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4章 呪われたウラボス
STORY67 望まぬ再会
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翌朝。
目覚めたリアーナの隣ではウラちゃんが静かな寝息を立てている。リアーナはウラちゃんを起こさないように細心の注意を払いながら慎重にベッドを脱け出す。
グランザとリャッカも未だ夢の中である。
窓をそっと開けて朝の爽やかな空気を室内に取り込む。それから洗面台に移動して身だしなみを整える。
「おはようございます、リアーナさん」
戻ってきたリアーナにグランザが声を掛けてきた。
「おはよう、グランザ」
リアーナは笑顔で挨拶を返してソファーに腰を落ち着ける。
「ウラちゃん、よく眠ってますね」
「うん…」
「夜泣きもしなかったみたいでよかったですね」
「うん。お陰でゆっくり休めたよね。今日は天気もいいみたいだし、ウラちゃんとお散歩に行こうかなって思ってるの」
リアーナがグランザに予定を告げる。
「いいですね! ウラちゃんもきっと喜ぶと思います」
「よかったら、グランザも一緒に行かない?」
グランザを誘うリアーナ。しかし、グランザは申し訳なさげにうなだれる。
「すみません。今日は武器と防具のメンテナンスをする予定なんです。たまには自分でやらないと……」
「そうだったんだ…。それじゃ、しかたないね」
「本当にすみません!」
「いいの。気にしないでね?」
謝るグランザにリアーナは笑顔で返す。
「ウニャア……どうかしたのかニャ?……」
目覚めたばかりのリャッカは大あくびをしている。
「おはよう、リャッカちゃん。あのね、今日はウラちゃんと一緒にお出掛けしようかと思うんだけど、リャッカはどうする?」
「ウラちゃんとお出掛けかニャ?……あたしはパスするニャ……。それよりここで寝てるほうがいいニャ……ウニャア……」
リャッカは最後に大あくびをして再びベッドに横たわる。
「リャッカ……」
その様子を見て苦笑するグランザ。
「しかたないよ。リャッカちゃんだって疲れてるのよ。お散歩はわたしとウラちゃんだけで行ってくるね!」
「わかりました」
◎
朝食を終えたリアーナはウラちゃんを抱っこして宿を出た。まだ朝早いため、そんなにも人通りは多くない。
「それじゃ、どこに行こっか、ウラちゃん?」
リアーナはウラちゃんの顔をのぞくが何も答えるはずがない。
「……公園に行こう!」
暫く考えたあと、昨日、リャッカが近くに公園があったと話していたのを思い出し、目的地を公園に定めて歩を進めることにした。
◎
公園も人通りは少なく、散歩をするにはのんびりと歩けた。
「リアーナ? おまえ、リアーナだろ!?」
ウラちゃんを抱いて静かな公園を歩くリアーナに男の声が聞こえてきた。瞬間、リアーナの表情が凍てついたように固まる。
立ち止まったリアーナの側までやってきた長身の男は口元に下卑た笑みを浮かべ、リアーナを見下ろす。
「やっぱりリアーナじゃねぇかよ! 俺様が声を掛けてやってんだから返事くらいしたらどうだ? あぁん?」
リアーナは小刻みに震える体を極力落ち着かせ、ゆっくりと男に視線を移す。そこには二度と会いたくない、思い出したくもない男の姿があった。
リアーナは愕然として全身から力が抜けそうになるのを感じた。それでもウラちゃんだけは落とすまいと両手でしっかりと抱く。
「俺様のパーティーから逃げ出しておいて、冒険者なんぞやってるのか?」
男はリアーナの腰のレイピアに視線を落として言う。
「あ、あなたには……関係……ないでしょ……」
震える声でどうにか反論する。
「なぁ、俺様のパーティーに戻れよ」
男はリアーナの肩に手を置く。
「バカなこと…言わないで!……」
かすれた声で断るリアーナに男は舌打ちをする。
「だぁ! うぅ!!」
ウラちゃんがリアーナを弁護するかのように声をあげる。男は今度は口元に冷笑を浮かべると、リアーナの手から強引にウラちゃんを引き離した。
「待って、グロア! ウラちゃんをどうする気なの!?」
グロアと呼ばれた長身の男はニヤリと笑む。
「このガキを返してほしけりゃ、俺様と勝負しろ」
「そんな!?」
グロアは性格は最悪ではあるが、勇者の試験に合格するほどの実力者である。リアーナはもちろん、リャッカやグランザであっても勝機はない。
「この町の近くの草原にでかい木がある。その下で待つ。俺様が勝ったらおまえはおとなしくついてこい! 万が一にもおまえが勝ったら……いや、考える必要すらないか。こっちも仲間を揃える。そっちも仲間でも助っ人でも連れてきていいぜ。ただし、そいつをうっかり殺しちまうかもしれねぇがな! 時間は今から2時間後だ! 遅れるとこのガキの命は……」
