冒険パーティー【暁の渡り鳥】の村人は最強です

美山 鳥

文字の大きさ
74 / 207
4章 呪われたウラボス

STORY68 無謀な戦い

しおりを挟む
 「あぁん? お前一人か?」

 約束の大樹の下に現れたリアーナにグロアが声をかける。リアーナは無言だ。

 リャッカやグランザに事情を話せば命懸けで共闘してくれるのは間違いない。しかし、冷酷非情なグロアのことだ。なぶり殺しにするのは明らかであった。そして、リアーナにはそれを阻止する力もない。ならば、たとえ敗れたとしてもリアーナがグロアの元に行けばウラちゃんは無事にリャッカたちの元に戻ることができるはずといった考えがリアーナにこの無謀な戦いを決断させた。

 「それとも、おまえ1人で俺様たち4人を相手にする気か? クヒヒヒヒヒヒヒッ」

 リアーナは黙したまま、レイピアを鞘から引き抜き、構える。相手は、勇者グロア、戦士ミラン、魔術師ヤヤ、格闘家カラン。グロア以外は全て女性だ。グロアは自分のパーティーには好みの女以外は決して加えない。

 「フヒヒヒヒヒヒ…。おまえが俺様の寵愛を拒んで逃げ出したあの夜から、俺様はおまえを引き戻して自分の物にすることだけを考えてたんだぜ? ようやく、その望みが叶いそうだ! ヒャハハハハハハ!」

 リアーナにはたった1つだけ勝算があった。もしもウラボスが言うような力……、超魔術全能力強化超魔術オールラウンドを発動することができれば、勝利することができるかもしれない。今はそれにかけるしかなかった。

 「おい、おまえらは手出しすんじゃねぇぞ。こいつは俺様自らしつけも兼ねて相手してやらねぇとなぁ……」

 グロアは舌舐したなめずりをして愛用の槍を構える。

 「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 リアーナは最初から全力で、グロアを殺害する気で連続突きを放つ。

 「クハハハハハハ! 少しはまともな攻撃もできるようになったじゃないか、えぇ?」

 リアーナの本気の連続突きをいとも容易くさばきながらグロアは余裕の態度を見せつける。

 「あっ!」

 一瞬の隙にリアーナの背後に回ったグロアはリアーナの胸をレザーアーマーの上から鷲掴みにする。

 「くっ!!」

 リアーナは強引に離れるとレイピアを構え直す。一方、グロアは手に残るリアーナの胸の感触の余韻を楽しんでいるかのような表情を見せる。リアーナは背筋に冷たい汗が滲むのと悪寒を感じた。



 キィィィィィンッ!

 リアーナのレイピアが宙を舞った。グロアが槍で弾き飛ばしたのだ。

 戦いが始まって攻撃し続けていたリアーナは体力的にも限界をむかえていた。

 「だぁ! だぁ!!」

 大樹に吊るされているウラちゃんがしきりに叫ぶ。

 「ごめんね、ウラちゃん。もう少しの辛抱だから我慢してね?」

 リアーナは自らの無力さを噛みしめる。

 (どうして!? どうして全能力強化超魔術オールラウンドを発動することができないの!? わたしにその力があるのなら今こそ目覚めてよ!!!)

 心の中で悲痛な叫びを繰り返すが何も起こらない。悔しさに涙があふれてくる。

 「おら! とっとと敗けを認めろよ! 仲間もいねぇ、助っ人もいねぇ状況でまだ諦めないつもりか!?」

 グロアは両膝をついているリアーナに敗北の宣言を迫る。グロアは腐っても勇者である。息一つ乱していない。

 (もう……敗けを認めるしか……)

 リアーナは遂に全てを諦めて敗北の宣言を決断するしかなかった。自分一人なら殺されたって敗北を宣言するなどあり得ない。しかし、今はウラちゃんの安全が第一だ。グロアを逆撫でするようなことをして、怒りの矛先がウラちゃんに向くことだけはなんとしても避けなければならない。

 「助っ人か。だったら、この俺がお嬢ちゃんの助っ人ってことで問題ないわけか」

 突然、大樹の上のほうから声が聞こえてきた。

 「だれだ!?」

 グロアが声を荒くする。

 声の主は大樹の枝から飛び降り、着地の際にウラちゃんを吊り下げていたロープを切断して救出する。

 現れたのは真紅の鎧を身につけた仮面の男だ。

 仮面の男は悠然とウラちゃんを小脇に抱えてリアーナの元までくると手渡す。

 「ウラちゃん!!」

 リアーナはウラちゃんを抱きしめる。

 「てめぇ……いきなり現れてどういうつもりだ!?」

 グロアは怒りをあらわにしている。

 「うるせぇな。だから、この嬢ちゃんの助っ人だって言ってるだろうが。それとな、面倒くせぇからそこのバカ女3人、おまえらもまとめて相手してやるよ」

 「あ、あの……」

 「ん? ああ、心配要らねぇよ。嬢ちゃんはそのガキを守っててやんな」

 「は…はい!」

 リアーナは仮面の男の指示に従ってその場から離れる。

 「何者なにもんだ? てめぇは!?」

 苛立ったグロアが叫ぶ。

 「俺か? 俺はゼルアルってんだ」

 ゼルアルはゆっくりと大剣を構えた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

処理中です...