ミアさんを担いで帰って行った。

「ごちそうさまでした!」

 僕は後ろ姿に挨拶をすると、ファラさんも背中を向けながら手をふっていた。
 一人になった僕は、ウェイトレスが持って来た肉と引き換えに代金を支払い、安心して肉にかぶりつく。
 しかしその一口目で、遂に腹の限界がおとずれてしまったのだ。

 例え限界だとしても、金を払った料理を置き去りにする訳にはいかない。
 僕は汚れるのなんて慣れたものだといわんばかりに、口で噛り付いたまま家路に帰って行く。
 町行く人は確実に僕に振り替えるが、気にしてはいられない。

「ふぐぅ、ふぐぅ!」

 もう少しで家に着く。
 帰ったら切り分けて五日分にしよう。
 腹ははち切れんばかりにいっぱいで、明日の食糧も確保できた。
 でも。

「うぷッ」

 動くと少し気持ち悪い。
 しかしそれも、食事を腹いっぱい食べられた幸せに比べれば、全然大したことはないのである。
 僕はこの幸せをかみしめて、大満足でこの日を終えた。

 次の日、あれほど膨れていたお腹もすっかり落ち着き、体調も万全だ。
 しかし朝がくればお腹は減ってくる。
 でも大丈夫、僕は昨日の残りの肉と余っていた野草をモシャモシャ食べ、元気に出社して行くのだった。

 で、そんな僕一人がスラーさんに呼び出されている。
 昨日の一連の騒動のことだろう。
 この頃こんなのばっかりだ。

「大体の話は聞いていますが、一応報告をお願いしますね、ライズ・ライト君」

 スラーさんは何時もの場所に座って僕を見上げている。

「はい、昨日あれから……」

 僕は昨日のことを詳細に話し、作ってあった資料を渡した。
 ミノタウロスゾンビとオークゾンビの物、そしてこれがグリーンデビルの物である。


 名前 :グリーンデビル
 レベル:14
 HP :90
 MP :40
 力  :54
 速  :43
 大  :130~200程
 危険度:3
 技  :ツルの振り回し。自動治癒。養分吸い取り。

 考察 :緑色の植物の魔物。
     植物のツルが絡まって人の形状をしている。
     振り回されるツルの攻撃は、範囲も長く当たるとムチのように痛い。
     ツルの先からは人の体液を吸い取り、栄養を得る。
     植物の回復力は相当に高いものだ。
     しかし体の中央にある核を叩けば、その力も失われる。