グロアは残酷な笑みを見せ、高笑いをあげて去っていく。
ここで強引に取り返そうとしたところで勝てるはずもない。それどころか、ウラちゃんにも危険がおよぶ。それだけは避けねばならない。リアーナは悔しさに身を震わせるしかなかった。
目覚めたリアーナの隣ではウラちゃんが静かな寝息を立てている。リアーナはウラちゃんを起こさないように細心の注意を払いながら慎重にベッドを脱け出す。
グランザとリャッカも未だ夢の中である。
窓をそっと開けて朝の爽やかな空気を室内に取り込む。それから洗面台に移動して身だしなみを整える。
「おはようございます、リアーナさん」
戻ってきたリアーナにグランザが声を掛けてきた。
「おはよう、グランザ」
リアーナは笑顔で挨拶を返してソファーに腰を落ち着ける。
「ウラちゃん、よく眠ってますね」
「うん…」
「夜泣きもしなかったみたいでよかったですね」
「うん。お陰でゆっくり休めたよね。今日は天気もいいみたいだし、ウラちゃんとお散歩に行こうかなって思ってるの」
リアーナがグランザに予定を告げる。
「いいですね! ウラちゃんもきっと喜ぶと思います」
「よかったら、グランザも一緒に行かない?」
グランザを誘うリアーナ。しかし、グランザは申し訳なさげにうなだれる。
「すみません。今日は武器と防具のメンテナンスをする予定なんです。たまには自分でやらないと……」
「そうだったんだ…。それじゃ、しかたないね」
「本当にすみません!」
「いいの。気にしないでね?」
謝るグランザにリアーナは笑顔で返す。
「ウニャア……どうかしたのかニャ?……」
目覚めたばかりのリャッカは大あくびをしている。
「おはよう、リャッカちゃん。あのね、今日はウラちゃんと一緒にお出掛けしようかと思うんだけど、リャッカはどうする?」
「ウラちゃんとお出掛けかニャ?……あたしはパスするニャ……。それよりここで寝てるほうがいいニャ……ウニャア……」
リャッカは最後に大あくびをして再びベッドに横たわる。
「リャッカ……」
その様子を見て苦笑するグランザ。
「しかたないよ。リャッカちゃんだって疲れてるのよ。お散歩はわたしとウラちゃんだけで行ってくるね!」
「わかりました」
◎
朝食を終えたリアーナはウラちゃんを抱っこして宿を出た。まだ朝早いため、そんなにも人通りは多くない。
「それじゃ、どこに行こっか、ウラちゃん?」
リアーナはウラちゃんの顔をのぞくが何も答えるはずがない。
「……公園に行こう!」
暫く考えたあと、昨日、リャッカが近くに公園があったと話していたのを思い出し、目的地を公園に定めて歩を進めることにした。
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公園も人通りは少なく、散歩をするにはのんびりと歩けた。
「リアーナ? おまえ、リアーナだろ!?」
ウラちゃんを抱いて静かな公園を歩くリアーナに男の声が聞こえてきた。瞬間、リアーナの表情が凍てついたように固まる。
立ち止まったリアーナの側までやってきた長身の男は口元に下卑た笑みを浮かべ、リアーナを見下ろす。
「やっぱりリアーナじゃねぇかよ! 俺様が声を掛けてやってんだから返事くらいしたらどうだ? あぁん?」
リアーナは小刻みに震える体を極力落ち着かせ、ゆっくりと男に視線を移す。そこには二度と会いたくない、思い出したくもない男の姿があった。
リアーナは愕然として全身から力が抜けそうになるのを感じた。それでもウラちゃんだけは落とすまいと両手でしっかりと抱く。
「俺様のパーティーから逃げ出しておいて、冒険者なんぞやってるのか?」
男はリアーナの腰のレイピアに視線を落として言う。
「あ、あなたには……関係……ないでしょ……」
震える声でどうにか反論する。
「なぁ、俺様のパーティーに戻れよ」
男はリアーナの肩に手を置く。
「バカなこと…言わないで!……」
かすれた声で断るリアーナに男は舌打ちをする。
「だぁ! うぅ!!」
ウラちゃんがリアーナを弁護するかのように声をあげる。男は今度は口元に冷笑を浮かべると、リアーナの手から強引にウラちゃんを引き離した。
「待って、グロア! ウラちゃんをどうする気なの!?」
グロアと呼ばれた長身の男はニヤリと笑む。
「このガキを返してほしけりゃ、俺様と勝負しろ」
「そんな!?」
グロアは性格は最悪ではあるが、勇者の試験に合格するほどの実力者である。リアーナはもちろん、リャッカやグランザであっても勝機はない。
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グロアは残酷な笑みを見せ、高笑いをあげて去っていく。
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