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3章 淫魔に憑かれた村
STORY43 小さな依頼人
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「リャッカちゃん?」
リアーナはリャッカに意見を求める。
「……ちょっといいかニャ? ユナちゃんはこっちで待っててほしいニャ」
リャッカは暁の渡り鳥のメンバーだけをベッドから離れたテーブルに集める。
「…あの娘を助けたいって気持ちはわかるニャ。あたしだって同じニャ」
「よかった!」
リアーナがホッとしたように表情を緩める。
「待つニャ。話は最後まで聞くニャ。あの娘の宿泊費と着替えの代金はあたしたちで支払ったニャ。この分はしかたないニャ。でも、現実問題として暁の渡り鳥の現状を理解してるのかニャ?」
「どういうことだい?」
グランザが訊く。
「これを見るニャ」
リャッカは1冊のノートをテーブルに置き、ある1ページを開く。
「これには暁の渡り鳥の収支をまとめてあるニャ」
「おっ、さすがは賢者だな」
ウラボスが感心する。
「ニャフフフフ……って違うニャ! あたしが言いたいのはそういうことじゃないニャ。はっきり言うニャ。あの娘のために使ったお金と諸経費を暁の渡り鳥の資金から引くと…残金がほとんどなくなるニャ! これはもう破産ニャ!」
リャッカの訴えに空気が重くなる。
「だとしても……わたしは弱い立場の人たちも守れる冒険者になりたい!」
「わかってるニャ。リアーナはいつだってそうニャ。あたしはそんな理想を追い続けるリアーナが大好きニャ。応援したいって思ってるニャ。…でも、考えてほしいニャ。暁の渡り鳥が破産して解散するようなことがあれば、もっと多くの人たちを助けてあげられなくなるニャ。……だから、今回は近隣の町の警備隊に応援要請をして任せるニャ。あたしたちはお金になる仕事を引き受けるべきニャ。……厳しいようだけど、リアーナにはリーダーとしての責任があることを忘れちゃいけないニャ!」
リャッカは沈痛の面持ちで思いを打ち明ける。本心ではユナを助けたいと願っていることは明らかだ。
リアーナは己の無力さに拳を固めて沈黙している。
「ねぇ……」
重苦しい沈黙をやぶったのはユナだ。一同の視線が集中する。
「お金だったらあるよ! わたし、村を出る時、パパやママに内緒でおうちから持ってきたの! それで冒険者さんにお願いしようって……」
「ユナちゃん……。ねぇ、リャッカちゃん! リャッカちゃんが言うこともわかる。でも、やっぱり私は……」
「……わかってるニャ。あの娘の依頼を引き受けるニャ」
半ば呆れたように、また諦めたようにリャッカが言う。
(はぁ……。子供の小遣いくらいじゃ今回も赤字覚悟ニャ……。あぁ、どうしようかニャア……)
リャッカは内心で思案に暮れる。
「ありがとう、リャッカちゃん!」
リアーナはリャッカの手をとる。
「しかたないニャ。……それで、ユナちゃん。お金はどれだけ持ってきたのかニャ?」
「…えっと……紙のお金がいっぱいあって……パパは、いっせんまんコルドって言ってた」
ユナの口から出てきた金額に一同は驚愕する。
「それって、もしもの時のための大切なお金なんじゃ? 僕たちがもらってもいいんでしょうか……」
「さすがに、そんな大切なお金を受け取るわけには……」
グランザとリアーナが呟く。
「なに言ってるニャ! いいに決まってるニャ! これはチャアム村全体の非常事態ニャ。すぐに契約書にサインして、正式な依頼として引き受けるニャ!」
リャッカが鞄から契約書を取り出し、リアーナに強引に渡す。
「う…うん……。わかった……」
リャッカの有無を言わさぬ気迫に押されてしまう。
「それじゃ、ここにお名前を書いてくれる?」
「うん!」
リアーナはユナと契約書の作成にあたる。
「なぁ、あんな子供が契約書にサインしたところで無効になったりしないか?」
リアーナたちを見ながらウラボスは隣のリャッカに訊く。
「法的には無効ニャ。でも、村の大人たちに支払いを納得させる要素にはなるニャ。それに現金として約束されてるのは大きいニャ」
大口の依頼にリャッカの声は弾んでいた。
◎
「リャッカちゃん、これでいいよね?」
リアーナは書き終えた契約書をリャッカに手渡す。
「うん。問題ないニャ! これで暁の渡り鳥は今回の事件解決を正式な依頼として引き受けたニャ! ……一応、報酬のお金を確認させてほしいニャ」
「うん、いいよ!……はい」
ユナは大事そうに抱えていた鞄をリャッカに差し出す。
「それじゃ、見せてもらうニャ」
リャッカはウキウキしながら鞄を開いた。
「…………ニャアアアアアアアアアッ!!!」
リャッカの絶叫が周囲の空気を激しく振動させる。
「どうしたの!?」
リアーナが床に倒れたリャッカを抱き起こす。