 注意 :核の存在を知らなければ苦戦は必至。
     冒険者同士で情報を広めよう。


 スラーさんはその資料を受け取るが。

「それで、君はなぜそんなに嬉しそうに話すのでしょうか? まさか町が襲われたのがそんなに嬉しいと? 君、まさか魔王軍と繋がって……?」

 その目が鋭く光る。
 自分でも今気づいたのだけど、僕の顔はそうとう喜んでいるらしい。

「ち、違いますよ! 僕が喜んでいるのは、お腹いっぱいご飯が食べられて嬉しいということだけで、他のことは一切ないです!」

 変な勘違いをされても困るから、僕は必死で言い訳をしている。

「食事やお金で懐柔されたということも?」

 再び輝くスラーさんの眼光。

「いやいや、そこはないです! ギルドの怖さは知ってますから!」

 しかし僕は知っている。
 三年勤めたこのギルドが、魔王辺りに結構冷酷だということを。

「ふむ、確かにそんな人が戦力調査部に居たとなれば大事です。徹底的に拷問して情報を引き出したあげくに餓死でもさせられるでしょうね」

 スラーさんは僕に揺さぶりをかけるように、口撃を仕掛けて来る。

「だから違いますって。変な冗談はやめてくださいハハハ」

 当然僕には魔王と親交はない。

「冗談を言ったつもりはないのですけど。まあ、一応私の部下ですし、信用はしておきましょうか」

 一応信用されたのだろうか?
 しかし油断させておいて、影からコッソリ調べられるだろう。
 そこで変に疑いをもたれれば……。

「ハハハハ……」

 僕は冷や汗を垂らしながら、愛想笑いをするしかなかった。

「まあそのことは良いとして、今日の仕事の話をしましょう。君も分かっていると思いますが、ラビス君の父親のことです」

 スラーさんが言っているのは、ようはフェイさんのことである。

「あ、はい。まあそうでしょうね」

 僕はうなずいた。
 一度目はまだ良かったのだけど、二度目の襲撃は魔物を使ってしまった。
 半信半疑だったギルドも動くし、もう言い逃れはできないだろう。

「本当に魔王の手下である可能性が高く、見つけ次第捕獲対象となりました。当然ですが、生死問わずでです」

 あそこで逃げなければ、もう少し融和的にいけたのだろうけど、残念ながらもう無理だ。
 今後は賞金首として、ランク付けされるかもしれない。

「しかし、今回は身内ファラさんの肉親が関わっているのも事実。ギルドとしても放っておける問題ではないです。もちろんラビス君を切れという意見もありました。しかし、彼女のような優秀な人材を無くすわけにはいけません」

 戦力調査部にも何かしらの動きをさせるということだろうか?
 それにしても。

「あの、僕の時と物凄く対応が違うんですけど……」

 僕としては少し納得できないところだ。

「それは君の気のせいでしょう」

 スラーさんはお茶を口に含み、顔を少しそらしている。
 そう言われてしまったらどうしようもない。

「そうですか……」

 残念だが、僕の扱いとしてはそんなものだろう。

「まあその話は置いておいて、君達のチームで追い駆けてくれという話ですよ。ラビス君が捕まえてくれればギルドのメンツも立ちますからね。もしかしたら心変わりもありえるかもしれません」

「はい、わかりました!」

 この機会はファラさんにとっていいものだと、僕は喜んで返事をした。

「そしてもう一つ、君には重大な任務があります。もしもラビス君が向う側に寝返るようなことがあれば……ちゃんと私に報告してくださいね」

 スラーさんは笑顔を見せているが、その深層は分からない。

「はい、分かりましたスラーさん。では今日の仕事に行って来ますね」

「ええ、お気を付けて行ってらっしゃい」

 僕は返事をして、この場を離れて行く。
 これにより、戦力調査部にも新たな目的が出来たのだ。
 こうして僕達は、魔王側近であるフェイさんの調査を行うことになるのだった。

「っていっても、簡単に見つからないんですけどね~」

 という訳で僕のチームは一週間ばかり探しているのだけど、一向に見つからないのである。
 まあ、そんな簡単に見つかるのなら、誰も苦労はしていないのだけど。

「お父さんどこに行ったのかしら。はぁ、面倒だわ」

 ファラさんは、本当に面倒そうに肩を落としている。

「ワタし、オナカヘッた!」

 ミアさんは何時も通りお腹が減っているようだ。

「僕もお腹が空きました! ご飯を食べたいです!」

 だから僕もお腹が空いたことを打ち明けた。

「まったく、あんた達は食欲しかないのかしら? はぁ、もういいわ。じゃあご飯食べましょうか」

 別に魔物が出ようが魔王が出ようが関係ない。
 僕達の何時も通りは続いて行くのだった。

★職業説明 ウェポンテイマー ナイトトルーパー ニンジャ


 今日はギルドの戦闘職業、ウェポンテイマーのことを説明しよう。
 僕の相棒であるファラさんが就いている職業で、前衛職に位置するものだ。
 その前衛職の中でも攻撃を重点に置いていて、武器種を問わず扱えたりする。
 いや、世にあふれる数ある武器種だけではない。
 道端の小石を、破壊力抜群の投擲武器や打撃武器に変えることも出来るし、小枝をハンマーのようにしてしまうことも出来るのだ。

 まあファラさんは殆ど剣しか使わないが、普通の剣であっても名剣並に切れ味を変えてしまう。
 つまり、例え本を読んでいる時でも武器を持っているのと同じなのである。
 僕も一度やられたことがあるが、皿の投擲は扉を貫通し、乗っていた料理でさえも壁を削り取ってしまう。
 ちょっと揶揄からかうにしても命懸けなのだ。

