冒険パーティー【暁の渡り鳥】の村人は最強です

美山 鳥

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1章 出会いの町キャルト

STORY4 武器屋ウェポンズ

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 暁の渡り鳥が滞在中の町キャルトの武器屋ウェポンズの品揃えはお世辞にも充実しているとは言い難かった。

 「いらっしゃいませ!」

 店主の男はようやく現れた客を逃がすまいと満面の笑顔で接客にあたる。

 (どうしよう……。出づらくなっちゃったかも……)

 店主によって揉み手をしながら店の奥へと案内され、リアーナは苦笑する。隣の相棒ウラボスを見やる。最初から期待などしていなかった様子で、店内にところ狭しと置かれている、武器というよりはガラクタに近いと思われる商品を一瞥している。

 「それで、どのような武器をお探しですか? 当店自慢の逸品をご用意させていただきますよ」

 「えぇっと……」

 武器と呼べるような商品が一つでもあるのかすら疑わしいラインナップに困惑しているリアーナ。

 「ふむ」

 ウラボスは壁に立て掛けられていた木製の杖を手に取る。

 「おぉ! お客様はなんとお目が高い!! そちらはかの有名なユグドラシル・ロッドでございます!!!」

 「えぇぇ!! ユグドラシル・ロッドっていえば伝説の武器の一つじゃない!?」

 リアーナは大声をあげた。店主は慌てて口の前で人差し指を立てる。

 「気をつけて下さいませ。そちらの商品は、物の真価を見抜ける方のみにお譲りしようと決めていたのです。そして、今日、お客様が来店されたといことはその杖が呼び寄せたのやもしれません」

 店主はリアーナとウラボスに小声で囁くように言う。

 (たしかに、これが本物のユグドラシル・ロッドなら絶対に手にいれたい! ウラボスならきっと使いこなすことができるはずだもの! でも、どう見ても普通のウッドロッドにしか見えないのよね……)

 リアーナは目の前の古びた杖が本物の伝説の杖なのかどうか判断できずにいた。しかし、ウラボスは数あるガラクタのような品物の中から迷うことなくこの杖を選びとったのだ。しかも、店の奥の壁際の目立たない場所にあったにもかかわらずである。

 「こいつの値段は?」

 ウラボスが杖を手に店主に訊く。

 「本来ならば100万コルドですが、その杖の価値を理解しておられるのならば特別に50万コルドでいかがですか?」

 (50万コルド!?……残念だけど払える額じゃないわ……)

 スライム討伐の報酬金が10万コルド。そこから昨夜の2部屋分の宿代1万コルドを支払って残りを山分けした。つまり、二人の全財産を合わせたとしても9万コルドだ。とても手が出せる金額ではなかった。どう考えても諦めるしかない。

 「高いな」

 ウラボスは呟き、店主を見つめる。

 「そう仰られても、こちらも生活がありますからねぇ……。しかし、お客様には是非ともユグドラシル・ロッドをお使いいただきたい。そこで、特別に25万コルドにお値引きいたしましょう。これが限界です!」

 (すごい……。25万まで値切っちゃった! でも、まだ手が届かないよ……)

 「なるほどね。伝説のユグドラシル・ロッドが25万コルドなら安いものだ」

 「そうでしょう! お買い上げいただけますね!?」

 店主は両手を合わせてパンッと鳴らす。

 「いやぁ、残念だ! ユグドラシル・ロッドのためなら25万コルドも惜しくないんだけど、所持金が10万しかないんだよなぁ。無念だけど諦めるしかないか……」

 ウラボスはガックリと肩を落とす。

 「いやはや、10万コルドですか……。わかりました! わたくしも涙を飲んで、その金額でお譲りいたします!!」

 「本当か!?」

 店主の言葉にウラボスが目を輝かせる。が、再び落胆する。

 「……ダメだ。昨日、いろいろと使いすぎたから1万コルドしか残ってないんだった……。せっかく10万コルドまでまけてもらったけど諦めるしかないか。……行こうか、リアーナ」

 「え?…あっ、うん……」

 ウラボスはすっかり落ち込んだ様子で、リアーナを連れて店を出ようとする。

 「お待ちください! ここまできたら商売抜きです。1万コルドでお売りします!!!」

 出入口の扉に手をかけたウラボスに店主がやけくそ気味に声を掛ける。

 (すごい、すごい! 100万コルドを1万コルドにしちゃった!!)

 事の成り行きを見守っていたリアーナが感動する。

 「本当に!? よかった。だったら買わせてもらうよ!!」

 ウラボスは嬉々と財布からお札を出して店主に手渡す。

 「ありがとうございま……」

 店主は手渡された紙幣を見て言葉を止める。

 「あのぅ…こちらの紙幣は1000コルドですが?」

 店主が言いにくそうしながら紙幣をウラボスに返す。

 「えぇ!? 本当だ、勘違いしてた……。今、財布にはそれだけしかないんだ。ごめん、購入はまたの機会にするよ」

 ウラボスは店から出ようと扉を開ける。

 「えぇい、しかたありません! 1000コルドで手を打ちましょう!!」

 「なんだか申し訳ないね! ……あっ、そうだ。マントを安く売ってるお店を知らないか?」

 「は? マントですか?」

 商品の受け渡しを済ませた店主が問い返す。

 「ああ。実はポケットに100コルドあってね。これでマントを買えないかと思ってさ」

 ウラボスは硬貨を1枚見せる。

 「それでしたら、当店にもございますよ。お代は100コルドでけっこうです」

 店主はボロボロのマントを持ってきて手渡す。

 「いやぁ、何から何まで悪いね」

 「いえいえ……」

 こうして、ウラボスとリアーナが武器屋ウェポンズを出るころには店主は今にも泣き崩れそうになっていた。



 「なんだか、店主さんに申し訳ないね」

 武器屋ウェポンズをあとにして冒険者ギルドに向かう道中、リアーナが言う。ウラボスはククク…と笑っている。

 「ねぇ、その杖。本物のユグドラシル・ロッドだったりするの!?」

 「これ? まさか。真っ赤な偽物だよ。ただのウッドロッドさ。まあ、そこそこの強度はあるから1000コルドが妥当だろうね」

 「そうだったの? それじゃ、さっきの店主さんはその事を?」

 「おそらく知ってただろう」

 リアーナは店主に同情したことを後悔してしまった。
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