鞄から紙幣を1枚だけ取り出したウラボスが微笑した。それには「お子さま銀行」と書かれていた……。
リアーナはリャッカに意見を求める。
「……ちょっといいかニャ? ユナちゃんはこっちで待っててほしいニャ」
リャッカは暁の渡り鳥のメンバーだけをベッドから離れたテーブルに集める。
「…あの娘を助けたいって気持ちはわかるニャ。あたしだって同じニャ」
「よかった!」
リアーナがホッとしたように表情を緩める。
「待つニャ。話は最後まで聞くニャ。あの娘の宿泊費と着替えの代金はあたしたちで支払ったニャ。この分はしかたないニャ。でも、現実問題として暁の渡り鳥の現状を理解してるのかニャ?」
「どういうことだい?」
グランザが訊く。
「これを見るニャ」
リャッカは1冊のノートをテーブルに置き、ある1ページを開く。
「これには暁の渡り鳥の収支をまとめてあるニャ」
「おっ、さすがは賢者だな」
ウラボスが感心する。
「ニャフフフフ……って違うニャ! あたしが言いたいのはそういうことじゃないニャ。はっきり言うニャ。あの娘のために使ったお金と諸経費を暁の渡り鳥の資金から引くと…残金がほとんどなくなるニャ! これはもう破産ニャ!」
リャッカの訴えに空気が重くなる。
「だとしても……わたしは弱い立場の人たちも守れる冒険者になりたい!」
「わかってるニャ。リアーナはいつだってそうニャ。あたしはそんな理想を追い続けるリアーナが大好きニャ。応援したいって思ってるニャ。…でも、考えてほしいニャ。暁の渡り鳥が破産して解散するようなことがあれば、もっと多くの人たちを助けてあげられなくなるニャ。……だから、今回は近隣の町の警備隊に応援要請をして任せるニャ。あたしたちはお金になる仕事を引き受けるべきニャ。……厳しいようだけど、リアーナにはリーダーとしての責任があることを忘れちゃいけないニャ!」
リャッカは沈痛の面持ちで思いを打ち明ける。本心ではユナを助けたいと願っていることは明らかだ。
リアーナは己の無力さに拳を固めて沈黙している。
「ねぇ……」
重苦しい沈黙をやぶったのはユナだ。一同の視線が集中する。
「お金だったらあるよ! わたし、村を出る時、パパやママに内緒でおうちから持ってきたの! それで冒険者さんにお願いしようって……」
「ユナちゃん……。ねぇ、リャッカちゃん! リャッカちゃんが言うこともわかる。でも、やっぱり私は……」
「……わかってるニャ。あの娘の依頼を引き受けるニャ」
半ば呆れたように、また諦めたようにリャッカが言う。
(はぁ……。子供の小遣いくらいじゃ今回も赤字覚悟ニャ……。あぁ、どうしようかニャア……)
リャッカは内心で思案に暮れる。
「ありがとう、リャッカちゃん!」
リアーナはリャッカの手をとる。
「しかたないニャ。……それで、ユナちゃん。お金はどれだけ持ってきたのかニャ?」
「…えっと……紙のお金がいっぱいあって……パパは、いっせんまんコルドって言ってた」
ユナの口から出てきた金額に一同は驚愕する。
「それって、もしもの時のための大切なお金なんじゃ? 僕たちがもらってもいいんでしょうか……」
「さすがに、そんな大切なお金を受け取るわけには……」
グランザとリアーナが呟く。
「なに言ってるニャ! いいに決まってるニャ! これはチャアム村全体の非常事態ニャ。すぐに契約書にサインして、正式な依頼として引き受けるニャ!」
リャッカが鞄から契約書を取り出し、リアーナに強引に渡す。
「う…うん……。わかった……」
リャッカの有無を言わさぬ気迫に押されてしまう。
「それじゃ、ここにお名前を書いてくれる?」
「うん!」
リアーナはユナと契約書の作成にあたる。
「なぁ、あんな子供が契約書にサインしたところで無効になったりしないか?」
リアーナたちを見ながらウラボスは隣のリャッカに訊く。
「法的には無効ニャ。でも、村の大人たちに支払いを納得させる要素にはなるニャ。それに現金として約束されてるのは大きいニャ」
大口の依頼にリャッカの声は弾んでいた。
◎
「リャッカちゃん、これでいいよね?」
リアーナは書き終えた契約書をリャッカに手渡す。
「うん。問題ないニャ! これで暁の渡り鳥は今回の事件解決を正式な依頼として引き受けたニャ! ……一応、報酬のお金を確認させてほしいニャ」
「うん、いいよ!……はい」
ユナは大事そうに抱えていた鞄をリャッカに差し出す。
「それじゃ、見せてもらうニャ」
リャッカはウキウキしながら鞄を開いた。
「…………ニャアアアアアアアアアッ!!!」
リャッカの絶叫が周囲の空気を激しく振動させる。
「どうしたの!?」
リアーナが床に倒れたリャッカを抱き起こす。
鞄から紙幣を1枚だけ取り出したウラボスが微笑した。それには「お子さま銀行」と書かれていた……。
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