 能力値としては力が高く、逆に防御力は少し低い。
 あとは大体平均的に上がって行き、レベルを上げるとスキルというものを覚えて行く。
 代表的なものは、鉄を切り裂くアイアン・スラッシュや、鉄を破壊するアイアン・クラッシュ、鉄を貫通するアイアン・スラストとかがある。

 威力は凄まじいのだが、その分消費MPが高く、何度も使う事が出来ない。
 ここぞという時にしか使わない奥の手である。

 この職業が何故作られたかと言えば、危険な旅を長くする冒険者の為である。
 冒険者といえば旅だが、外で戦い続ければ、自身の武器も消耗していくのだ。
 使い続ければ刃こぼれもしていくし、折れてしまえば何も出来なくなるのである。

 だから例え剣が折れても折れた剣で戦えるように、例え武器が奪われても拾った枝で撃退出来るようにと作られた職業なのだ。
 しかし、この職業を使うものが、死中に活を見出す気概が無ければ宝の持ち腐れとなる。
 この職業に就けたとしても、使いこなすのは難しいだろう。



 さて、もう一つはナイトトルーパーだ。
 トルーパーとは騎兵のことだが、夜を疾走するという意味でつけられている。
 この職業はデッドロックさんが就いているもので、武器は鎌を扱う。
 夜を舞うその姿は、死神と間違える人も多いらしい。
 もちろん前衛で、ウェポンテイマーと比べても更に攻撃重視である。

 鎌という重量武器を持っていても、その動きは相当素早い。
 攻撃能力は戦闘職業中で上位に位置し、大型の魔物と戦う時には力を発揮するだろう。
 だが、人型や小型の魔物に対しても不利だということはない。
 スピードでかき回し、リーチのある一撃をもって制圧する姿は圧巻だ。

 そして大群を相手に真価を発揮する鎌の振り回し、シックル・スラスターという技がある。
 例え魔物に囲まれたとしても、一撃で全てを切り裂くという大技だ。
 当然そんな大技を使えば、近くにいる仲間も巻き込まれるので注意が必要だろう。

 能力値は力と速度が大きく上がり、防御力はないにも等しい。
 鎧を着てしまえば速度が落ちるし、持ち味を殺してしまう為に着ない人が多いと聞く。
 その他の能力も上がることは上がるが、期待するほどではないだろう。

 この職業が作られた目的といえば、大型の魔物の討伐である。
 絶対的な一撃を放つ魔物でも、当たらなければどうという事は無いと、避けて斬りつけるのが信条だ。
 しかし防御力がないので、常に命の危機にあるといえる。
 この職業を使いこなすには、勝負の流れを見極める目が必要だ。

 もちろんどの職業も一長一短があり、仲間と行動をするのが冒険者の必須である。



 職業ニンジャとは、戦闘職業において特殊な位置に属する。
 三十ある職業とは別枠といえるもので、ツキコさんだけの為に作られた職業だ。
 つまり三十一番目の職業である。

 この職業は、異世界から来たと言われるツキコさんの両親が居た、日本という国で古くから伝わるものらしい。
 刀という特殊武器は、果てしなく鋭く、ウェポンテイマーであるファラさんの力と比べても遜色はないだろう。

 しかし驚愕するべきは刀ではなく、その素早さだ。
 圧倒的といえる速度は、人の目で追うこともできない。
 数ある職業の中で最速は、間違いなくこのニンジャである。

 ちなみに、色々な術を使えると言う噂もあるが、僕は見たことがない。
 いまだに謎の多い職業である。

 能力値は当然速度重視で、続いて魔力が上がるらしい。
 力はそこそこ、後は軒並み低成長だ。

 この職業が作られた目的は、先ほど言った通りにツキコさんの為である。
 金を出して特殊な武器を作り、ギルドに認めさせるとはどれだけ金があるのだろうか?
 できるなら僕にも分けて欲しいところである。
 いや本当に。
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