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5章 幸運の獣

STORY95 テルースタの新たな生活

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 「あっ、おかえりなさい!」

 ニギヤカ亭に戻ってきた暁の渡り鳥をネネカが明るく迎える。

 「おお~! 小麦粉の肌の活発系少女はオイラの好み♪」

 テルースタはネネカを一目見て瞳を輝かせる。

 「なんなの、このお猿さんは?」

 ネネカが訊く。

 「お嬢さん、オイラは幸運の獣カーバンクルのテルースタというもんです。オイラはお嬢さんに逢うために旅に出たのかもしれません」

 テルースタは気取った顔でキザなセリフを吐く。

 「えっ、お猿さんがあたしに? アハハハハ!」

 ネネカは笑って流す。が、テルースタは挫けない。

 「ご覧ください、オイラの額の赤い宝石を! これこそあなたに捧げる情熱のルビーなのです!!」

 (取られたら死ぬだろ、おまえ……)

 密かにツッコミを入れるウラボス。

 「へぇ、あたしにくれるの!? ルビーなら売ればうちの家計の足しになるよ!」

 (死んだな……)

 ウラボスは心の中でテルースタに合掌する。

 「……えっと……いやぁ……そのぉ……そうしたいのは山々なんやけど……」

 (そりゃ、困るだろう。取られれば死ぬんだからな)

 ウラボスはテルースタがどう対処するか興味津々で見守る。

 「あっ、お猿さんだ!」

 「おでこに赤い宝石みたいなのがついてるよ、珍しいね!」

 「これは興味があるであります」

 そこに現れたジック、コノネ、クックが次々の歓声をあげる。

 「おお~! 少年少女たちよ、オイラは幸運の獣カーバンクルのテルースタや!」

 話題をらそうとジックたちに駆け寄り、互いに自己紹介する。

 (逃げたな…)

 「なぁ、物は相談なんだが…」

 ウラボスがネネカに話しかける。

 「あいつ、要らないか?」

 「えっ、あのお猿を?」

 ネネカが困惑したような表情になる。

 「ウラボス?」

 リアーナがウラボスを見る。

 「あいつ、あれでも本人が言うようにカーバンクルっていう幸運の獣でかなり珍しい幻獣だ。客寄せにはなると思うが?」

 「そうニャ。それに歌も歌えてダンスも踊れるうえに話芸も達者らしいニャ!」

 (なんか、すごい売り込んでくる……)

 ネネカは苦笑する。

 「そっか! テルースタ君とネネカさんたちさえよければ、それがいちばんいい方法なのかも!」

 リアーナが納得する。

 「うーん、幸運の幻獣カーバンクルかぁ……。たしかに喋るお猿がいる宿屋なんてそうそうないし、いいかもね!」

 暫く考えてネネカが前向きに話を進める。

 「おーい、テルースタ! おまえ、ここで暮らす気はないか?」

 「なんや?」

 ジック、クック、コノネたちと楽しく喋っていたテルースタが戻ってくる。それについて子供たちも一緒にやってきた。

 「姉ちゃん、この猿、うちで飼ってもいいの!?」

 ジックが期待を込めた眼差しをネネカに向ける。

 「飼うって……あんた、なんちゅうこと言うねん!」

 文句を言うテルースタを無視して三人の子供たちはネネカの判断を待つ。

 「どうかな? お猿君。ここであたしたちと一緒に暮らさないかい?」

 ネネカがテルースタの意思を確認する。

 「そやなぁ。まぁ、お嬢さんに頼まれたとあっては断るわけにはいかんな! そういうわけなんで、オイラはここに残ることにするわ!」

 「うん、わかった!」

 リアーナに即答でオッケーされて少しばかり傷つくテルースタであった。

 (ネネカさんはべつに頼んではいなかったと思うんだけど……)

 グランザは心の中で思ったが、声に出すことはなかった。
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